もう一個更新してる方が週一投稿してて、ちょっとこっちほったらかしてましたすいません…
いや書いてた、書いてたんですよ!
…あの…その…テストで…やらかしました…
ってことで、二層攻略編ラスト、どうぞ。
「コングラチュレーション」
着地した俺たちが最初に聞いたのは、エギルの流暢な英語でのねぎらいの声だった。
俺たちがそちらを向けば、視界にはサムズアップをするエギルの姿が。
俺とキリトもそれに釣られてサムズアップで返し、アスナもサムズアップこそしなかったものの、その表情はどこか晴れやかで。
「見事な剣技とコンビネーションだったな。───だが、今回のMVPは間違いなくアイツだな…」
「ああ、アイツが来なかったら、少なくとも10人ぐらいは死んでたかもな…」
俺たちが言うアイツとは、もちろんあの輪状の刃を握った少年────ネズハ。
もし彼が参戦せずに、ボスの雷ブレスを潰すことが出来なければ、ブレスによって麻痺、そしてそのまま死亡という道をたどる者が少なくなかっただろう。
その当人たる彼は、未だ残るボスのポリゴン片を眩しそうに見つめている。
ボス部屋の中央では攻略組本隊が歓声を上げ、誰もが勝利の余韻に浸っていた。
俺たちがネズハに駆け寄ると、ネズハもそれに気づき、俺たちに声をかけてきた。
「お疲れさまでした、キリトさん、アスナさん、ラルトさん、リントさん。最後の連携技、すごかったです。」
「いやー…それを言うなら君もだろ。手に入れたばっかの武器を、あんな自在に動かすなんて…」
実際、俺たちがあのダブルライダーキックと二重の斬撃を決めることが出来たのは、彼がアステリオスの行動をチャクラムで正確に潰していたからだ。
「いえ、大変なんて思いませんでした。だって、僕はやっと、なりたいものになれたんですから。本当に、ありがとうございました……これで、もう…」
ネズハはそこで言葉を切ると、そのまま中央を見つめた。
そこでは、攻略組の本隊が互いの勇姿を称え合い、レジェンド・ブレイブスの5人も、互いに健闘を称え合っている。
俺たちも釣られてそこを見た後、ネズハが息を詰めたのに気づいた。
視線を変えたネズハが見た方向を見ると、そこには攻略組本隊から歩いてきた三人のメンバーがいた。
今回の勝利の立役者であるネズハを労いに来たのかと思ってから、彼らの顔が異常に険しいことに気づく。
彼らをどこかで見たことがあると思い、記憶を探ると、その答えはすぐに出てきた。
腰に幅広剣を吊った男を中心とした彼ら三人組は、鍛冶屋時代のネズハに強化を依頼した者……つまり、ネズハの強化詐欺にあった者。
そんな彼らと、詐欺の当事者たるネズハが出会うことに一縷の恐れを感じながら、俺は行く末を見守った。
「…あんた、ちょっと前までウルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな。」
ネズハの前まで歩いてきた中央の人物…シヴァタの問いに、ネズハは頷いた。
「…はい。」
「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?それにそんなレア武器まで…それドロップオンリーだろ?鍛冶屋でそんなに稼げたのか?」
─────不味い。この状況は非常に不味い。
シヴァタは、俺達のように根拠を掴めていないとしても、ネズハの行為のどこかに不正があったのではないかと疑っている。
実際のところ、彼が言ったレア武器であるチャクラムはたしかにレアではあるものの、現在では趣味スキルとなってしまった《投剣》と、習得するのにあのクエストをクリアする必要がある《体術》の両方のスキルが必要とあって、高値がつくわけではない。だが、それを聞いたところでシヴァタの疑心は消えないだろう。
気がつけば、勝利後の興奮の中にあったレイドメンバーも、そして詐欺の裏の首謀者であったレジェンド・ブレイブスの面々も沈黙し、事の行く末を見守っている。
殆どのメンバーは戸惑っているだけだが、その中でも5人───レジェンド・ブレイブスの5人の顔が、以上に強張っていることだけは、この距離でもわかる。
