《愚か者め》
違う……違うのです……。
《血走った眼だ》
違うのです陛下……。
《醜い事この上ない》
私は、あなたを信じるために
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
備え付けのベッドは人間サイズのため小さすぎて足が飛び出てしまうが、ここカルデアには規格外の身長のサーヴァントもいるらしく、新しい、大きなベッドがその日のうちに作られた。
…………簡素な部屋だ。絵画のひとつ、花瓶のひとつも置かれていない。部屋は自由に飾り立てていいとは聞かされたし、QPなるものを稼げば様々なものを購入できる。
だがそれは、カルデアのサーヴァントとして貢献せよと言うも同然だった。
私は迷っている。
迷ってしまっている。
迷う余地などないはずなのに。
私が従うのはモルガン陛下のみ。
そのモルガン陛下がカルデアのサーヴァントとして務めを果たしているなら、私もそれに付き従うべき、という道理は見えているのだ。
しかし私は――――死を以て償いたいと思ってしまっている。
陛下はそれを望まれなかったのに。
「…………私はなんと……愚かなのだ……」
たまらず、独りごちる。
こんな愚か者が、一時は自分こそ陛下の伴侶に相応しいなどと思い上がっていたと考えると、あまりの羞恥に胸を掻きむしりたくなる。
そしてそのような男に想いを寄せてくれたオーロラにも申し訳ない。もっと早く彼女の気持ちに気づくべきだった。嫌われていると勘違いし、裏切ったのではと疑い、彼女がスプリガンの謀略に踊らされている事にも気づけず……。
「私はあんなにも愛されていたのに、愛するものを取りこぼしてばかりいた」
口に出して言ってしまえば、その罪の重さが質量となって全身にのしかかる。まるで川に落ちて全身ずぶ濡れになってしまったかのように毛並みが重い。
……毛並み……陛下がお褒めくださった毛並み……。
私はのそのそと立ち上がると、日課のブラッシングを銀色の体毛に行い、香水を振って香りを整えると、紫紺の背広に手足を通した。
これで見かけだけは紳士として完成する。
そう、見かけだけだ。
私は紳士たらんとして紳士になれなかった獣。
それでも、礼節を身につけたと仰ってくれた陛下のお言葉が、私に紳士たれと心がけさせる。
陛下の愛に応えるため、私は真の紳士とならねばならぬのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
シミュレーターというものの説明は受けている。
小さな架空の世界を作り、訓練なり休養なり、幅広い活用が可能な施設だ。
私はその施設の見物に来ていた。別に好き好んで利用したい訳ではないが、シミュレーターは人気の高い施設であり、カルデアの中でも大きな文化であると言える。食堂同様、見て回る程度はした方がよいかと判断した。
今回のシミュレート用途は休養であり自由参加。主題は『ピクニック』――ブリテンほどではないが美しい野山が構築されている。
子供型のサーヴァントが数多く参加し、それを牽引する大人のサーヴァントも見受けられた。
「あのね、あのね、今日のお弁当はね、
「ハハハ、それは楽しみですね。ジャックが血生臭くないお弁当を作れるようになって私も嬉しく思います」
「わたしはご本を持ってきたわ! お日様の下でみんなで物語に心を羽ばたかせるの、ステキだって思わない? ウィリアム・シェイクスピア作――『夏の夜の夢』! とっても楽しい喜劇よ」
「ハハハ、ナーサリー、今のカルデアでその本を選んだのは天然なのかいい根性してるのか。ぶっちゃけ怖いです」
「お師匠様。新しいサーヴァントの方々も増えて、色々考えたのですが……やはり理想のトナカイさんはマスターだと思うのです!」
「ハハハ、ジャンヌ・リリィ、あまりマスターに負担をかけてはいけませんよ。最近も相当濃い女王様がいらしたもので…………これで何人目なんでしょうね、自称マスターの
わざわざ野原で食事をし、野原で遊ぶ。それは下級妖精のやる事であり、上級妖精のする事ではない。野生の強い牙の氏族の中には、そういった行為を好む者もいたが……。
