正統派ディクロニウス、マーガレットちゃん   作:ちゅーに菌

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初投稿です(レズは嘘つき)









マーガレット

 

 

 

 

 あるとき、角の生えた子供が生まれる奇病が日本で発生した。そのワクチンが開発されるまでの間、WHOが全世界に出産の禁止を通達した程だ。

 

 

 角の生えた子供は成長すると、超能力で人間を殺し始める。だからと言って子供を生まなければそれはそれで人間は滅んでしまう。

 

 

 その時期、確かに人類は滅亡へと向かっていた。

 

 

 ところが、名前も知らない博士があっという間にワクチンを開発。人類の救世主として、世界中から絶賛を浴びた。人類は当然のように滅亡の危機を乗り切ったらしい。

 

 

 それは既に過ぎ去った過去の話。結局、ワクチンを投与され、人間(ヒト)にも怪物(カイブツ)にもなり切れない中途半端な化け物がいたという事実が残るだけだ。

 

 

 世界に広まる前に終息したため、極少なく人間から突然変異した化け物は――"二觭人(ディクロニウス)"と呼ばれた。

 

 

 

 

 ――だから私はここにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます――私の可愛い手」

 

 ゆったりとして、穏やかな声に導かれるようにその女性はそっと目蓋を開けた。

 

「ふふっ、やっと起きましたね?」

 

 目を覚ました女性が声の方向に目を向けると、それに寄り添うように半身を起こして顔を覗き込む一糸纏わない女性の姿がある。

 

 透き通るような白髪の長髪で、両目の瞼を閉じて微笑む様は誰が見ようとも絵画のような美女であった。コロコロと笑う様はとても楽しげで、やや悪戯っぽい笑みに見える。

 

 しかし、それ以上に印象的なのは、本来ならば多くの人間にある筈の両腕が根本から欠損している事であろう。

 

「まだ、寝惚けているんですか?」

 

 未だ感じている微睡みと共に何気なく腕のない女性を彼女が見つめていると、女性は何故かくすくすと小さく嗤い始める。

 

 その様子はきっと腕があれば、片手を口元に寄せて笑うのだろうと幻視するほど様になっている。

 

 彼女はそんな腕のない女性に小さく肩を竦めて困ったように笑うと、女性と同じように半身を起こし、枕元の床頭台に置かれたカーディガンを伸ばした手に取り、女性の肩に掛けた。

 

 

「おはよう、白亜」

 

「ええ、おはようございます。マーガレット」

 

 

 腕のない女性は"白亜(はくあ)"と呼ばれ、寝起きの彼女は"マーガレット"と呼ばれていた。

 

 互いに気の置けない以上の関係に見え、裸で同じベッドから目覚めた事からもそれは確かであろう。

 

 身体を起こしたマーガレットは足をベッドの脇に向けるように回転させて布団から出て――その両足の大腿部から先が存在しない事が誰の目で見ても明らかとなった。

 

 直ぐに慣れた手付きでベッド脇の足元にあった装飾義足に見える質感の義足を大腿端に付けると、まるで魔法のように常人の足と差異がまるでないようにそれらは動く。

 

 そして、立ち上がったマーガレットが白亜に身体を向けると――彼女の身体が1mほどの高さまでポルターガイストか何かのように浮き上がった。

 

 白亜はまるで見えないハンモックに乗せられているようだが、それをさも当然のように受けてより、むしろマーガレットが浮かせやすいようになのか、多少身体を屈めている様子が見られる。

 

 そのまま、部屋の隅にある洋服箪笥の前まで移動し、近くにある椅子に白亜を下ろすと、壁に掛けられた姿鏡にマーガレットの姿が映る。

 

 女性にしては大柄な170cm近い背丈、膝よりもあり毛先が水平に切り揃えられたストロベリーブロンドの長髪、ピンクに近いルビーのような淡く澄んだ大きな瞳、それらを雪のように白い肌と虫も殺せなそうに思える柔和な顔立ちが引き立て、さながら物語のお姫様のような現実味のない美女がそこにいた。

 

