ある日の事だ、廊下を歩いていたら対面より大型の狼が敵意を振りまきながら歩いてきた。背中には首のない人型の何かを乗せている。そいつから漂う気配はまさしく野生であり獰猛。下級妖精であれば一瞬の間に食い殺されてしまうだろう。
しかし、奴は私の気配を感じるとギラつくような敵意を鎮めさせていく。
汎人類史における魔獣の類か?
舐められぬよう奴の眼光を鋭く睨み返す。
しかし、そいつは睨み合おうとはせず、こちらの全身を舐め回すように見つめてきた。
なんだ? 今日も私は紫紺の背広を風雅に着こなしているぞ。
そして狼は私の身体に鼻先を近づけ、クンクンと匂いを確かめる。
フフン。今日も香水はバッチリ決めている。
美しき香りに酔いしれるがよい。
「ゲフッ、ガフッ」
咳き込まれた。
幸い異変に気づいた首なし人型生物が慌てて狼の頭を掴んで横を向かせたため、ツバがかかる事はなかったが――不快な態度だ!
首なし人型生物はペコペコとありもしない頭を下げながら、狼の身体をポンポンと叩いてこの場から離れるよううながす。狼もまた私への興味を失ったのか、スタスタと離れていく。
…………なんだったのだ!?
「多分、同じ仲間の狼だと思ったのに――――服を着てる上、香水の匂いがするから嫌がっちゃったのよ。ちょっと可哀想だけど、仕方ないかな。あの子は人間も人間の文化も大嫌いだから」
幼い少女の声。見れば、大柄な白熊が廊下の曲がり角からニュッと顔を出した。
牙の氏族――で、あるはずもないか。
「フン。香水の良し悪しも分からぬ獣など、こちらも相手にする気はない。それでよかろう」
「香水はともかく、トリートメントは大事だとは思うわ。シロウも気を遣ってるから、フワフワのサラサラよ」
興味がなくとも、暮らしていれば自然と人の名前が耳に入ってくる事もある。そのうちのひとつと一致したため、つい口に出した。
「シロウ――天草?」
「えっ? ああ、ううん違うわ。天草四郎は天草四郎だけど、この子はただのシロウよ」
「――それで、貴様はなんだ」
直立する白熊が、その場に四つん這いとなる。するとその首にしがみついていた小さな人間の少女の姿が私の視界へと入ってきた。
人間らしからぬ気配の持ち主だが、声色とは一致する容姿と言えよう。
「むー、腹話術で驚かせようと思ったのに」
「そんな立派な体格と毛並みの男が、少女の声など出すか」
「おお……シロウが褒められてる。よかったね、シロウ。こんな素敵な毛並みの妖精が、あなたの毛並みって褒めてくれた」
シロウと呼ぶ白熊の背中に寝そべった姿勢で、少女は嬉しげに頭を撫でつける。
その少女は白熊と同じような、雪のような銀色の髪をしていた。その風体は人間だがわずかに妖精のように見えもする不思議な容姿だ。何か特殊なサーヴァントなのだろうか?
