愚か者のウッドワス   作:水泡人形イムス

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終 節 オレ達の戦いはこれからだ!

 魔法少女と戦乙女、どっちも可愛いけど強いのはどっち?

 

 そんな事を誰が言い出したのかは分からない。

 だがあれよあれよという間に魔法少女三人と、戦乙女三人のチーム戦がシミュレーター内で開始された。

 今日のシミュレーター環境はお花畑、女子供が中心になって遊び回っている。だから魔法少女と戦乙女が空を飛び回っているのも花のある光景と言えるのかもしれない。

 

 そんな女子供の集まりをなぜ私が観戦しているかというと、ガラテアにバーヴァン・シーが誘われ、その付き添いとしてモルガン陛下も誘われ――――。

 

「バーヴァン・シーとお花畑か…………」

 

 と呟きながら陛下はすぐに参加を表明するも。

 

「花畑かー。殺虫スプレーとか持ってかないとダメかな? イモ虫も蝶々もまとめてジェノサイドしようぜー」

 

 などとバーヴァン・シーがくだらぬ事を言った途端、陛下の表情が生真面目なものになり、丁度お側にいた私に同行をお命じになられたのだ。そして私の手には殺虫スプレー。

 …………シミュレーターの虫に効果があるのか疑問ではあるが……陛下の命なら……まあ。

 

 そんな訳で花畑の中で、ガラテア、バーヴァン・シー、モルガン陛下、私の順に並んで、空など見上げている。

 無論、花畑には他にも様々な面子が集まっている。

 いつもの銀髪三人小娘と保護者の天草、それを木陰から見守っている獣の耳を持つ女。

 汎人類史のガレスと、ガラの悪いアルトリアの氏族の女と、妙に静電気の強い目隠れ小娘。

 木陰でニヤニヤ笑っている気持ち悪い海賊二人。

 エミヤやブーディカといったカルデアキッチンの面々も息抜きに訪れており、数多くの者が魔法少女vs戦乙女を観戦して楽しんでいる。

 酒盛りをしている妙にぐだぐだした連中は、花見と空中戦の両方を肴にして騒いでいる。

 

 とはいえ全員が全員、魔法少女vs戦乙女を観戦している訳ではない。

 

 妖精馬めいた装いの項羽とその妻は、マイペースに歓談している。

 奇妙なタコの妖精を連れた小娘は花畑の絵を描いており、金髪の小娘はその様子を観察。

 シグルドとブリュンヒルデは姿が見えない。見られないよう配慮しているのだろう。

 

 他にもチラホラ人影が見えるが、名前を覚えているサーヴァントは極めて少ない。

 いや本当に……何人いるのだサーヴァント……。藤丸立香に聞いたら200人くらいだと思うと大雑把に答えられた。クラス違いは同一カウントすべきかなどと訊ねられたが私には分からぬ問いだった。とりあえずアルトリアの氏族が最大勢力であり、ムリアン顔の氏族がヤバイ連中揃いらしいと警告を受けている。シトナイはサクラの氏族と呼んでいたな。

 

 ………………不本意だが……カルデアに馴染みつつあるな……。

 などと殺虫剤片手に魔法少女vs戦乙女を見上げる。模擬戦ゆえ魔力の出力は弱めだが、見世物としては華やかで良い。ブリテン異聞帯で行われていたモルガン祭でも通用する催しだ。

 ――――と、魔法少女組の中で唯一名前を知る小娘、イリヤスフィールが被弾した。そしてその落下軌道の先にはピンポイントで私がいた。

 …………このままだと激突するな。

 …………避けるか。

 

「ウッドワス」

 

 と思った直後、モルガン陛下に名を呼ばれたので、意を察し、イリヤスフィールを抱きとめる。フン、ただでさえ体格に恵まれないというのに、随分と軽い小娘だ。

 しかし少女の月のような銀色の髪が私の白銀のたてがみと触れ合い、互いの柔らかさとしなやかさを交換し合う。――――フム。良い毛並みの小娘ではあるな。

 

「うひゃあ!? あ、あれ……? なにこのモフモフ……すごく気持ちいい……ふおぉぉぉ……」

 

