ちょっとこの回は難しかった…
まあなんとか仕上げたので、どぞ。
「FNC…そうか、君は…」
「はい…僕は…戦えなかった…」
ネズハの悲痛な声が、静かなタランの村に響き渡る。
「…とりあえず、立ち話もあれだ。…適当な家にでも入ろうぜ。」
俺は三人をそう促し、近くの誰も住んでいない民家へと足を進めた。
「それで…キリト君、FNCってのは…」
「ああ…正式名が、Fulldive Non Conformation…日本語に訳すとフルダイブ不適合…つまり、フルダイブシステムを使う際に何かしらの障害がある、ってことだ。場合によっては、ダイブすら出来ないこともあるらしい。でも、君は…」
「…ええ、僕はそこまで思いものじゃなかったんです。視覚の、遠近感が無いっていう症状で…普通のRPGだったらあまり支障はなかったんですけど、剣オンリーのSAOだと…」
…魔法が存在しないSAOでは、すべてのプレイヤーが剣や斧などの近接武器を用いることになる。
近接武器を使うときの第一歩は、己の獲物の間合いを知ること。通常に視界が働けばなんてことないが、遠近感が働かなければ武器がどこまで伸びているかわからない。
つまり、遠近感が無いということは、この世界で闘うことが出来ないということ。
「ああ…それで、君は鍛冶屋に…」
「はい…戦えなくとも、サポートで役に立てば、と思って…」
「…じゃあ、なんでそれが強化詐欺に?発案者は誰?あなた?それともオルランド?」
神速フェンサーの本領発揮と言わんばかりに、いきなり本題に入り込んだアスナ。
「…僕は、実際のところは最初の一ヶ月ぐらいは、戦闘職を目指してたんです。この世界には、遠距離から攻撃できるスキルが一つだけありますから…」
どこか的外れとも思える答えに、キリトが返した。
「…なるほど、《投剣》スキルか。でも、あれは…」
「ええ…はじまりの街で一番安い投げナイフを買って練習してみたんですが、残弾が尽きると何も出来ないし、かと言ってフィールドの石とかだとまともにダメージは入らないしで、とてもメインで使えるスキルじゃなかったんです。」
「そうか…それで君は鍛冶屋に転職した…」
「…はい。熟練度が50になるとこまで頑張ったんですけど、だめだって思って…でも、、その熟練度上げにブレイブスの5人を付き合わせてたので、攻略に出遅れちゃって…僕が鍛冶師に転職するっていう会議の時は、とても険悪な雰囲気でした。もう誰かが、こいつを街においていこうって言うのを待ってる空気で…」
「そうだったのか…でも、君は鍛冶屋になった。鍛冶師の熟練度上げには、結構な額の金がかかると思うんだが…ギルドで出すってなったのか?」
俺の問いの、ネズハはなんと言うか迷うような素振りを見せた後言った。
「はい…ただ、そのきっかけが……僕達が話している時、会場だった酒場の隅でじっとしてたずっとNPCだと思ってた人が近づいてきて言ったんです。『そいつが武器スキル持ちの鍛冶屋になるなら、すげぇクールな稼ぎ方があるぜ?』って…」
「「「…!?」」」
その言葉に、全員が驚愕した。まさか、強化詐欺の発案者がブレイブス以外の人物だとは思わなかったからだ。
「だ、誰だ、そいつ!?」
「わかりません…格好は、雨合羽みたいなエナメル質のフード付きマントを羽織ってました。」
「「「雨合羽…」」」
このアインクラッドで雨合羽をかぶる理由は多数あれど、その状況だとどう考えても、顔を隠すことに利用したとしか思えない。
キリトの隣に座るアスナも、さっきはあったかいからとか言っていたが、ホントは顔を…
…鋭い視線が飛んできたので、この想像はやめにしよう。
「…その男、マージン…つまり、アイデア料の受け渡しはどう指定したんだ?」
なるほど、と俺は脳内で呟いた。もし手渡しなら、その時に男の素顔を拝めるかもしれない。
だが、その可能性は砕かれた。
「…いえ、そういうことは何も…」
「な…何もって、どういうことだ!?」
「…その人は、強化詐欺の方法だけ説明したあと、グッドラックとだけ言って去っていったんです。」
「な…無償で提供したのか?詐欺の方法を?」
「…ええ……正確には、もう少しだけ話していきました。最初はブレイブスのみんなも否定的で、そんなの詐欺じゃないか、って言ったんです。そしたら…彼、映画みたいに綺麗な笑い方で言ったんです。『ここはネトゲの中だぜ?やっちゃいけないことはシステム的に定められてる。じゃあ、出来ることは何でもしていいってことだろ?』って…」
「そ…そんなの、詭弁だわ!」
ネズハが口を閉じるか閉じ終えないかといったところで、アスナが叫んだ。
「そんなのが許されるなら、
言葉は、そこで急に途切れた。
まるで、続きを言えば現実になる、と恐れるように。
キリトはアスナの腕に指を伸ばすと、軽く触れた。
その瞬間、アスナの緊張が溶け、フッと力が抜けた。
「…でも、…すみません、名前なんですか…?」
「あ、キリトだ。」
「は、はい…それで…キリトさん、僕が言うのもあれですけど、よく詐欺のトリックを見破りましたね?僕も、ブレイブスの皆も思いつかなかったのに…」
「ああ…詐欺の存在に感づいたのはあの時…君からウインドフルーレを回収したときかな。所有権リセットのタイムリミットが近かったから、アスナの宿屋に凸って全アイテムオブジェクト化のコマンドを使わせたら防具とかしt…ウッ!?」
…ん…?(困惑)
アスナさん何殴ってるんです…?
