殺人party編の終わりまで書いてたら途中で普通に1万時超えたので、分割して先に投稿することにしました(セコい話数稼ぎ)
「あ……ぁ…………ぅ……」
(反応薄くなってきたし、飽きちゃったわねぇ……)
余りにも一方的なディクロニウス同士の戦いが始まってから十数分後、マーガレットは叫ぶ気力もなくなった茜を見下ろし、つまらなそうに眉を潜める。
その様はまるで虫で遊んでいた子供が、生きが悪くなってきた為に関心を無くしていくようであった。
「た、すけ……て……」
「そろそろ、殺し――」
そこまで言ったところでマーガレットは、茜のディクロニウス以外のところに目を向け、思い出したかのようにポツリと呟く。
「メイド……?」
打撃ばかり与えていたため、フリルのあしらわれた可愛らしい白黒のメイド服はほぼ汚れてはいない。所々、茜自身の血で濡れているが、その程度のものだ。
そんなメイドである茜を暫く眺めたマーガレットは、ポンと手を叩くと優しげな表情になり、彼女に語り掛ける。
「……ねぇ、あなたメイドなのよね? なら料理は出来るかしら?」
「………………ぅ……」
しかし、茜からの返事はない。既にかなり弱っており、意識さえ朦朧としていたのだ。既に暫く放っておけば死ぬ段階まで来ているのだろう。
「仕方のない子ねぇ……」
マーガレットは自身の服の内ポケットからペン状のモノを取り出す。更にそのキャップを取ると、折れないように保護された注射針が現れ、僅かに見えるガラス菅の中には淡い黄緑色の奇妙な液体が詰まっている。
それをペン回しの要領でくるくると回していた彼女は、茜の身体を仰向けにしてから逆手に注射器を持つと、胸部から心臓目掛けて射ち下ろした。
「――――――!?」
「まだ、死なないで? 白亜印の回復剤よ? 死体だってギンギンにしちゃうんだから」
その言葉の通り、茜の身体が一度大きく跳ねると目を見開いた。その瞳には満面の笑みを浮かべたマーガレットが映り、それを見せつけられる茜の表情は酷く怯えている。
「ひっ……いやッ……!?」
「ねぇ、会場の料理を作ったのはあなた?」
「なんで……――ぐぅ!?」
そこまで言ったところで、マーガレットは茜の首を鷲掴みにする。更に引き抜くような勢いで掴み挙げると、己の顔から数cmというところまで近付けた。
「会場の料理を作ったのはあなた?」
「……わ、私と
「――まあ、そうなの! それはよかったわ! なら、私にメイド兼料理人として雇われるなら殺さないであげてもいいわよ?」
「え――?」
茜は唖然とした表情で固まり、マーガレットを見つめる。その表情には純粋な恐怖に加えて、得体の知れない何かに晒された事への明らかな忌諱も見られ、彼女から目を反らす。
「"はい"か、"死にたい"か、返答を聞きたいのだけれど?」
「わ、わかった……! ひっ、かひっ――こ、ころ、殺さ……殺さないで……」
「いい子は好きよ」
それを聞いたマーガレットは、茜の頭を優しく床に戻し、携帯を取り出すと何処かに電話を掛け始める。
この屋敷内では電波が遮断される筈だと茜は記憶していたが、どうやら彼女が持つモノはその限りではないらしい。
暫くのコールの後、電話先が応答したのか、少しマーガレットの表情が緩み、自然な笑みを浮かべていた。
「――もしもし、私よ。いきなりだけれどディクロニウスのメイドを見付けたから家で雇わない? え? 唐突過ぎる? 別に良いじゃない。料理出来るのよ料理」
そして、どうやらマーガレットは本気で茜を料理人として連れて帰る気らしい。既にこの屋敷から脱出することは決定事項として捉えているとも言える。
「はいはい、私の料理を毎日食べたいだなんて調子のイイこと言わないの。そもそもあなた私がいないときはアンプルだの、身体に悪そうな色の栄養バーだので済ませてるじゃない? それこそ止めなさいな。え? 私が食事当番をやりたくないだけ? あったり前田のクラッカー。料理はね……大前提として他人に作って貰ったモノの方が旨いのよ。自分で作るとそれだけで食欲がやや失せるわ」
そう言って肩を竦めるマーガレット。彼女の料理に対する情熱は食事支度に疲れた主婦並みの目線らしい。
