廃都備忘録   作:御簾障子

2 / 2
 最後らへんは三人称です。ご注意ください。

 もしもこれを読んでいただいて、Ruinaに興味をお持ちになられたら、是非ゲームを遊んでみてください。本当に楽しいですから。実際のゲームは選択肢や分岐やそれらの条件が多いので、全然これと別物になることもあると思います。
 経験者の皆様はifルートみたいな感じでお楽しみいただければ幸いです。


強敵

王国歴298年 3月3日

 

 昨日怪物達を倒した部屋の先へ向かう。見えてきたのはがらんとした広間だ。とくに危険も感じず、広間の真ん中まで進むと、今通ってきた道から悲鳴が聞こえた。よく聞き覚えのある声だ。幼い少女が逃げてくる。妹のチュナだ! チュナを追って、異形の怪物が現れた! 今まで現れた怪物達とは一線を画していた。肌はより黒く口が裂け鉤爪を持っている。しかし一番の違いはそこではない。なんとその怪物は、棍棒と防具で武装していた。がむしゃらな殴打ではなく、思考の上での攻撃をしてくる。それだけでも厳しいところがあるのに、チュナを守る必要があった。怪物は狡猾で、武器も持たないチュナを優先的に狙った。かと言って私たちがチュナの方に意識を向けると、好機とばかりに呵成に打ち込んでくる。戦いは熾烈を極めた。幸いだったのは、チュナは戦えるほどには体は出来ていなくとも孤児生活で培った素早さと勘が、多少なりともあったことだ。やがて怪物は斃れた。死体がみるみるうちに干涸び、しなびてゆく。疲労困憊の体であったが、四人とも奇跡的に大怪我も無く戦闘は終わった。バリスがチュナを軽く叱っているのを横目に、私とラバン爺は怪物が背負っていたずだ袋の中身を物色した。怪物は、ずだ袋の中に古ぼけた武具や道具類を持っていたようだ。その中で、今でも使えそうなものを選ぶ。バックラー、革鎧、メイス、ロープを手に入れた。メイス、バックラーはこの中で使う人がいなかったため、ネルへのお土産に回すことにし、ロープは私が預かり、革鎧はラバン爺に着てもらうことにした。昨日替えたばかりで慌ただしくはあるが武器防具はより性能の良いものがあれば即座に替えるべきだ、とはラバン爺の教えだ。ついでに無手だったチュナに、間に合わせで今まで私が使っていた短剣を渡した。私は昨日レイピアを手に入れて短剣が一本余ったので、戦力低下にはならないからだ。

 

 途中蝙蝠に遭遇したが手早く撒いて、洞窟の入り口まで戻ってきた。そのとき、怪物達たちに襲われた! 待ち伏せだ! 襲ってきた怪物は今日初めて遭遇した黒い怪物でなく、土気色の昨日までに戦った怪物だ。それが二体。万全の状態ならば問題はなかったが、今は先程の襲撃で疲弊していた。だがある種死にものぐるいで戦ったからか、被弾はずっと少なく済んだ。そんな経験をしたからか、私は一皮剥けた気がした。また襲われては敵わないと急いで洞窟を出た。そういえば、今回バリスは殆ど怪我をしていなかった。武器を変えたから、バリスの立ち回りも、それに対する私たちの立ち回りも変わったからだ。もしも教えるならチュナには弓のように遠隔武器がいいかもしれない。私たちなら無意識的にチュナを守ってしまいそうだし、ならば元々守られるべき後衛としていてくれればいい。勿論本人の希望が第一だけど。そういうことをバリスと相談した。

 

 ついでに、洞窟に出てくる生物、怪物に仮称をつけようと思う。いちいち、「青いニョロニョロした生物」だの「土気色の怪物」だのと探索中呼んだり日記に書くのは面倒だからだ。この先まだ見たことのないものがいたらその時に仮称をつけようと思う。

 

青いニョロニョロした生物・・・・・・ニョロ

土気色の昨日までに戦った怪物・・・・・・土小鬼

今日初めて遭遇した黒めの怪物・・・・・・岩小鬼

やけに大きめだった蝙蝠・・・・・・大蝙蝠

 

とする。ニョロの命名はネル、他はラバン爺だ。

 

追記

 ネルに折角の日記なんだから探索以外のことも書きなよと言われてしまった。何も書くことがないので見た夢のことを書くことにする。実際にはこれを書いているのは4日なのだけど、夢を見たのは3日なのでここに書こうと思う。といってもそんなに面白い夢でもなかった。ただ闇の中で、私の名前を何度も呼ばれる夢。女性の声だった気がするが、周りの知り合いの女性の声ではなかった気がする。・・・・・・こんな感じでいいのだろうか? ネルに、ちゃんと書けたか判定するよと言われてしまっている。探索後に見せに行くのだが採点が怖い。

