正統派ディクロニウス、マーガレットちゃん   作:ちゅーに菌

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作者はよろこんでいる。(投稿)

感想は全て返信致しますので少々お待ちを。







ベクター

 

 

 

「なぁ。そういやお前らなにしでかしたんだ? あのジジイ犯罪者の諸君とか言ってたけどよ。そこのおじょーちゃんとか、どー見ても無害だろ」

 

「私は……その、万引きくらい……です。学生の時に……」

 

「その程度でこんな目にあってンのかよ……。災難だなオイ」

 

 大柄で見るからに粗暴そうな見た目ながら明らかに誰よりも他者を気遣っている男性――格闘家の桃山照美と、紅守黒湖の連れ――フリーターのミユキは館内の移動中にそんな会話をしている。

 

 生存者全員で行動する流れになったため、とりあえず先頭に立っているマーガレットは、緊張感も何もあったものではないと考えるが、そもそも自分自身も特に何も考えていないため口は出さなかった。

 

 桃山照美とミユキの他の生存者は、痩せ型の黒人で長めの髪と髭が特徴的な大学教授のコバルト=コンラット。ホストのような服装で覇気の無いスナイパーの朽葉怜子。職業不詳の紅守黒湖。そして、マーガレットを含めた計6名である。

 

 会話を聞き流していると桃山照美という男は、地下格闘技場でデスマッチをしており、それで人を殺したことはあるが同意の上なため事故とのこと。

 

「ディクロニウスのじょ――」

 

「マーガレットよ。人間の桃山照美なんて誰も呼ばないでしょう?」

 

「あー、わりぃな。それでマーガレットは何やったんだ?」

 

「何って……」

 

 マーガレットは自身がやった刑法に抵触するような事柄を思い浮かべ――思い当たる節が多過ぎたため、考えるのを止めた。とは言え、彼女が人間に対する悪行は白亜が揉み消すか、握り潰しているため、彼女の経歴はまっさらなものである。

 

 やはり主催者(悟兵衛)が言うようにこの国は大分アレなのではないかと思いつつも、とりあえず桃山の問いに答えることにした。

 

「殺し屋が人を殺すのは当たり前でしょう? 悪いとか、良いとかじゃないわ」

 

「じょーちゃん、清々しいぐらい開き直るのな……」

 

「天職って奴だねぇ」

 

 桃山に話していると、それまで我関せずな様子でミユキの側に付いていた黒湖が珍しく話に入って来る。とは言え、露骨に女性相手にはコミュニケーションを図ろうとする彼女ならば自然とも思えるであろう。

 

 ディクロニウスは遺伝子に人間の抹殺が刻まれているため、多くが殺人行為に一切の忌諱感や嫌悪感、罪業などを抱かない。それはマーガレットも例外ではなく、彼女にとっては蚊を潰すのも人を殺すのも大した違いはないのだ。

 

 とは言え、人間が食用でもある豚や兎などをペットにして飼育しているのと同じように、特定の人間に対して愛着を持たない訳でもない。むしろ、ディクロニウスの愛情はその閉鎖的で殺伐とした感性故に人間よりも遥かに深く底がないとも言われている。

 

 そのため、マーガレットも人間の白亜の事を友人以上に懇意にしており、彼女の言うことならば基本的に何でもしてしまう便利で都合の良い殺人鬼でもあるのだ。

 

 ちなみにそんなマーガレットの職業は、正確に言えば悟白亜直属の殺し屋であり、国の要職に就いている彼女の子飼いのため、間接的に国家の犬なのだが、その辺りを語るほどマーガレットは野暮でもなければ、この場にいる人間に愛着も無い。

 

「黒湖さんは何の仕事しているんですか?」

 

「あたしぃ? 公務員だよぉ」

 

(ええ……子供だってもう少しマシな嘘を吐くわよ……?)

 

 マーガレットが職業を話したためか、ミユキが黒湖にもそれを問い掛けたところ、明らかにシャバの人間ではない彼女から余りにも掛け離れた事を言っているため、流石にマーガレットはそれを一切信じなかった。

 

「あら?」

 

 そんな折、マーガレットは呟きと共に突然足を止め、彼女が先頭に居たため、それに釣られて全体の動きも止まる。それとほぼ同時に黒湖は何故かミユキを庇うように背中に隠していた。

 

 その直後――20m程前方に位置する壁や床から幾つものガンタレットが生える。それらが次にどのような挙動を取るのか分かり切っており、ミユキ以外の人間のそれぞれが行動を起こそうとしたところ、マーガレットが一歩前に出る。

 

「無駄な体力を使いたくなければ動かないで」

 

 次の瞬間、10を超える数のガンタレットが、マーガレット目掛けて掃射を開始し、渇いた異音が響き渡り、絶え間ないマズルフラッシュが輝き続ける。

 

(銃弾は9mmパラ……安いタレットね。会場にあった奴(ミニガン)を持ってくればよかったのに……通路を破壊するのは嫌なのかしら?)