 しかし、その幻想的な容姿をより一層際立てるのは、まるで小さな動物の耳のようにちょこんと生えた二本の白い"角"であった。それは実際、滑らかな骨のように見え、人間とは別の存在であることを感じさせる。

 

 また、年齢は高く見積もっても20代前半程に見え、やや童顔と言える顔をしている。そのため、背は比較的高いが、美女というよりも美少女のように思えた。

 

 そんなマーガレットは、そのまま洋服箪笥を開けて自身の着替えを始め、それと共に白亜の着替えも平行して行い始める。

 

 するとマーガレットが己の手で洋服箪笥から自身の服を引っ張り出すと共に、まるで魔法のように全く触れていない白亜の服が取り出され、着せ替え人形のように服を着せている。その間、二人は他愛もない会話を交えており、どうやら両者にとっては珍しくはない光景らしい。

 

 マーガレットは下着を身に付け、首元に黒いリボンの付いた清楚な印象を受ける長袖の白いブラウスを身に纏い、腰部がコルセット状になっているハイウエストの暗色のスカートを履き、マーガレットの線の細い体つきながら豊満な身体が強調された。

 

「さて……次の仕事はどんな内容なの?」

 

 自身の左右に生える角に青いリボンを器用に結びつつ、マーガレットは白亜にそう問い掛ける。

 

 それに対し、白亜は暫く考えるように小首を傾げてから悪戯っぽい笑みを浮かべると、楽しげにポツリと呟いた。

 

「では、()()()()を兼ねて少しパーティーに行ってみませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(パーティーの招待状ねぇ……)

 

 岬に建つ城のような場所の敷地内に自身が乗って来た自動車を停めたマーガレットは、座席に座りつつ、ダッシュボードに差し込んでいた招待状を抜き取るとその内容に目を通す。

 

 そこには語るほどでもない御機嫌取りと、参加意欲を煽るような内容が語られるばかりで、どうにも信憑性の薄い内容に感じた。具体的に言えば、たまに迷惑メールとして来るような歯の浮くような内容に片足を突っ込んだような有り様である。

 

 普段のマーガレットならば、そのままゴミ箱に放り込んだことは間違いないが、他でもない白亜が渡して来た物のため、仕方なく招待状に従ってこの岬の館まで来たのだ。

 

 見れば正面玄関口の前にメイドが立っているため、彼女に招待状を見せようとマーガレットは車から降りる。

 

(あら……?)

 

 その直後、自身の車の隣に横付けして来た車に目を奪われた。

 

 それは誰が見ようと明らかに高いと思えるスポーツカーであり、そこまで車には詳しくはないマーガレットにとっても目を引くモノであったのだ。

 

(うわ、ランボルギーニのムルシエラゴじゃない……。今でも2000万ぐらいよね? あんな高い車買う奴の気が知れないわ)

 

 ちなみに内心で金持ちを毒突くマーガレットが乗って来た自動車は、新車でも250万程の中古車である。彼女の趣向は割りと庶民的らしい。

 

 どんな成金野郎が乗っているかと思い、面を拝もうとランボルギーニの運転席から出てくる人間を眺め――それが190cmを超えた背丈の女性であったことにまずマーガレットは驚く。

 

 背丈に続いて目に入ったのは揃った前髪に足元まである烏の濡れ羽色の黒髪。更に山羊や蛸にすら思える四白眼が印象的で、あらゆる意味で恵まれ過ぎた体格をしたスーツ姿の女性だったのだ。

 

(何あの形良くてでっかいの……あの背であのスタイルって奇跡じゃないかしら……?)

 

 特に彼女の豊満という言葉で表すには惜しい程のバストには、同性であるマーガレットも極力視線を隠しつつも横目で見てしまうレベルである。

 

 ちなみにマーガレットもかなり羨望を集めるレベルではあるが、ランボルギーニの彼女と比べれば、まだ常人に見えてしまうであろう。

 

(…………でも()()ニオイがする。パーティーって……まさか殺し合いの暗喩じゃないわよね?)