「…たら、レイピアが戻ってきたからさ。具体的な手口にたどり着いたのは数日前だよ。決めては君の名前だった…
ナタク。」
その言葉を聞いたネズハ───いや、
「…まさか、そんなことにまで気づかれるなんて…」
「いや、これに関してはアル…情報屋に頼っちゃったけどさ。オルランドたちもネズオって呼んでたらしいし、彼らも知らないんだろ?ネズハ…いや、ナタクのキャラネームの由来を。」
「ネズハで良いですよ。…………ええ、そのとおりです…。」
「僕達レジェンド・ブレイブスは、もともとナーヴギア用のロープライスゲームで組んでたチームなんです。路地の前から押し寄せる敵を剣とか槍とかで倒すだけの、すごいシンプルなゲームだったんですけど、FNC判定の僕が居るせいで、ゲーム内のランキングは中々上がらなかった…でも、チームを解散はしませんでした。そのゲームが好きだったからじゃない。数カ月後には、世界初のVRMMO…
「そうか…でも君は…」
「ええ…SAOがデスゲームになって、僕の存在は大きなハンデになりました…命がかかった戦場で、まともに戦えないんですから…」
「…そこに漬け込んで、あの男は君に詐欺を…」
「…許せない…!」
ここに居る三人、全員が同じ思いだっただろう。
「…きみは、これからどうしたいんだ…?」
「…本当は、搾取した剣をお返しして、罪を償いたかった…でも、もう無理です。剣は全部コルに変えてしまいましたし、オルさんたちのところにも…僕にはもう、これしか…!」
そういって、ネズハは額をテーブルに激しく打ち付ける。だが、紫色のシステムエフェクトがそれを許さない。
今彼は、どうすれば良いのかわからないのだろう。自殺を俺達に否定され、もう仲間の元にも戻れない。一番現実的な案である、他のプレイヤーに罪を打ち明け、謝罪するということぐらいだが、開放のために攻略を続けるプレイヤーが、彼を許すとは断言できない。
本当に現実的なのは、はじまりの街に転移門で戻り、隠居することぐらいか……攻略で償えればよかったが、今彼が使える唯一の戦闘スキルである投剣スキルは、メインでは到底使えない補助スキルで…と、そこまで考えた時。
俺は、一つのことを思い出した。
俺が今回、ネズハから剣を強制的に回収したのには、完全オブジェクト化のコマンドを使ったわけじゃない。
彼のトリックと同じクイックチェンジで、前に装備していたアイテムを選択して装備する、とオプションで設定し、回収に挑んだのだ。
そのクイックチェンジを取得するために、俺は2日ほど迷宮区に籠もり、必死に熟練度をあげていたのだが、その過程で色々なものを得た。
マップデータも手に入ったし、もちろん経験値も手に入った。
その中で最も特筆すべきは、とあるレアアイテムが手に入ったことだ。
その武器はレアでこそあるものの、使い勝手の悪さや必要スキルの複雑さからあまり高値はつかず、しかし自身で使うのも躊躇われる変則的な趣味武器。
俺はネズハに向き直ると、一呼吸入れてから言った。
「…ネズハ、君のレベルは10だって聞いた。ってことは、スキルスロットはまだ3つだよな。取ってるのは…」
「ええと…片手武器作成と、所持容量拡張、それから…投剣…。」
「そうか……ネズハ、君にも扱える武器がある、って聞いたら、片手武器作成を…鍛冶スキルを捨てる覚悟はあるか?」
◆◆◆◆
12月14日、アインクラッド第二層迷宮区第10階層。
この地に、現時点で最高の戦力を持つ46人が集まっていた。
「…彼、結局間に合わなかったわね。」
「ああ…あいつの行ったクエ、キリトでも3日かかったんだぜ。もっとレベルが低いネズハには、3日でクリアはきつすぎるよ。」
「それを1日でクリアした人がなんか言ってるよ…」
俺があの時ネズハに提示したのは、あるクエストを受けさせてくれるNPCの居所だ。
そのNPCとはもちろん、ヒゲ師匠こと体術スキルの師匠である。
俺が彼に手渡した一つのアイテム、それはある特殊な武器であり、扱うには彼が持つ投剣スキルの他にもう一つ、体術スキルが必要となる。
俺達は、彼にその武器とクエストNPCの居場所を贈与する条件として、鍛冶スキルの削除を求めた。
なぜなら以前にも言ったとおり、現状のSAOで戦闘職と生産職の両立は危険すぎるからだ。
もし戦闘職に進むなら、習得スキルやストレージの中身に至るまで、すべてを戦闘に割り振らなければならない。
ポーションの一本やスキル熟練度たった1ポイントの差で、生死を分けることがある。