しかし、汎人類史の人間は自宅や食堂やレストランで食事をするのが当然のようで、ピクニックやバーベキューといった野性的行為が娯楽として成立する逆転現象が起きている。
その奇妙さには、まだ馴染めそうもない。
「ブヒヒン!! 何も考えず平原を駆ける喜び! 風のように走り、獣のように走り、適度に疲れたところでお弁当のニンジンを食べる。これこそ最高の休暇というものです!!」
……………………あちらで走り回っているレッドラ・ビットにも馴染めそうにない。
なぜあいつがいるのだ。妖精騎士は着名の縁でという理屈があったそうだが……いや……その縁を持たぬ私やあの小さい妖精――ハベトロットとやらが召喚されたのだから、予言の子と行動を共にしていたレッドラ・ビットが召喚されるのも不思議ではないか。
……何やら以前より理解不能な言動が増えたように思う。リョフだとかセキトだとか。
「……おや? ウッドワス様ではありませんか。その美しすぎる白銀のたてがみにすっかり魅了されてしまい、自然と様付けで呼んでしまいます! あなたも野を駆けに参ったのですか?」
一度は歯向かってきたが、氏族長への敬意は忘れていないらしい。
「――――フンッ。氏族長たる者、長距離の移動は馬車で行うものだ」
「馬車ですか。どのような英雄が戦に出ようと、馬や戦車に乗ったなら――最先端を走るのは常に馬! それはあの最速の英雄アキレウス殿も変わりませぬ、宝具もあれ馬と戦車が本体ですよね。戦車が戦の最先端なら、馬車も移動の最先端。馬こそが常に先陣を切る。もっとも、人馬一体パーフェクト呂布奉先とでもなればもはや人馬同列! そういう事ですね!?」
「う、うむ……?」
またもや理解不能な言動をしおって。ええい、いちいち相手にしていても分からぬものは分からぬ。適当に流してしまえばよい。
「……それより貴様、ロンディニウムでは何故、予言の子に味方していた?」
「…………ヒヒン?」
「貴様の独断か? それともオーロラが……いや、オーロラを責めている訳ではないのだ。彼女もまたスプリガンに踊らされた被害者の一人なのだから」
「スプリガン? 素材と書いてエネミーですね。そういえば妖精種に強い概念を持つモルガン様がとても頼りになるとマスターが言ってました」
「む……? 陛下みずからご出陣を? カルデアの敵とはそれほど強大なのか。いや、それもあるだろうが……私の霊基がこの有様なのだ、モルガン陛下の霊基も万全とはいかぬか。果たして何割ほどの力まで削ぎ落とされてしまっておられるのか……心労、痛み入る……」
「何やら深い悩みがある様子ですが、あまり一人で抱え込むのはよくありません。時には他の誰かに相談するのも大切ですよ。かくいう私も難しい事を考えるのは苦手なので、だいたいマスターと陳宮に任せっきりです。自爆は断りますが」
「相談……。思えば、相談できる相手など私にはいなかった」
ボガードは頭の切れる男だったが、意見が対立し、氏族の長の座をかけたマナーバトルによって追放した。
オーロラはよく私を窘めてくれていた。そこで尻込みせず、もっと積極的に相談していれば、スプリガンの謀略に気づきブリテンの崩壊を防ぐ事ができたかもしれない。
亜鈴という突出した力に酔いしれ、私は、多くのものを取りこぼしてしまった。
やはり野生に流されてはならぬのだ。牙の氏族はもはや私とバーゲストとレッドラ・ビットのみだが、それでも、過去の失敗を自省し、礼節を身につけていく姿勢は守らねばならぬ。
「こうして話してみると、貴様も意外と考えているのだな……」
「いえいえ。それでは私はもう一駆けしてきますのでこれにて。ヒヒィーン!」
レッドラ・ビットは心底楽しそうに平原を駆け抜けていった。
以前から
私に矯正されるまでもなく菜食である人参を好み、牙の氏族にありがちな野生を剥き出しに暴れ回る性質を持たず、闘争より疾走を好み、ああ見えて礼節を重んじる人格だったがゆえに、オーロラへ贈ったという理由がある。
本当にあの言動さえ除けば、私の理想とする牙の氏族の形にもっとも近しい存在だった――。
自由気ままに平原を駆けるあの姿こそ、レッドラ・ビットの本質だったのかもしれない。
……私もいい加減、新しい環境に馴染む努力をした方がいいのだろうか?
