世界を救うその日まで   作:ケツアゴ

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 私にとってママは世界の全てだった。赤ちゃんの時から一緒に居てくれた唯一の家族。ママのお友達の三人も大好きだけれど、ママは本当に特別。

 

 

「エリーゼ、君には世界を救える。君が世界を救って幸福な一生を送る。それだけが私の望みだよ」

 

「私はママとずっと一緒が良い」

 

「そっかぁ。ママだって一緒が良いな。ずっと親子で一緒がさ。本当にそうだったら良いのにさ……」

 

 森の中の小屋で一緒に暮らしていた私達。ママは猟師をしていて、偶にお友達の三人が遊びに来て、ちょっと厳しいお爺ちゃん、口では厳しい事を何だかんだ言っても優しかったお姉ちゃん、悪戯を教えてくれて一緒に怒られていたお兄ちゃん。

 

 皆が一緒に居てくれたら良くって、本当に楽しい日々だったのに、ある日突然人生が変わったの。

 

 

「貴女こそが勇者です!」

 

「世界を救って下さい!」

 

 ママと一緒の楽しいお出かけの途中で現れた変な剣。それが私を勇者に選んで、お城に連れて行かれて知らない大人の人達に囲まれたのは怖かった。ママの手をギュッて掴んでたから泣かなかったけれど、凄く不安だった。だって今日からお城で勇者としての特訓を受けるんだから。

 

 

「安心してよ、エリーゼ。ママが君を強くしてあげよう。魔王なんか楽に倒せるようにさ」

 

「うん! エリーゼ、ママの為に頑張るね!」

 

 ママが一緒ならどんな所でも楽しかったし、三人だって偶に遊びに来てくれた。何時までもこんな日が続くと思っていた。だってママは凄い人で、とっても強くって、魔王を倒したら喜んで褒めてくれると思っていたから。

 

 

 

 

「……ママが死んだ? お友達の三人も?」

 

「……はい。それで勇者様には今後……」

 

 幸福が壊れたのは勇者に選ばれて十年位経った頃、旅立つ一年前。ママが出掛けた先で魔族に襲われて死んだって聞かされた。お城の人が何か言って居るけれど頭に入って来ない。

 

 

 ……許せない。私からママを、お爺ちゃんを、お姉ちゃんを、お兄ちゃんを奪った魔族が、魔王を許さない。今までずっとママの笑顔が見たくって、ママと一緒に居たいから頑張って来た。

 

 世界? そんな物を救う為に頑張ったのはママが褒めてくれると思ったから。

 

「では、一緒に旅立つ三人との儀式の日程ですが……」

 

「三人? ああ、私と打ち合ったら三合も持たない剣士と、私の魔法の二割の威力も出せない魔法使いに、回復量も速度も私に及ばない僧侶?」

 

 私は強い。ママが鍛えてくれたから。勇者と仲間は儀式として洞窟の奥のクリスタルを破壊する事で力を増やすそうだけれど、私の足を引っ張る人達が少し強くなったからって何? クリスタルだって私一人で壊した方が貰える力だって多い。

 

 選出した派閥の威信? 一人特出したのより四人での方が安全? それで邪魔な人達と一緒に旅をして、それだけ魔族に長生きさせるの? ママを殺した連中をのうのうと生き続けさせる? ……そんな事は許さない。

 

 

「……要らない。邪魔だから私一人で良い」

 

「え? しかし……」

 

「私は世界を救う。魔王を絶対に殺す。ママの最期の望みを私は叶えるから……邪魔しないで」

 

 それだけ告げると私は日程を無視して洞窟に向かう。仲間に選ばれたのは王子だの教皇の弟子とか色々だって聞いていたし、さっさと終わらせないと国が介入してきて面倒だから。

 

 ”怒られそうな事をする時は迷わず速攻で”、お兄ちゃんから教えられた悪戯のコツ。意識さえ済ませればそれで終わり。無理に同行なんかさせない。

 

 

 魔族は、魔王は私が殺す。この復讐を誰にも奪わせたりしない。ママの敵討ちは私だけで行わなくちゃ。

 

 

 

「この復讐は私だけの物。それにママに誉めて貰えるのは私だけで良い。私だけでママの望みを叶えるの」

 

 ママが居ない世界に価値は感じないけれど、ママは生き続けて欲しいと何度も言っていた。だから魔王を倒すついでに世界だって救おう。そして生き続ける。ママが居ないのに幸せになれるとは思わないけれど……。

 

 

 

「……うん。楽勝楽勝。これも全部ママのお陰」

 

