最近トレーナーの様子がおかしい、修羅すぎる 作:きかんしゃトーマス
最近、トレーナーの様子がおかしい。
トレーニングを終えた日の夜、一人物影に隠れて誰かと電話で会話している。そこまでならよくある事だとボクも割り切れる。
だけど、違うんだ。普段は笑顔でボクたちに接してくれたトレーナーが、その時の電話だけ死んだような表情になるんだ。そんな顔、ボクだって見た事なかった。
しかも、電話をする相手は一人じゃない。二人、三人、四人とその数はどんどん大きくなっていく。
知りたい、何を会話しているのか知りたい。そういう想いが日に日に強くなっていき、ついにボクはそれを決行することにした。
ボクの担当トレーナーなんだから、トレーナーの事をすべて知っておきたいと思うのは当然なんじゃないかな。
というわけでボクは、トレーナーが寮から出てきて物影へと向かったタイミングを見計らい、気づかないようにソロリソロリと近づき盗聴することにした。
ウマ娘と言えど、忍び足には自信があるんだ。
「……もし、私」
うん、微かに聞こえてきた、もう少し、もう少し。
一歩一歩確実に前へ進んでいき、ようやくギリギリの距離まで近づくことに成功する。この距離なら電話内容すらも聞き取ることができるだろう。
一体どんな話をしてるんだろう? というかなんか口調違わない? 普段は『なの』とか『だよ』とか可愛らしい口調なのに
「そう。やはり状況は深刻なんだ」
『はい。鎮守府から数海里程離れたA海域。そこに第3艦隊を派遣しましたが、未だ帰島していません』
「そこは本部からも曰くつきだったし……。――大破してないことを祈るばかりだが……」
???
本部? 大破? トレーナーは何を言ってるの?
ボクや他のウマ娘たちの前では絶対に口に出さない事を言ってるんだけど!? というか不穏すぎるんだけど!?
大破って何? 壊れるの? 壊れることが深刻……? ボクの脚の事? いやいや、まだ健全な筈だよ? ピョンピョンと跳ねてみたけど……うん、問題ない。
本部って
「……ふう。そろそろあっちも顔出さないといけない頃合いか」
(あ、マズイ、こっちに来る!?)
あまりに近づきすぎて逃亡経路を考えていないことに気づき、困惑する。
このままボクの接近に気づかれてしまったら、色々不味いことになってトレーナーからの眼も冷たいものになるんじゃないか? なんか効いてはいけないような内容ばっかりだったし。
どうしよう、どうしたらいいのだ?
『ピリリリリリリッ』
「……ん、また?」
助かった――また別の所から電話? それともトレセン学園の話?
後者の方ならまだ助かる気はするんだけど。
「……あ、もしもし? マシュ?」
あ、別の人だ! ボクの知らない相手だ! まだボクの危機は終わってなかったんだ!
というかマシュって誰!? 名前からしてめっちゃ女の子っぽいよ!?
「新たな特異点の出現って、周期が速くない!? 今まではもうちょっと余裕があった気がするんだけど……」
『そうなんですけど、なんだかドクターが異常事態だとかで……すぐ、こっちに来れますか?』
「……まだ別の仕事があるんだけどなぁ」
『そういえば先輩って、他に何かやってるんですか? 度々いなくなりますけど……』
「べ、別の世界で色々と! うん、わかった、いく!」
行く!? どこに!? 別の世界って何!? 異世界の話? 異世界転生? いやそんな御伽噺的展開じゃない事は分かってるんだけど……。
もしかしてトレーナーって、異星人とかだったの? 『ボクのトレーナーは異星人なんだよー』って? 嫌々、言えるわけないでしょー!
あ、そうだ。逃げるならこのタイミング? いやいやこのまま走ったら足音でバレる。どどど、どうしよう……?
「うん、うん、分かった。宜しく伝えて。(ピッ)……ふぅ。――あれ、テイオー? どうしたの、こんな木陰で?」
「ふぇ!? あ、ううん、なんでもないよ! 眠れないから夜風にあたってただけ!」
「え、あ、そうなんだ、早めに寝ないとダメだよ。あ、そうだ、少しの間私用事でいなくなるけど、その間別の所でのトレーニングでお願いね? 明日の朝にはスケジュール入れて置くから」
「う、うん! 了解!」
そう告げて、彼女は寮の方へと走り去って行く。
な、なんとかごまかせた。それにしても、なんだか今日は色々頭がパンクしそうだよ……。知ってはいけないようなことを知っちゃった気がするし……。
明日、スペちゃんたちに相談しようかな。