 状況を把握していないイリヤスフィールは、私の首元に顔をうずめながら、うっとりと身を寄せてきた。おい、首元に手をズブズブ突っ込むな。

 空からイリヤスフィールの仲間が何か言いながら下りてきたので、私もイリヤスフィールを地面に下ろす。そこでようやく現状を理解したらしく、酷く狼狽された。

 

「ほ、ほえ? い、いい今の、ウッドワスさんの毛皮!? た、頼んでもダメだったのにモフモフしちゃった……!! あ、いえ、助けていただいてありがとうございました」

 

「フンッ。私は避ける気だった、礼ならば陛下の慈悲に向けるのだな」

 

 飾らず、本音を言う。

 不可抗力+陛下の慈悲+礼節ある少女、という事情ならば、まあ仕方ないと受け入れよう。

 そしてその陛下は…………手元から生えている花の上でウネウネ動くイモ虫に凍てつく眼差しを向けながら硬直していた。

 …………さっきの呼びかけは、そういう?

 落ち着きを得るため一度呼吸を整えてから、私は殺虫スプレーを構えた。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「どーしてどーして!? どーおーしーてー!?」

 

「どうしても何もあるか。なぜ、貴様らなんぞに私のたてがみを触れさせねばならん」

 

 シミュレーターから出た後、私はカルデアの廊下で絡まれていた。例の如く、銀髪三人小娘に。

 こいつら、暇さえあればモフモフさせてと言い寄ってきて鬱陶しい事この上ない。

 

「でもでも、イリヤちゃんはウッドワスさんに抱っこされて、モフモフさせてもらって昇天しかけたわ! すごく気持ちよさそうだったわ!」

 

「そうです! そんじょそこらのトナカイさんを上回るその毛並み、わたし達だってモフモフしたい! 羨ましい!」

 

 ええい、銀髪二号と三号まで強引に迫りおって。

 揃いも揃って銀髪な上、身長差がありすぎて銀髪ばっかり目につくせいで、見分けがつきにくいのだこいつらは! 魔法少女組を見習え! あっちは一人は褐色肌、一人は黒髪とまだ見分けがつきやすいぞ!

 

「イリヤスフィールは、シミュレーター内の事故で私に向かって落下してきたから抱きとめてやっただけだ。私の毛並みに触れさせてやるつもりなど毛頭なかった。不可抗力だ! だいたい貴様らにはロボとかいう大きな狼がいるだろう、あの獣で満足していろ!」

 

「イリヤの名前は覚えてるくせに、わたしたちの名前は覚えてない! えこひいき!」

 

「シトナイから聞いた名前をたまたま覚えていただけだ!」

 

「ロボがモフらせてくれるのはナーサリーだけで、私もジャックもモフらせてもらえません。ウッドワスさんが私のトナカイさんになってくれれば万事解決するのです!」

 

 銀髪一号と三号が反論する。知った事か!

 ちなみにロボとかいう狼とは、私と相性がよくない。

 奴はシャンプーすら嫌がる野生の獣であり、私は香水をも嗜む紳士だ。以前、私の匂いを嗅いだと思うやわざとらしく咳き込んで、それっきり近寄ってこない。

 

「では赤兎馬にでもじゃれついていろ! あいつなら嫌がるまい、以前も背中に乗せてもらっていただろう!」

 

「赤兎馬はいつも気軽にモフらせてくれるからレアリティが低いの。☆3なの」

 

 どういう評価だ!?

 三ツ星なら最高評価だろうレストラン的に考えて!

 

「ええい、とにかく貴様らに触れさせる気など一切ない!」

 

 隙を見てはたてがみに触れようと後ろに回り込もうとする小娘共を警戒し、私も回避行動で忙しい。そうこうしてるうちに十字路を背に後退をする形となり、背後からの気配に気づいた時はもう遅かった。

 

「わぷっ」

 

 誰かが、私の背中に広がるたてがみに顔面を突っ込ませた。

 たてがみ越しのくぐもった声ゆえ、誰なのか分からない。

 

「ああー! ズルい!」

 

 などと銀髪小娘三人衆が騒いでいるが、わざとではないし、私とて迷惑だ!