 訓練の時も思ったけれど、こうやってクリスタルの前まで来るとあの三人が邪魔だったと確信出来た。クリスタルが生成されるのはずっと後だったから儀式は未だ行っていないけれど一度は仲間になる予定の三人と予行練習で此処まで来ていた。

 

 あの時は三日間掛かって、ママに会えなかったのは寂しかった。今は半日で来れた。一度来たから道は分かっていても、流石にこれはないよね? 本当にどうして選ばれたの? うーん、人材不足。

 

「あっ、そうか。私を鍛えたママが凄かったんだ」

 

 世界を救うよりも自分の名誉の方が大切だとかって、そんな連中に魔王の討伐を邪魔されたく……何か来たっ!

 

 

 背後から感じる魔力の圧力。真っ赤な魔法陣が現れて、中央から出て来たのはエッチな下着姿の魔族。

 

 

「ふんっ! まさか一人で儀式を受けるとは何を考えている? 魔族を侮るなよ、勇者」

 

 何処か不機嫌そうな彼女を私は情報で知っている。魔王軍大幹部の一人の女悪魔。そして……ママ達が死んだ襲撃事件で指揮を執っていた奴!

 

「ママの敵、覚悟!」

 

 凄い魔法使いだって聞くけれど、今の私なら絶対倒せる! ママが普通に戦って負ける筈がないんだから卑怯な手を使ったんだろうけれど、今もクリスタルを破壊した事で力が流れ込んで来ているし、私が負ける筈がない!

 

「今日は様子を見に行くだけの予定だったのだが、それほど遊んで欲しいのなら遊んでやろう」

 

「……え?」

 

 今の言葉、今の声、私は何度も聞いた事がある? 流れ込んで来た力と一緒に朧気だった記憶が戻って来た。頭を覆っていた何かが外れる感覚、そして流れ込んで来る記憶。

 

 

 

「お姉ちゃん? え? どうして……?」

 

 ああ、そうだ。何で私は忘れていたの? お姉ちゃんは悪魔で、お爺ちゃんはオーガで、お兄ちゃんはドラゴンで、そしてママも人の姿をしていない時があった。その時、何て呼ばれていた? 魔王?

 

「……おい、まさか記憶が戻ったのか? あの馬鹿、力が強くなれば洗脳が解除されやすいと言っておいたのに鍛え過ぎだ」

 

「矢っ張り。ねぇ、どうなっているの? 何でお母さんが魔王なの!?」

 

 勘違いであって欲しいと私は叫ぶ。だって私は魔王を倒す勇者で、ママは魔王を倒すために私を鍛えていた。意味が分からない。全然分からない。これって悪夢だよね? ママ達が死んだ時から全部悪い夢で、起きたらママがお寝坊さんだって笑っていて……。

 

 

「……良いだろう。全て話そう。この世界の仕組みから何もかもな」

 

 お姉ちゃんは諦めた様に溜め息を深く吐いて語り出す。魔王と勇者ってどんな物だったのかを。

 でも、それは私からすれば受け入れられない内容だった。

 

 

 

 

 

「何で? 何でママ達が犠牲にならなくちゃならないの!? 私、ママ達を殺す位なら世界なんてどうでも良い! ママ達を犠牲にしなくちゃ駄目な世界なんて滅んじゃえば良い!」

 

 そう、私にとってママ達が世界の中心で、そんな人達を殺してまで世界を守りたくない。あっ、そうだ! もう聖剣なんか捨ててママの所に行けば良いんだ。なら、早速お姉ちゃんにお願いしてママの所に連れて行って貰おうっと!

 

 

「お前が何を考えているかは分かるさ。だがな、世界が滅びればどのみち私達も死ぬ。勇者の責務を放り出せばエリーゼ、お前は恨まれるだろう」

 

「恨まれたって良い! そんな事よりも私はママやお姉ちゃん達と一緒に居たいの!」

 

「駄目だ、と言っても聞き分ける子じゃなかったな。……恨まれても良いとお前は言ったな? 私も同じだ。お前が恨まれて死ぬよりも私がお前に恨まれて死んだ方が良い」

 

「お姉ちゃん? 一体何を……体が動かない?」

 

 お姉ちゃんが右手を伸ばせば私の体は動かなくなって、よく見れば無数の糸が体に絡み付いている。そのまま私の手が勝手に聖剣を握ってお姉ちゃんに向かって振り被って……。

 

「動揺している今なら可能だと思ったが、長くは持たないか」

 

「やだっ! 止めてよ、お姉ちゃん! このままじゃ私はお姉ちゃんを……」

 