 

 マーガレットは内心溜め息を吐き、自身の服に目をやった。他でもない折角着てきた他所行きの服である。血で汚れると中々落ちない上、臭いまでつく。

 

 そんな事を考えていると、ランボルギーニの女性は降車するなり、掛けている眼鏡に手をやると、キリリとした表情で城を見つめてた。

 

「……フヒッ」

 

 すると突然、何故か彼女の表情が破顔した。その表情はマーガレットが見ても明らかに卑猥な事を考えているとわかるほど分かりやすい蕩け顔である。

 

 マーガレットの中で彼女への警戒度が引き上がり、近付きたくない人間にカテゴライズされ――。

 

「ウヒョ」

 

 直接、無情にも彼女が次の視界に捉えたのは、他でもない近くにいたマーガレットであった。

 

 彼女のタコか山羊のような四白眼に見つめられ、マーガレットは猛烈に帰りたい衝動を覚え、パーティーに参加すらしていない段階で後悔を始める。

 

「ねぇ♡ こんにちは。君も今日のパーティーに招待されたのかな?」

 

(うわきた)

 

 そんなことを考え始めたマーガレットの事など露知らず、彼女は笑みを浮かべつつ、マーガレットの目の前まで来た。更に明らかに口説くような言動を取り始めていた。

 

「ねーねー、その服サ。童貞を殺す服って奴だよねぇ? 背高いのに似合ってスゴいなぁ!」

 

 "君、可愛いねぇ"等と言いつつ一方的に会話を始め、非常に楽しげな目の前の女性。とりあえず、マーガレットは相槌打つことでそれとなくその場を乗り切る事にした。

 

 ちなみにマーガレットの服装はもっぱら白亜がネットで注文したモノをそのまま着て欲しいと言われるため、特にマーガレットの趣味ではないが、好きで着ていないかと言われればそういうわけでもないため、褒められて悪い気はしない。

 

 そのため、彼女の話をとりあえず最期まで聞くことにしたのである。

 

「これ私の連絡先、今日は仲良くしようねぇ。あたし紅守黒湖っていうんだぁ。黒湖って呼んでネ♡」

 

 最終的に自己紹介よりもやや先に渡された名刺には――"紅守(KOMORI) 黒湖(KUROKO)"という名前が書いてあった。

 

 それを見たマーガレットは何か見覚えがあるような気がしたが、そこまで大切な事でもないため、直ぐに思考の外に追いやる。

 

(……コウモリ? 芸名?)

 

 それよりも再びマーガレットは自身の事を棚に上げつつそんな事を思う。無論、マーガレットの名前は偽名であり、その容姿は日本人離れどころか人間離れすらしているが、生粋の日本生まれかつ日本育ちの日本人だ。

 

 加えて、何故か黒湖が自身の胸の谷間に手をやると、そこから一輪の花が現れ、"お近づきの印に"等との事で手渡された。

 

 へし折りたい衝動に駆られるマーガレットであったが、よりにもよって白のマーガレットの花だったため、とても複雑な気分になりつつとりあえず受け取る。

 

 その時、片手に持っていた招待状の中身が少し露になり、バニーガールがカメラ目線で大量に写った写真が見えた。

 

(ビアンか……)

 

 今朝、自身がどちらの性別の人間と同じベッドから起きたかは棚に上げつつ、マーガレットは別の警戒を強める。

 

 とりあえず、黒湖を先に城の中へ行くように促すと、彼女は思い出したように招待状を眺めてから正面玄関の前にいるメイドの方へと向かう。

 

「ああ、でも一番は――その"ツノ"可愛いねぇ」

 

 すると途中で振り返った黒湖は、マーガレットが角に着けている青いリボンに目を向けてそう言い残してから城の中に入って行った。

 

 一応、角を隠すためのリボンが端から全く効果がない事にマーガレットは何とも言えない気分になりつつ、自身の車に戻ると貰った名刺と花を車内に置き、再び降車する。

 

(紅守黒湖――)

 

 マーガレットは溜め息をひとつ落とすと、自身の自動車の窓ガラスに目を向けた。

 

 そこには眉を潜めた表情の彼女の姿と、まるで白とも半透明とも取れる幽霊の腕のような"3m"程の長さの何かが"4本"彼女の背中から生えている。

 