聡明なる陛下はすでに馴染んでおられる。
他の妖精騎士も、各々居場所を見つけているようだ。
しかし、
いや……バーゲストは毎回恋人を作っては食い殺していたか。……分かち合えるか? しかしあれは個人の心根や不忠といった問題ではなく、生まれ持った性質によるものだし、後悔する割には何度も繰り返している……おかげでバーヴァン・シーから小馬鹿にされる姿を幾度か見た覚えさえある。…………頼っていいのか?
それにだ。バーゲスト如き若輩に相談するというのも、氏族の長としてどうなのだ? いや、ついさっき同じ氏族であるレッドラ・ビットと相談したばかりではあるが……。
作り物の太陽が明るく暖かく世界を照らす中、我が胸中は暗く曇っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
シミュレーターの平原は思いの外に広く、レッドラ・ビットはどこか丘の裏にでも回り込んでしまったのか見当たらなくなってしまった。
花畑の近くでは銀髪の小娘どもと褐色白髪の付き添い――厨房にいたのとは別の男――が歓談をし、また少し離れた場所では木陰の下で――――レッドラ・ビットの類似品と妙に服の露出が多い人間らしからぬ気配の娘が寄り添っていた。なんだあれは。半人半馬なのは分かるがなぜ腕が四本も生えているのだ。なぜ全身があんなにも刺々しいのだ。牙の氏族めいた姿形の英霊、汎人類史には意外と多いのか? ――どうもあの二人は恋仲に見える。言葉も交わさず、寄り添い、肌の一部が触れ合っている。ただそれだけでこの世の幸福というもの味わっているようだ。
私は、あのように誰かと触れ合う事などついぞ無かった――――。
などと思っているとシミュレーターのドアが音を立てて開き、見覚えのある二人が入ってきた。小柄なメリュジーヌと、人間という分類では長身のパーシヴァル。……妖精國のあいつとは別人だというのに、その姿形はそっくりそのまま同じだった。
そんな彼を見上げて笑うメリュジーヌ。別人と理解した上でなお、折り合いをつけ、新たな関係を築いている。
なんとなく人目から離れたくなり、私は手近な森に向かって歩き出してから、シミュレーター室から退室すればよかっただけではないかと思いついたが、それではメリュジーヌ達の目の前を通らねばならぬとすぐに気づいてしまい、すでに戻る選択肢はなかったのだと理解する。
そんな訳で人目から逃れるなどという情けない理由で森に入った私は、はぁと溜め息をつき、今頃モルガン陛下はどうなさっているのだろうと考えた。
――――伴侶として扱われる不届きな藤丸立香。
――――娘として扱われる不届きなバーヴァン・シー。
いかに陛下が聡明なれど、あの人選は分からん……本当に分からん……。
今頃、あれらのどちらかと歓談にでもふけっているのだろうか?
以前は陛下への拝謁が至高の歓びであったというのに、今はこうして避けてさえいる有様。
なんと情けない……しかし、そもそも、勘違いであのような真似をして、以前のような関係に戻れというのも無理があるのではないか?
いや、モルガン陛下はスプリガンの謀略ゆえ気にするなとお許しくださったが…………。
それに、あの時。
我が爪に引き裂かれながら、我が頬を撫でられた時の手付きから伝わる深い慈愛……あれは紛れもなく真実であり、なれば、私を許しているというのも真実に違いあるまい。
だからこれは単に、割り切れない私の心が惰弱というだけなのだ。
「ああっ……困ります、困ります……」
…………牙の氏族である私は、足の裏に肉球があり、自然と足音を殺す事ができる。
故に私の接近に気づかなかったのだろう、女の艶やかな声が近くから聞こえてきた。
無論、礼節を重んじる私が恋人同士の語らいを覗き見するはずなどなく、早々に立ち去ろうとする。――――だが。
「困りますシグルド! こんな……こんな……!」
嬌声が大きくなる。
…………シミュレーターの中だぞ!? 向こうには子供もいるのだぞ!?
何をしているのだ!