この場で、チャクラムの出処をハッキリさせることは実に容易い。この場で、俺が発言すればいいだけなのだ。
──だが、それが本当に良いことなのだろうか。経緯が何であれ、ネズハがクイックチェンジを使ったトリックでシヴァタが育て上げた愛剣、スタウドブラウドを搾取したのは事実なのだ。──そして、シヴァタからすれば、目の前で愛剣を叩き割られたことも。
シヴァタはあの時、大した糾弾もせずに、自身を自制した後に立ち去っていった。その怒りを、再び呼び覚ますことに意味はあるのか。
俺がそのような思考に囚われている時、その当事者たるネズハが動いた。
彼はチャクラムを置くと、両手を左右に広げて地に付けると同時に跪き、そのまま頭を垂らし───
「…僕が、シヴァタさんと、そちらのお二人の剣を、エンド品とすり替えて、騙し取りました。」
…彼は、己の行為を吐露した。
ボス戦の時よりも重たい空気が、身を包んだ。
この世界で俺達に与えられたアバターは、驚くほどの精細さで現実の肉体を再現できているが、感情表現についてはやや誇張気味だ。嬉しければくっきりと笑みが浮かび、怒ればはっきりと血管が浮かび上がる。悲しくなれば簡単に涙が出てくるらしい。
それであるからこそ、ネズハの告白を聞いても尚、眉間にシワを浮かべただけのシヴァタの精神力は大したものと言わざるを得ないだろう。彼の隣に立つ二人はすでに爆発寸前といった様子だが、それでも堪えているのは流石といったところだろう。
俺はどうすればいいか分からないまま、キリトとアスナ、リントを見た。
彼らもどうすれば良いかと分からないという様子で顔面蒼白となっていた。俺の方も変わらないだろう。リントは事情を知らないものの、肌で状況を感じたのか、その顔は見たことない程にまで青ざめたものになっている。
この沈黙を破ったのは、シヴァタの枯れた声だった。
「…奪った剣は、まだ持っているのか…」
その問いに、ネズハは頭を下げたまま、首を左右に振った。
「いえ…もう全て、お金に変えてしまいました…」
シヴァタもその答えを予期していたのだろう、その声が聞こえた瞬間に目を一度つぶっただけで、短く「そうか」と答えると、
「なら、金での弁償なら出来るか?」
と聞いた。
出来るできないの話なら……出来なくはない。
だまし取った金の行く末である強装備、それらを纏う彼らブレイブスが強化詐欺を始めてから、まだ10日程度しか立っていない。アイテムの相場もまだ変わっていないはずなので、彼らの装備を売却さえすれば、搾取した剣分のコルは帰ってくるはずだ。
…だが、それを実行可能かどうかという話になると、急に可能性は低くなる。
彼らは今さっき行われたボス戦で、その装備を使って大いな注目を浴び、多大な存在感を示したのだ、そんな彼らが、その力の根源たる装備を手放すだろうか?そんな状況で、ネズハはどうするつもりなのか───
「いえ…それも無理です…ほとんど全部…高いレストランや宿屋に使っちゃいましたから…」
それを聞いて、俺達は完全に気づいた。
彼は───ネズハは、この場を切り抜ける気などないのだ。
自らを危険な立場に押し込め、今尚何もしようとしない、かつての仲間たちをかばうつもりなのだ。
───たとえ自分が、どんな事になっても。
ネズハの言葉に、とうとうシヴァタの隣に立つ一人が限界を迎えた。
「お前………お前、お前ェェェェェェェェッ!」
握った拳を振りかざし、ブーツで幾度も床を踏みつける。
「お前!何やったかわかってんのか!?俺が…俺達が、必死になって育てた剣壊されて、どんだけ苦しい思いしたか!!…なのに…なのに!俺達の剣を売った金で、美味いもん食っただぁ!?高い部屋に寝泊まりしただぁ!?ふざけんじゃねえぞ!?挙げ句に、その金でレア武器買って、ボス戦に割り込んでヒーロー気取りかよ!?ふざけんじゃねえぞ!?」
それに触発されたかのように、その反対側に立っていたメンバーも、