 

 

王都歴298年 3月4日

 

 チュナに気をつけてきてと重々注意されて家を出た。今日もバリスとラバン爺と一緒に洞窟へ潜る。そろそろ探索にも慣れてきて、案外洞窟は丈夫なものだと分かったため、明日からはネルと一緒に行きたいと思う。私とバリスとネル、そして引率のラバン爺。子供の頃の冒険ごっこがもう一度、今度は本物が出来るのだから。

 

 洞窟に入り、昨日戦った広間まで来た。その広間の岩陰に、人間の死体を見つけた。あの怪物たちに殺されたものらしい。だいぶ前に死んだのか、すでに白骨化している。荷物などはほとんど残っていないが、そばにはノートが一つ落ちている。この死体の生前は旅人だったのだろう。前半には、ほとんどボロボロで読めないが旅の記録らしきものが書かれている。中盤は読めたものではない。最後に、しっかりと読めそうな箇所もわずかにある。

『ついに、予言にあるアーガデウムを見つけた。この知らせを持ち帰り、仲間達に警告せねば。あれを人々に見せてはならぬ。触れさせてはならぬ。だが、私はもう死にかけている。おぞましき夜の鬼たちに傷つけられたのだ。使命を果たせずに倒れるとは、口惜しい。もう一度、地上の太陽を見たかった。せめて、この記録を・・・・・・』

 中の文章はここで途切れている。また、裏表紙をめくったところには「エリオ」と署名がしてあった。夜の鬼とは、土小鬼、岩小鬼のことだろうか? そして、アーガデウムとはなんだろう。いやに重要そうに書かれている。バリスはこれを覗き込んで、本当に宝がありそうだ、とかなり嬉しそうだ。そのバリスを、ラバン爺が危険も相応にあるだろうと諌めている。だが期待できるというのは否定しなかった。もしかしたら本当に、一攫千金が望めるかもしれない。オハラさんに恩を返せるだろう、バリスに楽をさせてあげられるだろう、そしてチュナに広い道を示せる。勿論そんなにうまくいくわけではないとは分かっているが、期待を胸に抱きながら先へ進むことにした。

 

 広間から東西に伸びる細い通路を進むと、途中で行き止まりになっていた。よく調べると、大きな岩が通路を塞いでいるようだ。このままでは先に進めない。ツルハシでもあれば、岩を崩せるだろう。しかし私たちにはツルハシもなければいつもの力技要員、ネルもいない。八方塞がりで、とりあえず違う道に行ってみることにした。

 

 広間から南北に伸びる広い通路を進む。西の壁からは水が染み出している。道は段差が激しい。歩いている途中、頭上で物音がした。落石だ! 幸いにして身軽な者ばかりだったのでもろに当たることはなかった。いっそう気を引き締めて進むことにする。その先では、大蝙蝠の群生地があり、襲ってくる大蝙蝠たちを切り捨て追い払った。周囲の壁には燐光を放つ苔やカビが生えている。カブラ苔と緑光黴を採取した。かなり高品質だ。これらは薬の材料になる。ネルは調合が出来るので、持っていって薬を作ってもらおうと思う。

 

 道なりに進むと、1日に初めて土小鬼と遭遇した場所に出た。そこから一度入り口側に通路を進み、行ったことのない方向に進んでみることにした。すると少し開けたところの壁に、ツルハシが突き刺さっているのを見つけた。残念ながら私たちの誰もそれを抜くことは出来なかった。びくともしない。だが確実にネルなら抜くことが出来るだろう。彼女の剛腕は幼なじみとして色々と実感している。ここも先程の塞がれている場所と合わせて、明日ネルが来たとき回ることにした。

 

 曲がりくねった通路を進む。出てきたニョロを慣れたものと鎧袖一触して行くと、遠くに水が流れる音がする。その先には、崖があった。その向こうには、水が薄く張った中に、黒く三角形をした柱のようなものが建っているのが見えた。ロープを降ろして、それを伝って降りるのがいいだろうとラバン爺が言った。確かに壁面はつるつるとしていて、素手で上り下りするのは無理そうだ。ロープを降ろした。解けたり切れたりしないよう、ラバン爺から色々と教わって結び、崖を降りた。

 

