セイバーアート・オンライン   作:ニントという人

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年末に私が来た!

…ってわけで、今年最後の投稿です。
今年も赤点取ったりしてたら意外と早かったなー(白目)
まあ前置きも思いつかないので、とりあえず本編どうぞ。


剣士の休息、血濡れた過去。

アスナの顔が一時絶望に染まっては居たものの、一応見てみないことには、ということで、俺たちはとりあえずキズメルの天幕に向かった。

ドア代わりの厚手の布をめくって室内に入ると、そこには想定よりもだいぶ広い空間が広がっていた。キズメルは5人では手狭と言っていたが、5人どころか6、7人居てもまだ余裕が有りそうなほどのスペースがあった。床にはふわふわの毛布が敷き詰められ、雑魚寝だとしても安眠できるだろう。

周りの布はしっかりと外部の音を遮断し、騒音で目を覚ますことも無いはずだ。中央には不思議な色の炎を放つストーブがあり、最適な気温を保っている。

そんな空間に飛び込んだ男子3人衆は、その快適さに耐えることを放棄し、三人揃って毛布にダイブした。そのままウィンドウを開き、ブーツや剣、防具を除装する。

ゴロゴロしながら入り口の方に向き直ると、冷ややかな視線を向けるアスナと目があった。現パーティーの紅一点たる細剣使いは俺たちの横にまで歩くと、一番端に転がっていたキリトの横腹を優しく蹴る。

俺たちは誰も何も言うこと無くゴロゴロ転がると、端の方まで行き静止する。

アスナはキリトから数十センチ離れた位置に指先で毛布をなぞって線を引くと、

「そっち、あなた達の場所ね。で、ここらへんに男女間の境界線があると思ってください。」

そう言ったアスナに、キリトが男性陣を代表して質問した。

「……国境侵犯したらどうなるんです?」

「ここって圏外よね?」

「解りました、完璧に理解しました。」

キリトに続いて、俺たちライダー組も寝転がったままコクコクと頷く。

その返事を聞いたアスナは笑顔を浮かべたまま俺たちと反対方向に歩くと、そのまま装備を解除し、毛布の上に座り込んだ。その後、少し迷う素振りを見せてからロングブーツも除装する。

白のソックスだけになったアスナを、キリトはずーーーーーっと見ていたようで、俺の視界の端で、2つの眼がぶつかる音が聞こえた。

一応そちらを見てみると、キリトはアスナからわざとらしく眼を逸らすと、上ずった調子で言った。

「えっと、もしアレなら俺、外で寝ても全然構わないけど……寝袋持ってるし……」

「右に同じく。最悪ブレイブドラゴンに護衛させとけば大丈夫だし」

「僕も大丈夫ですよ。」

と、キリトに続いて俺とリントが同調するのに対し、アスナは意外にも平然とした様子で

「別にいいわよ、国境線さえ守れば。」

と言った。その声が普通な声色だったのは、純粋にこの状況を気にしていないからというわけではないらしく、アスナはその他に気になることがあるようだった。

アスナは右手で毛布を撫でながら、釈然としない様子で言った。

「………この連続クエスト………私まだ状況がよく掴めて無いんだけど、黒エルフと森エルフのどっちかが正義でどっちかが悪とか、そういう話じゃないのよね?」

その問いに答えられるのがキリトしか居ないので、キリトに後を託して俺は黙る。

「へ?………う、うん。そのはずだよ。基本設定がベータの時と同じなら、もうちょっと上の層にあるらしい《聖堂》って場所の中になんかすごいアイテムが封印されてて、それを巡って黒エルフと森エルフが争ってるって、そんな設定だと思う。」

「ふぅん……じゃあ、あの葉っぱの袋にはいってたのがその鍵ってこと?」

「そういうこと。たしか全部で六個あって、それを層を超えて探すってのが、このクエストの本筋かな。」

「なるほどね……私が気になったのはそこなの。あなた最初、黒エルフと森エルフ、どっちにつくか選べるって言ってたわよね。」

「言いました。」

「ってことは、私達とは逆に、森エルフ側に味方してあっち側のストーリーを進めるプレイヤーも居るってことよね?

