編集しました。
site:ベル
アイズとの仲が深まった翌日。今日もダンジョンへ向かう。
「アイズは、遠征か...」
見送りをしたかったけど、そんなことをすれば面倒なことにしかならないので出来ない。少し気落ちしながら、リリと合流する。以前、エイナさんにリリのことを報告した際、もう10階層まで行ったの!?また危険を犯して!などと怒られた。刺激しないように宥めたあと、10階層に行ってもいいという許可をもぎ取った。
現在9階層。リリと歩いているのだが、
「ベル様、この階層、違和感がありませんか?」
「うん。モンスターが少なすぎる。それに、冒険者も....」
そう、先程からモンスターや冒険者に全くと言っていいほど会っていない。原因はわかっている。この上層にはいないはずのモンスターがいるからだ。これは、放っておけない。なので、
「行こう、リリ」
と、不安がっているリリと歩を進める。
そろそろか...。と内心呟く。その直後
『ヴォオオオオオオ...」
と、雄叫びが響き渡る。約1ヶ月ぶりのモンスター。アイズとの出会いのきっかけ。
そしてそいつは、ドスン...ドスン...と足音をたてながら姿を現す。
「ミノ、タウロス...」
リリが、そいつの名前を呼ぶ。だが、おかしい。以前よりも強くなっているし、持っている武器も人が作ったものだ。
いや、まさかな...と内心呟く。誰かがミノタウロスを育てたのだろうか。そんな形跡がいくつもある。何のために?いや、僕のためだろう。今も以前からもずっと、誰かが僕を見ている。その者が仕向けたに違いない。何故、そんなことするかは知らないが、僕の邪魔をするなら容赦はしない。そう考えていると、リリの慌てる声があがる。
「ベル様、逃げましょう!今の私たちでは、太刀打ち出来ません!」
「リリ。応援を呼んできてくれないかな?」
「な、何を言ってるんですか...?ま、まさか!戦うつもりですか!?ダメです、ベル様!一緒に逃げましょう!」
「僕は大丈夫だよ。だから、リリは逃げて」
「ベル様が残ると言うなら、リリも残ります!」
うーん、どうしようか。微かにだが、大数の気配を感じる。気配を感じ取れるギリギリの距離なので、誰なのかは分からない。このままミノタウロスと戦う場合、人がいるのなら倒すことはできない。Lv.1がミノタウロスを倒すなど、注目の的にしかならないから。この人達が来るまで相手をするとなると、リリが巻き添えを食らわないとは言いきれない。だから、リリにはここから離れて欲しいのだ。
『ヴォオオオオオオオオッ!!』
リリとそうこうしているうちに、ミノタウロスが大剣を振り下ろしてくる。刀を抜き受け止める。
キンッ!
と甲高い音が響く。
「リリ!早く行くんだ!」
後ろで怯えているリリに声をあげる。
「...イヤ...」
逃げないリリ。自分だけが逃げる訳にはいかないという気持ちと恐怖てで身体が固まる。だから、また言う。今度は更に強く。
「早く行けよ!」
「無理です...!」
辛そうで真剣な表情で反対する。だが、今はそんな優しさはいらない。ホントに早く行ってくれ。と。先程より、更に、更に強く叫ぶ。
「早く行けええぇぇっ!!」
「っ!」
僕の気迫に押されるリリ。苦しい顔をしている。
リリは力を振り絞り立ち上がる。そして、
「うわあああぁぁぁん!」
泣きながら走り去っていく。リリにとって、やっと出来た居場所。それを、目の前で見捨ててしまったのだ。泣くのは仕方がないことだ。でも、安心して。僕は居なくならないから。
近づいていた人達の気配は、《ロキ・ファミリア》だった。ここで僕は、やられた''ふり''をすればいい。
「うわぁぁぁっ!!」
ドコンッ!
「ガハッ!」
弾き飛ばされ、壁に背中から激突し肺の中の空気が吐き出される。内蔵にダメージが入ったのか吐血する。あまりの完璧さに、自分自身に震える。
舞台は整った。あとは、《ロキ・ファミリア》の誰かに任せよう。
そして、僕を助ける為に近づいて来た者がいた。それは、アイズだった。アイズは、僕を背にかばい僕だけに聞こえるように話しかけてくる。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「ミノタウロスの相手は任せて」
「あ...」
アイズの、任せて、という言葉に反応する。本当にアイズに任せてもいいのか、とここで一考する。もし、Lv.1でミノタウロスを倒したとなれば、アイズの
「いや、やっぱり僕がやるよ」
と、立ち上がり、アイズに言う。
「...いいの?バレたくないんじゃないの?」
「バレないようにすればいい。それに、これは''最初の一歩''だ」
「最初の一歩...?」
「いつか''叶った''ときに教えるよ」
首を傾げるアイズにはぐらかす。
「...分かった」
「ありがとう。じゃあ、これから劇を始めよう。麗しきお姫様。我が雄姿、みとどけてくれるかい?」
「...うん...みてるよ」
いつも無表情のアイズが、少し微笑んだ気がする。それほど気を許してくれているのだろう。嬉しいという気持ちが満たす。
『ヴォオオオオオオッ!!』
何故か律儀に待っていたミノタウロス。やり取りが終わったと感じたのか、雄叫びをあげ構えをとる。
「ヘル・フレイム」
先手は僕。魔法がどれくらい効くのか知りたかった。黒煙が巻い、やがてはれる。
ふむ、やけど程度か。
『ヴォオォォオオオオ!!」
雄叫びをあげ、距離を詰めるミノタウロス。大剣の攻撃が舞う。
カンッ!...カンッ!...カンッ!...ドォン!