「俺だって…俺だって、剣が砕けて、もうダメだって思って…でも、仲間がカンパしてくれて、素材集めも手伝ってくれて…お前は詐欺をした相手だけじゃない、この世界で戦ってるプレイヤー全員を裏切ったんだ!」
その二人の言葉が、とうとう全体を動かし──────
全員の声が、この部屋に広がった。
裏切り者、何したかわかってるのか、お前のせいで……彼に向けられたあらゆる罵詈雑言が、俺の聴覚野にまで響く。
その言葉の濁流に晒されたネズハの身体が、耐えかねたように縮こまる。
この状況になってしまえば、この惨劇を止められる者は誰ひとり居ない。
この状況を何とかする方法と言って思いつくのは、ネズハが今までの行いと等価の償いをすること…
──俺は、その結論に至ると、ネズハの先程の発言を思い出した。
『これで…もう…』
……思い残すことはありません。
彼は、もしやそう言おうとしたのではないだろうか。
「ネズハ…君は…まさか…」
同じ結論に至ったと思われるキリトが、絞り出すように呟いた。
…この時になって、この状況を解決出来る可能性を持つ者が前へ出た。即ち、この
彼はネズハの前に進み出ると、彼に問うた。
「君の名前は…ネズハ、でいいのかな。……ネズハ、君のしたことは許されることではない。だが、オレンジカーソルになるシステム上の《犯罪》と違って、グリーンカーソルのままの君の罪は、どんなクエストで雪げない。だから……別の方法で償ってもらうことになる。」
その言葉に、俺は息を呑んだ。
まさか……いやそんなことは…
俺たちの視線を集めたディアベルは、一度口を閉じ、そして開き──
「君が奪ったのは剣だけじゃない、彼らが剣に費やした、長い…本当に長い時間もだ。だから…」
その言葉を聞いて、俺はホッとした。きっと、ディアベルはネズハに、今後のゲーム攻略での貢献と、収入からの弁済を要求するつもりだろう。
……だが、彼がその言葉を言う前に…
「違う!そいつが奪ったのは時間だけじゃない!」
攻略集団の中から飛び出てきたプレイヤーが一声甲高い声で叫び、ディアベルの言葉を遮ると……
「オレ…オレ知ってる!そいつに武器を騙し取られたプレイヤーは他にもいるんだ!そんで、そのうちの一人が、店売りの安いので狩りに出て、今までは倒せてたMobに殺されちまったんだ!」
今までのどんな、どんな空気よりも重たい空気が、この世界を包んだ。
それから数秒後、この空気を打ち破ったのは、シヴァタの隣に立つプレイヤーだった。
「し…死人が出たんなら、こいつもう詐欺師じゃねえだろ………ピ……ピッ…」
彼が言えなかった最後の言葉を、あの飛び出たプレイヤーが引き継いだ。
「そうだ!こいつは人殺しだ!PKなんだ!」
…まさか、この世界でPKという言葉を聞くことになるとは。
PKとは、サイコキネシスでも、ましてやペナルティキックでもない。
PKとは日本語でプレイヤーキルまたはプレイヤーキラー、即ちこの世界において…殺人行為、または殺人者のことを指す。
…このSAOは、近年のMMOとしては珍しくPKが可能となっている。街区圏内こそ犯罪防止コードの効力で不可能になっているが、一歩でも圏外に踏み出せばそのコードの加護は得られない。自身を守るのは、己のスキル、装備、そして仲間だけ。
ベータテストでこそ、最前線でのいざこざを剣の立会で解決する場合もあった。だが、それも双方の合意によるデュエルで、それをPKというわけではない。
PKとは、合意などお構いなしにプレイヤーを倒すことそのものを目的とするプレイヤーのことを指すのだ。…いわば、快楽殺人者。
だが、この世界において快楽殺人者など現れるはずがない。なぜなら、この世界でプレイヤーを殺すことは、攻略に当たる人数が減る、つまりこの世界からの脱出が遠のくからだ。
だから…この世界で、PKなどという忌々しい単語を聞くはずはなかったのだ。
……それが、こんな形で聞くことになろうとは。
先程飛び出た、痩せたダガー使いはネズハに指を突きつけ、尚叫んだ。