「当然、そういうことに…」

キリトはそこまで言いかけたものの、アスナの言わんとしたところを理解したようだ。

「ああ…俺達がこのままクエストを進めたら、森エルフサイドのクエストを進めてるプレイヤーと…」

「敵対することになるんじゃないかな、っておもったの。」

なるほど。確かにそういう展開のゲームはよく聞くし、寧ろ定番でもある。

「大丈夫、そうはならないよ。特定のmobを何体倒せとか、あのアイテムを何個集めろとかのクエストは他のプレイヤーと争いになることはあるけど、直接プレイヤー同士が戦うってことにはならないよ。」

「まあ、茅場の奴もそんな形でプレイヤー間の争いが起きるのは嫌なんだろうさ…」

「まあそういうこと。大抵こういうクエストって、そのクエストを進めてるプレイヤーとかパーティーごとに…独立した……その………」

ネトゲ初心者であるアスナに配慮したのだろうか、適切な言葉を探していたキリトを無視し、アスナは

「そっか、この野営地みたいなものね。いくつものパーティーが個別にクエストを進めて、個別の結末がある…?」

と結論を出した。

「そういうこと。だから、敵対陣営のプレイヤーと戦うことも無いし、どっちかが成功エンドでどっちかが失敗エンドってわけでもない。」

「ってことは、クエストを進めていけばハッピーエンドで終わる…ってことですか?」

「まあそういうこと。だから、さっきの司令官から与えられる司令をこなして行けばいい、ってわけ。」

その言葉にリントは納得したようだが、アスナは未だ腑に落ちないところがあるようで、

「ふぅん……」

と表面上は呟いたものの、その表情は晴れない。

「まだ何か気になるのか?」

「うん……その、気になるっていうか、うまく呑み込めないっていうか………さっき貴方が言った、インスタンス…だっけ?この野営地は、クエストを進めてるパーティーごとに生成されて、キズメルさんやさっきの司令官も複数存在するってことでしょ?そこが何ていうか……」

「ああ………」

アスナの疑問をようやく理解したと言わんばかりに、キリトは声を漏らした。

アスナの疑問は、ネトゲ初心者であればあるほど思うものだろう。MMOなどのクエストが孕むいわば最大の矛盾、それは『解決したはずの問題が再発する』、というものだ。本来なら、このエルフ間の争いは一つのパーティーがクリアすれば丸く──収まるかは知らないが──収まり、この先に再び同じことが起きるのは無いというのが、世界にあるべき姿だ。

だが、複数のプレイヤーが存在するMMORPGにおいて、ただ1人の主人公というのは存在しないのだ。どのプレイヤーにも等しく同じチャンスが与えられるべきで、そのためには同じクエストを複数のプレイヤーが受注可能である必要がある。一層であったアニールブレード取得クエストでは、とある病気の少女を治すために薬の材料を回収し、少女はその薬で快方へと向かう…という結末が待ち受けている。しかし、別のプレイヤーがその少女と出会うときには、彼女は再び病魔に侵されている。

この状況を解決するには、プレイヤー別のクエストを大量生産するしか無いのだが…………それは真の仮想というものだろう。仮想世界という名称でありながら、現実世界のサーバー容量とスタッフの人数という、あまりにも現実的な理由で制約が存在するこの世界では。