「また銀髪の小娘か…………あの三人娘と違い、多少の礼節はあるようだな」
「フフッ。天草の方のシロウは、子守りが趣味みたいだから、大変よね」
「天草……やはりあの、褐色に白髪の男か。色合いがエミヤと似ていてややこしい男」
一瞬きょとんとされるも、小娘は微笑を浮かべて肯定した。
「…………そうね、そういう区別でいいわ」
「で、貴様は確か…………食堂でサラダに文句をつけていた小娘だな?」
見た覚えがある。ゴルドルフの風雅なるテーブルマナーを目撃した際、確かこいつがいた。
が、それは人違いだと知らされる。
「…………? ああ、心当たりがないからイリヤの事かしら。肌が黒いのと、髪が黒いの、一緒にいなかった?」
「…………また同じ顔の氏族か。知っているぞ、予言の子と同じ顔をしたアルトリアの氏族とかいう一大勢力を!」
なにせ、モルガン陛下と似ている部分もあるので。
美しさも高貴さも圧倒的にモルガン陛下が上回っているから見間違える事など絶対にないが。
私の発言を聞くや、小娘は突然噴き出した。
「クスッ――アハハハハッ! アルトリアの氏族……って、そうよね、一際愉快な氏族よね。ひとつ忠告しておくわ。同じ顔がいっぱいいる氏族って、だいたいろくでもないから注意した方がいいわよ。リンの氏族とか、サクラの氏族とか……。そういう意味じゃ、アルトリアの氏族は常識的な方だから、安心して」
「フン、つまり――同じ顔の氏族がいる貴様はろくでなしという事か」
「わたしはまだ三人だから控え目な方だし、向こうは設定おかしい代わりに精神的には一般人寄りだから、むしろわたしがハグレモノなのかしらね」
「ハグレモノ……?」
「あの
自嘲気味に、小娘はそう告げた。
イリヤスフィール。――――その名前の響きの良さ、というより、その少女があまりにも美しくその名前を奏でたがため、妙に印象に残ってしまった。
「あまり頭が良くないようだから迷惑かけちゃう事があるかもしれないけど、悪気はないだろうし優しくして上げてね。それにあの子の周り、過保護な保護者が裏から見張ってて面倒だから」
「向こうが手を出さぬなら、私が手を出す事もない。貴様らと馴れ合う気などないのだからな」
「……そう言う割には、
クスクスと悪戯っぽく笑う小娘。だが、なんだか妙に嬉しそうだ。私に対して喜んでいるようには見えない。ならば。
「エミヤがイリヤスフィールとやらを気にかけるのが、気になるのか?」
「…………なんでそういう話になるのかしら」
「同じ顔ならば、なにか縁でもあるのかと思ってな」
同じ顔であっても、私とまったく縁のない男もいる。
メリュジーヌめは気に入っているようだが、私からしたら違和感しかない存在だ。
小娘はやや自嘲気味にほほ笑みながら、こちらを見上げてくる。
「さあ、どうかしらね…………それよりウッドワス、そろそろ本題に入らせてもらうわ」
「断る、話はこれで終わりだ」
白熊に乗っていたため、つい話し込んでしまったが、こんな小娘の相手をする理由はない。
しかし無視して歩き出した私の横を、白熊のシロウがのっしのっしとついてくる。
「わたしはシトナイ。ご覧の通り、白くてフワフワでモフモフのシロウを従えているの」
無視だ無視。
「だからつい、あなたのその白銀のたてがみが気になっちゃって…………ねえ、少しでいいから撫でてみていいかしら?」
「駄目だ」
これは口に出して断る。下手に無視したら、無断で触ってくるかもしれない。
「代わりにシロウを好きなだけモフモフさせて上げるから」
「不要だ。男同士でなぜそのような真似をせねばならん」
「………………そうか、相手側の視点に考えが至らなかったわ」
視点? どういう視点だ?
一瞬奇妙に思い、視線をシトナイに向けてしまうと――丁度、シロウから降りているところだった。そしてこちらに向かってペコリと頭を下げる。
「不快にさせてしまったのならごめんなさい、そんなつもりはなかったの」
――――礼節を弁えた少女であるらしい。
私は立ち止まり、少女に向き直った。
少女、シトナイは頭を下げたまま謝罪を続ける。
「獣の姿をしていると言っても、あなたは妖精。それもとても誇り高い立場だったんでしょ? それを、ペット同士をじゃれ合わせたい……みたいな気分で声をかけてしまったわたしの不徳。どうか謝罪を受け取ってくださるかしら、ジェントルメン」
「――――フン。子供の粗相にいちいち腹を立てていられるか。だが限度というものはある。あの三人組など、何度断ってもたてがみに触らせろとうるさいからな。それに比べれば、貴様は礼節を心得ているようだ」
「もちろん、淑女として当然の嗜みよ。でももし、気が向いたら、あなたの毛並みに触れさせて欲しいものね。わたしだけじゃなく、カルデアのみんなにも」
「気なら向かん、待ちぼうけていろ」
シトナイ――――こいつとの関係はその程度のものだ。
気が向かないから今後もたてがみに触れさせる事はない。
だがその礼節から名前は覚えたし、その周辺人物の名前も多少覚えた。
今は――それだけの存在だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あっ! ウッドワスだ!」
「今日こそモフモフさせてください! シトナイの白熊さんとモフ比べをしたいんです!」
「トナカイさん! 一回だけトナカイさんになってください!」
「ええい寄るな銀髪小娘三人組ィ!! 勝手にたてがみに掴みかかろうとするな! 礼節を持て礼節をー! 保護者ァ! 保護者の天草ァ! こいつらを何とかしろー!」
ええい、こいつらの名前なんぞ覚えんぞ。銀髪一号、銀髪二号、銀髪三号で十分だ!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いやあ、たびたびすみません。よっぽどあなたをモフモフしたいようで。さあジャック、ナーサリー、ジャンヌ・リリィ。今日はケイローン先生が背中に乗せてくれる日でしょう? 遅刻してしまっては、乗せてもらえなくなっちゃうかもしれませんよ」
などと言って、保護者の天草は銀髪三人娘を連れて行った。
その間も「また今度ねー」と次回予告をしているあいつらは、会話をするという機能がついていないのか? そんなにも馬鹿なのか? それとも身勝手なのか? バーヴァン・シーのように!
