最近トレーナーの様子がおかしい、修羅すぎる 作:きかんしゃトーマス
1-1 抜錨する二つ
「何ですのテイオー、私まで連れ出して」
「し~! ボク一人じゃおかしいでしょ?」
「だからって私を連れ出す必要ありませんわ!」
「し~! 今いるから!」
校門の角際に植えられた植木鉢から、こっそりと通路の様子を確認する。暫く待機してると、目的の相手が姿を見せる。
緋色の髪色をこさえたここでは珍しい髪色の女性。ボクたちの事を担当するトレーナーだ、優しく温厚で真面目な人とだけ言えば、彼女の性格の大半は説明可能だ。
ではなぜそんな人物をこうやって態々隠れて観察する必要があるのか、それは少し前に遡る。
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数日前の夜、ボクはトレーナーが2人程の誰かと電話している姿を見つけ、盗み聞きしてしまった。
その時に出た不穏な言葉。『特異点』だの『大破』だの『本部』だの。何とかやり過ごして自室に戻った後も、その事で頭がいっぱいになってしまい、その後のトレーニングも集中できなくなっていた。
そこで、ボクは放課後の空き時間で仲間たちにその事を打ち明けた。
「何か別の仕事でもやってんじゃねぇの? そういった事は珍しくないんだろ?」
「そりゃぁ、バイトの兼任とかなら良くある話だけどさ? さっき言ったワードに関係する仕事って何? ボクは思いつかないよ」
「心配しすぎではありませんこと?」
その日練習に訪れたゴールドシップとメジロマックイーンの2人は、淡々とした表情でそう返す。
放たれる言葉がどれも正論故に何も言い返せないが、それでもボクに宿る腹の虫は収まらない。トレーナーが一体どんな仕事をしているのか。
「っつってもまあ、アイツがここを空く頻度も高くなったよな。何の前触れなくいなくなることもあるしな」
「でしょ!? 何か変じゃない? トレーナー、何か隠してるんじゃないかな」
「知られたくない秘密の一つや二つくらいある筈です。無理に詮索するというのも野暮ってものですわ」
「おっ? マックイーンも秘密とかあるのか~?」
「な、ないですわ! 何でこっち来るんですの!?」
二人のやりとりを観察しながら、ボクは少し悩みこむ。確かに知られたくないプライベートの話なら、トレーナーにも失礼だし、悲しい思いをさせてしまうかもしれない。
それでも心の中では、気になるという感情が渦巻きあって、ボクをどうにかしてしまいそうな感覚にする。やはり本人に直接聞くか、実際にこの眼で確かめるしかなさそうだ。
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その結果、今に至るわけである。ボクはどうやらトレーナーに真っ向から聞くという簡単な行為が出来ないようだった。ヘタレテイオー!
昨日、トレーナーはまた席を外すということを知ったボクはマックイーンを連れて先回りする事にしたのである。車で移動するみたいだが、そんなものボクたちの脚なら余裕だろう。
まあ無理やり連れてきたわけなので、マックイーンは乗り気じゃないらしいが。
「……トレーナー、なんか顔が深刻そうじゃない?」
「疲れてるだけでしょう?」
「それなら休めばいいのに……」
ボクからしてみれば、疲れているという表情というより、この世の終わりのような顔をしているように感じた。
その後バレないように身を伏せながら観察する。そしてトレーナーは、ボクたちの存在に気づくことも無く、路肩に止めていた車に乗り込んだ。
良し、ここからが尾行開始だ。
「乗った、行くよマックイーン!」
「だから何で私を巻き込むんですの?」
「マックイーンも休みでしょ?」
「それはそうですけど……!」
そういうことなら、問答無用だ。尾行がバレて叱られた場合は、誰かひとりが横にいた方がこっちとしても安心できるという物だ。
マックイーンもマックイーンで、トレーナーが気になるという想いは多少あったようで、断りたいけど断り切れないといった様子だった。こちらとしては何とも都合のいい相方だ。
ため息をつくマックイーンも吹っ切れたのか、そのまま尾行するボクの後ろを追尾するのだった。
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尾行しながら走り、時にはタクシーを行使しながら追いかけ、ようやくトレーナーの乗る車が停止する。
「ど、どこまで行くつもりですの……?」
「ボクだってわかんないよぉ。あ、でも、止まった?」
咄嗟に傍の草茂みに身を潜め、遠くの様子を確認する。
そこに広がっていたのは、何やら港町のような景観をした場所だった。しかし、どことなく物々しい雰囲気が漂っていた。
何かを運ぶクレーンだったり、赤色のレンガで構成された幾多の建物だったり、ボクたちの想像していた建物とは全く異なっていた。もうちょっとファンシーな場所だと思ってたけど。
『……り、さい。……督』
『うん、あり、とう』
「なんて言ってるのかな? というか、あの人誰だろ」
「私に聞かないでくださいまし。でも、見た目は私達と同じくらいの歳ですわね?」
車から降りるトレーナーを、ボク達と同じ年齢の女の子が迎え入れる。バイト先にしては如何せん不自然じゃなかろうか。
それに、トレーナーの表情も先ほど以上に切羽詰まったような感じとなっていた。一体何があったというのだろうか?
「……あ、また奥に行っちゃった」
「見たところかなり人がいるようですわ。見つかったらマズイですけど……」
確かに、奥では迎え入れた女の子と同じ年ぐらいの子からトレーナーと同じ年ぐらいの子まで、様々な女の子の人影が見える。
ここがどんな場所かは知らないが、ここから尾行するのは相当至難の業だろう。尤も、それで諦めるようなボクではないのだが。
ここまで来て引き下がれ、といって肯定するのが無理な話だろう。マックイーンも同じ気持ちのようだった。
――されど、どうやらボク達はトレーナーに気を取られ過ぎていたようだ。
「……貴方達、この辺じゃ見かけないね? ここで何してるの?」
「「!?」」
背後から少女の声、マズイ、勘づかれた。
どう判断すればいいのかわからなかった。ボクとマックイーンは互いに一瞬頷きあった後、全速力で奥へとかけ走った。陸上でボクたちに追いつける人間なんていないだろう。
「あ、待ちなっ、速っ!?」
ボク達が振り返る頃には、彼女の影も遥か彼方だった。メカメカしい人形のような顔をもった何かを抱える少女は、そのままきょとんとした表情をしていた。
通った傍にいた少女たちも、ボクたちが速すぎた為に、何が起こったか分からないというような表情をしていた。
「……島風よりも早い子がいるなんて……」