そういったことをキリトは、ゆっくりとアスナに伝えた。

アスナは礼こそ伝えたものの、その表情には割り切れないものが残っている。

正直なところ、俺もそう思ってはいるのだ。この世界に何人も存在するNPCとしては、彼女(キズメル)はあまりも人間らしすぎる。

……まるで、1人の意思を持った人間かのように。

気がつくと、周囲は茜色から青とオレンジが混じり合った色になっており、ウインドウを見ると時刻表期は午後6時。普段ならダンジョンから引き上げようかという時間帯だ。

腹減ったなぁ、でもボス戦から休憩してないから早く寝たいなぁという二つの欲望をせめぎ合わせている中、天幕の入り口の布が持ち上げられた。

入ってきたのはこの天幕の主たるキズメルで、相変わらず金属鎧に身を包んでおり、思わず苦しくないのかななどと考えてしまう。

部屋の持ち主の来訪に慌ただしく立ち上がった俺たちをキズメルは順に見ると、口を開いた。

「陣中ゆえ、大したもてなしも出来ぬがこの天幕は自由に使ってくれ。食堂ではいつでも食事をとれるし、簡易的だが湯浴み用の風呂天幕もある」

「お風呂、あるんですか?」

真っ先に反応したのはアスナで、しかも風呂に対して。あいつって意外と風呂好きなのかな…と俺が思う中、キズメルは左側を指さした。

「食堂天幕のとなりだ。こちらもいつでも使える。」

「ありがとう、遠慮なく使わせていただくわね。」

そう答えたアスナは、俺たち男子組には目もくれずに天幕の出口まで歩いていく。

そんな男性陣はただぼーっとしながら、食欲と睡眠欲のどちらを先に満たすかという4時間目の授業中のようなことを考えていたが。その思考は天幕内の暖炉まで移動したキズメルが鎧の留め具と思しき宝石に触れた途端彼方に吹っ飛んだ。

キズメルが纏っていた鎧は一瞬にして消え去り、残るのは鎧の下に着ていた服と留め具だけ。このゲームの製作者の趣味か否か、キズメルは下に薄手のインナー一枚きりであり、それだけではキズメルが抱えるある種爆弾を抑えることは不可能で、俺達の視界にはエルフらしからぬ、いやさすがエルフと言うべきボリューム感を備えたモノが…

「……あなた達も、お風呂入ったほうが良いわよ。ボス戦で汗かいたでしょ。」

……………冷や汗なら、絶賛かいてますがね。

男性陣をギュッと集めて耳元で囁いたアスナ嬢に引きずられるがまま、(おそらく)思春期男子三人組は天幕を後にした。

 

◆◆◆◆

 

天幕からでた俺たちに、正しく幻想的と言うべき風景が飛び込んだ。あちこちには様々なデザインの鉄籠が並び、その中には紫色の炎が揺らめく。どこからともなく聞こえてくるリュートの音に、虫たちが優しげな音色を重ねる。食堂天幕からは兵士たちの談笑する声が漏れ、鍛冶師が鳴らす槌音も心地良い。

人間の街とは全く違う風景に、俺たちはしばし無心で歩いてから、キリトが思い出したかのように急に止まり、口を開いた。

「そうだ、アスナ」

「何?」

アスナは反応こそしたものの、足を止める気はさらさら無いようで、足を少し遅くしただけだ。

キリトは再び歩き出し、再び口を開いた。

「ここのNPC鍛冶師、かなりスキル高いから今のうちに武器を限界まで強化しとこう。」

「………限界まで?大丈夫なの?」

そう返すアスナの表情には、不安の影が色濃く映る。武器強化と聞いて、否応なく2層での武器破壊を思い浮かべてしまったのだろう。あの時は実際には壊れたわけではなく、強化詐欺という形で別の同種武器が消えただけで、アスナ本人の愛剣が砕けたわけではなかったのだが、その当時の感覚がそれで消えたわけではない。

「そりゃ成功率100%とまでは行かないけれど、少し素材を追加するだけで、確率を上限までブーストできるはずだよ。ここで+6にしとけば、三層の半ばまでは使い続けられると思う。」