 そのうち2本は彼女の周囲で漂い、残りの2本はそれぞれ装飾義足に螺旋を描くように纏わりついており、それであたかも本物の足が動いているようにする事によって両足があるように見せていたのだ。

 

(あれだけおちゃらけているのに、殺す隙が全くなかったわ……。面倒くさい人間ね……)

 

 若干、気だるげな表情を浮かべつつもマーガレットは、黒湖に続いて正面玄関にいるメイドと向き合う。

 

 当然、幽霊のような手も全て生やしたままであり、対峙する。

 

「……?」

 

 しかし、どうやらメイドにはその手が見えてはいないようで、マーガレットが溜め息を吐いた事に小首を傾げているようだった。

 

(まあ、別になんでもいい)

 

 招待状を見せ、メイドの横を通り過ぎる時に何気無く不可視の手で、その頭を少し撫でる。

 

 しかし、メイドは何かに触れられたと言うこともまるで気づいていなかったようで、反応すらしていなかった。

 

(……? メイド(こっち)は感覚が無いのかしら? 変なのが集まってるわね)

 

 マーガレットは奇妙に思いつつもその手で周囲の建造物に触れ、玄関扉やその先にある床の下に触れた。すると、その手は建材を透過して侵入し――あり得ない様々な物体に触れたことで彼女は足を止める。

 

「どうかいたしましたか?」

 

 その様子にメイドが声を掛けるが、気にせずにマーガレットは近くの城の壁まで近付き、その手を壁の中にも侵入させる。そして、その中身を実際に触れて改め、その事実に突き当たると調子外れな笑みを浮かべた。

 

 そして、メイドの前に立つと、2本の腕を彼女の身体に巻き付けて首筋に触れさせる。しかし、目の前の彼女はその事に気が付かない。

 

「いえ……いいえ、なんでもないわ。楽しいパーティーになりそうね」

 

「ええ、ご期待に沿えると思いますわ。ではマーガレット様。こちらへどうぞ」

 

 メイドに促され、マーガレットは楽しげな様子で正面玄関を潜って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マーガレットの趣味のうちひとつは食事である。1日1食と考えると、1年で約1000回。更に50年これから生きるとすると、50000回程度食事を摂る機会があると仮定する。

 

 さて、その回数を多いと考えるか、少ないと考えるかは個人の自由であろう。

 

 

「――――美味しいっ!」

 

 

 そして、マーガレットはそれを少ないと考え、毎日の食事の一回一回を密なものにしようと日頃から全力で楽しむという多少の変わり者である。

 

 そのため、今回のパーティーなるものではキチンと食事が出されていたため、彼女は脇目もくれずに目を輝かせて食事に勤しんでいた。

 

 肉料理が一番多めに置いてあるテーブルにおり、他のテーブルからも持って来た豚、牛、鳥などの肉料理を己に寄せている。初めはテーブルマナーは兎も角、食事のマナーも他者への配慮をも全く気にしないマーガレットに怪訝な表情を浮かべるパーティー参加者も居たが、彼女の気持ちの良いまでの食べっぷりによって、その一角だけ和やかな雰囲気になっていた。

 

(んー……参加者は年齢層高めの男性が多め。女性は少ないけれど、私含めて若年が多い。どういう者を集めたパーティーなのかしら?)

 

 頭まで付いている北京ダックを特に気にする事なく食べつつ、周囲を見渡しながらそんなことを考えるマーガレット。

 

 更に駐車スペースで紅守黒湖が持っていた招待状の中身が、自身の招待状の内容と似ても似つかないであろう事が気になる。

 

 嘘で他人を釣る場合は、虚栄心を満たすためか、それらを害するためが主だろう。そして、このパーティー会場ですら彼女が不可視の手で触れて感じる事の出来る感触から後者が濃厚であると彼女は感じていた。

 

 そのため、形振り構わず先に食事を済ます事にしたのである。

 

「ミユキちゃんがいてよかったよぉ。知り合いいなくて寂しかったんだぁ」

 

「きゃっ、くろこさん……っ」

 

 ふと、何気無く視界に入った紅守黒湖を眺めると、何故か全く覇気の無い一般人のような女性に抱き着いていた。

 

 バニーガール目当てに来たのならば、とんでもなく落胆したであろうが、それでも彼女なりにそれなりと楽しんでいるらしい。実にどうでもいい話である。

 

(そろそろかしら?)

