アンノウン・デストロイヤー   作:時雨 じう

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初めまして。
ハーメルでの執筆は初めてで色々不慣れですが、読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします!


いつかの日々

「最後になにか話してあげよう。最後の最後だよ」

「分かった。おじいちゃん。()()()()()のお話して」

「はいはい。ほんと、セーラはダンジョンの話が好きだねぇ。あっさりした話なのに」

 

 暖炉の火がちろちろと燃えている。その明かりに照らされた部屋には、小さな少女と老人がいた。

 少女――セーラは、ロッキングチェアに座った祖父の膝に乗り、お話をせがんでいた。彼女がもっと小さい頃からのお気に入りの話だ。

 

「じゃあ、始めるよ……」

「やったー!」

「昔々、この国には、ダンジョンがありました」

 

――ダンジョンには、魔獣、というこわーい動物が住んでいました。魔法を使い人々を襲って食べてしまうのです。近くの漁師や狩人たちは、ダンジョンに潜って魔獣を倒しました。しかし、漁師や狩人たちは、あまり強くありませんでした。たくさんの漁師や狩人たちが魔獣に食べられてしまいました。

 

『もしいつか、魔獣たちがダンジョンから出てきてしまったらどうしよう』

 

 人々はそんなことを考えて、震え上がりました。だって、魔獣は人を襲って食べるんです。怖くって怖くって仕方ありませんでした。

 そんなある日、街の中央にある協会の神父様が、1人の男の人を呼んできました。実はその男の人は違う世界から来た人で、神父様が魔法陣を作って呼んだのです。

 男を見た街の人たちは喜びました。男の人の手には、"勇者"の紋章があったからです。勇者は、世界を救ってくれる人のことです。

 

 きっと彼なら、ダンジョンを終わらせて、魔獣をみんな倒してくれるに違いない。

 

 街の人たちは、そう思いました。

 そして、その期待通り、勇者はダンジョンを攻略することができました。しかし、ダンジョンから溢れ出た魔力によって、外の動物が魔獣になってしまいました。

 けれど、人々は喜びました。なぜなら、魔獣と共に魔人も生み出されたからです。魔人は魔法が使えて、とても便利でした。また、魔獣を倒す、冒険者、という職業ができて、職のないものも減りました。元が牛などの家畜だった魔獣は人間を襲うこともありませんでした。食べることだってできました。獰猛な動物には、元々人間は近寄らなかったので、関係ありませんでした。

 

「それで、勇者はたくさんのお金をもらって幸せに暮らしたんだよね」

「そうだねぇ。食べ物もいっぱいもらって、勇者は幸せに暮らしたよ」

「でも、異世界に来たからってそんな簡単に倒しちゃっていいの?」

「いいのさ。きっと彼は、努力だってしたんだろうし……誰が終わらせるにしろ、終わったことが重要なんだ。そして、いいかいセーラ」

 

 老人が、セーラの肩をがしりと掴んだ。見たことのない厳しい表情に、びくりと体を震わせる。

 

「なぁにおじいちゃん?」

「もしかしたらもうすぐ、怖い人たちがここにやってくるかもしれない。おじいちゃんは……殺されてしまうかもしれない」

「え?」

「お前のお母さんとお父さんはもう……死んでしまっただろう」

「何言ってるのおじいちゃん……ボケちゃったの?」

「わしはまだボケとらん。セーラ。もし怖い人たちがこの家まで来てしまって、おじいちゃんが合図したら、棚に隠れるんだよ。棚の中には扉があるから、誰もいなくなったらそこから脱出するんだ。決して、出てはいけない」

 

 老人は、背後にある棚を指した。中に隠し扉が仕込んであり、脱出できるようになっている棚だ。

 

「さっきのダンジョンの話の続き?」

「違う。現実の、今起こっていることの話だ。セーラ。お前には理解ができんだろう。けれど大人になったときに必ず、分かるはずだ。そのときお前がどうするかは分からない。戦うかもしれない。復讐するかもしれない。憎しみのあまり人を殺すかもしれないし、殺されてしまうかもしれない」

「おじいちゃん、だから何の話……」

 

「セーラ。今は話を聞いてくれ!」

 