受け流し、ジャンプして後退する。うーん、どうやって倒そう?せっかくみられているんだから、少しは派手に倒したい。Lv.1の範囲内で。
ミノタウロスに向け疾駆する。大剣の攻撃を身を捻ったりサイドステップで避けたり後退してはすぐに駆ける。その動作の合間に刀で攻撃をする。それを、繰り返す。
周りにはどう見られているだろうか。最近まで笑いものにしていた者が、今ミノタウロスを追い詰めている。最近冒険者になったばかりの者が、ミノタウロスを追い詰めている。あるものには、英雄譚にでてくる『アルゴノゥト』に見えただろうか。もしミノタウロスを倒せば、世界が民が求めた『英雄』の誕生の瞬間かもしれないと。
お互いの血が飛び散り、地面が砕け、剣戟の音が響き渡る。
そして、決着の時が訪れる。
胸に刺さった刀。ベルは魔法を唱える。
「フレイムボルト」
ボォオッ!
この階層に来るまでの数発、ミノタウロスの時に二発ほど使い、残り少ない魔力が刀を伝ってミノタウロスを内から燃やす。そして、もう一度。
「フレイムボルト!」
ボォオオオォォ
『ヴォオオオオオオオオッッ!!」
終わりだ。そう呟き、最後の一発を放つ。
「フレイムボルト!!」
ボォオゴォオンっ!
「ヴォオオオオオオオオッッッ!!!」
ボッシュゥゥゥ!
内から爆発し、やがて消滅した。
意識が朦朧とする。マインドダウンが起こっているのだろう。そんななか、ある人が近づいてきた。
「大丈夫?」
「大丈夫...だけど、...マインドダウン...になっちゃったよ」
大丈夫。と言っても結構ボロボロだ。服は破れ、切り傷だらけだである。
「お疲れ様。かっこよかったよ」
微笑み褒めてくれた。
「そう...?それは嬉しいな...」
僕も、朦朧するなか頑張って微笑む。
「...ごめん。もう無理...」
「うん、あとは任せて」
「ありがとう...」
お礼を言ったあと、立ったまま気絶をする。立ったまま気絶なんて、器用だなぁ。とあとから聞いて思うのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
side:ロキ・ファミリア
ベルとミノタウロスの戦闘中、《ロキ・ファミリア》は混乱していた。
「ベート、あの冒険者は先日までミノタウロスから逃げるような者だったんじゃないのか?」
フィンがベートに確認をとる。
「ああ。間違いなく、新人だったはずだ...!」
分からないことばかりだ。先日まで、ミノタウロスから逃げていた者が、今は追い詰めているのだから。
そして、決着がついた。
「す、すっご〜い!ミノタウロス倒しちゃったよ!」
目を輝かせて興奮するティオナ。英雄譚が好きな彼女には、この場面がどのように写ったのだろうか。
「先程もだったが、アイズと何を話してるんだ...?」
ミノタウロスとの戦闘前、討伐後、自分たちには聞こえない程度に話している二人が気になるリヴェリア。アイズとの会話が終わった瞬間、立ったまま気絶をする冒険者。
ここで、ベートが声をあげる。
「リヴェリア、あいつのステータスは!」
「私に盗み見をしろというのか?」
「あの状態じゃ、見てくださいって言ってるもんだろ!」
「...はぁ」
ベートだけが声にあげていっているが、ほかの者、リヴェリアもまた気になっている。一ヶ月ちょっとで、それもLv.1がミノタウロスを討伐するという『偉業』を成し遂げた冒険者のステータスが。
「...っ」
ステータスを見たリヴェリアが驚く。
「は、ハハっ...、アビリティ、耐久以外オールSだと...」
『!?』
リヴェリアの発言に、声にならない驚きがあがる。当たり前だ。一ヶ月でほとんどオールSなど聞いたことがない。自分達のファミリアに属している、最速レベルアップ保持者であるアイズでさえ、一年はかかっているのだから。
「リヴェリア、彼の真名は?」
フィンがその冒険者の真名を聞く。
「彼の名は...」
「ベル」
リヴェリアが答える前に、アイズが答えた。少し微笑みながら。
「性は?」
「ない。ベルという名しかない」
「そうか...。よし、遠征は一時中断。ベルとそこにいるパルゥムを《ディアンケヒト・ファミリア》に運ぶ。急ぐぞ!」
