世界を救うその日まで   作:ケツアゴ

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 この世界は古の時代から魔王って呼ばれる存在が誕生してさ、その度に勇者ってのに選ばれた少年少女が苦難の旅の末に魔王を倒して世界を救って来たんだ。

 

 女神様に選ばれたからって世界の命運を押しつけられるなんて哀れじゃないかい? 私としては同情したいけれど、勇者からすれば私には同情されたくないだろう。

 

 うん? お姉さんは一体何者かって? おっと、これは失礼した。名乗るのが遅れるなんて私とした事がうっかりうっかり。私はね……今回の魔王さ。

 

 その魔王が敵である勇者に同情する理由やら何やらは今から語られるから待っていてくれ。まあ、嫌われ者の悪役が人気者の正義の味方にやられて皆がハッピーって感じのお話だからさ。

 

 

 

 

「ん~。矢っ張り森林浴は気持ち良いな。おや、こんな所に綺麗な花が。おっと、リスさん、良い天気だね」

 

 炎のような赤い肌に炎みたいに揺らめく黒い髪、そして湾曲した青い角。そんな人間じゃないのが分かり易い姿の持ち主が次の魔王である私さ。今は人が立ち入らない深い森の中を歩いているんだけれど、降り注ぐ日差しも咲き乱れる草花も、森の獣達も愛おしい。いや、私にとってこの世界の全てが愛すべき存在なのさ。

 

「今日は町に行って甘い物でも食べようか。ああ、お気に入りのパン屋にも行きたいな」

 

 その愛しい物には人の営みも含まれる。それは私だけじゃなく、私が率いる魔族の大幹部も、歴代の魔王もそうなんだ。この世界を創造なされた女神様と同様に皆、この世界の全てを愛している。

 

 ……その世界を少なからず破壊するのが私の、私達魔族の使命。その為に私達は存在する。悲しいけれど、それが世界の為なんだ。

 

「私の自由な時間が終わりを告げて、新しい魔王として世界に宣戦布告するまで十数年位か。今まで楽しかったし、別に良いんだけれどさ」

 

 光在る所に闇も在る。この世界は光と闇の力のバランスで成り立って居るんだけれど、魔王と勇者はそのバランスの為に誕生したシステムなのさ。発展した技術や人の数次第で二つのバランスは大きく崩れる。砂時計の中心の幅を広げるみたいに片方に流れてしまうんだ。

 

 魔王が世界を破壊し、世界に良くない影響を与える技術の発展を阻害し、人が増え過ぎない為に間引きを行う。その後で勇者に滅ぼされる事で傾いたバランスを元に戻せる。砂時計を修理して引っくり返すみたいな物さ。

 

 世界の為の生け贄な事に、滅ぼされる事に疑問は持たないのかって? いや、無いさ。そういうのが出ない為に全ての魔族には知らされていないけれど、知っている私と大幹部達は世界を愛しているからね。自分が死んでも愛する存在が続いてくれたなら、それは私達が存在し続けるのと同じ事さ。

 

 

「我が生涯に悔い無しっ! って、何を叫んでいるんだ、私は」

 

 今は時期が来るまでの自由時間。何も知らない哀れな魔族を創造し、勇者の成長に合わせて苦難が段階的に待ち受ける様に調整する。その合間合間は自由が許されて、各々が好きに過ごしているんだ。そう、今から人間に変身して町に繰り出す私みたいにさ。

 

 本当に私には魔王として打破される事に不満は無いし、人生に未練も無い。但し、この日までね。これは私の終わり方が決まった人生に未練が生まれるそんな物語なんだ。

 

 

 

「……私とした事が抜かった。お買い物しようと町まで出て来たら財布を忘れてしまうだなんて」

 

 魔王なら宝石だの何でも創り出せないのかって? いやいや、無理さ。無理だから今はこうしてその辺の物で作った釣り竿で魚釣りを楽しんでいるんだ。全く釣れないけれどね! ……帰って何か作ろうか。

 

「ん? あれは……何だ? え? おいおいおいおいっ!?」

 

 上流から流れて来た何か。小さな船みたいに見えたんだけれど、その中から聞こえて来るのは泣き声。もしやと思って船に飛び乗れば布に包まれた赤ん坊が一人。まさか親が船から落ちた? いや、違う……。

 

 

「”この子をお願いします”、捨て子か……」

 

 悲しい事だけれど書き置きからして間違い無い。預ける相手が思い当たらなかったのか、それともどうしようもない事情が有ったのか。どちらにしろ悲しくなって来る。抱き上げれば無邪気に笑い、伸ばした手で私の指を掴む。

 

 

「可愛いなあ。君、女の子か。うーん、どうしよう。私も預け先に思い当たる先が無いんだよね」

 