 たてがみを振り乱して背後の衝突者に向き直る。

 そこには。

 

 

 

「ふわあぁぁぁ…………」

 

 

 

 顔を真っ赤にして蕩けているバーヴァン・シーがいた。あと隣にガラテア。

 よ、よりにもよって……バーヴァン・シー! だと!?

 最悪極まる!!

 普段からクソイヌクソイヌと侮蔑を投げかけ、臭い臭いと私の毛並みを侮辱する下級妖精!

 以前の任務でちょっと活躍の場を恵んでやっただけで調子にノリノリのバーヴァン・シー!

 ええい、今度はどんな不愉快を垂れ流す気だ!

 

「すっごい……お前のたてがみ、モフモフでふわふわで…………こんにゃにすごかったの……?」

 

 とても気色悪い猫撫で声だった。背筋の内側を氷のイモ虫が這い上がるような悪寒に戦慄する。

 そして想定を常に下回る最低のクソ女がこいつだ。

 当然のように最低の言動が続けられるに決まっていた。

 

「そのたてがみ寄越せよ。ヌンノスくん二号の材料に使うわ」

 

 と、どこからかハサミを持ち出し、これ見よがしにチョキチョキと鳴らす。

 ――――ハベトロット。仲間の毛皮を剥ぎ取ろうとするような奴などカルデアにいないと言っていたな? いたぞここに。

 

「ふざけるなッ!!」

 

 私が怒気をあらわに牙を剥くと、冷静なガラテアが私達の間に割って入った。

 

「申し訳ありません、落ち着いてください。彼女はただ芸術のため、ぬいぐるみの材料にあなたの毛皮を剥ぎ取りたいと言っているだけなのです」

 

「丁寧に言い直したところで許すものか馬鹿者どもー!!」

 

 所詮! バーヴァン・シーの友人など程度の知れた俗物だったという事か!

 他人様の毛並みを、モルガン陛下がお褒めになられたこの毛並みを、ぬいぐるみの材料だと!?

 捻り殺してやりたい衝動を必死に抑えていると、たてがみに違和感が走った。

 

「わぁ……すごい、やわらかい」

 

「モフモフだわ! 手入れが行き届いててモフモフだわ!」

 

「でも獣臭さと香水の匂いが入り混じってるのはちょっと……はふぅ、それはそれとして今年のトナカイさんにしたいです」

 

 銀髪三人小娘に隙を作り、モフられてしまった! イリヤスフィールに先を越されたのを目の当たりにして自制を失ったか!

 しかもこいつらは人間の子供の体格ゆえ、普通に手を伸ばしても私のたてがみには指先が届くか程度かでしかない。

 それなのに盛大にモフっているという事は……そしてこの重量感の正体は……。

 

「誰に断ってオレのたてがみにぶら下がっている!!」

 

 これでは下手に振り払えないではないか! 爪で切り刻もうものなら私のたてがみも傷ついてしまう!

 だいたいしがみつくなら丁度いい高さに尻尾があるだろう? そっちでは駄目だったのか? いやもちろん尻尾も駄目だぞ敏感な箇所なのだからな!

 くっ…………こうなったらもうあの手しかない。

 

「天草ァ!! どうせ近くにいるんだろう天草ァ! 今すぐこいつらをなんとかしろ天草ァ!!」

 

 保護者の褐色白髪を呼びつける! 銀髪小娘三人組があまりにも鬱陶しいからという不名誉な理由で名前を覚えたのがお前だ天草ァ!

 

「はっはっはっ。あれですね、村正ァ! みたいなノリで呼ばれると少々照れますね」

 

 そして案の定、苦笑を浮かべながらやって来た天草。

 

「さあ、おふざけはそれくらいにしましょう。皆さんも好きでもない人に髪の毛を無茶苦茶に引っ掻き回されたり、髪の毛を引っ張られたら不快でしょう? 人の嫌がる事をしてはいけませんよ」

 

 こうして夢心地状態の三人娘はあっさり回収され――――。

 

「よし、邪魔者は消えたな」

 

 と、バーヴァン・シーがハサミを手ににじり寄ってきた。

 

「切るから動くなよ。血は好きだけど毛皮は汚したくないぜ」

 

 無論、相手などするだけ無駄。私は脱兎の如く逃げ出した。

 その際、あろう事か、シトナイとすれ違う。

 彼女はシロウの背中に優雅に腰かけており、しかし表情は悪戯っぽく笑っていて、横を駆け抜ける瞬間――――我々は確かに瞳だけで会話を交わした。以心伝心を成立させてしまった。

 内容はこうだ。

 

 

 

 ――――次はわたしね。

 

 ――――こ、と、わ、る!

