セイバーアート・オンライン   作:ニントという人

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ども、第9話です。

最初に言っておく!これはか〜な〜り長い!



なんとまさかの10000字越え。

読む際は時間がかかることを頭に入れて読むことをお勧めします。

ではどうぞ〜


明かされる真実、少年の苦悩。

「ふぅ〜ん」

「違うぞ」

彼らの言葉から省略された言葉を付け足すと、こうなる。

「ふぅ〜ん、ソロのキリトにアスナ、それから仮面ライダーのラルトがチームを組んだカ。この情報は幾らになるかナ。」

「違うぞ、俺達は利害の一致で一緒に行動しているだけで、チームとかそういうあれじゃない。」

となる。

俺達はネズハの元から離れ、アルゴと路地裏の居酒屋で待ち合わせた。

なんでも、キリトとアスナが依頼したいことがあるらしく、俺はそれについてきた形だ。

───なぜか、アスナも行くと言い出したときに、キリトが動揺していたが。

まあとりあえず、俺達は適当に飲み物を頼み、席についた。

それと同時に飲み物が届き、俺達は各々手に取る。

アルゴがキリトに目線で圧をかけ、それに破れたキリトが大人しくジョッキを持ち上げる。

「それじゃあ…二層迷宮区到着を祝して…乾杯!」

「カンパーイ!」

「…乾杯」

「乾杯!」

テンションにばらつきがあったが、俺達はジョッキに入った飲み物を一気に飲む。

俺が頼んだのは金色に輝くエール酒だが、アルコール分で酔っ払う…ということもなく、ただ酒の味がする、というだけ。

まあ、成人プレイヤーにとっては、「酔えない酒になんの存在意義があろうか!」ということらしいが、前世でも今世でも成人した経験がない俺にとってはそれがどうした状態なのだが。

「いやー、開通から4日で迷宮区到達カ。結構早かったナ。」

「まあな。一層で時間がかかった分、レベルが高いやつが多かっただろうし」

「たしか2層の適正攻略レベルって、6,7とかだろ?それを考えたらやっぱり今のメンバーはレベルが高いよ。」

「ええ。…今回だと、レベル10は行くわよね。」

今俺がレベル14,キリトが13,アスナは12。ディアベルが13で、他のメンバーも同程度と考えると…

「…ああ、行くだろうな。」

「ただ、レベルが高くてもプレイヤースキルがどうかって問題もなぁ…」

「そうだナ。攻略適正レベルってのも、あくまで数字の上だけだゾ、キー坊。」

「ああ。…それに、ここのボスは装備強化のほうが大事なんだよな…」

「ああ…あのボスって、確かデバフ持ちだろ?武装強化で阻害(デバフ)耐性上げまくって備えないと…」

そこまで言った時。

「「うっ…」」

突如、嫌な予感に襲われ、俺とキリトは小さく声を上げた。

武装強化、今この段階でそれに適した能力を持つものは一人。

───鍛冶屋ネズハ。

もし、いまこの段階でタランの村に店を移動したのも、攻略組の強化需要を見越してのものだとしたら?