 肩にこもった力がギリギリと強くなる。セーラは息を飲んで頷いた。呼吸することさえ許されない気がした。

 

「今、外では、お前の家族が、友人が、色んな人がたくさん殺されている。お前を守るためだ」

「私を、守るため……」

「あぁ。お前を守るために。きっとお前が村に戻る頃には、もう……」

「つまりは、お前はそれほどの命がかかっておるんだ。お前は、わしたちの希望の星だ。ただ生きてさえいてくれればいい。無茶はするな。ただ生きてさえいてくれればいいから。まずはその瞳を変えるんだ。お前の魔法で、瞳の色を変えろ」

「おじいちゃん、さっきから何の話をしてるか分かんないよ」

「あぁ、そろそろかな」

 

 老人は遠くなった耳を澄ませた。

 そろそろ。そろそろきっと、()()はやって来る。

 

「セーラ。お前は、あのダンジョンの物語の勇者だ。生まれたときから特別な力を持った、選ばれし存在だ。もしセーラが将来全てを理解して、その上で終わらせたいと願うならば――終わらせてくれないか。この世界を」

「あの物語の本当の続きを話そう。しばらくして、勇者は元の世界に帰っていってしまった。それが、本当の最後だ。この世界で幸せになって死んだんじゃないんだ」

 

 老人は、セーラから手を離した。今すぐ走れ! と棚を指す。少女は言われるがまま、棚に身を潜めた。

 

「最後に――言い伝えだけとはいえ、ちゃんと話せてよかった。時間がないなかでも。セーラには、故郷がある。今なくなろうとしているが、もう一度作ってほしいんだ。意志さえあれば。本当の物語の結末を話した意味があの子に分かるかどうか……」

 

 老人が呟いたそのとき、部屋に銃声が響いた。血が吹き出し、脳の欠片が部屋に散らばる。

 

「ちっ。じいさん1人かよ」

「地下室にこもってると思ったら。忘れられてたんじゃねぇか?」

「ま、殺すことに変わりはないんだ。それが国からの命令でもあるしな」

「まぁな。それより上をもう1回探した方がよほど効率がいい」

「そうだな」

 

 老人と少女がいた部屋に侵入した男3人は、しばらく部屋を物色すると出ていった。

 部屋には老人の散らばった頭だけが微かに息づいていた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

「じいちゃん、そんな運動とかして大丈夫か?」

「大丈夫だこれくらい」

「いくら化け物とは言え98歳で縄跳びするのは俺でも引くわ」

「良かったじゃねぇかその血を引き継げて」

「良かったけどさぁ」

 

 ミンミンと蝉がうるさい。

 東京のある住宅街。その一角では、老人が縄跳びをし、縁側に座っている孫がその様子を眺めていた。眺めていた、というよりも祖父が倒れてしまわないか見張っていた、の方が正しいが。

 

「なぁ修二(しゅうじ)

「ん?」

「俺、たぶんあと1週間で死ぬと思うんだわぁ」

「……は!? 何言ってんの? 蝉かよ。さすがにその歳でその冗談言うと笑えないぜ」

「年寄りの勘、というものだよ」

「はぁ!?……え、マジの話?」

「あぁ、大マジだ」

「嘘だろ。急に余命宣告されても……」

 

 修二と呼ばれた青年が頭を抱える。そんな彼の後ろ姿を笑いながら、老人は軽々と縄跳びを飛んでいた。

 

「と、とりあえず病院に連絡して入院させたらいいのか……? それともど、どうしよ。え、こういうとき一体どうすりゃ」

「修二。そんな悩まんでいいぞ。お前はただ、看取ってくれたらそれでいい」

「看取ってくれたらって言われても……」

「それにな。ただ死ぬ、というよりも呼ばれている気がするんだ。違う世界から」

「呼ばれている?」

「あぁ。呼ばれている。魂だけが、その世界にある気がする」

「大丈夫かじいちゃん。本当にボケてないか?」

「ボケとらん。失礼な」

 

 老人は眉を寄せると、縄跳びを畳んだ。修二は悩んでいるのか、目をぐるぐるさせている。老人は修二の隣に腰掛けた。孫と祖父。平和な光景だ。

 

 

――その一週間後、老人は死んだ。

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