 

 マーガレットはテーブルを丸ごと動かし、腕で床下に触れながら壁際まで下がる。更に壁にも腕で触れるとまたテーブルを動かして、四隅よりも少し手前の場所まで移動した。

 

 それからテーブルにある食事にまた手を付け始めた――。

 

『本日は私が主催するパーティーにようこそお出でくださいました』

 

 その僅か数秒後、館内放送が響き渡ったため、マーガレットは食事のBGMとして流し聞きする。

 

『犯罪者の諸君。社会のゴミ共よ。初めまして私がオーナーの(さとり)兵衛(ひょうえ)だ』

 

(さとり)……?)

 

 数少ない友人の苗字が明示された事で、視線を食事から会場のほぼ全員が向けている二階のバルコニーのような部分に向ける。

 

 しかし、そこには髪の長い枯れ木のような老人と、それが乗る車椅子を押している正面玄関にいたメイドがいるばかりであった。

 

『さて、諸君らはこれまでに一体何をしてきた? 一体どんな罪を犯し重ねてきたのかね?』

 

(どうでもいいわね……。後で一応、聞いておこうかしら?)

 

 マーガレットは視線を向けるのを止め、テーブルの食事に集中する。言葉より味の方が今の彼女にはずっと重要なのである。

 

『殺人か? 強盗か? 放火か? 恐喝か? 脅迫か傷害か? 遺棄か? 強姦か? 背任か? 横領か? 収賄か? 詐欺か? 窃盗か? 略取か? 脱税か? 器物損壊か? あるいは誘拐か? 賭博か? 教唆か? 偽造か? 偽証か? 侮辱か? 侵入か? 脱走か? 薬物か? それとも……不敬かな? どれもこれもこの平和な日本に善良な国民にとって迷惑千万。だかこの国は一向にそれらを排除せず、あまつさえ犯罪者の人権とやらを声高に叫ぶばかりだ。私は絶望している……この国に……政治に……。そして、司法に!』

 

(そう言えばこの料理はあのメイドが作ったのかしら? いいなぁ……白亜も料理出来るメイドとか雇えばいいのに)

 

『かつて妻に先立たれた私にとって、愛しい娘夫婦と孫だけが唯一の支えだった。本当に愛していたんだ。この子らがいてくれるたけで幸せたと確信していたのに……』

 

(そもそも白亜は両手無いからって一点張りで私を料理当番にしてるのがおかしいのよ)

 

『殺されたんだよ! 私の家族が! お前達のような輩にだ! あの子らが一体何をした!? 怒りと哀しみでどうにかなってしまいそうだった……。これ以上私と同じ苦しみを味わう人間が増えてはならない!! そうだろう諸君!!!』

 

(そのクセに味付けが濃いだの、量が多いだの、たまには魚が食べたいだの小言ばっかり言って……! アンタ、作業アームあるでしょうが!?)

 

『だから私はこの屋敷を作り、上げた!! 誰あろう諸君らのためにのみ心血を注ぎッ! 総工費1242億とんで389万1702円!! 実に10年もの歳月を費やし――』

 

「……ごふっ!?」

 

 流し聞きをしていたマーガレットは、余りにも馬鹿らしい金の使い方に小さく咳き込んだ。ランボルギーニを買う方がまだ理解できるというものである。金持ちのやることはこれだからわからない。

 

(そんな金があるのなら私に殺しを依頼してくれれば格安で幾らでも引き受けるのに……)

 

 そんな事を考えつつ、噎せたために飲み物をマーガレットが飲んでいると、正面玄関の方で悲鳴が上がったため、そちらに目を向ける。

 

 そこにはあらゆる角度で床から生えた長く鋭利な針に全身を串刺しにされている数名の参加者の姿があった。どうやら主催者の妄言に耐えかねて逃げ出そうとしたところ、この城の床や壁に無数に備えられた殺人トラップを起動させたらしい。

 

(床下の針と刃、ついでに壁のミニガンに連弩。うふふ、中々豪勢なパーティーねぇ)

 