「ん? その娘が魚出したらどうせ嫌がるだろって? え……? 私が? 何言ってんの、そんなわけないじゃない。この私が、他人から出された食べ物を拒んだことがあって? 無いでしょう? 作って貰えるだけ幸せな――ああ、ゴーヤとパクチーは出したら殺すわ。あれは食い物じゃなくて雑草の塊とカメムシよ、ええ。……? どうしたの急にご機嫌になって? アンタ、そんなキャラじゃないでしょ、ちょっとキモいわよ……? ああ、そうそうそれはそれとして今日の晩御飯は、
"じゃあ、また後でね"と会話を締めてマーガレットは電話を切る。
電話を終えた彼女はとても嬉しげな様子であり、その調子のままで、まだ満足に回復しておらず立つことが出来ない茜を肩に担ぐ。
「今晩は魚料理が食べたいそうよ? 頑張りなさい」
茜は行動も言動も異様で支離滅裂なマーガレットへの恐怖と、自身のこの先の未来への不安で口を紡ぐばかりであった。
◆◇◆◇◆◇
「あれぇ? マーガレットちゃん久し振りぃ」
(うわぁ……)
メイドを捕まえ、意気揚々とした気分で別の部屋を探索していると、部屋の入り口付近でミユキを抱き寄せつつ、正面玄関にいたメイドと対峙している黒湖を見つけてしまった。
どうやらこれから一触即発という奇跡的なタイミングに居合わせてしまったらしい。
ちなみに肩に担いだ茜は、祈るように手を組んで小さく震えたまま一言も発さずに目を瞑っている。ドナドナされる家畜でももう少しリラックスしているであろう。
「マーガレットサン、ご無事で何よりデスね」
「コンラットさんも無事で何よりね」
近くにコンラットもおり、彼もここまで生き残って来れる程度には実力者のため、ミユキを除く3人で襲い掛かれば、あのメイドを数秒で殺せるとマーガレットは考える。
「ダメだよマーガレットちゃん。あのメイドさんに手を出したら殺すから――えっ、ってゆーかそのディクロニウスの可愛いメイドさん誰? まさかのお持ち帰り!?」
「私のだぞ」
マーガレットがしたり顔でそう答えると、"くそぅ!? 北館に行くべきだったぁ!?"等と慟哭する黒湖。それだけで今日の彼女の茶化すような言動及び行動を全て許せてしまうほどマーガレットはスカッとした。
それはそれとして黒湖はメイドとのタイマンを望んでいるとの事で、それなら先に行かせて貰おうと歩き出す。
それは早くこの屋敷から脱出して、夕食を作れる程度には茜を治療しなければならないため、一刻の猶予も惜しい為だ。
そして、それに伴って部屋の中を眺めれば、崩壊した書斎といった有り様であり、書斎に唯一ある机の奥を見れば、隠し通路が開いている様子が見え――床に落ちているソレに目が行き、思わず足を止める。
「これ……」
それは落とし穴のような虚空の前に落ちている男性の片腕であった。
正確に言えば、桃山が着ていた服の袖が付いたままの片腕が落ちており、それが誰の物であり、彼がどうなったのかも概ね理解できた事であろう。
「…………嫌いじゃなかったんだけどなぁ」
「あらら……マーガレットちゃんったらバイセクシャルだったのねん」
「……何考えてるかわからない人間より、ディクロニウスだと知ってても隣にいるような自殺志願者の方が、幾分かマシってだけよ」
「へー、バイセクシャルって方は否定しないんだ?」
「うふふ、メイドの前に私と戦いたければそう言いなさいよ? 人間に売られた喧嘩は全て買うわよ?」
「ヒェー!? 冗談キツいぜとっつあん!?」
軽口を叩いて来る黒湖にそう言い返すと、マーガレットは桃山の腕を拾い上げる。
(墓ぐらいは作ってやりますかねぇ)
それだけ考えてまたメイド――
自身らが手配したディクロニウスを軽く捻り潰し、何故か生かしたまま肩に担いでいるマーガレットに紫は身構えてつつも何とも言えない表情をしていた。
「
「だったらどうしますか?」
「別に今は何もしないわ。けれどこの部屋中にある下らない罠全てをオシャカにされたくなければ、私に何もしない事ね」
茜と対峙した時、部屋中にあったカメラとマイクを一瞬で全て破壊した事を知っている紫ならば、脅しでも何でもない事は理解できるであろう。
