景虎ちゃんが、記憶喪失な娘のお姉ちゃんになる話 作:やんやや
人理継続保障機関フィニス・カルデア。
人類の未来と過去を語る資料館にして、それらの異常を観測して護り、人類存続を保つということを名目にした保険機関。
上記の通り、人々にとっては凄まじく重要な施設であり、魔術師であっても上位の人間にしか知られていない貴重な場所。勿論立ち入りする場合も、様々な認証や登録を必要とする。
理由こそ分かってはいるが、大変回りくどく面倒くさい仕掛けだ。古き時代を生きた自分にとっては、なんとも不便極まりない。
「ぶっしゅぅ~! お酒はこの飲み方が合うね!」
そんな施設の食堂で、私は今日も一人で酒を飲み明かしていた。
私の名前は、長尾景虎。ランサーのサーヴァントにして、 毘沙門天の化身、越後の軍神だ。そして、ここフィニス・カルデアに召喚されたサーヴァント第4号でもある。
私の前は今も尚この施設に居座る天才さんだ。どうも私はその過程の実験の副作用的な感覚で召喚されてしまったらしい。尤もこの施設に私のような戦闘に長けた英霊は
寧ろ好都合だ、戦い程私の気を高ぶらせるものはない。昔もあるライバルと共に、戦いくれていたものだ。
「――そろそろ行くかにゃぁ~……」
実は今日、この施設にいる人類最後のマスター、藤丸立香とデミ・サーヴァントであるマシュ・キリエライトの二人からお呼び出しをくらっているのだ。正午あたりに管制室の方へ来てほしい、と。
英霊使いが荒いことこの上ない。仮にも私は毘沙門天の化身だよ? 酒をもっと寄越すとか、そういう賄いがあっても問題ないと思うんだけどなぁ。
どうせ特異点とかいう異常世界の話かなんかだと思うけど。連れて行くんだったら、私を高ぶらせる戦いが待っている様な世界にしてほしいね。
「さて、出発ぅ~……でっ!?」
自動で開く摩訶不思議な扉から意気揚々と飛び出した刹那、下に転がっていた"何か"に足を躓かせ、勢いよく転ぶ。酒酔いの千鳥足、とまではいかないが足元をおろそかにしていたいという点は、聊か軍神としては一生の不覚。
重い身体をよっこらせっと起こし、すぐさま背後へと振り返る。
「武神を転ばすとは、一体どのような不純ぶ、つ――……?」
思わず、言葉を失う。
そこにあったのは、私がいた国と時代に似通った礼装を纏った小さな少女。寝っ転がった状態でその場に落とし物の如く佇んでいた。
何これ、何なんだこれは。
そういえば、先日マシュが言っていたような気がする。彼女がマスターと出会った際も、廊下で寝っ転がった状態での顔合わせだったとかなんとか。
つまりこれは、それの私バージョンというわけですか? 嫌々何をおっしゃいますか。そもそもそんな出会い等、戦の時代に不要だったじゃないですか?
出会って目があったら即戦、みたいな感じですからね。
えーと、こういう場合どうすればいいんだろ?
「……んぅ」
(喋った!?)
そりゃ喋る。何を今更。
「そ、そこの者! 起きているのなら、顔を上げなさい!」
どう対応すればいいのかわからず、ついつい言葉選びを間違えそうになる。いや、寧ろこの言葉で良いのかわからない。
私はそもそも、普通ではない。人と接する際の感情表現とか、感受性とやらが致命的に欠けている。こういう状況に直面した時程、私は途端に弱くなる。
ああ、どうしてこういう時にマスターやマシュがいないのか。
「……おね、ちゃ……誰?」
「おねっ――!? いや、そもそも、名前を名乗る前に、まずは貴様から名乗るのが礼儀ではないのかにゃ!?」
口調がそろそろ臨界点に達しようとしている。マズい。
「私? ……私……誰、だろ?」
「――は、はい!?」
長尾景虎、記憶喪失の少女を拾う。
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「ふーむ、成程ねぇ。酒を飲み明かして食堂を飛び出したら、その記憶喪失少女を拾った、と。中々面白い話じゃないか、絵になる」
「どこがですか!? 斬られたいんですか!?」
「景虎ちゃん、ちょっと落ち着いて……」
「そ、そうですね……」
結局あの後、どうしようもできなかったので彼女ごと管制室へと足を運んでしまった。いや、最初は私の部屋にいろって言ったのだが、見ず知らずの場所に不安がってしまったのか、どうも最初に出会った私の傍を離れようとはしない。ひな鳥か?
管制室には当然のように、マスターとマシュ、そしてダ・ヴィンチちゃんとロマニの医師がいた。私を見るなり、彼/彼女らの視線はすぐに私の下にいる少女の方に向けられた。私に対する興味は無しか~?
「突然現れた少女、ね。名前も分からない、と」
「特異点の影響かしら? ――にしてもこの子、どことなく違和感を感じるわね」
「違和感、ですか?」
「――私達と同じような気質を感じる、と言えば?」
「サーヴァント!?」
きっとこの天才は、この娘の中に僅かな霊核があると感じ取ったのだろう。出会った時は酒で感覚が鈍っていたのもあって気づかなかったが、酒が少し引いてきた今なら確かに分かる。この娘、確かに異常ではない。
後なんか記憶の片隅にチラチラと既視感が見えかくれする。ダメだ、思い出せない。何でこういう時に記憶喪失なんてものになってんだこの娘は。
「きっと、カルデアにやってきたショックで記憶を失ってしまったのかもね。どうする? 暫くここに置いておこうと思うのだが」
「ま、それしか方法はないからねぇ。藤丸くんとマシュも、異論はないよね」
「はい」と二人は言う。
「私の意見は言ってないんですけど!?」
しれっと私をカウントしなかったなこの天才!
「なんだい? 不満だったかい?」
「ふ、不満じゃないですけど……誰が世話見るって言うんですか!? いや、サーヴァントなら世話何て不要なのかもしれませ――」
「勿論君にやってもらうつもりだけど」
「はにゃ!?」
面を喰らって思わず吹き出してしまう。
この人は馬鹿なのか? 天才と馬鹿は紙一重って言いますけど、ここまでとは思いもしませんでした。頭がおかしいですね!?
「何を言っているんですか! 私よりマスターとかマシュとかの方が適任ではないですか~!?」
「だってその子、君から離れようとしないじゃないか。随分お懐かれのようで」
「余計なお世話です! ほら、貴方も離れなさい……!」
「……」
何だこの娘! 掴む力が異常じゃない!? 8種の業物を扱う私で力で負けてる!? サーヴァントとは言え、東風の人間と思われる奴に、何で負けてるの!?
待って待って!? 本当にこの娘何者!? 真名が気になりすぎて夜も眠れないんですけど!?
「うんうん。相談する意味もないねぇ」
「景虎ちゃん。暫くの間、よろしく頼むよ」
「……は、はぁ~~……???」
長尾景虎、この時をもってお姉ちゃんと化しました。