この段階で、もう鍛冶屋の信用度外視でレア武器を搾取しまくり、それで得た資金でブレイブスの装備はより強く、そして役目を終えたネズハは───

「…アルゴ、これ、迷宮区一、二階のマップデータ。」

俺達は悪い予感を振り落とし、キリトが代表してアルゴに先程取って来たマップデータのスクロールを渡した。

「いつも悪いな、キー坊、ラー坊。いつも言ってるけど、規定の情報代ならいつでも…」

「いや、マップデータで商売する気はないよ。」

「ああ、マップを買わなかったから死んだなんてなったら、目覚めが悪いからな…その代わりってわけじゃないけど、今回は少し特殊な依頼を頼みたい。」

「フゥン?マア、オネーサンに言ってミナ?」

ちょっとアルゴさんそういうコケティッシュな目止めてもらっていいですか俺の脳がブレイブドラゴンしちまうんですけど(ry

ショートした俺に変わって、キリトが話しだした。

「アルゴももう存在は知ってるだろうけど…今回のフィールドボス戦に参加する予定だった、《レジェンド・ブレイブス》ってチームについて調べてほしい。」

「フム、特殊ナ、ってのはどういう事ダ?」

ここでなんとかショートから冷却した俺が話に復帰する。

「俺達がブレイブスについて探ってることを、誰にも知られたくない。彼ら自身には特に」

忘れがちになるが、アルゴが情報屋として最も大きく掲げているモットーは一つ、「売れる情報はすべて売る」。

つまり、俺達が通常の方法でアルゴに調査を依頼した場合、アルゴはブレイブスにも「お前たちの情報を知りたがってるやつが居るけド、情報を買うカ?」と持ちかける訳だ。

ここで向こうが提示した情報量よりも多く、こちらがアルゴに口止め料を払えば名前は隠し通せるが、彼らを探っている者がいる、という認識を彼らに与えたくはない。

これはアルゴのモットーに明確に反する頼みであり、俺としてもハラハラしながら行く末を見守っていたのだが。

「…う〜ん、マア、良いカ。」

本当か!?と問う暇もなく、続けざまにアルゴが

「でも、これは忘れないでくれよナ。オレっちが情報屋としてのモットーより、ラー坊たちの事情を優先したってことをナ。」

本日二度目の流し目いただきましたフォォッ!

───先程からアルゴがこの目をするたびに、横のケープからメラっという気配が伝わってくるのは気のせいだろう。

 

◆◆◆◆

 

俺達はアルゴと別れ、タラン東広場の空き家の二階に身を寄せていた。

こういう、NPCが利用しているわけでも、プレイヤーが所有できるわけでもない家を宿代わりに使うプレイヤーは少なくないが、実際のところ、環境面は最悪である。

ドアに鍵はかけられないし、そのドアにシステム的保護があるわけでもないので、外部の騒音がダイレクトに来る。おまけに、ベッドはとてつもないほどに硬い。

だが、宿以外の目的ならば、意外と使い道はある。

例えば感嘆なミーティングとか、ドロップアイテムの受け渡しとか、あるいは────誰かの監視とか。

「なかなかいいアングルね。」

「ああ。真上だと、角度の問題で見えないからな…晩メシ、ここ置くぞ」

俺達は地面からギリギリ見えない位置の窓際に腰掛け、キリトはそばのテーブルにストレージから取り出した饅頭をいくつか置く。

「ねえ、この饅頭…何が入ってるの?」

「さあ?まあ、牛がテーマのフロアだし、肉まんならぬ牛肉まんなんじゃないのか?そういえば、関西じゃあ肉といえば牛肉だから、こっちでいう肉まんは豚まんっていうとか読むか聞くかしたなぁ…」

「で、アインクラッドは関西と関東どっちなの?」

キリト渾身の豆知識がばっさりと捨てられたことは置いておいてだ。

この饅頭の名は《Steamed bun of Taran》、日本語だと《タラン饅頭》だろうか。

「ささ、熱い内にお一つ…」

「…いただきます。」

アスナはレザーグローブを除装し、饅頭に手を伸ばす。

俺とキリトも、少し遅れて饅頭を手にし、それを口に───

「うにょああ!?」

突如前方から謎の声が聞こえ、俺は手を止め、その声の主を見つめた。

───そこには、歯型一口分体積を減らした饅頭を手に硬直し、その饅頭から噴出したであろうクリームが口から首元までべっとりとついたアスナ嬢がいた。

アスナは律儀にも口に残る饅頭を咀嚼した後、

「中…あったかいカスタードクリーム…その中に、何か甘酸っぱい果物が…」

食レポを終えたアスナは、こちら側をキッ!と睨みつけると、

「もしあなたたちがベータテストでこれを食べてて、知ってて私に差し出したんだとしたら、私、自分を抑えてられる自身がないわ…」

「「まったく、誓ってありませんでした、ホントに、絶対、アブソリューソリィ」」

俺とキリトはぶるぶるかぶりを振りながら、キリトが代表してベルトポーチからハンカチを取り出した。

幸いなことに、この世界に存在する汚れはすべて《汚れエフェクト》とエフェクト判定なので、適切な手段で簡単に取れる。

基本的には《cloth》カテゴリのアイテムで拭き取るか、または時間経過でも消滅する。

俺がそんな事を考える内に、アスナは汚れを取り終え、キリトにハンカチを返却していた。

「今度から、食事は自作するわ。二度とあんなの食べさせられたくない。」

「…そ、それは楽しみだなぁ」

「…別にあなたの分まで作るなんていってない。」

「…さ、さいですか…」

…どんまい、キリト。

気がつけばこの事件の元凶たるタラン饅頭はすでに冷めていたので、俺とキリトはそれを口にした。

冷めたタラン饅頭はそこそこ…というかかなりイケる味だった。

皮はもっちりとした歯ごたえで、中に詰まったクリームと苺っぽい果物がベストマッチ!