その環境にネズハを置くため、鍛冶スキルの削除を求めたのだ。
彼はその条件を聞いた後、一瞬だけ目をつぶるとすぐに目を開け、
『この世界で剣士になれるなら、他に何もいりません」
そう言ったあと、少し笑って、
『でも、この武器だと剣士だと言えないかもですね。』
といった。
それに対して、
『この世界でクリアに向けて戦う人は誰しも剣士だわ。きっと、生産職でも。」
といったのは、以外にもアスナだった。
「…この層の攻略が終われば、きっと攻略に参加してくれるさ。あの武器、使いこなせればけっこう強いし。」
「…そうね……ブレイブスの5人は、どうするのかしら。」
そう言ったアスナの視線には、どこか苛立ったように見える5人組のプレイヤー集団───レジェンド・ブレイブス。
「…やっぱり、ネズハと連絡が取れてないんだろうな…まあ、擁護はしないけど」
「ああ。…アイツらは、あんな危険な事をネズハ一人にやらせてたんだ。こうなってもしょうがないとしか言いようがないよ。」
「…ええ。…それで…キリト君、ラルト君。」
「「ん?どうした?」」
「…前より、パーティーの数が減ってない?」
「…確かに…」
「ブレイブスが増えたから、むしろ増えてて然るべきなんだけどな…」
「ええ…あとで、ディアベルさんにでも聞いてみましょうか。」
「ああ。…っと、始まるみたいだぜ」
そう言った俺の先には、全員の前に立つ一人
「みんな、改めて自己紹介させてもらう。今回、レイドリーダーを務めるディアベルだ!今回もよろしく頼む!」
周囲から、口々に騒ぎ立てる声が聞こえる。
「ここで、今回のレイドパーティーの編成を伝えさせてもらう!俺が率いるA隊、リンドさんが率いるB隊、キバオウさんが率いるC隊、レイスさんが率いるD隊、そして北海いくらさんが率いるE隊が、ボスへの攻撃を担当する!そして、エギルさん率いるF隊、今回から参加してくれるオルランドさん率いる《レジェンド・ブレイブス》さんのG隊が取り巻きのナト大佐を、そしてラルト君、キリト君、アスナさんのH隊が、遊撃部隊としてボス戦を行う!!」
それを聞いた俺は、まあそうだろうな、といった感想を抱いた。まあ、前にディアベルから聞いていたからね、俺のH隊の役目は。
…だが、どこにも異を唱える者は居るらしい。
「ちょっと待った」
異を唱えたのは───英雄たちの長、オルランド。
「我々は、ボスと戦うためにここに居るんだ。ローテーションならまだしも、最後まで取り巻きの相手だけしていろというのは納得できない。」
その声に至るところから、なんだあいつ、新参のくせに、といった声が低くざわめくが、逆に異を唱える者はいない。
皆感じているのだ。彼らの装備が放つ、一種のオーラを。
強化値がある程度まで上がった装備は、ひと目見て業物と思える光沢を放つようになる。
一般のプレイヤーが現段階でそこまで強化できるのは主武装、良くて盾だが、ブレイブスの面々はその限りでない。
彼らはこの1週間で莫大な額のコルを稼いだはずであり、その収入をすべて武器強化に費やした。
その結果、武器についてならこの場にいる誰もを上回るスペックを誇るはずだ。
彼らがボスを担当しようとした理由は至極単純、経験値と熟練度ブースト目当てだろう。
武装の強化値こそ高いが、レベルでは攻略集団より劣る彼らは、ここでレベルでも追いつこうという算段なのだろう。
「…わかった、レジェンド・ブレイブスの5人にも、ボスを担当してもらう。」
俺が物思いに耽るうちに、ディアベルが対応を済ませていた。
「…ただ、そうなるとナト大佐を担当するのが1パーティーになってしまうが…」
「なら俺達が行くよ。三人でもいないよりはマシだろ。」
俺達は、そう提案した。
「…ああ、そうしてもらおう。ということで、今回はその編成で行かせてもらう!ナト大佐を担当する7人は、倒し次第ボスに合流してくれ!」
「おう」「了解」
俺とエギルが答え、各々のパーティーメンバーもうなずく。
その様子を見たディアベルもうなずき、ボス部屋へと向き直った。
彼は一呼吸入れると、ドアに手をかけ。
「…みんな…行くぞ!」
「「「「ウオーーーーーーーーーー!」」」」
彼らの掛け声に押されるように、巨大な門は開いた。
◆◆◆◆
「ハンマーくるぞ、回避!」
キリトの声に、おう、了解との声が響く。
巨大なハンマーを持つのは、青肌の
奴の持つハンマーには電流が走り、スパークを散らす。