 目の前には地底湖が広がっていた。地下水脈が高い場所から注ぎ込み、滝を作っている。そして少し離れた水面から建造物のようなものが突き出ている。漆黒の石で作られた、四角錐型の柱だ。何かの記念碑か、墓石のようにも見える。ような、というのはここに住み着く土小鬼や岩小鬼がこんなものを作れるのかという疑問があるからだ。湖の波打ち際は遠浅で、石柱まで足を取られず歩いて行けそうだ。足首を水にひたしながら、よく観察しようと黒い石柱に近づく。不意に、周囲の温度が下がった。体に霜が張りそうだ。同時に、黒い石柱の上に影があらわれた。甲冑をまとった戦士のかたちをしている。掠れおどろおどろしい声が、それからした。

「見る・・・・・・な・・・・・・」

「触れる・・・・・・な・・・・・・」

「過去をあばこうとする者・・・・・・全てに・・・・・・死を・・・・・・」

 兜の下からあらわれたのは、骸骨の貌だった。死霊戦士が襲いかかってきた! 死霊戦士は骸骨の体に、古びた盾と片手持ちの長剣、軽鎧と兜、ボロボロのマントと片方だけの靴をまとっている。機敏な動きに骨のはずなのに重い斬撃。骸骨故にバリスの弓も通じにくく、視線の先がわからないため下手に背後に回れない。おまけに足首までとはいえ足場は水に浸かっている。恐ろしいほどに悪すぎる条件だった。始めは死霊戦士は私たち三人の中で一番の痛打を出すラバン爺を狙っていた。だが私が、死霊戦士の目の奥が急所だと見抜きそこをバリスが射抜くと、警戒対象が変わったのか、一息に反転し、私を切り捨てた。予想外のその攻撃に、私は上手く反応出来ず、その一撃で動けなくなってしまった。致命傷ではなかったが、この戦いの間には復帰出来ないと悟ったのだろう。死霊戦士は次の狙いを、己の急所に痛痒を与えられるバリスへ移した。バリスも何度か攻撃を避けたものの、ついには一撃を食らってしまった。だがその隙にラバン爺が傷薬を使い回復し、死霊戦士の攻撃を避け、最後の一撃を放った。死霊戦士はもう一度、「見る・・・・・・な・・・・・・触れる・・・・・・な・・・・・・」と言い、姿は薄れ、やがて消えた。敵の気配はしないそこで、しばらく休んで動けるくらいには回復した後、私は石柱の表面に手を触れた。漆黒なのに、青白い光に照らされてるかのように光沢がある。岩肌には、びっしりと文字が刻まれている。自分には読めないが、おそらく古代の文字だ。バリスもラバン爺にも読めなかった。さらに調べると、黒い石柱の真ん中ほどの高さにひびが入っている。中は空洞のようだ。中に、入れるのだろうか? だが今は満身創痍だ。まともに戦えるのはラバン爺しかいない。この中を調べるのはやめておくことにした。周りを見渡すと、滝の反対側に光が刺しているのが見える。もう一つの出入り口だ! この状態で怪物たちの中を掻い潜るのはぞっとしない。これ幸いとそこから街に帰還することにした。

 

 流血沙汰ではない(斬撃は食らったが武器で一応防御したのでほとんど衝撃だけだった)が、ボロボロの私とバリス、そしてその私たちに肩を貸していたラバン爺を見て、チュナが「危険ならやめてって言ったじゃない!」と雷を落とし、その怒りっぷりが凄まじく、同じように叱りにきたネルさえチュナを宥め始めるという珍騒動が起こった。結局私たち二人は、無茶しない、危なくなったら逃げるという約束を結ばされ、達成感に溢れるチュナを見て、世知辛さを味わうのだった。

 

石柱であらわれた骸骨戦士・・・・・・死霊戦士

 

とする。骸骨と死霊、騎士と戦士で意見が分かれたが、最後に消えたことから、骸骨が本体というよりも死霊じゃないか、となり死霊。戦い方と装備が、騎士というよりも傭兵に近いものだったため、戦士に決定した。

 


 

 

 

「アイリシオ姉さん・・・・・・ねえ、ちょっと起きて」

 夜、疲れ果ててベッドに潜り込み、泥のように眠りについた。

「起きてってば、早く。起きないと蹴飛ばすよ」

 先の戦闘の疲労でまだ寝ていたいが、蹴飛ばされては堪らない。チュナはか弱く見えるが基本的に有言実行であり、意志の強さは折り紙付きだ。急いでベッドから起き上がった。生まれてから長年の孤児生活で、夜に眠かろうが行動することには慣れている。寝ぼけ眼を擦りつつ部屋を見渡すと、バリスもチュナに起こされていたようだった。

「外がヘンなの。なにか起きてるみたい」

「うるさいな・・・・・・どうでもいいじゃないか。オレたちには関係ないだろ。静かに寝てろよ」

「でも・・・・・・」

 そのとき、窓を破って大きな影が飛び込んできた!