これは食事としてはともかく、デザートとしてはかなり上質なやつではないだろうか。

結局アスナも2つ食べ、満足したようだ。

そこはまあいいとして……この張り込みの主目的は、どうやら空振りに終わりそうだった。

ネズハの店には多くの客がやってくるが、その大半が耐久度回復(メンテ)目当てで、武器強化の客は二人だけ、しかもどちらも大成功。

キリトはミドルクラスの武器だからと推測したものの、ここまで来ると強化詐欺の実在すら疑わしくなる。

「いや、それはないよな…」

キリトも同じことを考えていたのだろう、だがその推測を打ち消すように呟いた。

…強化詐欺の方法はまだ掴めないが、なぜあの時ウインドフルーレが砕けたのか、それはアルゴの情報から判明している。

あの時アスナは、俺達に烈火の如く視線を飛ばした後、アルゴに依頼したのだ。

『武装強化のペナルティに、《武器破壊》があるのか調べてほしい』と。

それを聞いたアルゴは、『それは調べるまでもないナ。オイラがもう調査済みダ』と返した。

アルゴは、情報量はここの酒代でいいゾ、と前置きした上で、

『武器強化のペナルティとしてなら、武器破壊は起きナイ。だが、強化試行回数を使い切った武器の強化を試みた時、必ずその武器は破壊されル。』

つまり、だ。

あの時ウインドフルーレは、すでに強化試行回数を使い切った同アイテム(エンド品)にすり替わっており…

あの時砕けたのは、ネズハがどこかで調達したエンド品であり、俺達はその剣が壊れたのを、アスナの剣が砕けた、と認識したわけだ。

その時、俺の視界に一人の男が写った。背中には剣を吊るして向かうのは…ネズハの元だ。

同じことに気づいたのだろう、二人の肩に緊張が走る。

「あの人って、攻略集団だよな?名前知ってるか?」

「えーっと…たしか、シヴァタさん、って人。」

「し、シヴァタ?シバタじゃなくて?」

「だって綴りがS H I V A T Aなんだもの、ヴァでしょ。」

「…ヴァだな、それは」

「…ヴァだね、間違いなく」

そんな実のない会話を繰り広げるうちに、シヴァタ氏はネズハの元に近づいていく。

彼はネズハの元にたどり着くと、背中から剣を外し、鞘から抜く。

あれは片手剣カテゴリの派生、手数より一撃の威力を優先した幅広剣(ブロードソード)。たしか固有名を…

「…スタウドブラウド…」

「…すり替えの対象としては十分ね。」

「ああ、あとは依頼が、メンテか強化か…」

俺達が見つめる間にも、シヴァタはネズハにスタウドブラウドを手渡す。索敵スキルの補正で彼らが何をしているかは見えるが、会話までは聞き取れない。

剣を受け取ったネズハは、それを鍛冶台に寄せる。ここでシヴァタがメンテを頼んでいれば、ネズハは鍛冶台に備え付けられた回転砥石に剣を当てるはずだ。

ネズハは、剣を受け取ると左手に持ち替え、右手で背後の袋に手を伸ばした。あの中には強化素材が入っているはずなので───

「強化だ…!」

「左手よ、左手から目を離さないで!」

言われなくとも分かっていると言わんばかりに、俺とキリトは目を凝らした。

その間にもネズハは淀みない動作でアイテムを選択し、炉に入れていく。

すべてのアイテムを入れ、炉が『重さ』を示す赤に発光し───

「「「…!」」」

「今…剣が…」

炉が光ったその一瞬、ネズハの手で何かが起きた気がしたのだ。

だが、炉から放たれた強力なライトエフェクトに視界を阻まれ、その肝心な一瞬を見逃したのだ。

予期していたとはいえ、スタウトブラウドが金床に置かれ、その上で砕け散る様から、目を背けることは出来なかった。

 

 

 