「土下座くれーで、PKが許されるわけねーぜ!お前の罪は、どうやったって消えねーんだ!どんだけ謝ったって、どんだけ金積んだって、死んだ奴はもう帰ってこねーんだ!おい!どうやって責任取るんだよ!言ってみろよぉ!」
爪で引っかかれたような音で俺達の耳が刺激される中、俺は奴の容姿をどこかで見たような感覚に囚われていた。
「…!アイツ確か…」
俺は思い出した。アイツは、一層ボス戦の後、俺やキリトらベータテスター断罪の空気が消えたことに不満な態度を醸し出していた…ジョー。
俺は嫌な予感がした。それもメギド戦以上の。
もし万が一アイツの思うがまま担ってしまえば、ネズハは間違いなく殺される。
アイツがなぜあんな発言をしているかは知らないが、少なくともその死んだというプレイヤーを弔う気はないだろう。
だが……奴からは途轍もないほどの悪意を感じる。
相対したことはないが、きっとネズハに強化詐欺を指導した男以上の……
……違う。
俺は最悪の結論に達した。
よく思い返せ、アイツはこんな詐欺を伝授した後に、すぐに姿を消した。何の報酬も求めず、幸運だけを祈って。
…だが、あのグッドラックもある意味皮肉だったのかもしれない。
このような詐欺がバレれば、この事態になることは容易に想定できたはずだ。それは、レジェンド・ブレイブスの面々にとっても。
つまり、あのポンチョ男の目的は、ブレイブスの支援ではなく。
詐欺行為という明確な悪事に手を染めさせ、その人物をプレイヤーの総意によって…殺害すること。
もし、もしこの想像が正しければ、いまこの状況を握り、ネズハを処刑する方向へと動かそうとしているジョーもまた、黒ポンチョ男の…
キリトも同じ結論に至ったのか、その表情に険しさが宿る。
何か…何か、この状況を終わらせる方法はないか…
俺達が何かアクションを行う前に、ネズハが小さく、だがはっきりとした声で言った。
「みなさんの、どんな処罰にも従います。」
それを聞いた俺達は、何の策もなく『待った!』と叫ぼうとした。
だが、またしてもそれより早く…
「なら、責任取れよ」
シヴァタの声が響いた。
その声自体は、大した意味もない短い単語だった。
……だが、この状況においては、これほどの力を持つ言葉はなかった。
「そうだ!クソ鍛冶屋!」
「死んで詫びろ!」
「このサイテー野郎が!」
「殺せ!PK鍛冶野郎を殺せ!」
口々に喚くプレイヤーたちの怒りには、ネズハに対するものだけでは無いように思えた。彼らの怒りの奥底にあるのは、このソードアート・オンラインというデスゲームそのものへの怒り。それが、強化詐欺師という明確な悪人の存在を持って、それが表面化したように思えた。
だが、この状況を放置するわけには行かない、ネズハに攻略で罪を償うように進言したのは俺達だ。この惨劇を止める責任が、俺達にはある。
とどまりを知らない罵声の中動きを見せたのは重装備の五人だった。
すなわち……レジェンド・ブレイブス。
その鎧から発生する重いサウンドエフェクトを響かせながら、広間の中央でうずくまるネズハの元へと歩く。
そのただならぬ気配を感じたのだろう、そこに立っていたディアベルやシヴァタが場所を譲る。
がしゃ、がしゃと続いていた足音が止まった。
それと同期して、オルランドたちブレイブスもネズハの元へとたどり着いた。
そして彼は、右のガントレットに包まれた手を左腰へ動かし────腰に収められた、アニールブレードを引き抜いた。
俺達はこの先に待ち受ける光景を思い浮かべた。オルランドは腕を振り上げ、そのまま真下の少年へと───
「オルランド…」
キリトが思わず呟いた。
俺達は、右足に重心を傾けた。……オルランドが剣を振り下ろしたときには、ダッシュが開始できるように。
俺とキリトは、右後ろでアスナも同様の操作を始めたの感じ、そちらに囁きかけた。
「アスナ、君は動くな」
「嫌。」
キリトが言った途端、きっぱりした一言が返ってきた。
「今回ばかりはキリトに賛成だ、この場で割り込んだら攻略集団にはもう居られないぞ、最悪、俺達も犯罪者扱いで転落だ。」