「な––––なんだ、こいつ!」

 大きな翼を持ったその影は、不気味な声で囁くように言った。

「・・・・・・・・・・・・見つけた・・・・・・」

 怪物の脚が、チュナの体を鷲掴みにする! 慌てて短剣を握って走り寄ろうとした。

「きゃっ!?」

 チュナを掴んだまま、怪物は空から飛び去っていった! 私もバリスも間に合わず、チュナは連れ去られてしまった。月明かりの中一瞬見えたその姿は、人間の、腕があるはずの部分から猛禽類の翼が生え、足があるはずの部分からは鉤爪のついた鳥の脚があった。まごうことなき異形。そうだ、最近私たちはそういう人のようで人ではない異形を見慣れていたはずだ。夜種。怪物たちは自分たちのことを夜種と呼んでいた。

「てめ、何しやがる!? おいっ、ちょっと待て・・・・・・クソッ!」

 いや、そんなことを考えている場合ではない。すぐに追わなければ!

「おいっアイリシオ、行くぞ。奴を追いかけるんだ!」

 飛び去った方角は・・・・・・広場や、ひばり亭がある方だ! 私たちは得物を引っ掴んで駆け出した。

 

 町には怪物たちの気配が満ちている。夜闇の中に、生臭い息づかいを感じる・・・・・・。息を切らして走り、ひばり亭に着いた。ひばり亭の前で、ラバン爺が夜種たちと戦っている。

「おう、お前たちか! 手を貸してくれっ」

 焦りを感じながらも、危なげなく一体ずつ屠ってゆく。ついにそこにいた夜種たちを全滅させた。

「ふう、助けられたな」

 ラバン爺が息を整えながら話す。

「北の森から奴らが湧き出してきてな、あちこちの家を襲っているようだ。例の洞窟から・・・・・・としか思えん」

「そんな事はどうでもいい、でかい鳥の化け物を見なかったか!? チュナがさらわれちまったんだ」

「何だと・・・・・・そいつは放っとけんな。先ほど、それらしい影が広場の方に飛んでいったのを見たぞ」

「広場の方、だなっ」

 ここの戦闘でどれだけの時間を使ってしまったのだろう。短かった気もするし、かなり時間をかけてしまったようにも思える。気ばかりがはやる。ラバン爺のその言葉を聞いて、バリスと広場に向けて走る。ラバン爺が後ろから私たちを追いかけてきた。

「何があるかも分からん、人数は多い方がいい! 儂も手を貸そう、ついて行くぞ」

 助かる、ありがとうと聞こえたかどうかも考えずにただラバン爺に言葉を投げて走る。

 

「そりゃあ!」

 突然の攻撃を回避した。抉り込むようなメイス、下手人はネルだった。

「あっ、ごめん! 怪物たちがまたきたのかと思って」

 普段ならここでからかいや文句の一つもくれてやるところだが、今は余裕がない。ラバン爺とバリスに周囲を警戒してもらって、その間に手短に状況を説明した。

「チュナが!?」

 頷いて、鳥の夜種について聞こうとしたとき––––ばさりと、大きな羽音がした。はっと外を見ると、翼を広げた怪鳥が、広場の中心の棒のような建造物––––昔誰かがオベリスクと言っていた気がする、それのてっぺんに止まっていた。その様は驚くほどに不気味で、恐ろしさを抱かせるものだった。いや、そんなことよりも、チュナはどこだと睨みつけると、怪鳥はその翼でゆっくりとオベリスクの根本を指し示した。目を向けると、そこにはチュナが倒れている!

「チュナ!」

バリスが叫ぶ。そのままチュナを助けに駆け寄ろうとするが、怪鳥に睨めつけられて動きが止まる。怪鳥はそれを見やると、歌うように謳うように語り出した。さながら劇の語り部のように。

「よくぞ目覚めた、独り仔よ。我らは汝を待っていた。遠き調べを聞くがいい。河岸をさまよう独り仔の、帰りを待ち侘ぶ地の声を。此岸は汝の故郷にあらず。参れ奈落のこつぼへと。始祖のくびきを砕くがいい––––!」

 


 

 

 