アスナの愛剣ウインド・フルーレは、一層でキリトがアスナに譲渡したショップ品のはずだ。一層のアイテムとは言え、アスナ自身の剣の腕も相まって、実際に限界まで…つまり+6までにしておけばその辺まで使えるだろう。

……だが、キリトの言葉を聞いたアスナには、別の感情が浮かんできているようだった。

アスナは、今はそこにない愛剣の感覚を確かめるかの様に、左腰に手を伸ばすと、しばしその空間に触れた。

「…………キリト君、前に言ってたわよね。使ってる剣を金属素材に戻して、それを元に新しい剣を作れるって。」

「え……う、うん。言ったけど…」

…二人がその話をしているところを俺が見たことが無いので、メッセージで話していたか、俺の居ないところで話していたかだろう。おそらく、あの強化詐欺が起きた頃。

「それって、ここの鍛治屋さんにも頼める?」

「う、うん、頼めるけど……でも…」

キリトの言わんとする所を、俺はなんとなく察した。たとえ仮想世界限定であるとしても、俺たちが剣士として日々を暮らす中で、愛剣というのは正しく己と共に進む相棒であり、かけがえのない存在なのだ。それを金属素材(インゴット)にする……すなわち、もう元に戻せない形にすることは、少なからず悲しみの感情を抱くものだろう。

だからこそ、キリトはアスナを気遣い、あのような言い切らない態度をとっているのだろう…

アスナにもキリトの心は読めたらしく、珍しいことに穏やかな笑みを浮かべると、

「気遣ってくれてありがと。でも、リスクを取って完全強化しても数日でお別れしなきゃならないなら……ここで生まれ変わらせてあげようって、そう思ったの。」

「…そっか。」

キリトは短く返答し、続けていった。

「解った、きっと強い剣になるよ。じゃあ、早速鍛治屋のテントに…」

と、あるき出したキリトの襟をぐいっと引っ張ったのは。

「先にお風呂!」

………他でもないアスナだった。

………………俺とリントが、思わず苦笑したのは内緒だ。

 

◆◆◆◆

 

俺たちが歩くこと───キリトは引きずられること───数分足らず、俺たちは風呂天幕の前へとやってきた。

正直、ベータテスト時代に俺がエルフクエをしていたとしても、この風呂を使う機会は対してなかっただろう。なにせあの頃は自由にログイン・ログアウトが可能で、いつでもリアル風呂に入ることができたのだから。天幕での寝落ちこそ、気分的に楽しそうなので一度ぐらいしそうなものだが、今となっては寝たところで起きたらリアル世界に戻っているなどということはない。

だがこのパーティーの紅一点のアスナにとっては重要視する施設らしく、ここにたどり着いたときには目の輝きが少々増していた。

……だがここで、ある問題が一つ。

…………天幕が一つしか無いのにも関わらず、入り口も一つしか無い。つまり、銭湯で言う赤と青ののれんで別れていないというわけだ。

それを察したアスナが天幕の中を覗くと、

「…お風呂、一つしかないわ」

というダメ押しの言葉を一つ。じゃあ混浴ってわけか、と口に出すほどの度胸と無神経さはリントは勿論、俺もキリトも持ち合わせていない。俺たちは極限まで真面目っぽい顔をしながら一歩下がると、キリトが代表して言った。

「じゃあ、俺たちはアスナが上がるまでこっちで飯食ってるよ。上がったら呼んでもらえれば…」

と、そこまで口にした時。

「一応聞いておくけど、ここって圏外なのよね?」

「え?…あ、ああ、一応そうだけど…」

なんで急に圏内か圏外かの話を…と俺達が疑問に思う中、アスナは続けた。

「じゃあ、武装を解除するのは危険よね。」

「…まあ、そうとも言えなくは…ないな…」

「なら、4人で誰かの入浴中は誰かが入り口でガードすることにしましょ。順番は…そうね、コイントスで…」

ここまで聞いて、俺たちはアスナの思惑を察した。

別にアスナだって、本当にmobが入浴中に乱入してくると思っているわけじゃない。実際はモンスターではなく、ここに何人もいる黒エルフのNPC騎士が入ってくることを懸念しているのだ。別にNPCじゃん…と思わなくもないが、その気持ちは分からなくもない。