 

 それに対し、マーガレットは2本のベクターと、片足に纏わせているベクターを解放して対応し、計3本のベクターをとぐろを巻かせて自身の身体以上の範囲を覆う大盾のように並べた。

 

「オウ……ディクロニウスの実例は初めて見まシタが……ここまデとは……」

 

 大学教授を名乗るコバルト=コンラットは冷や汗を浮かべつつ動揺した様子でマーガレットの背後からそれを真剣に眺める。

 

 その視線の先には横殴りの雨のような銃弾を一発足りとも自身を含む背後に着弾させず、その空間だけ時間が止まったかのように空中で完全に動きを止めた銃弾が滞空していたのであった。

 

「夢でも見てるみてぇだ……」

 

 桃山から呟かれたことは尤もであり、それが数十、数百と次々と飛び込んでくる銃弾全てに適応されるのである。最早、目の前にある光景は、常人から見れば魔法か、アメリカンコミックのワンシーンのようにしか見えないであろう。

 

 確かな事はディクロニウスという種族が、不可視の腕での殺害だけでなく、このように生半可な現代兵器すらまるで通用しない程に応用力がある上、そもそもベクターは本来攻撃用ではないという事だ。このような種族が人間への殺戮の意思を持って世界中に広まろうとしたのだから、肝の冷える話であろう。

 

 また、武装も何もせず、身体ひとつでこの性能を持つとなれば、味方ならばこれ以上は居ないが、殺し屋としてこれが己を殺しに来た場合を考えると、絶望以外の何物でもない。

 

「スナイパーさん。それが飾りじゃないならちゃっちゃと片付けてくれる?」

 

「ええ……。朽葉よ」

 

「じゃあ、朽葉さんよろしく」

 

 悟兵衛を狙撃しようとしたスナイパーの朽葉怜子は、その言葉と共に縦に長いアタッシュケースを開いたとほぼ同時に狙撃し、瞬く間に全てのガンタレットを破壊する。

 

 自動的に再装填されつつ撃ち続けられていたため、最終的に千を超えるほどの銃弾がマーガレットの眼前に浮いており、それらは彼女が小さく息を漏らすと音を立てて全て床に散乱した。

 

「私のベクターを抜きたくば、50口径にタングステン合金弾でも持って来ることね――」

 

「えっ? ホントぅ?」

 

 その次の瞬間、ガンタレットとは比べ物にならない轟音が響き渡り、マーガレットの首筋の数cm手前でそれは止まった。

 

 それは明らかに9mmパラベラム弾とは比べ物にならないほど巨大な銃弾――.50AE弾であり、それが来た方向を見ると世界で最も有名な銃である白銀の銃身をしたデザートイーグルを紅守黒湖が構えていた。

 

 口の端を三日月のように曲げて惚けたような顔をしているが、銃口から立ち登る細い白煙と漂う硝煙の臭いは言い逃れが出来よう筈も無いであろう。

 

 それを伸ばした複数のベクターの掌を重ねて受け止めていたマーガレットは、冷めた目で黒湖を眺め、1本のベクター彼女の首目掛けて構えた。

 

「く、黒湖さぁん!? 何をして――」

 

「うーん、やっぱりマーガレットちゃん。普通のディクロニウスより強くない……?」

 

 しかし、その言葉でマーガレットはベクターを止め、黒湖へ向けて構えていたそれを周囲の警戒に戻す。

 

 どういうわけか、たったそれだけの発言でマーガレットは殺意を押し込めたらしい。

 

「あたし、ディクロニウスなら何度か仕留めた事あるから、大体何をしたらベクターを破れるかは知ってるつもりだったんだけどぉ……」

 

 そう言うと黒湖はデザートイーグルの弾倉を抜き、その中から1発手にとってマーガレットに見せつけるように掲げる。

 

「お望み通り、デザートイーグル(あたしがいつも使ってる銃)には、――タングステン合金製.50AE弾を使ってたからお言葉に甘えてたわけでヤンス」

 

「人間に向けて撃って良い弾じゃないデスね、ソレは」

 

 コンラットの呟きは気にせず、マーガレットにそう語り掛ける黒湖。それを見た彼女は大きく溜め息を吐くと、"言った私が馬鹿だったわ"と言って再び館内の歩みを始める。

 

「ねーねー、マーガレットちゃんってさぁ……"最強のディクロニウス"! みたいなカッコいい肩書きだったりする?」

 

「うふふ、そうだったらよかったのにね」

 

 しかし、それ以上にマーガレットは黒湖に対してのやりにくさと、人間とは思えない底知れぬ実力を感じていた。

 

(態度とは裏腹に随分、周囲を見てるわね……。それに本当にディクロニウスを殺しているわ)

 

 稀におり、時代や場所が違えば英雄やら勇者だとの呼ばれて持て囃されていたであろう人間の特異点。それが彼女なのだろうとマーガレットは黒湖を評価する。

 