「…どうする…?」

言葉に込められた意味は明らかだ。

心情的には、愛剣を奪われたシヴァタ氏に事情を説明したい。1時間の所有権限が残っているうちなら、《全アイテム完全オブジェクト化》のコマンドで取り戻すことは可能だからだ。

だが、愛剣を奪われたシヴァタ氏が、そこで終わるかはわからない。剣が破壊された時、彼は怒声の一つも上げずに立ち去った。その彼の怒りを、俺達が再び呼び覚ますことに意味はあるのか。それが分からないからこそ、アスナも俺達に問うたのだ。

もしシヴァタにすべて打ち明け、その結果がどんな悲惨なことになるのかは、想像するだけで恐ろしい。

最悪の場合、ネズハへの処罰(・・)が行き着くところまで言ってしまう可能性もありうる。

俺がそんな思考に囚われる中、キリトがボソリと呟いた。

「…なんでネズハは…《レジェンド・ブレイブス》は、強化詐欺なんかやろうと思った…いや、実行できたんだろうな…」

首を傾げる俺達に、キリトは説明を重ねる。

「だってさ…このSAO(デスゲーム)で、強化詐欺っていう明確な悪事を『やろうと思う』のと『ほんとに実行する』ってことの間にはかなり大きいハードルがあるはずどろ?もしバレたら、それこそ取り返しのつかないものを失う可能性だってあるはずだ…それを想像することだって出来るはずなのに…」

「想像…した上で、そのハードルを蹴り飛ばしたのかもね…」

「…え…?」

「だって、倫理的な問題に目をつぶれば、これがバレたときの危険って、その詐欺をした相手に命を奪われる危険がある…ってことだけでしょ?その時までに、相手より強くなれば…たとえ圏外で襲われても、返り討ちにできる強さを持っていれば、ね。いま《レジェンド・ブレイブス》の5…いや6人は、それに最も近いところにいるわね。」6

「お、おい、止めてくれよ。悪事を厭わない集団が攻略組より強くなったら、それって…」

キリトはなにかに怯えるようにそこまでを言い、一拍置くと───

「…世界の支配者ってことじゃないか」

…この世界において、強さは絶対的基準であり、それは『レベル』と『装備』によって決まる。

このデスゲーム初期という状況で、攻略組が強化しているのは基本が主武装(メインアーム)、いって盾といったところだろう。

だが彼らは違う、あの6人はこの短期間でとてつもない額のコルを稼ぎ、それを全身の武装強化に費やした。

もし、武器の度合いが同じで、防具の強化値が上の者と戦えば───

たとえレベル差があったとしても、おそらく勝てない。

すなわち、このままネズハの強化詐欺を黙認し続けることは、己らより遥かに強い、悪事をも厭わないプレイヤー集団の誕生を容認することになる。

「…ごめん、俺、今更この件がまじで大事だって気づいた。」

キリトも同じことを考えていたのだろう、だがなぜ…

「…なんでそれが『ごめん』なの?」

「いや、アスナは一回自分の剣を取られかけてるだろ?なのに俺、いままでどこか他人事に見てた気がしてさ…」

キリトがそこまで言い終えると、アスナは急に顔を赤く染め、

「別に謝る必要ないでしょ。あなたと私は他人じゃないわけじゃない…いや、パーティーメンバーだし知り合いでもあるけど…も!変なこというから、何がなんだかわからないじゃないのよ!」

わからない、は俺のセリフだろ、というキリトの心の声がした、とだけ言っておこう。

それについてキリトが言い返す前に、アスナの両目がすっと細められた。

「あのカーペット…」

「…ん?」

「物が腐らないだけじゃなくて、あんな機能もあったのね。」

そう呟くアスナの目線の先には、店じまい中のネズハの姿が。

ネズハがカーペットをタップしメニューを呼び出す。それを操作すると、カーペットは並べられたアイテムごとくるくると巻き取られ、一本の筒型になる。

「ねえ、強化詐欺に、あの機能を使ったってことはないの?」

「いや、無理だろうな。あの《ペンターズ・カーペット》のアイテム収納機能はメニューから発動しなきゃならないし、一度発動したらその上に乗ってるアイテム全部を収納しちゃうんだ。とてもじゃないけど、剣一本を選んで収納するなんて、不可能…」