 

 

 

 …………不可抗力でイリヤスフィールはともかくとして、交通事故でバーヴァン・シー、隙を逃さず毒牙で喰らいついてきた銀髪小娘三人衆…………。くっ、モフられた!

 いつぞや、シトナイはカルデアのみんなにも毛並みを触らせて上げてなどと言っていたが、事故や事件という形でばかり現実化するのは、何かの呪いか何かなのか!?

 オレがモフられるのを見て嘲笑うとは、見損なったぞシトナイ! 貴様には絶対モフらせてやらん! 絶対にだ! …………とか考えてると、そのうちシトナイの毒牙にもかかりそうな予感がして気が滅入る。

 

 カルデアにはろくな女がいない。…………オーロラ、君に会いたい……。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「――――という訳でオーロラの思い出話でもしないか、メリュジーヌ」

 

「――――ゴメン、今すぐマスターの顔を見に行かないと死にそうだから遠慮スルヨ」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 疲れた。

 大きな野生を身に宿す私だからこそ言いたい、カルデアはもっと礼節に満ちた環境に改善すべきであると。そのためにはまず料理を全部菜食にしてはどうかと提案してみたが断られた。

 という訳で今日の昼食は人参ステーキ。

 

「生をバリボリ丸かじり! も最高に美味(うま)いですが、文化的な人参料理もまた美味(うま)い。そう思いませんか、ウッドワス様!」

 

 一人で静かに食べようとしたら、同じメニューを持って赤兎馬が隣の席にやって来た。

 いや…………こいつがレッドラ・ビットでないと分かった以上……なんというか……困る。どう相手にすればいいんだかよく分からんのだ。呂布ではないと説明は受けたが本人は呂布だと言うし。

 …………とはいえ、レッドラ・ビットと誤認したのは姿形と美声のためだけではなく、理解不能な言動ながらも礼節を兼ね備えていたからこそだ。故に私は指導する。

 

「生の人参を食うなとは言わんが、サラダや野菜スティックにすれば上品に食べられる。それと、気持ちが逸るからといってナイフとフォークを握りしめすぎだ。もっと軽く持て。食す時、必要以上に大口を開けるのもやめろ」

 

「ヒヒン。さすがはウッドワス様、なんと行儀が良い。いいでしょう。私も天下の飛将軍。食事の作法も当然心得てます。ムシャムシャゴックン。美味(うま)~~~~い!!」

 

「食事中に騒ぐな!」

 

 食事中まで気苦労が絶えない。ナイフとフォークで柔らかな人参ステーキを切り分けながら、私は気品ある食事を心がける。レッドラ・ビットの類似品に惑わされるな。私は風雅になりたい。

 と思っていると、ゴルドルフが熱々のステーキ……我々と違って肉のステーキを持って少し離れた席に座るのが見えた。ついでに気品のあるオールバックの男も同席している。なんだったか、あれもカルデア運営陣の中で結構な立場の奴だったな。ダ・ヴィンチと一緒にいるのをよく見る。

 

 ゴルドルフは食い意地が張っており、何とも嬉しそうに、無邪気な子供のように笑っている。

 そこには風雅のカケラもない、だが――――。

 いざ食事を始めるや、そこにはもはや風雅しかない!!

 くっ、何度見てもなんと見事なナイフとフォーク捌きなのだ。あれほど美しくステーキを食べるとは、やはりゴルドルフ、風雅とは貴様のためにある言葉よ。

 だが私とていつまでも負けっぱなしではない。今もこうして背筋を伸ばして人参ステーキを切り分けてカチン。

 

 ………………カチン?

 

 し、しまった!