「良いんだ、それで。お前は魔族の大幹部を勇者として殺す。そして今後もな。じゃないと私の死が無駄になるぞ。……すまない」

 

 私が幾ら泣いて叫んでも私の体は止まらず、そのままお姉ちゃんを肩から脇腹まで深く切り裂いた。その勢いで私は聖剣を手放して床に放り投げて、体が急に自由に動く。お姉ちゃんは血塗れになって笑いながら倒れていた。

 

「待ってて! 今すぐ治療するから!」

 

「無駄…だ……。もう消えかけている…しな……」

 

 慌てて回復魔法を使ってもお姉ちゃんの傷は癒えなくて、その体は消え始めている。

 

「ああ、そう…だ。ママには…記憶が戻った事は…言うな。お前に自分の死を背負わせたくない…だろうから…な……。さらばだ、エリーゼ。私の可愛い妹……」

 

 泣いて回復魔法を使い続けるお姉ちゃんの手が私の頭を撫でて、お姉ちゃんはそのまま消えてしまった。私の家族は私が殺してしまった。

 

 

 

「……分かった。私は勇者だから、勇者として皆を倒すね。他の誰にも手出しなんかさせやしない」

 

 ママ達の死を名声に変えさせはしない。ママ達の死を喜ばせはしない。ママ達を殺した事を誇りにさせやしない。

 

 全部私が背負う。ママ達を殺したって事を私だけで背負うの。だって、私はママの娘だもん。

 

 

 

 

 それから私は旅に出て、その途中で何度も戦った。勇者だからと期待されても嬉しくなく、出来るだけ町にも寄らずに…。

 

 

 

「ああ、全く子供の成長は早いな。あんなに小さく泣き虫だったのに……」

 

 お爺ちゃんを殺した。

 

「うーん、強くなったね。悪さして一緒に怒られてたのが懐かしいよ。覚えてる? 君って僕の背中に乗って初めて飛んだ時、お漏らししちゃってさ」

 

 お兄ちゃんも殺した。

 

 

 そして今、ママも殺した。顔を見た途端に泣いて甘えたいのを堪えて、お姉ちゃんとの約束通りに敵として接して、戦いの末に心臓を聖剣で貫いたら倒れ込んで来て、まるで抱き締めて貰っているみたいだな。

 

 

 

「……これで世界は救われる。ママだって喜んでくれるよね。私やったよ。ママの願いを叶えたの。大変だったけれど、世界を救ったんだ」

 

 これで良いんだよね? ママはこれで喜ぶんだよね? 今にも泣きたいのを堪える。ママに泣いて謝りたいのを必死で我慢した。

 

 

「よく…やった……ね。これで世界は……」

 

 私の腕の中でママが消えて行く。大好きなママが居なくなる。嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 居なくならせやしないとママを抱き締めるけれど私の腕の中からママは消えて、完全に私の前から居なくなった。

 

 

 

「……うあ。あああああああああああああああああっ!」

 

 その場に座り込んでどれだけ泣いても私の目からは涙が溢れ出す。もうママに会えない。もう誉めて貰えない。それが悲しくて私は泣き続けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者様の情報を集めています!」

 

「勇者エリーゼ様を発見した方はご一報を!」

 

 そして私がママを殺してから早数ヶ月、ママの死でご褒美なんか貰いたくないし、喜ぶ人達の姿も見たくない私はママから教わった魔法で姿を変えて森で暮らしていた。偶にママと一緒に食べた甘い物が食べたい時だけ出掛けるけれど、私は好きで姿を消したのに探すなんて迷惑だな。

 

 

 

 

 ああ、町の皆は笑顔だ。世界も平和で、ママ達が世界の為に何をしたのか知りもしない。それが腹立つから町に来るのは最低限だ。私に関する勝手な噂を聞き流しつつ森の家に戻ろうと人通りの無い路地裏に入った所で思わぬ物を発見した。

 

 

 

 

「赤ちゃん?」

 

 そう、捨て子だ。”拾って下さい”か。ママ達を生け贄に救った世界でも解決出来ない問題は多いんだ。……この子、どうしよう? 孤児院にでも放り込んでくれたら良かったのに。ああ、孤児院は離れた町にあるんだっけ?

 

 

「……どうしよう」

 

 そっと赤ちゃんに手を伸ばせば小さな手で私の指を掴みながら無邪気に笑っている。うん、そうだ……。

 

 

 

 

 

「うん、仕方無いから今日から私がママになってあげる。宜しくね」

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