キリトはそこまでいうと不意に口を閉じ、ウィンドウを開いた。

キリトはその流れでストレージを開くと、背中からアニールブレードを抜いた。

俺とアスナはキリトの意図に気づき、キリトの手元を見つめた。

「よく見て、時間を測ってくれ。」

「分かった」

「了解」

「いくぞ…3,2,1,0!」

キリトはカウントを終えると、手に持ったアニールブレードを落とし、地面に広げておいたウィンドウに触れさせた。

その瞬間アニールブレードはストレージに格納され、アイテム一覧にその名が浮かぶ。

すかさずキリトはその名前をタップ、示された操作一覧からオブジェクト化を選択し、キリトの手に再びアニールブレードが出現する。

「───どうだ!?」

キリトは顔をあげると、俺達に問うた。

俺とアスナは軽く目を見張り───その首を、左右に振った。

「現象としては似てるけど…だめね、時間が掛かり過ぎてる。」

「それは…練習して、操作精度を上げれば…」

「それだけじゃないぜ、剣をしまうときと出すときに、計二回も強いライトエフェクトが発生してる。これを、あの一回の強化のエフェクトごまかすのは流石に無理だ。」

俺達の言葉を聞いたキリトは、ガックリと首を落とすとこちらを見上げた。

「そうかぁ…いい線いってると思ったんだけどなぁ…ウィンドウはカーペットと商品の間に隠せそうだし…」

「それこそ無理じゃない?商品の下にストレージ開いたら、商品がストレージに入っちゃうでしょ?」

「それもそうかぁ…」

…俺は、この強化詐欺の手口は知らない。

だが、この詐欺の先に待つ結末は知っている。

だからこそ、なんとしてでも解決しなければならない。

「あー…ストレージ開かずにアイテム変える方法あればなぁ…それがあれば、方法も分かりそうなんだけど…」

そう、何気なく呟いた俺の言葉で。

「「……!」」

俺とキリトが、同時に声にならない声を上げた。

「な、何?何か解ったの!?」

俺とキリトは顔を見合わせると、同時に言った。

「「クイックチェンジ…!」」

「…え…?」

「…SAOのスキルMOD(スキルの追加オプション)に、クイックチェンジっていうやつがあるんだ。」

「ああ、それを使えば、手に持ってる武器を、それと同種類の別アイテムに変えることも、オプションで可能なんだ…」

「…!ってことは…」

「ああ、ネズハは、多分クイックチェンジで依頼品とエンド品をすり替えてたんだ。クイックチェンジはメインメニューのショートカットからも使えるから、ストレージを開く必要もない…!」

そう、ここまで俺達が言ったときになって。

「…いや、だめだ…ネズハは、クイックチェンジを持ってないかもしれない。」

「…そうか…あいつは鍛冶師…クソッ!」

「…ど、どういう事?」

困惑するアスナに、俺とキリトは説明を重ねる。

「…クイックチェンジは、武器スキルでしか習得できないんだ。鍛冶屋のネズハがクイックチェンジを持っている可能性は、0に等しい…」

「…ああ、これが普通のゲームだったら可能性もあった。でも…このデスゲームになったSAOじゃあ、戦闘職と生産職の両立はリスクがありすぎる…」

「…じゃ、じゃあ…」

「…ああ、いい線いったと思ったけど、多分これも…」

そんな時、キリトがふと視線を左上に寄せた。

「…どうした、キリト?」

「…いや、メッセージが…アルゴからだ…もう調査したのか…」

「さすがの速度ね…」

キリトはウィンドウをパーティーメンバー可視状態にすると、メッセージを開いた。

そこには、オルランド達《レジェンド・ブレイブス》の武装、キャラビルド、名前の由来まで乗っていた。

「へえ…やっぱり、全員伝説の英雄を名前にしてたんだな…」

「ホントね…クフーリン、ベオウルフ…」

「結構聞き馴染みあるのが多いな…」

俺達は、キャラビルドそっちのけで名前の由来ばかり見ていった。

そして、文の末尾に書かれていたネズハの情報にたどり着く。

レベルが10とそこそこ高いのは、鍛冶行為でも経験値が入るからだろう。そして名前の由来は…

「…えっ!?」

「読み方が全然違った…ってこと!?」

「いやでも、オルランドたちはネズハのことネズオって呼んでたぞ!?」

そこに書かれていた、思いもよらなかったネズハの名前の由来は…

 