 怪鳥が襲いかかってきた! 怪鳥は頭から飛びかかって来て、衝突の寸前に反転すると、その鉤爪を振り下ろす。やっ! という掛け声で片手に装着したバックラーでそれを弾いたネルは、おかえしとばかりに逆の手のメイスを振るう。しかし怪鳥は攻撃が決まらなかった時点で飛びすさっており、重い音を立てたメイスは空を切った。その隙をついてもう一度攻撃体勢に移ろうとした怪鳥に、一本の矢が突き刺さる。バリスだ。怪鳥の不気味な、しかし歌のようにも聞こえる悲鳴が響き渡る。それを聞いたネルは体をふらつかせ、膝をつく。即座にラバンがネルの側に駆けつけ、怪鳥の狂爪を凌ぐも、細かい傷がその老体に浮かんでしまう。しかし揺らぐことなく立ち塞がり続け、眠ってしまったネルには傷一つない。更なる攻勢を阻止するために、バリスが何本か射るが、半分以上は怪鳥の体に届く前に避けられ、その鉤爪で弾かれる。だがこの稼いだ時間でネルの睡眠状態は解けた。それを見た怪鳥は狙いを、自分への有効打を持つバリスへと変える。遠距離武器のためネルとラバン二人から少し離れてしまっており、二人の援護は間に合わない。そして弓という武器の特性上、短弓であろうとも、近づかれたら不利であることは避けられない。それを確認した怪鳥は、バリスの首を確実に薙ぐために、一直線に、最高速で飛びかかる。その狂爪がバリスへ届こうとするそのとき–––––––––怪鳥は頭上からの強襲を受け、地に堕ちた。屋根の上に潜んでいた、アイリシオの手によって。

 戦闘がこの局面に変わるまで、飛び回る怪鳥を叩き落とすこの瞬間のためだけに、アイリシオは一切戦闘に参加せず、じっと身を潜めていた。仲間たちが傷ついてゆくのを眼前にしてなお、アイリシオは怪鳥が彼女の存在を忘れるまで耐え忍んだ。一切手を出さなかった。このある種の冷徹とも言える冷静さと理性は、今までの彼女の人生が作り上げた。そして他の三人も、それが出来ると知っているからこそ、その役目を任せた。この作戦は、アイリシオ、バリス、ラバンが合流し、広場へ駆けていた道中で練られたものである。それ故ネルは聞かされていなかった。しかし何も慌てなかった。何故なら、ネルは他の三人のことをよく知っていて、そしてそれを信じ切っただけである。アイリシオが意味もなく逃げることはなく、バリスが位置どりを間違えるわけもなく、万が一それらがあったとしてもラバンがそれに気が付かないはずがない、と。

 かくして地に堕とされた怪鳥は、レイピアに右翼を、硬い地面に縫い留められ、アイリシオの右手の短剣で、心臓を突かれた。瞬間、怪鳥は馬乗りになっていたアイリシオを振り解き、吹き飛ばした。それを咄嗟に受け止めたバリスを気にも留めず、怪鳥は大小様々な傷から血を流しつつ、緩慢な動作で、もう一度始めのように、オベリスクのてっぺんに止まった。

「––––我らは、この地に呪いをかける」

 謳う。血を吐きながらも、堂々たる様で。

「選ばれた子らは石と化す。畑には毒の穂が実る。家畜は異形の仔を産み、戦士は狂い互いに争う」

 一息の間を開けて、ぐるりと見渡す。

「救われたくば、参れ奈落の深みへと。汝がくびきを砕かずば、呪いもまた解けることなし・・・・・・」

 そして怪鳥は、消えた。

 

 夜明けを迎えた頃には領主の兵が、夜種たちを追い払った。汚れた血が石畳にこびりついていた。

 

 チュナの目は、覚めない。




注釈
カブラ苔・・・・・・傷薬系統の基本となる素材。
緑光黴・・・・・・治療薬系統(状態異常回復)の基本となる素材。

ロープ・・・・・・主に高所の上り下りに利用する道具。基本一度設置したらその後の移動経路としてそのまま置いておくため、大体低めの崖を上り下りするための長さを一回分として、五回分の長さがワンセットとして売られている。ちょうどいい長さに切って使いましょう。使う機会は少ないが持っていなければ進めなくなることがある、探索の必需品。

ツルハシ・・・・・・壁のヒビを拡張したり岩を砕いたり採掘したり宝物を掘り出したりするための道具。無くて進めなくなることは少ないが、あった方が断然得。普通はロープより使用目的は絞られるはずなのに、地下である洞窟内という特殊空間で万能器具と化す。十回掘ったら使い物にならなくなってしまうが、その十回は、厳密に言えば掘った回数ではなく成果があった回数であるため、実際はもっと長く使えるお得仕様。探索の必需品。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。