「それでも嫌よ、私は…私でいるために始まりの街を出たの。自分を曲げてまでここに残るなら…自分の意思を貫くわ。」
「…覚悟が出来てるなら…いいさ。」
俺達は一瞬苦笑してから頷き、再度コロシアムの中央を見ると、そこに広がっていた怒声は嘘のように消え、誰もが行く末を見守っていた。
そして………
…………オルランドの口から、あまりにも小さく…しかし、何故か明瞭に聞こえる声が発せられた。
「……ごめんな。………ほんとにごめんな、ネズオ。」
彼は、手に握っていた剣をチャクラムのそばにそっと横たえた。数歩歩いた後、ネズハの隣にまで来ると、頭のバシネットも外し、体の正面に置く。
続いて他の四人もそれぞれの武器と兜を床に置き、そして一列になるとすぐに、地に膝を付けた。
ギルド本隊に向かって深々と頭を下げるレジェンド・ブレイブスの5人……いや、6人に、誰もが唖然とした。
やがて、オルランドの声が……小さくわなないているが、それでいて毅然とした声が、この世界に響いた。
「……ネズオは…ネズハは、俺達の仲間です。ネズハに強化詐欺をやらせていたのは、俺達です…」
◆◆◆◆
「まったく…なんで私達がこんな使いっ走りみたいなことしないといけないのよ」
「しょうがないだろ、おミソ何だから」
「それは前回の話でしょ?あの時は3人だったけど、今回は5人いたじゃない。」
「まあそれも、リントとネズハが来てくれたからだけどな。サンキュー、リント。」
「いえいえ…僕も良かったです、皆さんの役に立てて。」
アスナの愚痴にキリトが肩をすくめながら返し、それに反論したアスナに俺が言っておき、それに反応したリントが感謝を述べる。
「そういえば、結局聞き損ねたわね、人数少なかった理由。」
「あー、たしかに。三層攻略するときにでも聞くか。」
「そうだなー…その時にエギルとも会うだろうし、あれ渡しとくか。」
「あれってどれだよ?まさか毒薬か?」
「え…キリトさん、それは不味いですよ…」
「いやいや渡さねえよリント。ラルトもこいつが真に受けるからやめてくれ。」
「へいへい。…で、結局何渡すんだ?あの牛男から落ちたマイティ・ストラップ?」
「なにそれラルト君?」
「…おお、それもありだな。あれも渡そう。」
「ねえ、だからマイティ・ストラップって何?」
「全自動上裸縛り防具」
「誰が使うのよそれ…」
「で、結局あれなんだろ?いま二層の宿屋に押し付けてるあれ。」
「ご名答。」
俺の言ったあれとは、体術スキル修行に出向くネズハがキリトに渡した、魔法の絨毯ことペンターズ・カーペット。
「エギルなら、将来有望そうな商人候補の知り合いがいそうだろ?そいつに使ってもらえれば、ネズハもきっと喜ぶ。」
「そんなこと言って、エギルさんが商人魂に目覚めちゃったらどうするのよ」
「………その時は、お得意様第一号になるさ」
適当の極みたるキリトの返答にアスナは呆れつつも、ちらっと行く先を見つめる。
俺達が歩き登っているのは、二層迷宮区から三層まで続く、1層攻略のときにもあった螺旋階段だ。設計意図は不明だが、何故か迷宮区タワーの外周をぐるっと一周りする設計なので、その距離は…計算するのも嫌だな。
まあ、そんな距離とはいえ、迷宮区を降りるよりかは早くダンジョンから抜ける事ができる。ついでに、ここにモンスターは湧かない。
俺達に与えられた仕事は至極単純、迷宮区、つまりメッセージ使用不可のダンジョンから脱出して、攻略を今か今かと待っているプレイヤーたちに、ボス攻略成功の第一報を伝えること……
本来、これはギルドリーダーを努めたディアベルの権利だ。だが、その権利を俺達に預けたのには訳がある。彼らは、もう数十分はボス部屋から出られないからだ。
別に閉じ込められたわけではなく、攻略組本隊のレジェンド・ブレイブスに対する処罰を決める話し合いが、未だ終わっていないからだ。
だが、俺達はもう何も心配していない。オルランドたちが罪を告白したことによって、状況の行く末は大きく変わった。以下に攻略組の彼らが怒り狂っていたとしても、一度に6人を処刑するほどヒートアップしていたわけではないし、オルランドたちが名乗り出たことによって、あることが可能となったのだ。即ち、シヴァタたちが騙し取られた剣の賠償だ。