◆◆◆◆

 

「強化、頼む」

午後8時前、タランの村。

俺は店じまい寸前だったネズハの店に強化を依頼していた。

だが、俺が差し出しているのは愛用の火炎剣烈火ではなく、かつて使用していたアニールブレード。

ネズハがしきりにこちらの顔面を見つめているが、別に俺の顔が変なことになっているわけではなく、俺がでかいバケツ…ではなくプレートヘルムを被って居るからだ。

ヘルムだけではない、胴、足、腕、俺の体すべてがフルプレートアーマーに覆われている。

この服のコーディネイターであるアスナ氏いわく、『ヘルメットだけだと変な人、って思われるけど、全身してれば『そういうシュミのヒト』、で押し通せるでしょ?』とのことだ。

俺がヘルメットを被っているのは至極単純、顔を隠すためだ。

俺は一度ネズハに顔を見られているため、こうでもしなければ強化依頼を受けてもらえないと考えたからだ。

俺はむしろ変人と思われて受けてもらえないんじゃないかと思っていたが、そんなことはなく、ネズハは剣を受け取った。

「…プロパティ、拝見します。」

俺が何も言わないので、ネズハは一声断りを入れると、俺のアニールブレードをタップした。

「アニール+5、試行3回残し、ですか…しかも内訳が、S3、D2(鋭さ3、丈夫さ2)。使い手を選ぶでしょうけど、すごい剣ですね…」

この一言で、俺は最初に抱いたネズハへの印象が間違っていなかった事を悟る。

だが、その言葉とともに浮かんでいた感嘆の表情はすぐに沈み、新たな表情が浮かび上がる。

───それは、意図的に壊される剣への悼みと、詐欺を掛ける相手への謝罪、そしてそれを行う自身への…自己嫌悪。

「…強化の種類は、どうしますか?」

「スピードで。素材は持ち込みで、90%分で頼む。」

「…分かりました。」

そういったネズハは、俺が送信した強化素材を炉に放り込んでいく。

そして、炉が速さを示す緑色に光った瞬間───

ネズハの左手が、商品と商品の間を、そっと叩いた。

剣が一瞬明滅し、同時に炉の発光も収まる。

これで、武器のすり替えは完了した。なんと素早く、なんと鮮やかだ。これなら、たとえ100人が見ている中で行ってもバレはしないだろう。俺が視認できたのも、プレートヘルムによる視界阻害効果で、ほとんど炉が見えていなかったせいだ。

外見上は何ら変わりないアニールブレードをネズハは金床に横たえ、ハンマーで叩き始めた。

そして、丁度十回叩き終えた時───アニールブレードは眩く発光し、ポリゴンの欠片へと姿を変えた。

ネズハの口から『すいません!』の声が響き渡る寸前───

「いや、謝らなくていいよ。」

「…え…?」

俺はそう呟くと、メインメニューから装備変更を行った。

足元から、徐々に装備を元のものへと変更していく。

最後に、プレートヘルムを外すと、やっとあの閉塞感から開放され、ほっと一息。

「あ…あなたは…あの時の…」

「ごめんな、騙すような真似して。でも、こうでもしないと君が受けてくれないと思ったんだ。」

俺がそういう間にも、彼の顔は青ざめていく。

俺は、開きっぱなしのメニューの表示されたショートカットアイコンを押した。

すると、俺の右手に黒く光る剣───アニールブレードが出現する。

それを見た瞬間、ネズハの顔が完全に青ざめた。

彼も気づいたのだ。俺が、強化詐欺の方法に行き着いたことに。

「俺も思わなかったよ…まさか鍛冶屋が、こんなに早くクイックチェンジのMODを取ってるなんて思わないよな。それに、メニューウィンドウを商品の下に隠すアイデアもすごいよ…これを考えたやつは、正直言って天才だよ…」

俺の言葉を聞いたネズハは、完全に崩れ落ちた。

 

