初めて書いたので暖かく見守っていただければ幸いです。
王国歴298年 3月1日
誰かに呼ばれた気がして、町外れの森を歩いた。夜明け前の空は、まだ暗い。薄闇の中を歩いているうちに、洞窟の入り口を見つけた。数日前の落雷で燃えた樹の下に、地中への入り口が開いている。内部は暗く、奥は深い。・・・・・・胸騒ぎがした。この洞窟は、私を招いている。
私は洞窟に入った。狭いトンネルの急斜面を下り、地層の裂け目から伸びる通路を進むと、小さな空洞に出た。周りは薄暗いが、不思議なことに壁がぼんやりと光っていて、岩に頭をぶつける心配はない。空気は湿り、壁の岩肌はかすかに濡れている。コウモリの糞や生物の死骸が、長い年月をかけて地面に積み重なり、意外にも柔らかく平らだ。通路は奥へと続いていた。
開けた場所に足を踏み入れると、青くニョロニョロとした生物が襲いかかってきた! 混乱しつつも持っていた短剣で攻撃した。倒し切ることはそう難しいことではなかったが、武器を持っていなかったらと思うと背筋が冷える。この洞窟には、危険な生物が住み着いているらしい。危なくなったら、いったん外に出て準備をし直した方がいいだろう。しかしまだ私には余力があったため、少し進んでみることにした。
先程よりも少し広い場所に出た。何もないと通り過ぎようとしたとき、何かが視界の端にちらついた。警戒して立ち止まると、物陰から、人間に似た何かが姿を現した。そしてそのままそれは殴りかかってきた! 自分の身軽さを駆使して攻撃を避けつつ、辛くも勝利した。何だったのだろう、この怪物は。人のようだが、人ではない。顔は醜く歪み、手足のバランスは狂っている。他にも気になることはあったが、慣れない戦闘で疲労している今、もう一度その怪物に遭遇すれば危険だと考え、早足で洞窟から出た。
帰宅後、孤児仲間で、家族であるバリスとチュナに謎の洞窟のことを話した。バリスは探索しようと提案したが、チュナは私達が危険だと反対した。しかしバリスに押し切られ、結局は明日から探索を開始することになった。
王国歴298年 3月2日
あの洞窟を探索するために、仲間を集めた方が良いだろうと、ひばり亭に向かった。店主のオハラさんには、申し訳ないがやる事ができたから休みが欲しいと言い、快く了承してもらった。他にひばり亭には、幼なじみであるネルと、珍しいことにラバン爺がいた。おおよそ一年振りに風来坊のラバン爺がこのホルムに訪れたのだ。幸運だと思った。ラバン爺は隻腕ではあるが、私達よりよほど戦闘慣れをしている剣士だ。年の功と旅の経験も相まって、あの怪物蔓延る洞窟では百人力だろう。ネルもラバン爺と同じく快い返事をしてくれたが、この度はネルには待っていてもらうことにした。雑貨屋の手伝いがあるのだから、という理由を本人には告げたが、本心としては彼女の怪力が洞窟内で発揮されてしまい、万が一にも崩落するなどという危惧があったからである。勿論人一人の怪力程度でそんなことがあるはずもないというのは理解しているのだけど、昔から彼女のことを見ている私達としては、やりかねないという怖さがあるのだ。
ラバン爺を仲間に加え、二度目の探索を開始した。下手に曲がるとラバン爺はともかく素人の私とバリスは迷いかねないため、まずは只々真っ直ぐ進むことにした。少し行くと突き当たりに左への道がある、小さな部屋に入った。壁にはたくさんの暗い穴が空いている。油を一つ消費しランタンを使ってみることにした。穴の奥の方に、何か動いているものが見える・・・・・・。突然のことだった。穴の奥で蠢いていたものが、一気にあふれ出てきた! 先日戦った青くニョロニョロしている生物だった。幸いなことに数は多いが一匹一匹はバリスやラバン爺が一度斬りつければ倒れる。ようやく全滅させたあと、あらためて穴の中を照らし出すと、奥の方にきらりと光る物を見つけた。掴み出すと、それは見事な剣だった。私はレイピアを手に入れた。ラバン爺は自前の剣の方が強く、バリスの戦い方はレイピアには合わないためだ。
レイピアを装備し終わると、私達は左へ曲がった。すると、明るい広間に出た。入り口から中を覗くと、たき火を囲むいくつかの人影が見えた。いや、よく見ると「人」ではない。昨日遭遇した、異形の怪物たちだ。それが四体もいる。彼らは甲高い声で何か話し合っていた。知性があるかもしれないのなら、戦闘を回避できるかもしれないと、駄目もとで話しかけてみることにした。すると驚いたことに、怪物達にはちゃんと知性があるらしい。挨拶してみると、怪物たちは聞き取りにくい発音で答えた。
「ヒーヒーホッ! ヘイ嬢チャン、何シニ来タ。コノ穴ハオレタチ『夜種』ノ家ヨ」
「オ前達ヒャックヒュムの来ル所ジャネェゾ。見逃シテヤルカラ、トットトドコカニ行ッチマエ!」
(おそらくこう言っていた筈だ。発音が聞きにくいため正確なところはわからない)
しかし私たちもこの先へ進みたい。バリスとラバン爺と相談しようとすると、それが怪物達には、忠告を聞き入れなかったと思われたのか、こう叫ばれた。
「オ前タチ、出テ行カナイ・・・・・・。盗ッ人! 泥棒! 殺ス!」