 背筋を真っ直ぐにする事を意識しすぎて手元が狂い、ナイフで皿を叩いてしまった! 想定以上に人参ステーキが柔らかく焼き上がっている汎人類史の料理の腕前も称賛したいところではあるのだが、今この時は逆恨みをしたい気持ちがふつふつと湧き上がる。

 ぐぬぬ……落ち着けウッドワス、私はウッドワス、礼節なるウッドワス……。

 風雅なる見本(ゴルドルフ)を見て、心を鎮めるのだ……。

 

 

 

「…………ひえっ。あの獣サーヴァント、なぜ食事時にチラチラ私を見るのかね?」

 

「ハッハッハッ。所長のテーブルマナーの美しさに見惚れているのではないでしょうか?」

 

「名探偵なんだからもっと真面目に推理しなさいよ君ィ」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 溜まった心労を癒やすため、食堂に残ってのんびり紅茶を飲みつつゆっくり休んでいると、たまたま藤丸立香とマシュがやって来て、なぜか相席を申し出てきた。断る暇もなかった。

 二人は紅茶ではなく砂糖とミルクを入れたコーヒーであり、ちょっとした茶菓子も持ち込んでいた。私にもどうかと言ってきたが、断った。紅茶の香りを純粋に楽しんでいたかった。

 

「ところで――これ以上サーヴァントを召喚する必要などあるのか? すでにあらゆる問題に対応できるだけの人材が揃っているのではと思うが」

 

 すでに200人、あるいは200種類と数えるべきか、それほどのサーヴァントがノウム・カルデアに集結しているのだ。

 それにマシュが反論する。

 

「そういう訳にもいかないのです。この問題を解決できるのは唯一このサーヴァントだけ、というオンリーワンなケースも多々ありまして……。それになんだかんだ、サーヴァント召喚自体を楽しんでいる節が先輩にはありまして……次は誰が来るのか、誰と会えるのか、それはもう楽しそうにサーヴァント召喚に挑むのです!」

 

 このマシュという小娘は、マスターの事になると早口になるのだと最近学習した。

 隣の藤丸立香は恥ずかしそうにうつむいてしまっている。

 

「フンッ、戦力の増強が娯楽か。それで、特異点や異聞帯で敵対していた者も誰彼構わず召喚しているという訳か? この私のように」

 

「さ、サーヴァントとして召喚される時点で独自の個体ですから……」

 

「貴様らと敵対した記憶を維持したまま召喚されているサーヴァントもいるはずだが? 例えば、ここにも一翅」

 

「大丈夫です! マスターはどんなサーヴァントとも仲良くなってしまう人ですので! ウッドワスさんも今ではこうして一緒にお茶を飲むほど――――」

 

「貴様らが勝手にそこに座っただけだろう!」

 

 そうやって図々しいから他の者もあきらめているだけではないか、と思ったが――――むしろ藤丸立香に対して図々しく我が物顔で迫りまくるサーヴァントが非常に多い。多すぎる。

 母を名乗るサーヴァントが母じゃなかったり、姉を名乗るサーヴァントが姉じゃなかったり、妻を名乗るサーヴァントが妻じゃなかったり。

 …………………………………………モルガン陛下に関しては考えないようにしよう。

 

 ……私も何かと心労を重ねる身だが、こいつも度し難いほど面倒な立場であるのは理解した。

 

「陛下は自分以外のバーサーカークラスを全員解雇しろと言っていたが、実際、不要なサーヴァントは解雇……いや、オンリーワンで必要なケースがあるのだったな、使用頻度の低い連中は一時的に凍結処理でもしておいた方がいいのではないか? いや、使用頻度より、問題行動の多さで決めるべきだな。銀髪小娘三人組や、バーヴァン・シーとガラテアなど、色々いるだろう」

 

 私がそのような正論を突きつけてやると、藤丸立香は困ったように、しかし嬉しそうに。

 

 ――――でも、あの子達には笑っていて欲しいから。

 

 はにかみながら、そう言った。

 何か色々と事情がありそうなのは察する。私は新参だから他の連中の事情など知らないし分からない。

 だからといって私からの心象が良くなる訳ではないがな。本当に邪魔なのだあいつらは。特にたてがみにまとわりつこうとしてくる連中。毛皮剥ごうとする気狂い。

 

「フンッ。度し難いほど愚か者のマスターに引っかかってしまったものだ……。今後も好き勝手に召喚をし、ろくでもない輩に引っかかるがいい。モルガン陛下が貴様を気にかけている間は、私も大人しくしておいてやる」