 不可視の腕で触れていたためにそれを知り、被害が最小限に収まるであろう場所にテーブルごと移動していたマーガレットは再び食事に手を付け始め、視線は会場に向けた。

 

 まず、スナイパーライフルを持っていた参加者が主催者を撃ち抜こうとしたが、厚さ20cmの強化プラスチックに阻まれる。

 

 それから床から伸びた巨大な剣が一人の参加者を真っ二つにしたことを皮切りに殺戮が始まった。

 

 会場中の床から針が伸びると共に大型の古今東西あらゆる刀剣が参加者を切断し、天井から鉄球が降り注ぎ、壁に偽装して内蔵されたミニガンや連弩が雨のように浴びせられる。

 

 当然、凄まじい勢いで参加者は消えていった。

 

(ああ……)

 

 現実を理解出来ず佇んでいたひとりの人間が、床から伸びた4~5本の針に刺し貫かれ、更に床から生えた日本刀のような刃によって斜めに切断される。

 

 それを眺めたマーガレットは喉を鳴らし、最後までとっておいていた大きなターキーを手に取るとそれに齧りついた。

 

(素敵……)

 

 逃げ場を探して右往左往したひとりの人間が、背中からミニガンに撃たれ、両腕を吹き飛ばされる。更に床から伸びた中東の曲刀のような刃に片足を切断され、泣き叫んだところに天井から降ってきた鉄球が頭部に命中し、スイカを叩き割ったように弾けて死ぬ。

 

 直ぐにターキーを食べ終えたマーガレットは、次々と竜田揚げを頬張る。鶏肉のジューシーな肉汁とまだ暖かい中身が彼女の表情を綻ばせた。

 

 そんな彼女にもトラップは迫り、近くの床からギロチンを縦にしたような刃が生え――次の瞬間には意識すら向けていないような様子にも関わらず、彼女の不可視の腕が根本から刃を切断する。

 

 更に連弩の矢を空中で容易に防ぎ、ミニガンの流れ弾すら腕で受け止めていた。全て半径3m程に入った瞬間に行われており、それが腕の射程なのであろう。

 

「た、助けて……」

 

 そんな中、ひとり人間が地獄の最中に何故かトラップの被害をほぼ受けていないマーガレット目掛けて走って来る。

 

 しかし、その人間は連弩から放たれた矢を途中で大量に受け、針ネズミのようになっており、致死量に近い血を流していることが見て取れる。アドレナリンのせいか、火事場の馬鹿力か、どちらにせよ先はそう長くはない。

 

(私、太っちゃう……)

 

 それを眺めた彼女は酢豚が乗った皿を持ち、蓮華で中身を口へ掻き込みながらその人間がここまで来るのを待つ。

 

「助け――」

 

「お利口さん」

 

 マーガレットは3mほど手前まで到達したその人間の首を不可視の腕で刎ねた。頭部はボールか何かのように飛んでいき、事切れた身体は床に打ち付けられる。

 

 その断面は異様に水平であり、有識者が見れば並大抵の刃物ではそのようにはならないと理解できるであろう。

 

「――――♪」

 

 彼女はご機嫌な様子で飲み物で喉を潤しつつ、宗教曲のような曲調の鼻歌を歌う。

 

 その頃にはトラップによる殺戮は落ち着き、夥しい量のバラバラ死体が散乱し、血の海が広がり、瓦礫がそこかしこに転がるばかりという戦場跡のようになった会場だけが残った。

 

 彼女を含めて6名の生き残りがいるようだが、その中で未だ食事を摂るマーガレットは余りにも異様であろう。

 

「あは――。やっぱりマーガレットちゃんは生きてたんだねぇ?」

 

「……ええ、どうも。紅守さんも無事で何よりね」

 

「黒湖でいいって。ディクロニウスってやっぱりスゴいねぇ」

 

 そんなマーガレットに対し、特に臆する事なくまるで友人のように生存者の一人である紅守黒湖が話し掛けて来た事で、ようやく彼女の食事の手が止まった。

 

「えっ……。ディクロニウスってあの……」

 

 更に先ほどセクハラをされていた紅守黒湖の連れと思われる女性が、その単語に対し、極めて驚いた様子を見せる。

 