まったく、汎人類史とは面倒なものだ。
何かを見直したと思ったら、またすぐ別の何かで見損ない、見直し、見損ない……。
その精神の上下運動が疲れる……。
「ハハハ。貴殿も苦労しているようだな」
見直した側の聞き知った声が背後からし、私はホッと一息つきながら振り返った。
「シグルド、見ていたのならもっと早く――――」
上半身を己の血で真っ赤に染めたシグルドの惨劇が、そこにあった。
しかもいつもの余裕がなく、今にも息絶えそうなほどである。
「大怪我、ではないか!?」
「ううむ、今日は過激すぎた……愛の力が大爆発し当方もご覧の有り様。ブリュンヒルデは魔力を放出しすぎて虚脱してしまい、覗き見をしていた妹御に預けてきた。後は当方が医務室まで趣き、生き残れば此度も愛の勝利である…………が、少々つらい。手を貸してくれぬか?」
「ふざけるな馬鹿者! 毛が汚れるではないか!」
私は文句を吐き出しながら、シグルドの身体を脇に抱えて医務室へと駆け出した。
じっとりとした生温かい汚れが、私の背広を汚し、その内側まで染み込んでいく。
「――――毛が汚れるのではなかったのか」
「汚れるから文句を言ったのだ」
「…………そうか。礼を言う」
まったく、頑なに愛を貫きおって。
しかしその愛の形も毎度こうでは、尊いと思った事実があっても、付き合うのに疲れるぞ。
「まったく。声をかけるならもう少し早く出来なかったのか。あの小娘どもを追い払う口実になったというのに」
「
「――――フンッ。貴様が英雄でないのなら、カルデアに英雄などおらぬわ。そら、着いたぞ」
私の俊足を以て早々に医務室に到着。
扉を開くと消毒液の匂いがし、ギロリと、二人分の視線が向けられてきた。
「急患か。大怪我か。どうやって傷を負った。詳しく説明しろ――――って、またお前か」
「これはいけませんね。ただしに消毒、殺菌をし、患部を切り落としましょう」
「切断は不要だ看護師。消毒後、縫合して薬を塗る。――まったく、これで何度目だ。いい加減に飽きたぞシグルド」
…………すでに飽きられるほど常連か。
申し訳なさそうにしているシグルドを手術台に運んでやると、看護師と呼ばれた女がこちらの血塗れの背広をジロジロと見つめてきた。
「……あなたは患者ではないようですね」
「シグルドを運ぶ際についた血だ、私には構うな」
「いいえ。患者を迅速に運んでくださったあなたに、感謝と、消毒を」
と、消毒液の入ったボトルを掲げ上げた。
「血の汚れを放置すれば雑菌が増殖し、健康を損ないます。速やかに殺菌! 消毒!」
「おい、それはなんの真似だ。背広ならクリーニングすれば……いや、そもそも一度霊体化するだけで……おい! 話を聞いているのか!? その消毒液をどうする気…………ぐわーっ!!」
強烈な匂いの消毒液が身体の土手っ腹にぶっかけられる。汚れてないところにまで消毒液が広がり、自慢のたてがみも、尻尾も、もろともに消毒液に呑み込まれていく。
そして香水と消毒液の入り混じった奇っ怪な匂いが鼻孔を刺激し、咳き込ませる。
「――――ムッ!? もしや喉を患っておられますか?」
「ゲホッ、ち、違う! 患っていない、私は健康だ! お前はシグルドの治療を手伝え!」
何とかシグルドと医者に看護師を押し付けつつ、私はずぶ濡れのまま医務室から転がり出た。ああ、まったく、なんでこんな目に遭わねばならんのだ。
一度霊体化をして――いや、実体化の際に魔力を幾らか消費するから、不用意な霊体化は控えるよう言われていたな。面倒だが自室に帰って、シャワーを浴びるしかあるまい。それから香水を振り直すのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