オルランドたちはあの後メニューウィンドウを開くと、兜のみならず全ての重装備を解除した。
それらを全てオブジェクト化し、床へと並べた。それによって、そこに時価いくらになるか想像もできないハイレベル装備の山ができた。
その上で、オルランドは言った。これらのアイテムを換金すれば、詐欺の被害額を上回る額のコルになるはずなので、それで被害にあったプレイヤーに迷惑料を足して賠償する、それでも余るようであれば、今後のボス戦にポーション代として捻出する、と。
被害回復はこれでなんとかなるとして、問題は武器のグレードが下がったせいで死んだというプレイヤーの件だ。
オルランドは、それでも出来ることをするために、そのプレイヤーと仲間に謝罪しに行くといった。
そこで、その情報をもたらしたプレイヤーに名前を確認したのだが………………彼は、口ごもりながら「噂で聞いたから名前は知らない」と応えた。
俺はその時点でぶっ飛ばしたかったのだがなんとか堪え、その死んだプレイヤーは情報屋に調査を依頼することとなった。
そして、残る問題は装備の売却先となったのだが、それはとあるプレイヤーの提案で解決した。
この世界で今一番コルをもち、強化装備を欲しているのは自分ら攻略組なのだから、そこ相手に売買してはどうか、と。
つまり、彼らが残っているのは突発的オークションのためだったのだ。
そして俺達がこの役目を担っているのも、この4人の誰もが皮装備主体で、食指の動くような防具がなかったからだ。
「詐欺の件はどうにかなるとして…ネズハさんたちは、これからどうするのかしら。」
アスナが呟き、キリトがこれに答える。
「彼ら次第だな。ブレイブスが強化詐欺をしてたって噂が、前線に広がるのは止められないだろう。それを避けて…それこそ一層のはじまりの街に戻るか、もう一回真っ当に最前線を目指すか。…別れ際にディアベルに確認したけど、彼らにその気があるんなら、最低限のコルは戻すって言ってたよ。」
「…なら、また共闘する未来も待ってるかもな。」
「…だったら、私達も努力しないとね。彼らが戻ってきた時に、しこりなく一緒に戦えるように。……あ、そういえば」
不意にアスナは声を切ると、こちらに向き直り、
「二層の本当のラスボスだった、アステリオス・ザ・トーラスキングの
「あー…そう言えば俺も出なかったな…」
「僕もですね…そう言うってことは、アスナさんも出なかったんですよね?」
「ええ……ということは…」
俺、アスナ、ラルトの三人は、一斉に黒衣の剣士を見つめた。
「えーっと、その…お、あれ出口じゃないか?急ごうぜ!」
「あっ!」
「ちょっとキリトさん!教えて下さいよ!」
「そうよ!何が出たのよ!」
俺達は小競り合いをしながら、まだ見ぬ三層への道を駆け上っていった。
いやいや、なんとか二層終わりまで行きましたよ。
次回から三層に入るわけですけど、流石に月一投稿は頑張りたいです、はい…
ということで、予告どうぞ。
次回、セイバーアート・オンライン。
「キリト君て、そういう趣味だったの?」
「男のほうが《森エルフ》、女のほうが《黒エルフ》。」
「これ、本当にNPCなんですか?」
第13節 森林の妖精、白黒につき。
オリジナルのブック組み合わせを出そうと思ってます。基本は赤いブックとの組み合わせです。
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ヘンゼルナッツとグレーテル
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猿飛忍者伝
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トライケルベロス
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