怪物達が襲いかかってきた! 想定外に慌てながらも、私たちは迎撃した。先程の戦いの傷もあり、あわやここまでかとも覚悟したが、バリスが会心の一撃を放ち、なんとか全員無事に生き延びた。意思疎通が出来た相手を手にかけるという後味の悪さを抱えながら、戦いのあと周りを見渡すと、たき火の跡と、怪物たちの持ち物が散らばっている。短弓と革製の胴衣を手に入れた。実際に武器防具として使っていたわけではないようで、新品のように見える。剣以外もそれなりに扱える、器用なバリスに短弓を任せ、老いのせいか傷を負いやすいラバン爺に革製の胴衣を渡した。大きな怪我をしたというわけではないが全員満身創痍のため、戦闘を避けてホルムの町へと戻った。
「あれ? ねえアイリシオ、何書いてるの?」
探索が終わり、ラバン爺と別れた後。ネルに今回の冒険を自慢しに行こうとバリスが言い、私もそれに賛成して、雑貨屋にお邪魔した。チュナも交えて少し大袈裟に語るバリスを尻目に、慣れない日記に苦戦していると、ネルがいつのまにか手元を覗き込んでいた。日記だよ、というとネルは驚いた顔をした。
「日記!? アイリシオが日記つけてたなんて知らなかったよ」
今日からつけ始めたんだ、と正直に言う。ラバン爺に、洞窟の探索の記録をつけたらどうかと言われたから、とも。
「だからちょっと説明口調なんだねえ。昨日の分もあるし。日記にしては長いし。うーん、でももうちょっと説明が必要じゃないかな? ほら注釈をつけるとかさ」
注釈が必要なところがあるのだろうか? ざっと読み返してもこの探索に関係ある人たちにはわからないところはないと思った。必要な箇所がわからない。自分が理解できていないものには注釈のつけようがない。
「いやそうじゃなくてさ、例えばひばり亭とか、アイリシオたち三人の事情とか、外から来た人はわからないでしょ?」
身内しか見ないだろうからそれでも特に問題はないだろうと言うと、ネルは少し恥ずかしそうに頬をかいた。
「もしもあの洞窟になんかすっごいものがあったとして、でそれを私たちが見つけたら有名になるわけでしょ? その冒険の記録だよ? 伝記みたいな扱いになるかもしれないんじゃないかな!」
最後の方は赤くなって早口で言ったその台詞を少し頭の中で噛み砕いていると、ネルは私が呆れていると思ったのか、より早口で弁明し始める。私が思わず吹き出してしまうと、益々赤くなって、「ちょっとアイリシオ!?」と憤慨し始めた。私はわざとらしく悲鳴を上げて、ネルの振り回す拳から逃げ回る。ついでにバリスに助けを求めて、ネルの攻撃の盾にする。いつものおふざけだが、避けることに対しては割と真剣だ。ネルの怪力に捕まってしまえば、頭が割れるような拳骨が待っている。思わずバリスと二人、笑顔になりながら駆け回って、そしてチュナに「もう、暴れないでよ、兄さんたち!」と怒られる。「妹に言われて恥ずかしくないのー!」と叫ぶネル。幸せな日常の光景だった。
注釈
森・・・・・・ホルムの町の北側に位置する森。アイリシオが謎の地下洞窟を発見した。調合の材料が採れたりする。
ひばり亭・・・・・・店主オハラ(女性)が経営する酒場。赤い屋根で、酒場にしては大きい土地と立派な建物と良すぎる立地が特徴。孤児三人組が幼い頃から世話になっており、酒が飲めない子供や若者も普通によくいる。アイリシオが働いていたが、洞窟探索のため一時的に暇をもらう。
ホルムの町・・・・・・ネス公国の西の辺境にあり、大河交易の中継地点になっているだけの小さな町。ホルム伯爵領に所属する。アイリシオたちが住む町である。
アイリシオ・・・・・・日記の書き手。孤児三人組の一人。女性。そこまで力はないが身軽で器用。別々の片手武器をそれぞれ両手に持って扱う戦い方をする。鍵開けトラップ解除なんでもござれ。親の記憶はほぼない。
バリス・・・・・・孤児三人組のリーダー格。男性。よく荷運びなどの力仕事を請け負って金を稼いでいる。色々な経験からか危機察知に優れる。両手武器を使うか片手武器と盾を装備するかそういう戦い方が多い。親の記憶はある。
チュナ・・・・・・孤児三人組の末っ子。女性。兄と姉から過保護にされ気味だけど自分の意思を押し通す強さはある。まだ戦えない。
※アイリシオ、バリス、チュナはみんな血が繋がってません。
ラバン・・・・・・風来坊の老人。男性。隻腕の剣士。孤児三人組やネルが幼いとき世話をしてくれたことがある。旅人なのでホルムの町にいるのは稀。この度一年ぶりに訪れて、しばらく滞在するらしい。片手武器しか装備できない。片腕義手なので盾も装備できない。旅慣れしてるのですごく頼りになる。
ネル・・・・・・雑貨屋の娘。女性。アイリシオとバリスの幼なじみ。捉え所のない性格。アイリシオよりは年上なので、たまにお姉さんぶろうとする。怪力。調合と料理が出来る。どちらもかなりの腕。
ランタン・・・・・・油を使用して明かりをつける道具。ランタン自体を消費することはない。地下である洞窟での貴重な光源。でも何故か洞窟内は明るいので使わなくてもなんとかなる。火をつけると怪物が寄ってきやすくなるので要注意。一度点けると出るまで保つ。探索の必需品。
油・・・・・・ランタンを使うごとに一つ使う消耗品。実はそれ以外にも使い道があったりする。ネルはこれを戦闘中に投げつけられる。探索の必需品。