おやつ時という事もあり、食堂には様々なサーヴァントが揃っていた。
銀髪小娘三人組や、バーヴァン・シーがいないのを確かめてから入室し、注文する。
「おや、風呂上がりの一杯でも飲みにきたのかね?」
乾かしたての毛の色艶を見抜いてそのような言葉をかけてきたエミヤに、何か適当な飲み物をとリクエストすると、適当な空席に腰を下ろした。
正直、自室でひっそり休んでいたい気持ちもあったが、それより何か飲んで気分転換したいという気持ちが勝った。
「お待たせ。疲労に効き、リラックス効果のあるハーブティーだ」
その気持ちに十全に応じる出来栄えのものを運んできたエミヤは、なぜか私の対面の席に座る。
「……何の真似だ」
「なに、ちょっとした小休止さ。君の感想も聞きたいしね」
「丁寧に淹れられている。だが素材が悪い」
定型文を返し、ハーブティーを飲む。
うむ、素材が悪い。しかし仕事は丁寧で落ち着く味と香りを組み合わせている。
「君も少しずつカルデアに馴染んできているようだな」
「…………シグルドやブリュンヒルデもいる以上、否定はせん。だがそれ以上に馴染めない相手が多すぎる。特に銀髪の小娘どもだ」
言いながら、視界をめぐらす。あの三人娘が食堂にいないのは確認済みだが――――銀色の髪の少女の後ろ姿を新規発見してしまい、思わず身をすくませてしまう。
それに反応したエミヤが視線を追い、相手を確かめると、表情をわずかに引きつらせながら振り返った。
「イリヤが何か?」
「イリヤ…………ああ、イリヤスフィールか」
「な、名前を覚えられている……!? すまない、彼女が何かしてしまっただろうか」
何を慌てているのだ、こいつは。
「いや、一方的に知っているだけだ」
「――――!?」
あれは頭は良くないが悪気はないと聞く。まあ、シトナイより劣るとは言えその同類だというなら、無闇勝手にたてがみに飛びついてくるような真似はすまい。気にするほどの相手ではない。
何やらエミヤが考え込んでしまっているのは何故だろう。そういえばこいつ、イリヤスフィールをチラチラ見ている事があったな。聞いてみるか。
「おい、イリヤスフィールは無断で他者のたてがみや尻尾にしがみついてきたりするような、品のない娘か?」
「ハ――? い、いや、そういうコトはしないと思うよ。…………しないよな?」
「そうか。ならば、いい。奴もシロウの相手でもしていればいいのだ」
「――――ッ!? ――ああ、いや、そういえばあの白熊が……」
一瞬、心臓が飛び出るほどの驚きの表情を見せるエミヤだが、すぐ何かに気づいて落ち着きを取り戻し始める。
シロウはシトナイが独占しているようだが、触らせてくれと礼節を以て頼めば触らせてはやるだろう。逆に礼節なし要求であれば断るに違いない。
シロウ自身も判断はシトナイに任せるだろう。あれらには、深い信頼を感じられた。
…………汎人類史にも快いサーヴァントが少数ながらいると、まあ、認めねばならん。ここで感情的に否定を繰り返すのでは、ゴルドルフやエミヤの料理を侮った時のような失敗に繋がる。
しかし、それはそれとしてだ。
「カルデアのサーヴァントは多すぎる……相性の悪い連中といちいち付き合う必要はない。そもそも私はブリテンの妖精。不必要に交友関係を広める必要も――――」
「わぁい、今日も楽しいアフタヌーンティーなのだわー」
「フフフ、美味しい茶菓子を予約注文してありますよハベトロット」
陛下がハベトロットと手を繋いで、にこやかな笑顔で食堂へご来訪――――。
必要以上に交友関係を深めておられませぬか、陛下。
「――――む。貴様もいたか」
私に気づくや、陛下はハベトロットと手を離し、凛々しいお声となられた。