「オッケー、じゃあ俺が見張っとくよ。二人は先に飯食っててくれ。」

「ああ、悪いな。」

「じゃあ、お先に。」

キリトが自ら名乗り出たので、俺たちはテクテクと食堂天幕へと向かった。

……………後に、キリトが低く「休めるか!」と唸ったのは……

………気のせいだろ。多分。

 

◆◆◆◆

 

……朝。

そう思って起きた俺の視界に飛び込むのは、眩しい朝日……ではなく、何も見えない暗闇。光といえば、日光よりも数段お淑やかな優しい光。

「………深夜かよ………」

時刻表示が未だ深夜2時だったことに対して思わずつぶやきながらも、再度夢の世界にリンクスタートしようとした俺の思考と体を、一つの違和感が止めた。

寝る前にふと横を見ると、何故かこの天幕の人口密度が1人…いや、2人減っているのだ。

しかも、俺の右隣の二人が。

「キリトはまあ………うん、どっか行く気はするけど………キズメルがどっか行くもんか…?」

いちおうキズメルNPCだしな…と思いながら、俺はとりあえず外に出てみた。お前も同じことしてんじゃねぇかとか言わないでね?

意外なことに、キリトは天幕の外でただ立っているだけだった。

「よっ。お前も不眠症か?」

「…なんだ、ラルトか……不眠症どころか、ガッツリ7時間も寝てるよ…」

「考えたら、飯食ったらすぐ寝たからな…大体6時ぐらいだっけか…………で、なんかもう1人居ないんだけど、知らない?」

「正確に知りはしないけど……なんとなくの予想はついてる。」

「へぇ、まさか次のダンジョン?」

「いや………まあ、俺たちが行ったことのない場所って点では、間違いではないかもな。」

そう言ってキリトが案内したのは、たしかに俺もアスナも、リントも踏み入れたない場所……司令官天幕の裏手、言ってしまえば……空き地。

だが、そこには3つの影があった。

─────1つは、細いながらもどこか存在感のある、一本の木。もう1つは、その前に座り込む、1人の人間………いや、エルフ。

そして最後の1つは、木の下に1つだけ置かれた、アルファベットと思しき文字が書かれた、シンプルな…………墓標。

立ち尽くしていた俺たちに気づいたエルフ………キズメルはこちらを向くと、囁くように言った。

「キリトにラルトか。しっかり寝ておかないと明日が辛いぞ」

「そんなことないさ、寧ろいつもよりよく寝られたよ。」

「ああ、ありがとう、天幕を貸してくれて。」

「構わんさ、私一人には広すぎる。」

キズメルはそう言うと、再びお墓を見つめた。

Tilnelと書かれた墓標の文字を、キリトが口にした。

「…ティルネル…さん…?」

その言葉に、俺たちはそれがどこかキズメルと似た響きを感じることに気がついた。キズメルは少し間を置くと、口を開いた。

「双子の妹だ。先月この層に降りてきて、最初の戦で命を落とした。」

……キズメルが言うように、彼女らエルフたちはこのアインクラッドが複数の階層から構成されていることを知っている。エルフは彼ら専用の転移門のような物を使って階層を行き来するらしいが、それもこの3層とエルフの城がある9層までに限られているらしい。

「ティルネルさんも…騎士だったのか…?」

俺がキズメルに問いかけると、黒エルフの騎士……いや、唯のエルフの女性は言った。

「いや、妹は薬師(くすし)だった……戦場で怪我人を癒すのが仕事で、ダガーより大きな剣は持ったこともなかった。だが、妹のいた後方部隊に、森エルフの鷹使いどもが奇襲をかけてな……」