今回のトリックは、結局の所俺が想像したものと同じだった。なぜ鍛冶屋であるネズハが武器スキルのMODを持っているのかだが…それは後でも良いだろう。

トリックの全貌はこうだ。

ネズハは受け取った剣と同じ種類のエンド品を、炉の発光と同時にクイックチェンジで切り替え、受け取った依頼品はストレージに、エンド品がネズハの手元に行く。

そうしてすり替えたエンド品を砕き、客に自分の剣が壊れた、と錯覚させるわけだ。

俺がそんな事を考えていると…

「謝って…許されることじゃないですよね…」

不意に、そんな声が聞こえた。

「せめて、搾取した剣を皆さんにお返しできればよかったんですが、それも無理です。全部、コルに変えてしまいましたから。僕にはもう、これしか…ッ!」

そういって、圏外の方へ走り出そうとしたネズハの前に───

上空から降ってきた、2つの影が立ちふさがった。

「あなた一人が死んでも、何も解決しないわ。」

「ああ、あんたが死んでも、何も起きない、何も生まれないしな。」

フーデットケープをかぶる、女性細剣士(フェンサー)

黒いコートを羽織る、片手剣士(ソードマン)

二人の剣士に道を塞がれたネズハは、どこか吐き捨てるように言った。

「どうせ!僕なんかいつか死ぬんだ!僕みたいなノロマが死ぬのも、遅いか早いかの違いなんだ!」

その言葉を聞いて。

「…フッ…」

なぜか、キリトが吹いた。

「ごめん、君の言葉を笑ったわけじゃないんだ。こっちのフェンサーさんも、数日前に同じことを言ったばかりだったからさ。」

「…え…」

その言葉を聞いたネズハは、居を突かれたように目を見開くと、

「あの…あなたは、攻略集団のアスナさん…ですよね?」

「…え…?なんで知ってるの?」

「そりゃ、フーデットケープのレイピア使いって有名ですし…攻略集団唯一の女性プレイヤーですしね…」

「…そ、そう…」

本人はいかにも複雑そうな表情を浮かべているが、まあそこは置いておこう。

「はやくもその変装が記号化しちゃってるみたいだな。『灰ずきんちゃん』なんてあだ名が付く前にやめたらどうだ?」

「いやよ、私は気に入ってるの、あったかいし!」

「さ、さいですか…」

…どんまい、キリト。

「あ、もしかして俺も知ってたり…」

「…あ、知りません、すいません…」

…どんまい、キリト。

「…あ、じゃあ俺は…」

「えっと…どこかで拝見した覚えはあるんですけど…」

「あ、これじゃわかんないか。じゃあ…」

そういって、俺はドライバーをとりだし腰に装着する。

「あ…ああ!?か…仮面ライダー!?」

「あ、知ってるんだ。」

「そ、そりゃそうですよ、あの時のことはほとんどのプレイヤーが知ってます!」

「そ、そうなんだ…」

…有名すぎるのもあれだな…

「そ、それで…本当なんですか?アスナさんが、いつか死ぬ、って…」

「ああ、ホントホント。いや〜、大変だったんだぜ?迷宮区の途中でぶっ倒れるし、しょうがないから寝袋にいれてはこんd…」

ガスッ。

…どんまい、キリト(本日三度目)。

「…すごいな…」

不意にネズハが呟いた。

「僕も…そんなふうになりたかった…些細なことで笑えて…人のために動ける…」

「まだ終わったわけじゃないわ。あなたも、希望を持ってるから、はじまりの街をでたんでしょ?」

俺は、彼の履いている靴が街中用のシューズアイテムではなく、れっきとした防具であることに気づいていた。

「ええ、ありましてた、目指したものが…。でも、僕はなれなかった…慣れないと解ってしまった…。ナーヴギアを買った、その日に。僕は最初のフルダイブテストで…

 

 

 

 

 

 

 

 

FNC判定だったんです。」

それは、少年の挫折。そして…絶望。




はい、第9話、終了です。

ほんとはネズハの経緯とかも書きたかったんですけど、ちょっと文字数が…
次回に回してます。

では、そんな次回の予告を。


次回、セイバーアート・オンライン。
「だ、誰だ、そいつ!?」
「みんな…行くぞ!」
「嘘だろ…?」
第10節 隠されたこと、2度目の闘い(ボス戦)

オリジナルのブック組み合わせを出そうと思ってます。基本は赤いブックとの組み合わせです。

  • ヘンゼルナッツとグレーテル
  • 猿飛忍者伝
  • 昆虫大百科
  • 天空のペガサス
  • トライケルベロス
  • 玄武神話
  • 昆虫大百科
  • オーシャンヒストリー
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