「ブルモォォォォォォ!」
奴は電流が迸るハンマーを、雄叫びとともに地面に振り下ろした。
地面には衝撃が走り、打撃面を中心に電流が地面を駆け抜ける。
これがトーラス族の固有ソードスキル、《ナミング・インパクト》。ナミングとは──────『麻痺する』。
ハンマーによる打撃と、発生した稲妻を回避した俺達に、キリトが再び
「ソードスキル一本!」
この指示に従って、俺、アスナ、エギル軍団の4人、そしてキリト自身が技後硬直に陥ったトーラス───アインクラッド第二層迷宮区最上階に潜むモンスター、《ナト・ザ・カーネルトーラス》に向かって、ソードスキルを放つ。
ここまで、重症を負った者はおらず、ナミング・インパクトの
……だが、俺達が順調でも、さして意味はない。
なぜならこのMOB、通称ナト大佐は……
「────回避!回避────ッ!」
……彼らが戦っている、《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》の取り巻きでしかないからだ。
俺は横目で壁際を見ると、複数人のプレイヤーが身体を緑色のライトエフェクトに包まれ、膝をついていた。
彼らに課せられたデバフは麻痺、現実のものと同じく身体が動かなくなるデバフだ。
トーラス族のナミング・インパクトは、一撃喰らっただけで麻痺に陥るわけではない。最初は麻痺の一段階下であるスタンが課せられる。
そのスタンも3秒程度で回復するが、これを使えば治るという特攻アイテムは存在しない。
つまり、その3秒間は何も身動きが取れず、完全に硬直してしまう。
そして、その状況で続けてソードスキルを食らうと、完全に麻痺してしまう。
キリトたちも気づいたのだろう、ボスの方向を向くと、俺にささやきかけた。
「向こうはジリ貧っぽいな…」
「ああ、でもディアベルの指示で回復と戦闘のバランスも取れてる。」
「ああ…」
俺の返事が曖昧になったのは、俺がこの後に起きる事態を断片的に知っているから。
断片的に、と言ったのは、少々複雑な事情がある。
俺は、この後に起きる状況は知っている。
…だが、その原因が思い出せない。
俺の原作知識は、俺自身が前世でSAOにそこそこ触れた程度の知識しかないため、肝心なところがわからないところがままある。
なぜ……なぜ、この後に攻略組がピンチに陥るのか。
「……っ」
今はそんな事を考えている場合じゃない。目の前の敵に全力で挑む、それが俺に出来る最善だ。
「大丈夫か、ラルト?」
「ああ、大丈夫。…ひとまず、俺達は早めにナトを倒そう。」
「ああ。そろそろ倒しきれそうだけど…」
俺達がそこまで話し終えた時。
「ウォォォォ!」
ボスの方向から、大きな雄叫びが響いた。
何事かと思ってそちらに目線を向ければ、空中に浮かぶボスのHPゲージの最後の一本が半分まで削れていた。
それで叫んだのか、と安心したのもつかの間────
─────部屋の中央が、急に揺らいだ。
「…嘘だろ…」「…う…」
俺とキリトは、声にならない声を上げた。あのエフェクトは…………何か
その予測に違わず、荒削りなポリゴンが出現する。
ポリゴンに色が付き、デティールが整って────
俺達が重量を感じると同時に、俺達の頭上に6段HPバーと、一つの文字列が浮かび上がった。
《アステリオス・ザ・トーラスキング》。
───真の、この層の
今回ほんとに書けなかった…
ちょっとスランプ気味でした。
とりあえず、次回予告どぞ。
次回、セイバーアート・オンライン。
「やべぇ…!」
「ボスの目が光るんダ」
「世界の希望は、僕が守る!」
第11節 復活の狼煙、真の英雄。
オリジナルのブック組み合わせを出そうと思ってます。基本は赤いブックとの組み合わせです。
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ヘンゼルナッツとグレーテル
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猿飛忍者伝
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昆虫大百科
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天空のペガサス
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