フィンの言葉に行動を移すファミリアの者たち。ベルは、アイズが運ぶようだ。その際、視線がいくつか集まっていたのは仕方がないことだろう。
ーーーーーーーーーーーーーー
side:ベル
意識が覚醒してきた。目をあける。その天井は知らないもので
「知らない天井だ...」
こう呟いてしまうのは、仕方がないこと。一度は言ってみたいセリフなのだ。
「お、目が覚めたかい、ベル君。ほら、まず水を飲みな」
「あ、ありがとうございます...」
口の中が乾燥して上手く喋れない。真っ先に水をくれた神様に感謝だ。水を飲んでいるときに神様は声をかけてきた。
「ベル君が、ダンジョンで倒れて運ばれたって聞いたときは驚いたよ。あのベル君が?ってね」
「ふぅ...驚かせてすみませんでした」
「いやいや、ベル君が無事でよかったよ。それで、なんで倒れたんだい?」
「それはですね...」
神様に、人の手が加えられたミノタウロスと遭遇したこと。倒すのは任せようとしていたけど、やっぱり自分で倒そうとしたこと。倒し方を派手にしようと魔法を使ったら、マインドダウンが起きたことを話した。
「手が加えられたミノタウロスか...。誰がしたか検討はつくかい?」
「いえ、分からないです」
「そっか...。正直、これだけで終わるとは思わない。気をつけてね、ベル君」
全くもってその通りだと思う。神の気まぐれが一番面倒だ。神様も巻き込まれない確証はない。
「はい。神様も気をつけてください」
「だけど!、またヴァレン何某君かい!なんでこうも関わるんだぁあああっ!!」
「アッハハ...、不思議ですよね」
声をあらげる神様。特訓は遠征までだったけど、その後も特訓を続けるつもりということを知られたら面倒なので、絶対に言わないでおこう。
「はぁ...まぁいいや。よし!それじゃあ、更新してみようか」
「そうですね、よろしくお願いします」
服を脱ぎうつ伏せになる。神様が跨り背中に血を垂らす。
「...ベル君...Lv.2になれるよ」
「やっぱりですか」
何となくだがわかっていた。Lv.1がミノタウロスを倒すなど『偉業』としてならないわけがない。
アイズの一年を大幅に更新した。目立っちゃうなぁ。と気が滅入るのだった。でも、アイズに近づけるからいいか。と呑気に考える。
「ベル君、発展アビリティの《幸運》と《精癒》があるけどどうする」
「《幸運》ってなんですかね?」
「さぁ、僕にはわからないな」
「そうですか。うーん...、《幸運》にしたいと思います」
何となくだが、《幸運》にしようと思った。せっかくの発展アビリティだ。そっちを持っておいても損はないだろうから。
「本当にそれでいいのかい?」
「はい」
「分かった」
発展アビリティを刻み、そしてステータスを紙に写す。
______________________________
ベル
Lv.2
力 : I 0
耐久 : I 0
器用 : I 0
敏捷 : I 0
魔力 : I 0
幸運 : I
《魔法》
【ヘル・フレイム】
【フレイムボルト】
・速攻魔法。
《スキル》
【
・仲間を想うほどステータス大補正。
・仲間と冒険するば耐久大補正。
・仲間と冒険するば獲得経験値大。
【憧憬一途】
・早熟する。
・懸想が続く限り効果持続。
・懸想の丈により効果向上。
【
・能動的行動に対するチャージ実行権。
・精神疲弊をしない。
・魔力が枯渇した場合、寿命を魔力へと変換する。
______________________________
「突然だけど、明日には退院らしいから、今日はここでゆっくり休んでね」
「分かりました」
「それじゃあ、僕は帰るよ」
「ええ、気をつけて」
「うん、バイバイ。..あ...ベル君」
何かを思い出したのか、ドアに向いていた体をこっちに向ける。
「なんですか?」
「お疲れ様。それと、おかえり!」
そう微笑みながら言ってきた神様。あー、やはり暖かいものだ。
神様の笑顔に、僕もまた微笑みながら
「はい!ただいまです、神様!」
と言うのだった。
こうしてまた、日が過ぎていく。
ありがとうございました。
次回は ヴェルフ
では、さようなら