アンノウン・デストロイヤー   作:時雨 じう

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第1話 始まりのギルド

「で、なんであんたみたいな子供が冒険者になりたいって言うんだ。ここは女子供の来る場所じゃねぇぞ」

 

 男が顔をしかめて言うと、目の前の少女は、はっきりと答えた。

 

「私には戸籍がない。戸籍がないから、働くことができない。ここなら戸籍が必要ないと聞いた」

「可哀想だが、このギルドに入れてやることはできねぇな。戸籍が要らねぇってことは、そのレベルだってことだ。入団してる俺が言うのもなんだが、かなりの無法地帯だぞここ」

「それでも構わない。母が病気で苦しんでいる。まとまったお金が欲しい」

「その前に殺されちまうかもしれねぇぜ、ここの誰かによ」

「私には運があると聞いたことがある。それに占いには、ここでは死なないと示してあった。だから大丈夫だ」

「はぁ……」

 

 寂れたギルドの受け付け。そこで働いている男ははため息を吐いた。

 理由は明白だ。目の前の少女が、このギルドに入ると言って聞かないからだ。自分も入っている身ではあるが、ここのギルドは危ない。窃盗は日常茶飯事。女が襲われた数だって1つや2つじゃないし、逆も然り。

 真昼間に突然現れたこの少女は、どれだけ危険さを話しても理解しようとしてくれない。もう1時間も喋っているはずだ。むしろ、意固地になってきている気がする。

 

「そう言う女を何人か入れてきたが、みんな出てっちまったぞ。酷いことをたくさんされてな」

「構わない。死ななきゃそれでいい」

「潰れるぞ」

「潰れる潰れないの問題以上に、明日食える飯がない」

 

 女は被っていたフードを上げた。深草色、とでも言うのだろうか。普通の緑色よりは濃く、暗い。そんな色のぶかぶかのローブを、少女は着ていた。

 フードの下に隠れていたのは、青い髪に同じ色の目。細部まで整っていて美しく、人形のようだった。本当に同じ人間なのか、と言いたいような。

 眼力に圧倒される。口元に湛えた笑みに、脱力した。

 

「ははっ。上等じゃねぇか」

 

 男は思わずのけぞり、冒険者の証となるネックレスを渡した。

 

「明日からよろしく頼むわ」

「今日からだと嬉しいんだがな」

「んなこと言うなよ。けっこう大変なんだ。入団手続きするの」

 

 大変、というよりかはめんどくさい。

 

 ギルドに来てから女はずっとそわそわしていて、すぐにでもクエストを受けたいようだった。気持ちは分かる。せっかく冒険者になれるんだ。病気の母を持っているなら、早く薬を買いたいだろうし。

 だけど、同情するほど男も優しくない。色んな人間を見てきたが、それぞれ大変そうだなという感じだ。何よりキリがない。自分も生きるのに精一杯だし。

 

「分かった。明日の早朝、ここに来る」

「早朝はまだ寝てるから、昼前に来てくれたら助かるな」

 

 どう考えても早朝は早すぎる。ここのギルドの冒険者が働き始めるのだって、朝の10時からくらいだ。

 

「……分かった。簡単なクエストを残しておいてくれたら助かる」

「まぁ、初心者だしな。残しておいてやるよ」

「ありがとう」

 

 女……というよりも小柄な少女は礼をし、去っていった。

 

「まったく……でもあいつなら、ここには長くいられるかな」

 

 ただでさえ殉職率も高く、それ以上に争いの絶えないこの職業。国の中央に行けば、女性だけで結成されたギルドなんかもあるらしいが、ここには女性はほとんどいない。あまりにも治安が悪いためだ。

 実際、何度か話を聞き、入団させてきたことがあるがみんなすぐに辞めていった。

 

「最近ダンジョンも復活したしよ。やっぱり、手軽に儲けられるってなったら、冒険者なのかね。ダンジョンの内部とかもっと治安悪いんだけどな」

 

 お願いだから、理解してほしい。冒険者という職業の過酷さを。職にはぐれた者でもそれなりの給料がもらえるのが、どういうことなのかを。

 いくらただのギルドの職員と冒険者という関係とはいえ、知り合いが死ぬのは辛い。

 

「ま、覚悟はできてるようだしな」

 

 少女は本気だった。本気で、生きようとしていた。それを止める資格は男にはない。

 

「なぁ、マーベルさん。ぶつぶつ言ってないで金くれないか」

「あぁはいはい。今日は何が捕れたの」

「今日はな、イノシシ型の魔獣だよ。けっこう大変だったんだぜ」

 

 受け付けに来た冒険者が片手で持っていた魔獣を上げる。

 足を縛ってその部分を持ち歩いていたらしい。獲物は若い雄のようで、これなら肉も柔らかく上手いだろう。そこそこの値段で売れるはずだ。

 

「イノシシ型、な。銀貨4枚だよ」

「ケチだなぁ。まけとくれ」

「そうは言っても、こっちも赤字なもんでね」

 

 不法労働者の多いギルドだから、当然といえば当然だ。まぁ、ギルド長はけっこう儲けてるらしいけど。

 

「はぁ……まぁ、いつも通りか。明日もよろしく頼むよ」

 

 冒険者は魔獣を渡すと、手を振って去っていった。明日から少女に、これくらいのことができるかどうか……

 見ものだな、とマーベルは口角を上げた。

 久しぶりに暇つぶしくらいにはなるかもしれない。それに美少女だ。もし手柄を上げればもっとここに人が増えて、儲かるようにもなるかもしれない。

 マーベルの脳内に浮かぶのは、このギルドの職員らしく金だけだった。

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