平和な国日本。その裏側の世界の、地下深くにある地底世界。その世界のど真ん中に位置する屋敷の一室で、今日もあたいは至福のひと時を過ごしている。あたいのご主人様、さとり様に毛繕いをしてもらっているのだ。こうしてあたいは、今日もいつもと変わらぬ平和な日々を
「お姉ちゃん!ちょっと魔王になってくるね!」
…過ごしたかったなあ。
さとり様はその声を聞くや否や、あたいを撫でるのをやめため息をつくように続ける。
「こいし、いろいろ聞きたいことはあるけど、とりあえず姿を現しなさい?どこを向いて話せばいいかわからないのは流石に困るのだけれど。」
あたいの幸せを奪ったこいし様は、自身の能力により誰にも姿を認識されることはない。姉であるさとり様でも望んで認識することはできないらしい。でも当の本人は気にしてないとのこと。あ、いえ、こいし様が幸せを邪魔したことに恨みなどございませんよ。ええ決して。
「私さっきこんな本見つけたんだけど、読んでみたら結構面白くて。私もこんな冒険しようって思ったの。」
「わかったからあんた、突然後ろに現れるのはやめなさい。というかその本地上の人の売り物じゃない!あとでこっそり返さないと…」
「てことでちょっと冒険してくるねー。あーでも、この世界だと魔王って誰なのかしら。閻魔様?鬼の四天王?地上の天狗さんの頭でもいいわね。」
「ちょっと待ちなさい。こいし、いい話と提案があるんだけどどちらを聞きたい?」
「どちらも聞きたくないわ。あ、役に立つと思うからお燐借りていくね。」「ふぇ?」
思わずあたいは間抜けな声を出した。そしてこいし様に抱きかかえられ、
「それじゃあ行ってくるねー。晩御飯までには帰ってこれないわ。けど心配なく。」
どうやらあたいに決定権はないらしい。たまにはどこかへ出かけるのもいいけど、あたいにだって仕事がある。
「仕事が不安ですって?心配ないわお燐、提案はあなたを連れていくことだもの。」
成程よくわからないけれど、仕事はほっといてよさそうだ。
「それでこいし様、どうして冒険なんかしようと思ったのです?」
今一番気になっている事を訊いてみた。こいし様は常日頃から一人で地上を徘徊しているけれど、目的を持ったことなどなかったのだ。
「あの本にはね、仲間と協力して強い敵と戦う主人公たちの日常が書かれていたの。それに何か魅力を感じたのよ。それにね、」
こいし様は俯いたまま、
「また、いろんな人から注目されたいなって思ったの。」
そうか、きっとこいし様は寂しかったのだろう。ただその寂しいという感情がよくわからないせいで、本人も気づかなかったのかもしれない。
「そうですか。ではあたいは、こいし様をサポートします!魔王だろうと鬼だろうと、どこまでもついていきますよ!」
少しでも頼もしく見えるようにあたいは笑ってみせた。
暫くして目を開けると、緑あふれる風景に、石煉瓦で囲まれた町並みが見えた。地上のようで、でも違う。地上は確かもっと木造だったはず。
「あの、こいし様?ここはどこです?」
「どこって、ここは異世界よ?私の無意識が作り出した世界に潜り込んだの。」
そんなのありですか…。
ご都合主義ってやつです。のんびりやっていきたいので気長に待ってくださるとうれしいです。