 この子を預けた先が悪人でないとしても、私がこれから行う行為で最も被害を受けるのは子供達だ。何時の時代も弱い者が真っ先に犠牲になる。その犠牲を出すのは私達だから何を言っているのだとは思うんだけれどさ。

 

 じゃあ、この子をどうすべき? 偶々知り合ったこの子も、私が知らない子も同じ犠牲者には変わりない。でもさ、それって理屈であって感情とは別なんだよね。

 

 

「仕方無いな。よーし! 君は今日から私の娘だ。うん、名前とか教育方針とかは他の皆に相談してからだね。私って子育てを一人で出来ないし」

 

 どうも私にも母性本能って物が有ったらしい。私は赤ん坊を手に抱いて仲間が住む魔族の領域へと向かっていった。

 

 

 

 

「お前は馬鹿かっ! 人間の子供とかどうやって育てるんだっ!」

 

 最初に怒ったのは髭面のオーガ。凄く呆れた様子だ。

 

「その子がお前に育てられたと知られた場合、どんな目に遭うのか分からないのかっ!」

 

 次は私よりかなり……少しだけセクシーな女悪魔。何か凄く厳しくって魔族内の規律を纏めているんだ。エロ下着みたいな格好の癖にさ。

 

「全く君は駄目駄目だーね!」

 

 最後は子供みたいな声のドラゴン。ちょっと悪戯が過ぎるんだよね。

 

「おおぅ! 予想以上に手厳しいぞっ!?」

 

 赤ん坊……エリーゼと名付けた子をあやしながら仲間の意見を聞いたんだけれど、これは辛辣だ。ううっ、でも確かに私達の使命とかを考えたらさ……。

 

 

「でも情が湧いちゃって……」

 

「分かっている。私達だってその子を今すぐ捨てろとは言わない。顔も名前も知らない子供でも心が痛むが、知ってしまったなら尚更だ」

 

「せめて教育を施し、安心出来る場所に奉公に出そう。私達は討たれねばならぬ身だからな」

 

「じゃあ、君は暫く人間としてその子のお世話だーよ。僕達魔族への情は要らない。死ぬのを喜んで貰わないとね~」

 

「……うん、そうだね」

 

 そうだ、忘れてはいけない。私達は世界の敵であり、討たれるべき悪で在るべき。だから私とこの子は数年でお別れだけれど……。

 

 

「よし! じゃあ私が今日から君のママだ。宜しくね、エリーゼ」

 

 

 それからの日々? もう苦労の連続で、その全てが愛おしい日々だったよ。夜泣きが凄い子だったし、お腹が減ったりオムツが濡れたりで泣いたり、子供のお世話って本当に大変なんだね。

 

 

「ママー! 彼処で何かやってるよー!」

 

「はいはい、走ったら危ないよ」

 

 エリーゼを拾ってから数年、ちょっとお転婆な良い子に育った我が子は私を魔王とは知らず、このまま森で暮らす猟師だと思わせている。ちょっとだけ洗脳で記憶を弄ったりはしたけれど、それは仲間に手助けをして貰ったりしたからだ。皆、エリーゼを気に入ってくれていたんだよね。

 

「あれは聖剣の御披露目式だね。もう直ぐ世界を救う勇者が選ばれるのさ」

 

「勇者様ー? 魔族を倒してくれるんだよね?」

 

「ああ、そうさ。エリーゼの為に頑張ってくれるんだ」

 

 既に魔族の信仰は始まっている。この子が暮らしているのは計画的に殆ど被害が出ない地域で、この辺りでこの子には暮らして貰う予定だ。

 

 

 それにしても勇者……つまりは世界の為の生け贄だ。これから苦難の旅に出る事が強制される哀れな子。今日の儀式で選ばれるんだけれど、私は顔を見ない方が良いな。情が湧いたら困る。

 

 

「始まったか……」

 

 甘い物で釣ったエリーゼと御披露目式から離れたカフェで儀式の行われる方を見る。エリーゼは既に興味がアイスに移ったのか夢中になって食べているし、その姿は愛おしい。ああ、駄目だ。討たれるのは仕方無い。でもさ、少しだけ未練が出来ちゃったよ。可愛い我が子の成長をもっと見ていたいと……。

 

「どんな子が勇者になるかは知らないけれど親は大変だな。最初は誇りを感じても、その内心配で堪らないだろうにさ」

 

 空へと昇って行く青い光。後は選ばれた子の前に聖剣が……。

 

 

 

 

 

「ママー! この剣、綺麗だね~」

 

 我が子の声に驚き前を見ると、聖剣がエリーゼの前に現れていた。つまり、この子が私を討つ勇者……。

 

 

 

 

 

 

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