 

 "二觭人(ディクロニウス)"――。

 

 

 学名でそう呼ばれるそれらは、偶発的に発生した遺伝子異常による人間の突然変異体である。

 

 偶発的に発生した生殖機能を持った1体女王種を頂点に、その下に多数の生殖機能を持たない働き蜂(ジルペリット)を束ねる生態系を形成する蜂のような生態を取る異様なヒトの亜人であり、人類から生まれた人類を抹殺する為の殺戮生物であった。

 

 単純な人間と異なる特徴は、名前の通り2本の角があり、松果体が人間の数倍の大きさを持ち、女性しか生まれず、早熟するという点のみである。

 

 しかし、最も異常であり、人類を脅かした要因は"ベクター"と呼ばれる不可視の無数の腕と、それに付随するウィルスを持つことであった。

 

 まず、ベクターは通常のディクロニウスならば4本かつ2m程度の長さを持ち、射程内ならば物体をすり抜け、人間の体内へ進入し、脳の血管の切断や臓器の抜き取りさえ容易にこなすだけでなく、高周波微振動を起こし、物体を切断することすら可能な器官である。

 

 そして、ベクターは運び手という意味であり、その手にはベクターウィルスと呼ばれるモノが仕込まれ、それ自体は外気に触れれば死滅する程度だ。しかし、一度人間の体内にウィルスが入れば、感染率は100%であり、人間が妊娠する或いは妊娠させた場合、その赤子を生殖能力のないディクロニウスであるジルペリットにするというおぞましいものであった。

 

 更にディクロニウスという種は、人間への殺人衝動が遺伝子に刻み込まれており、一桁の年齢の時点でベクターを獲得し、最初に殺すのは両親だという。無論、大多数のディクロニウスは殺人に対し、一切の嫌悪や罪業を覚えず、無差別に人間を殺戮するのだ。

 

 ただし、人間の男女からそれが自然に発生する確率は、天文学的に低い。しかし、その奇跡が起こり、ただの二度だけディクロニウスの女王種が過去に生まれた事がある。

 

 一度目は、人間が今ほど繁栄するよりずっと昔であり、あまりにも影響力が低かったため、世界を脅かす事はなく、子孫も人間と交わって薄まった女王種の血では最早意味は成さなくなっていた。

 

 二度目は、現在より十数年前。日本のとある場所で発生し、何者かの手によってディクロニウスのベクターウィルスは世界各地に拡散され、世界規模で出産の禁止が出される異常事態になった。

 

 しかし、件を引き起こした女王種は人間に殺害され、出産が禁止されてから直ぐにベクターウィルスのワクチンも開発されたため、結果的にディクロニウスという種が人間を抹殺する事が寸出のところで叶わず、ワクチンの出現と女王種の喪失によって、ディクロニウスという種は皮肉にも人間に滅ぼされるに至る。

 

 そして、世界にはディクロニウスが居たという証として、最早僅かばかりになった既に産まれており、ワクチンを射たれてベクターウィルスを喪ったジルペリットたちだけが残され、生殖能力を持たない彼女らそれぞれが、己の末路を辿るばかりであった。

 

 

「とりあえず、お近づきの印に――食べる? 二人ともまだ何も食べてないでしょ?」

 

 

 そう言ってマーガレットはテーブルにまだ残っている食事を不可視の腕――ベクターで持ち上げ、黒湖とその連れの目前に浮かせた。

 

 

 

 これは最期のディクロニウスの1体。マーガレットの物語である。

 

 

 

 

 

 







 作者の好きなムルシエラゴの二次創作が余りにも少ないので布教用作品でございます。楽しんでいただければ幸いです。

 評価やご感想を頂けると作者はとても喜んで直ぐに2話目を書き上げます(迫真)



~QAコーナー~

Q:ムルシエラゴってどういう漫画なん?

A:ヘルシングとBLACK LAGOONとPSYCHO-PASS辺りをちょっとずつ足して、20~30ページぐらいで簡易設定説明から本番まで終わる百合エロ同人をトッピングして3で割ったような漫画。後、クソほど他人にススメずらい。



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