「我が愛。当方はすでに準備万端である。欲するがまま、望むがまま、すべてを曝け出すがいい」
「困ります……そんなコトを言われてはもう……私は、私は…………ああっ……ダメ!! もう堪えきれない……抑えられない…………!!」
ええい、ゴルドルフの風雅さで見直したが、やはり品性などないのか汎人類史!!
たまらず声の方角に振り向いてしまう。下心は皆無にして絶無。憤りだけが熱を帯びて牙を剥き出しにさせていた。ここまで来たらもうどのような現場であろうと乗り込み、破廉恥な真似をするなと怒鳴りつけてやる方が紳士的というものだ!
しかし、私の目に映ったのは――――。
バリバリと魔力をほとばしらせながら、巨大な槍を握りしめて浮遊する女の姿だった。
両腕を広げて大地を踏みしめ、槍を受け止めんとする男の姿だった。
「
これは!? サーヴァントの宝具の真名開放ではないのか!?
しかも殺意と殺傷力に満ち足りた攻撃型の対人宝具!!
それを、こいつら、何をしているのだー!?
閃光が炸裂し、衝撃が走り、大地が震え、木立が揺れ――――。
私はこれが、痴情のもつれによる殺害現場ではないかと考えつつあった。
しかし魔力の残滓と土煙が晴れてみれば、そこには全身血まみれになった男がよろめきながらも前に踏み出し、地上に下りてきた女を力強く抱きしめようとする姿があった。
「ああっ、シグルド……私は、また……」
「気に病むな、ブリュンヒルデ。今日も私はみずからの愛を証明する事ができた……」
「シグルド……」
……………………………………………………………………………………。
………………………………………………………………。
…………………………………………。
……………………????
……………………………………………………………………なんだ? これは?
…………あれは決して痴情のもつれの類ではない。
互いに愛し合っており……愛ゆえに殺そうとし……愛ゆえに耐えて見せたのだ。
訳が……訳が分からない…………しかし……。
滑稽にも見えるあの二人の抱き合う姿が、とても美しいものに見えた。
「――――ムッ? 失礼、恥ずかしいところを見せてしまった」
そして男、シグルドはこちらに気づき、恥ずかしそうに照れ笑いをする。
照れ笑いをしたのだ!
胸元から血をドクドク垂れ流している真っ最中なのに!
「…………貴様ら、気でも狂っているのか?」
軽い目眩を起こしながら、私はそう、声を絞り出した。
すると男は逡巡して目を伏せるも、すぐさま、真っ直ぐ、真摯に、こちらを見つめ返してくる。
「…………狂気がある事は否定せぬ。しかし、それを理由に愛する者の愛を拒むなど当方には出来ぬ。ならば狂気ごと受け止め、狂気ごと愛するまで」
「――――――――」
女、ブリュンヒルデは己の行いを悔いている。あの行為は本意ではない。なればこその狂気か。詳しい事情は分からぬが、しかし、二人は狂気に翻弄されながらも決して目を背けず、立ち向かっている。そして狂気から愛を勝ち取っているのだ。
「なぜ――――だ。なぜ、耐えられる。貴様、愛する者に槍を向けられ、なぜ愛し続けられる」
「――――。無論、当方が彼女を愛しているからだ、心の底から」
陛下は、私に爪を向けられ、お許しになられた。
「ならば――――そちらの女。愛する者を傷つけながら、なぜ、寄り添い続けられる。真に愛しているのであれば罪悪にさいなまれ、離れるべきではないのか」
「――――」
女は真っ赤になってうつむき、しかし、こちらの声色に深刻なものがあるのを感じ取ったのか、唇をきつく結んでしばしの黙考をする。
私は――――答えを待った。シグルドも何も言わなかった。
ただブリュンヒルデの答えを待っていた。
そして、彼女もまた意を決すると、真っ直ぐに、真摯に、私を見つめ返してきた。
「例え、殺意という形でしか愛を向けられぬ身となってしまったとしても――シグルドは決して離別を望まない。シグルドは狂気に落ちた私をなお愛してくれている、そして、私もシグルドを愛しているから……です」
「あ、愛…………」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