すぐさま席から立ち上がって礼を払おうとすると、モルガン陛下が小さく手をかざして制止されたので、座ったまま一礼するに留める。
一礼を受け取った後、陛下はエミヤを見やった。
「料理人。予約していたアフタヌーンティーセットを出しなさい」
「ああ、すぐに出すよ。好きな席で待っていてくれ」
エミヤが仕事に戻るため席を立つ。
私はどうしたものかと思っていると、ハベトロットが興味深そうに私の身体……というか、白銀のたてがみを見つめている。
「わぁ……すごく綺麗。こんな毛皮でドレスを縫えたら……ああ、いやいや、別に変な意味じゃないよ。お仲間のサーヴァントの毛皮を剥ごうなんて、そんなコト考える奴いる訳ないんだわ」
「当然だ」
牙の氏族でもそれは引く。妖精の毛皮を剥ぎ取るなど拷問狂の所業。そんな事……バーヴァン・シーあたりならやりそうな気もするので怖い。
それにしても、こいつ、私のたてがみをモフモフしたがっているな?
どうしてこう、カルデアの小さい奴というのは揃いも揃って……。
フン、ハベトロット、貴様が頼んできても私は断るからな。絶対にモフらせたりせんからな。
「ハベトロット、触ってみますか」
「えっ、いいの?」
………………いいのだ。
陛下がそう仰るなら、私はいいのだ。
この小柄な妖精に合わせ、腰をほぼ垂直と言っていいほど曲げて、手の届く高さまでたてがみを下ろしてやる。
その仕草を見て同意を受け取ったと理解したハベトロットは、私の毛並みに恐る恐る、手を挿し込んでくる。
「わぁ、わぁっ……ふかふか……すごい……ありがとう、ええと――?」
「ウッドワス。彼の名はウッドワスです。フフフ、よかったですね」
陛下の慈悲が深い。こんなチッポケな妖精に対し、なぜこうも情けをおかけになさるのか。
私自身の感情としては、なぜこんな妖精に……という苛立ちはある。あるが、陛下のご命令であるし、ハベトロットも無礼ではないから、特別、許そう。特別にだ。
ハベトロットのモフモフタイムは一分ほどにも及び――――。
「トトロット……ライネック……」
陛下が何か呟かれた気がして、私が顔を上げてしまいハベトロットの手が抜け落ちた。
残念そうなハベトロットの表情がチラリと見えたが、別にいいか。
「陛下。今、何か?」
「――――いや、なんでもない。そろそろ行きましょうハベトロット。あなたですから特別に許可を出しましたが、これは勇者の雄々しき白銀のたてがみ。本来は彼が心を許した者のみが触れてよいものなのです」
「ええっ、そうだったの!? それをわざわざ…………うん、ありがとうね! モルガン、ウッドワス! とっても楽しませてもらったんだわ」
こうして二人は予約済みのアフタヌーンティーを楽しむため、二人で人気の少ないテーブルへと向かっていった。
………………私ももう少し色んなサーヴァントと馴染んだ方がいいのだろうか……シグルド相手だとブリュンヒルデとの邪魔になるから、気が引ける場合が多い。
しかし、カルデアキッチンの連中とは馴れ合いたくない。あくまで対等に、フェアに、料理とマナーについて比較できる距離を保ちたいのだ。
となると残りは、シトナイとシロウくらいか……? 嫌悪感の少ない小娘ではあるが、ううむ。
あるいはレッドラ・ビット、バーゲスト、メリュジーヌとの関係を見直すか……同郷というだけで今は特別な価値が誕生している。
同郷……ブリテン……妖精國…………。
ああ、オーロラ……君が恋しい…………。
モルガン(ウッドワスも友人を増やしているようで安心しました。シグルド、エミヤ、赤兎馬、それから天草のところの三人娘にもよく声をかけられていますね……意外と子供好き?)