「そもそもさっきの会場でミニガンも止めてたし。まあ、PSGー1(それ)にも使われてる7.62x51mm NATO弾()ぐらいなら絶対殺せないって事だよねぇ」

 

「――! そんなのやってみなきゃわからないわ……」

 

「おい、私で遊ぶな。朽葉さんも下らない事に銃を取り出すんじゃない」

 

 黒湖は終いには朽葉まで煽り始め、殺し屋と公務員とスナイパーのかしましい光景が繰り広げられた。

 

 その最中、突如として黒湖はミユキを手で制して止め、マーガレットは2本のベクターを頭上に掲げ――遅れて先頭に居たマーガレット目掛けてギロチン刃が振る。

 

 しかし、天井から落ちて来たギロチン刃を軽々と受け止め、ベクターを高周波微振動させることで逆に両断した。

 

 更に続けて床から2mほどの無数の針が生え、それらで先頭付近に居たマーガレットと、黒湖が受けるが、マーガレットは自身に伸びる針だけ全てベクターでへし折り、黒湖は身体を傾けるのみで全て避けて見せる。

 

「……二人とも。今、罠が作動する前に気付いたように見えたけど……もしかして」

 

「罠の動作が先にわかること? 朽葉さんもそれぐらい出来るんじゃないの?」

 

「あたしは死の気配が見えたり、聞こえたりするカンジかなぁ? どこに罠があるかは推測するしかないけど、罠がどう来るかは感覚としてわかるんですます」

 

「ああ、それわかる。勝手に気づいちゃうのよね」

 

 二人の様はそれだけでも明らかに異様であり、それを眺めていた朽葉が声を掛け、マーガレットと黒湖はさも当然のような様子で答える。

 

 しかし、朽葉は怪訝そうで何とも言えない表情でいたため、マーガレットはベクターを2本構えると、他の人間を置いて通路を小走りで駆け出した。

 

「そうねぇ……私の場合――」

 

 当然、そのようなことをすればそこら中の罠が一斉に起動し、それらが一様にマーガレットを襲う。

 

「スリルが好きなのよ」

 

 しかし、人体を穿つ針は到達する前に全て半ばから折られ、身体ごと裁断する刃はバターのように両断され、ガンタレットはまるで効かず、頭上から降る硫酸はベクターを脚のように扱い人間味のない異様な横移動で避ける。

 

 その上、それら全てを明らかに罠が作動する前か、その瞬間に対応しているとしか思えない動きをしていることが、明らかに誰の目を見てもわかった。

 

「肌を掠める程の危険、死が間近に迫る実感、殺し殺されの絶妙な掛け引き、そんな瀬戸際を楽しむのが堪らないの」

 

 "もちろん、ただ死を見るのも好きよ? ご飯が進むし"等と言いつつ、25mほど先に進んだマーガレットはスカートの裾を両手で掴みお辞儀をして見せた。

 

 可憐な彼女とは裏腹に彼女が通過した場所は、まるで古戦場跡のように無惨な姿の刃と瓦礫が散乱している。

 

「そんなことを日頃から繰り返していたら、いつの間にか"あっ、これ死ぬ奴だ"って線引きが空気で何となくわかるようになっていたわ」

 

 "まあ、元々生まれつき勘は良い方だと思ってたけど"と笑いつつ、マーガレットは人間たちのところまで歩いて戻って来る。

 

 その最中、直径3m程の落とし穴が彼女の真下に出現したが、既にベクターで壁や床を掴んでいた彼女は、まるで魔法使いのようにそのまま空中で平地を歩くように見せつつ戻った。

 

「未来予知ってカンジだよねぇ」

 

「未来予知? そんな大層なモノじゃないわ。死だけ100%当たる勘よ」

 

「あれれぇ……?」

 

 しかし、どうやら黒湖のソレとは若干異なるらしく、黒湖は水平に首を傾げる。

 

 短期間で随分仲良くなったように思えるマーガレットと黒湖(両者)は、いつの間にか並んで先頭に立っていたが、それに異を唱えるものも疑問に思うものもこの場には居なかった。

 

 そのまま、奇妙なパーティーメンバーは館内を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ディクロニウスはちょっとこっちが積極的な(殺伐としてた)方が楽に好感度稼げるんだよねぇ……。フヒヒ、どうにかベッドまで――)

 

 

 

 尤も黒湖自身がどう考えているかはマーガレットらの預かり知らぬところのため、全くの買い被りの可能性が無きにしもあらずである。

 

 

 

 






~マーガレットちゃんの生い立ち~

・エルフェンリートのエピローグ後のディクロニウス

・エルフェンリート産、ムルシエラゴ育ちのディクロニウス



~これ以上に良い例えが思い付かなかったので、fateユーザーには分かりやすいマーガレットちゃんと黒湖さんの危機回避能力の違い~

・心眼(偽)
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

マーガレットちゃん

・心眼(真)
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

黒湖さん


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