頬に蘇る、撫でられる感触。
あの日、私が最悪の裏切りを果たしてしまったその真っ只中に向けられた、美しき愛。
《幼き勇者、勇敢なウッドワス》
とても優しい声色で。
《おまえの毛並みは、このブリテンでもっとも温かく、愛らしかった》
とても優しい手付きだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「わ、私は……私は、何をしていたのだ……なぜ、逃げていたのだ…………。陛下は、陛下はとっくに私をお許しになり…………なのに、自身の罪悪感を優先して、私は……誰よりも陛下のお側で尽くし、償わねばならぬ身だというのに…………」
自慢の背広が汚れる。そんな事すら意識から消え去り、私はその場に崩れ落ちた。
地べたに膝をつき、両の手のひらをつけ、瞳からは涙が溢れる。
まるであの日、モルガン陛下を殺害せんと押し倒したような姿勢となって、今再び嘆いている。
「――――当方は、そちらの事情を知らぬ」
シグルドはブリュンヒルデから身体を離し、私のような愚か者を労るため歩み寄ってきた。
そっと肩に左手を置かれ、たった今出会ったばかりの他人だというのに、愛を知る者の優しさが熱を帯びて伝わってくる。
「だが、逃げていたと気づいたのなら、今一度向き直ってみてはどうか? 貴殿ほどの者が心を捧ぐ御方なれば、きっと、それを望んでいるのではないかと愚考する」
「くっ……うううっ…………! これが汎人類史の……愛の力だと、言うのか……」
「世界が違えど、愛に貴賤などない。出会ったばかりで名も知らぬのにこんな事を言うのもなんだが……そなたの愛もきっと、尊いものであると当方は信じている」
「…………かたじけない。私は、牙の氏族の長、オックスフォードの領主……ウッドワス。愛深きモルガン女王陛下を疑い、裏切ってしまった……どうしようもない愚か者だ」
「当方は戦士。北欧における魔剣の担い手。名をシグルド」
そう言って男は、私の肩に乗せているのとは逆のもう一方、右手を眼前へと差し出してきた。
「これは握手という、
「友……? 汎人類史の人間が……亜鈴たるこの私を…………友だと……?」
それは侮辱以外の何物でもない。たかが人間が、下級妖精より価値の劣る人間が、道具でしかない人間が、奴隷でしかない人間が、亜鈴たる私の友になるなど、侮辱以外の何物でもないのだ!
しかし――――。
――――風雅なるゴルドルフ。
――――研鑽された料理を供するカルデア・キッチンの者達。
私はおかしくなってしまったのか、差し伸べられたシグルドの手を取り、握り返してしまった。
それはみずからの意思で人間と
唾棄すべき所業である。だというのに私の心は愚かにも、安らぎに満ちていた。
森に射し込む木漏れ日の中、私は亜鈴にあるまじき堕落を果たし――――。
陛下へ向ける心にもまた、木漏れ日が射し込むのを自覚するのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「女王陛下。今一度、このウッドワスの忠誠をお受け取りして頂きたく存じます」
あの後すぐ、私は女王陛下の自室を訪ねた。
幸いにも陛下は自室に滞在しておられ、すぐお目通りがかなうや、恭しく跪いて告げる。
すると陛下は不思議そうに一瞬黙り込んだ後――――。
「――――? 何を言う。お前の忠誠は1000年前より私のものだろう」
あまりにも深き愛をお示しになられた。
「――――ッ!! はっ、ははぁっ! まさしくその通りでございます!!」
無機質な部屋、見知らぬ汎人類史、ノウム・カルデア。
されど私の頭上には未だ、あの木漏れ日が降り注いでいる――――。
「お母様ー! 聞いて聞いて、って、またイヌッコロ来てんのかよ! しっしっ」
木漏れ日が消えた。
空が曇った。
暗雲の名前はバーヴァン・シー。
女王陛下。本当になぜ、こんな悪逆で残忍な下級妖精を娘に選んだのですか……?
モルガン(反省し改善しようと努力する妖精とか、うーん尊い!)
深き愛を向けてくれている相手を、狂気によってその手にかけてしまう…………。
つまりウッドワスに必要なのは真面目に考察してもシグブリュなのでは?