西暦2000年 南極にて
世間はミレニアムイヤーでお祭り騒ぎとなるはずだった。その記念すべき年にこんな大事故が起きてしまうとは。
そんな事をぼんやりと思い浮かべながら、一人の男は嵐の吹き荒れる雪の大地を踏み締めていた。
雪の大地と言っても、今はそれほど白くない。辺りに散らばる灰色の残骸と所々に垂らされた赤い雫があるばかりである。本来なら晴天であるはずの天気は雲が遮っており、オレンジ色の光が南極を淡く照らしている。
「ハァ……!」
歩いて少し経つと、男は崩れ落ちてしまう。吹雪が傷に染み渡る痛みでなんとか意識を繋いでいるが、長くは持たないだろう。
それほどまでに今回の事故で重傷を負ってしまった。皮膚は溶け、赤い肉は茶色く変色。腹にも一つ鉄骨の破片が突き刺さっている。肋骨も4本程折れているであろう。
うつ伏せの状態から、ぐるんと身体を回転させ、仰向けになる。
すると視界の奥に二つの柱が見えて来る。と言っても普通の柱ではない。橙色を灯した光の柱だ。
あれが事の発端。あれが暴走したため、男は今蹲る他無い。
「ちく……しょう…ッ!」
ふと手を見やれば、爛れた黒いグローブは真っ赤な血で染まっており、手首に付けられた腕時計もひび割れて使い物にならなくなっている。大事な娘からのプレゼントを台無しにされ、男はひどく心の底が燃え上がっている。
その怒りが男を再び立ち上がらせた。息も絶え絶え、頭痛も止まない。満身創痍とはこの事だろうなと考えながらふらふらと身体を起こす。
「……!」
その執念の意識が彼に見させる。それはひとりの少女。瓦礫に倒れ伏している我が娘。
思わず男は走り出す。溶けた両足で、右脚を引き摺りながらも走る。痛みなどとうに忘れた。男にはそれほど衝撃的だった。
近くに寄り添い状態を確認すると、それはある一点を除けばとても良かった。恐らく瓦礫が防護してくれたのだろう。娘には男の様な溶けた箇所もなく、肉が露出している所もない。だが腹に、三日月上の大きな傷が出来ていた。幸い命に別状はない程だが、それでも一生残るであろう大きな傷だ。
男は憤怒する。大事な娘にこんな仕打ちをする巨人に、果てには自分の組織、そして世界まで。
そんな叫びが、彼に更なる力を与える。自分の事などどうでもいい、娘さえ助かればそれで良いのだ。娘を大事に抱え、一歩一歩前へと進み出す。
怒りと悲しみが、男を動かす。男は電気信号ではなく、思いで動く。
いくつ歩いたかも分からぬ。だが目の前に一つ、一人用の緊急PODが鎮座している。
男はPODに娘を移し、その頬を優しく撫でる。
「お父……さん?」
娘が目を開く。声を発する。
それに男は笑顔を浮かべる。
だが無情にも、PODの蓋は締まり、世界は閉ざされる。
それと同時に、激しい爆発が親子を襲う。
爆発の波に意識を流される中、彼が最後に見たのは、初めて抱いた時の、娘の無邪気な笑顔だった……
男の名は葛城 ただひとりの父親である。
エンディング
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バッドエンド
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ビターエンド
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ハッピーエンド