 

 小馬鹿にしてやったはずなのだが、藤丸立香はなぜか笑顔で、うん、と頷いた。まったくもって度し難い愚か者。うんざりする。心労が溜まる。

 ――――しかし。

 愚痴を漏らしながら飲む紅茶は、なぜか、ほんの少しだけ、快い香りがした気がした。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ――――悪くないと思いつつある自分から目を背ける。しかしそんな日々もそう遠からず終わるだろう。私はすでに触れてしまっている。知ってしまっている。

 

 ――――汎人類史――――カルデア――――藤丸立香――――。

 

 ああ、まったく…………なぜこうなってしまったのか。結局、シグルドやこちらのパーシヴァルに言われた通り、私はマスターと向き合い、今の自分を肯定しつつある。

 ああ、まったく…………格好がつかぬわ。あいつらから「上手く行きつつあるようでなにより」などとほほ笑まれでもしたら、私は羞恥のあまり頭を掻きむしりかねん。

 だからせめて、もうしばらくは、今の距離感を保たせてもらおう。

 

 たやすく尻尾を振るほど、軽い男ではないつもりなのでな。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 などと殊勝な事を考えようと考えまいと、カルデアは地雷だらけの危険地帯のままだ。

 

「テメェ、ちょっと屈めや」

 

「断る」

 

「背ぇ高すぎんだよ」

 

「知るか」

 

「たてがみモフモフさせろ!」

 

「ハサミを捨てろ」

 

 廊下でバーヴァン・シーに待ち伏せされており、顔を合わせた途端この有様である。

 本当になんなのだこの下級妖精。なぜこんな奴を娘に選んだのですがモルガン陛下。

 赤い髪のバーヴァン・シー。

 赤い踵のバーヴァン・シー。

 赤いドレスのバーヴァン・シー。

 赤い鮮血を好むバーヴァン・シー。

 何一つとして陛下の後継者足り得る資格がないと思う。陛下を疑って裏切った自責の念に駆られてみずからを愚か者と罵り続けた私ではあるが――――。

 

 この件に関しては!!

 絶対に確実に本当に理解不能な人選である!!

 

「女王陛下の忠実な下僕、なんだろ? だったら私の忠実な下僕、ってコトだろ? 断ってんじゃねーよクソイヌ。こっちはわざわざ獣臭さと香水臭さをなんとかするため、トリミングや毛皮の加工の勉強だってしてんだよ」

 

「その情熱をまっとうな方向に活かせんのか貴様は!」

 

「イカしたセンスに活かしてんだよ! ロートルは古臭くて獣臭くて香水臭くてダメなんだって分かれよ。お母様に愛想尽かされるぞ」

 

「陛下の愛は尽きぬ!」

 

「愛想と愛を一緒くたにしてんじゃねーよ! 耳まで腐ってんの!?」

 

「そういう貴様こそたまに腐臭がするぞ! 性根が腐ってるせいではないのか!?」

 

「…………腐臭……ああ、そうだ……腐り落ちないよう……縛って……」

 

「…………? どうせエネミーを惨たらしく殺した際、血の匂いがこびりついたままにしているのだろう。戦闘後はきちんと入浴をし、身だしなみとして香水でもつけろ。仮にも陛下の娘を名乗っている以上、身嗜みには気を遣うべきだ」

 

 バーヴァン・シーは元気よくチョキチョキアピールしていたハサミを持つ手をだらりと下げて、ハサミさえもその場に落としてしまった。虚ろな目になってブツブツと何事か呟き出す。が、小声と発音の悪さも相まってよく聞こえない。

 なんというか……妖精騎士ども……突然こういう風になる事が多いな……。メリュジーヌといいバーゲストといい……。きっかけはよく分からんが。

 

 

 

「バーヴァン・シー、ウッドワス」

 

 

 

 そこに――天上より降り注ぐが如く尊き声が、背後より聞こえた。

 途端にバーヴァン・シーの表情がパッと花開き、私の横を駆け抜けていく。

 私は自制心を以てゆっくりと、美しい姿勢を心がけ、風雅なる仕草で振り返ると、胸に手を当てて一礼した。

 無論、そこにおられるのはモルガン女王陛下である。……ついでに陛下に抱きついて、頭を撫で撫でされているバーヴァン・シー。先程の謎の空虚な態度は錯覚かなにかだったのだろうか?