"巡航ミサイルだって反らして見せるわよ、私は"と冗談混じりに言ったマーガレットは小さく笑いつつ、更に言葉を続ける。
「黒湖に釘刺されてるからあなたを殺せないって……こっちが譲歩してるのよ?」
「………………」
「お仕事お疲れ、メイドさん」
小動物を前にした魔獣のように余りにもふてぶてしい態度と言動のまま、マーガレットは紫の脇を通り過ぎて行く。
その際に労いの言葉を掛けつつ、マーガレットは書斎の隠し通路を通って行くのだった。
◇◇◇
「マーガレットサン!」
「あら? コンラットさんも通れたの?」
「エエ、黒湖サンのお陰デ」
暫く通路を歩いていると、背後からコンラットが走って追い掛けて来たため、彼と歩幅を合わせる事にした。
黒湖に仲間を先に行かせる甲斐性があったのかと一瞬考えたが、どうせメイドと二人だけでしっぽりヤりたいが為に邪魔者を追い払ったのだろうと結論付ける。
「ひとつマーガレットサンに聞きたいことがあるのデスが、構いまセンか?」
「別に、好きにして」
ディクロニウスが物珍しい存在のため、成り行きでマーガレットがディクロニウスだと知って生きている人間に質問されることは珍しくなかったため、彼女はそれを受けた。
「では、貴女の
「キリングルール……? 殺す相手の法則ってこと? そういうのって殺した人間の死体の損壊状況や身体的及び社会的特徴から推し測るモノじゃないのかしら?」
「エエ、そうデスね。けれど本人の口から聞けるに越したことハありまセン」
「ふーん……大学のセンセって大変なのね」
しかし、コンラットからの質問は全くディクロニウスとは関係のない事柄だったため、マーガレットは少し驚く。
それからその問いに少し考え込んでから、再びマーガレットは口を開いた。
「無礼者……かしら? 私、嫌いなのよ礼儀知らずって。だって私はさ……
「ナルホド……生物的な強者ダト」
「ああ、もちろんある程度強ければいいのよ? 別に無礼でも。それぐらいなら愛嬌として許せるし……けれど雑魚なのに無礼って、しつこく飛び回る蚊みたいなモノじゃない? つい、叩いちゃうわよ。ねー、茜ちゃん?」
「ひぃ――!?」
「ナルホド……」
コンラットはいつの間にかメモとペンを取り出して熱心に記録していた。
マーガレットの殺人規範を信じるのならば、彼を殺さない上に、こうして真面目に回答する理由には、彼が礼節ある人間であり、無礼者には該当しないからという理由があるのだろう。
それに気を良くしたのか、マーガレットは更に口を開く。
「まあ、元々、ディクロニウスって人間を殺したくて仕方のない生き物だし、その中でも私は
「ト、言うト?」
「聴こえるのよ。日頃から"人間を殺せ"って言う幻聴がね。酷いときは1日中ずっと。何人か、何十人か殺すとパッタリと収まるんだけどね。逆に殺さないでいると――次第に
「それハ……」
「まっ、私はもう慣れたから時々、無差別に発散したりもして心身の平穏を保ってるってわけね」
ディクロニウスという種族の壊れた部分を聞かされたコンラットは、どんな言葉を掛けていいのかわからない様子だが、マーガレットにとっては日常のことのため、調子外れに笑うばかりであった。
「アリガトウございます。とても参考になりまシタ」
「あなたみたいな真面目な殺人鬼は疲れるわねぇ――ああ、居たわ」
そんな会話をしていると、隠し通路は岬の真下付近にある崖の入江に通じており、先に脱出していたと思われる悟兵衛の車椅子の後ろ姿が見えた。
どうやらこちらにはまだ気付いておらず、何か独り言を呟く様子が伺える。
「ねぇ、コンラットさん? あれ、私が殺ってもいい?」
「彼からも聞きたかったデスが……まあ、マトモな返答ハ期待出来ないデしょうし、今のお礼も兼ねてドウゾご自由ニ」
「ええ、ありがと」
それだけ言うと、マーガレットはベクターのみで歩き、兵衛へ音もなく向かった。
~マーガレットちゃんのアウフラウフ(層)~
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白亜「魚が恋しい……」