100秒で分かるアナザーガンダムの黒歴史 作:カブキガンダム
アンサイクロペディアを読むときのような寛容な心で御覧ください。
池野マサシの遺書を隠蔽し、高梅シンジをガンダムWの立て直し役として馬車馬のように働かせた、鬼のような会社こそサンライズ。
サンライズ上層部は1994年のGガンダムと1995年のガンダムWに続く、新たなアナザーガンダムの製作に向けて人柱を探していた。
そこで、サンライズ上層部が目をつけたのは、やはりGガンダムの立役者である今山であった。
ところがギアナ高地で再度の監督修行を終えた今山は、強かさを身につけていた。
懐から自爆スイッチをチラつかせ、サンライズ上層部を牽制したのである。
今山がラプラスの箱の中身を知っているのかもしれない、と恐れおののいたサンライズ上層部は、今山に手を出すのをやめた。
代わりに……。
「ガンダムWを頑張って立て直してくれている高梅監督には、褒美に次の監督も任せてあげよう♡」
「!!!!?」(高梅の声にならない悲鳴)
それって褒美というより刑期延長ですよね?
そんな高梅の抗議は黙殺された。
これが1995年11月の出来事である。
既にゴルドランの次の勇者ロボであるダグオンは、別の監督の手によって製作が始まっていたため、高梅をガンダムに専念させれば大丈夫だとサンライズ上層部は判断したのだ。
こうして、高梅はガンダムWの立て直しをしながら、次作ガンダムXの立ち上げも行う羽目になったのだ。
もちろん、元々高梅が担当していたゴルドランの監督業も継続したうえでの話である。
実は高梅シンジは量産型イノベイドの5人組から構成された集団であったが、この時期に実に5人中3人が過労死したと言われている。
ガンダムXの世紀末でヒャッハーな舞台設定が、何もかも滅んでしまえという高梅シンジの心境を元にしていることはあまりに有名である。
あと、どさくさに紛れてバンダイから、ツインバスターライフルを超える武器を次作主人公機に装備させるように要求があった模様。
ツインバスターライフルですら強すぎて扱いづらかったのに、それ以上の主役機なんて一体どうやって活躍させろと?
多忙により抗議の暇も取れなかった高梅シンジは、時代のうねりの中へと流されていくのであった……。
なんやかんやで無事に新番組ガンダムXも放映を開始した。
戦闘シーンは決して派手とは言えないものの、崩れているとも言えないレベルのものを安定して生み出した高梅の執念おそるべし。
熱いパトスで突き進むガロードと、それを見守る格好良い大人たちの構図は、一定の人気を確保することに成功していた。
……ところが。
ようやく番組が軌道に乗ってきた、番組改変期の10月。
テレビ朝日側から、別の番組のためにガンダムXの放映期間を短縮したいと言われてしまうのであった。
激しい交渉の末に、土曜の朝に1クール分の放映枠を確保した高梅監督の目は……それでもまだ死んでいなかった。
サンライズ、バンダイ、テレビ朝日の3社に命運をもてあそばれて尚、高梅シンジは戦意を失っていなかったのだ。
第3クールと第4クールに予定していた展開をすべて詰め込み、最終クールで怒涛の追い込みを見せたのである。
ここまで追い詰められた高梅が腹に括った最後の槍として信ずるのは……自身の最も得意とするメタ芸であった。
マイトガインの三次元人やゴルドランの数々のメタ発言をつくりあげてきた高梅にとって、もはやメタ芸は自身の一部ですらあったのだ。
タカラに無断で勇者ロボに「リ〇ちゃん人形」を出してしまった高梅に、もはや恐れるものなど無かった。
15年後で言うところの「もう何も怖くない」である。
この頃には既に謝罪用スーツを持ち歩く現在の高梅監督のスタイルが確立していたと言われている。
話をガンダムXに戻そう。
まず、人間が宇宙に出ることがニュータイプの本質だとするコロニー軍を出し。
次に、軍事能力こそがニュータイプの本質だとする新連邦軍を出した。
この2つの存在は、初代ガンダムで言われたニュータイプの側面をそれぞれ抽出したものである。
だが高梅は知っていた。
どちらもが、ニュータイプの本質足りえないことを。
今山の腕の中で息を引き取った富田が、初代ガンダムを創った時に想い描いたニュータイプとは……次の時代を作る若者たちへの希望の象徴だったのだ。
(ただし、『逆襲のシャア』を作ったころの富田ヨシユキは、既にニュータイプへの幻想を失っていた模様)
高梅はデウスエクスマキナ的な存在である「ファーストニュータイプ」を作中に登場させ、ガンダムX最終回にて答え合わせを始める。
宇宙に進出することも、超能力を持つことも、ニュータイプの本質ではない。
では、ニュータイプとは一体?
それは……。
特別な能力や生まれなんて無くても、熱い思いで未来を切り開き続けた誰かさんこそが、実は誰よりも富田先生の想い描いたニュータイプを体現した存在だったのではないか。
そう仄めかして、語り部は話を終える。
こうして、1クール分の放映短縮を受けたとは思えないほど鮮やかに、『機動新世紀ガンダムX』は全37話の幕を引いたのであった。
なお、「さらば黄金勇者」という言葉が一部の視聴者の脳裏をよぎった……かどうかは定かではない。
この確執もあり、テレビ朝日は20年にも渡ってガンダムの放映権を手放すこととなるのだが……それはまた、別の話である。
ガンダムXに関する仕事も終わり、高梅シンジは富田ヨシヒコの墓前を訪れていた。
頭部と片腕を失った状態でもなお直立する墓石ガンダムは、妙な神々しさを兼ね備えていた。
……と、何の偶然か、高梅シンジは今山ヤスヒロと鉢合わせた。
何となく頷きあい、二人はともに献花をして墓前で手を合わせた。
沈黙が墓石ガンダムの前に流れた。
先に口を開いたのは……今山だった。
「
テレビ朝日のせいだろアンチクショウめ。
そう高梅は思ったが、とりあえず黙って今山に喋らせた。
すると、今山は夢の続きを語ってくれた。
――分からんか? あやつがガンダムしか見ていないからだ。ふぅん……とんだバカ者よ……。
「でも
愛弟子であった今山にだけは分かる何かが、あったのだろう。
しばしの黙祷ののち、どちらからともなく、二人は腰をあげた。
当分、この墓石ガンダムの前に来ることも無いだろう。
「そうだ、この後ガンダムWの劇場編集版の内覧をするらしいんだけど、一緒に来ないか?」
「なんでTV版の立て直しをやった俺がそれを知らされてないんだ??」
そんな微妙に腑に落ちない思いを飲み込みつつ。
まぁいつもの事か、なんて言いながらも、二人の男は墓地を背に歩き去った。
そんな男二人を、富田の墓石は背後の満月とともに静かに見送ったのであった。
――月はいつもそこにある