その言葉を聞いた途端、キリトが息を詰めた。

───後からキリトから聞いた話によれば、森エルフの鷹使い(フォレストエルブン・ファルコナー)は、この三層に湧く敵で最凶、最悪の敵mobらしい。勿論フロアボスを除いてではあるが、地上からのエルフ当人と、上空からの鷹型モンスターの同時攻撃は凶悪で、黒エルフにも同格の狼使いがいるものの、凶悪さは三次元機動が可能な森エルフの方が勝るだろう。

いつまでも立ち続ける俺たちを見て、キズメルは表情を和らげると言った。

「いつまでも立っていないで座ったらどうだ。椅子も敷布もないが」

「あ、ああ。」

俺たちは少々焦りながらも座ると、キズメルは傍らにおいてあった皮袋を取った。

彼女はその中に入っていた液体を呷ると、こちらにもその袋を渡してくる。

俺たちは自然に礼を言うと、キリト、俺の順にその中身を喉に流した。

この頃にはもう、キズメルがNPCだという認識は、俺達の中から消えていた。

キズメルは俺たちが差し出す袋を受け取ると、残りをティルネルの墓へと残すこと無くかけ流す。

「妹が好きだった、月涙草(ゲツルイソウ)のワインだ……驚かせてやろうと持ち出してきたのだが、一口も飲ませてやれなかったよ……」

キズメルは革袋を取り落とすと、のろのろとした動きで拾い、その胸にぎゅっと抱えた。

「………昨日、秘鍵奪還の任務に志願した時、私は死を覚悟していた。……………いや、もしかするとそれを望んでいたのかもしれんな……事実、あの森エルフとは良くて相打ち、あるいは破れていただろう。だが、運命の導きか、そなたらがあの地に来た…………もはや、この世界に神など存在しないはずなのにな…………」

そう言うキズメルの瞳が濡れていることに気付き、俺たちは唖然とした。

……思えば、キズメルはこの世界での真の意味で住人なのだ。俺たちはいわば、本来存在しているはずのない異分子………

………………いや、それも今となっては違う。俺たちの命はこの世界の命と完全に同等になったのだ。…………一ヶ月前の、あの日から。

この戦いに俺たちが巻き込まれた…いや、自ら関わりだしたあの時、俺は真の意味で戦う覚悟はあったか?どこか生半可な気持ちで、2つの種族の争いに介入しようとしなかったか?………

………この世界の戦いは、真の意味での戦いだ。それを俺は、メギドとの争いで何度も体感したはずなのに。

「………神の導きじゃないさ。俺たちは自らの意思であそこに居た………自分自身の意思で、キズメルに味方した。」

「ああ。…だから、最後まで付きあうよ。キズメルが、家に帰れるようになるまで。」

心に1つの悔いを遺しながら、キリトと俺はキズメルに言った。

「…ならば、私もそなたらを守ろう。進む道が別れるその時まで。」




今年は、この作品もUAが1万を超えて、お気に入り登録者もたくさん増えた年でしたね…
日頃からの応援、本当に感謝です。
来年もこれまで通り…いや、少しは投稿頻度を上げて投稿していきたいので、これからもこの作品をよろしくお願いします。
ってことで皆さん、良いお年を!


次回、セイバーアート・オンライン。
「すっ…(すっげーーーーーーー!)」
「そんなどうでもいいこと考えてたの!?」
「そのまじない、久しぶりに見たな」
第17節 次なる目標、有毒の害虫。

オリジナルのブック組み合わせを出そうと思ってます。基本は赤いブックとの組み合わせです。

  • ヘンゼルナッツとグレーテル
  • 猿飛忍者伝
  • 昆虫大百科
  • 天空のペガサス
  • トライケルベロス
  • 玄武神話
  • 昆虫大百科
  • オーシャンヒストリー
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