 

「お母様ぁ。このクソイヌがヌンノスくん二号の材料になろうとしないの。なんとか言ってやってくれない?」

 

 陛下は少しだけ悲しげな眼差しでバーヴァン・シーを見つめた。

 ほんの一瞬、腐臭がした――――ような、気が。

 

「バーヴァン・シー。ウッドワスの毛並みは、ウッドワスがまとっているからこそ美しいのだ。それを剥ぎ取っては輝きを損なう」

 

「えー? その時はまた別の材料探すからいいよ。なんか、金羊毛とかいうスゲー毛皮があるってガラテアに聞いたの。剥ぎ取られた毛皮なのにすっごい輝いててフワフワなんだって。強奪してお母様にプレゼントしよう! って提案したんだけど、ガラテアは恩のあるカミサマが関わってる品だからって乗り気じゃなくてさー…………」

 

「そうか。ガラテアが言うのならそうしてやるがよい。それに、ヌンノスくんは金色ではないのだろう?」

 

「あっ、それもそうか」

 

 物騒な会話ではあるが、さすが陛下、私をしっかりフォローしてくださる。

 この調子でバーヴァン・シーをもっと諌めて欲しい。切実に。

 

「……時に陛下。我らに何かご用向きが?」

 

 お声をかけられたのだから、何かご命令でも頂けるのではと思っていたが、バーヴァン・シーのせいで話が進まない。

 そのように考えての発言は、陛下の機嫌を損ねさせて表情を厳しいものに変えてしまった、

 いや、機嫌を損ねたのは私の言葉ではなく、今回お声をかけられた案件だ。

 

 

 

「マスターがクソ虫…………オベロンを召喚した」

 

「オベロン――!? 予言の子に組みしながら、カルデアをも裏切っていたというあの!」

 

「ただちにすり潰す。ついてこい、私の勇者」

 

「はっ――ハハァッ!! このウッドワス、全身全霊を以て!!」

 

 

 

 オベロン。奴がどこからどこまで謀略を張り巡らせていたかは分からない。

 だがブリテンが滅びの末路を辿ったのはオベロン、スプリガン、ベリル・ガットの暗躍あってのもの。堂々と戦った予言の子の方がまだ快いわ! 弱かったがな!

 そしてバーヴァン・シーもまた、陛下の言葉に強い反応を示す。

 

「すり潰す? つまり残酷にぶっ殺すって事? わぁい、私も行く行くー」

 

「うむ、存分に鬱憤を晴らせ。あのクソ虫は幾らすり潰しても良い」

 

「――――ッ!! 潰せば潰すほど……お母様に褒められる……? わぁ、夢みたい!」

 

 無邪気にはしゃぎ回るバーヴァン・シー。ええい、これは妖精國の仇討ちであると理解しておらんのか!? 遊び半分では邪魔になりかねん。いや邪魔だ! オベロンは私が殺す!

 

 

 

 

「――――陛下、何の騒ぎです?」

 

「マスターを見かけないんだけど、どこにいるか知らない?」

 

 と、そこに。

 バーゲストとメリュジーヌがやって来た。

 これは何の巡り合せか。もはや天命がオベロンを討てと言っているのではないか。

 無論、私が思った通りの事を女王陛下はお言葉にする。

 

「マスターがオベロンを召喚してしまった。全戦力を以てすり潰しに行く、ついて参れ」

 

「ハッ――――えっ? オベロンを? 召喚?」

 

「マスターがまた余計なサーヴァントを…………えっ、オベロン?」

 

 妙な戸惑いを見せながら、二人はたたらを踏んだ。

 構わず陛下が歩き始めたので、私もその後を当然のように、歩幅を合わせて、歩き出す。

 ついでにバーヴァン・シーも女王陛下の斜め後ろをスキップのような足取りで進む。

 …………。バーゲストとメリュジーヌはついてこない。何をモタモタしているのだ?

 まあいい、突然の事態に戸惑っているだけで、すぐついてくるだろう。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「どうしたメリュジーヌ。我々は自業自得の身の上ではあるが、奴に踊らされたのもまた事実。陛下に従い剣となるべきでは…………?」

 

「いや……オベロンを倒すのは別にいいんだけど、オベロンがウッドワスに会ったら、オーロラが裏切ってたコト暴露しちゃうんじゃあ……」

 

「………………あっ」

 

「…………陛下、もしかしてそこまで気が回ってない?」

 

「……かも……しれん…………」

 

「…………どうしよう」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ――――ムッ。出遅れたメリュジーヌとバーゲストも鬼気迫る勢いで追いかけてきた。

 なんだかんだ言っても、奴らもやはり陛下の臣下。

 全力でご命令に従うのは当然である!!

 

「陛下、少々お待ちを! 会議! まずは作戦会議を!」

 

「ウッドワスは見張りしてて見張り! 会議は僕達だけでやるから! ねっ!?」

 

 と思いきや、異論を挟んできた。軍略的に納得できるものではあったが、陛下は立ち止まるどころか振り返りすらしなかった。一刻も早くオベロンを駆除したいという事だろう。

 戦とは時に拙速を尊ぶ。どんな良策を練ろうと、その間に敵に逃げられてしまっては本末転倒。今ならば確実にオベロンに奇襲を仕掛けられよう。なにせ召喚されたてで状況もろくに分かっておらぬだろうからな。そして状況を理解し、我らがいる事に気づいてしまえば対策を取ろうとするに違いない。ブリテンを陥れた知略、もはや侮らん!

 

 行くぞ!

 オレ達のクソ虫退治(たたかい)はこれからだ!!

 

 

 

 ―― 完 ――




オベロン「アッハッハッ。とりあえず逃げるから、マスターが何とかしといて」
藤丸立香「色んな意味で逃がすかぁぁぁ! モルガン達を丸投げするなぁぁぁ!!」
オベロン「放せぇぇぇ!! 奈落カムバァーック!!」



 という訳でウッドワスの物語は終了(これから)です。お疲れ様でした。
 オベロンのクソ面倒臭いムーブを書くのはちょっとレベル高すぎる+ガチシリアス展開になってちょっと精神力が持たない問題。
 本来はここで終わりの予定なんだけど、それでもオーロラ案件に決着をつけるならと捻り出したプロットが以下。

 オベロン管制室から逃亡、足の早いウッドワスが先んじて追う、メリュジーヌ慌ててついてく。
 その間にバーゲストがモルガンと藤丸立香を説得してオーロラ案件伝え、モルガンが失態に気づくも時すでに遅し。
 ウッドワスがオーロラを騙した云々をオベロンに言ってしまい、オベロンは素でいや違うからとあっさり真相伝えてしまい、居合わせたメリュジーヌが泣きそうな顔で認めてしまうものだから、ウッドワス狂乱。
 なぜ黙っていたのですか陛下と暴走気味にモルガン問い詰めに行く。こうなるから伝えなかったと答えるモルガンを見て、ウッドワスは自分の情けなさに心が折れる。
 モルガンや藤丸立香の言葉も届かない。しかし彼には新たな友がいた。
 シグルドにありえぬ仮定だがブリュンヒルデの愛がすべて偽りだったらどうする? とか拗らせた質問をし、シグルドはブリュンヒルデの愛を得られなかったのならそれは自分の不徳、精進不足などと消えぬ炎の快男児発言。やったーかっこいー。
 ウッドワスは自分がオーロラを愛した気持ちに偽りはなかったと折り合いをつける。
 その後、モルガンと藤丸立香になんかこういい感じの出番をガガッと与えて物語のバランスを取りつつハッピーエンドっぽい雰囲気になったところで、オベロンがめでたしめでたしで〆ようとうするもんだからふざけんなテメェと一騒動起きそうになったところで、満を持してキャスターアルトリアが登場してオベロンしばいて回収。お騒がせしました。
 こうしてウッドワスの新しい日常は続いていく。適当なポエムを書き連ねて完。

 という大雑把な概要はできてるけど、今はシリアス話を書く気力とか精神力とか尽きてて……細かい繋ぎ部分とか考えつかないし……とてもじゃないけど書けないや……って。
 という訳でご愛読ありがとうございました。
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