卍解
斬魄刀戦術の局地として伝わるそれは、才あるものが圧倒的な努力を積み重ねた末に掴み取るいわば選ばれたものだけが手に入れる力。
霊圧が他の死神と比較しても巨大なかの4大貴族ですら卍解に至る者は数世代に1人と言われており、卍解を習得した者は例外なくその名をソウルソサエティの歴史に例外なく刻まれる。
一つ例外があるとすれば、黒崎一護が死神の力に目覚めて数年の間のことだ。
後に千年血戦とよばれた滅却師との大戦において数名の死神が卍解を習得したことを除けば、やはり卍解とは特別なものと言える。
また隊長就任の条件の一つとして卍解の習得が挙げられるほどなのだ。
9番隊18席春日飛鳥も学校時代は神童と呼ばれた男だ。
名門貴族春日家の跡取りとして生まれた飛鳥は才能に溺れない努力家であり、上級貴族特有の高い霊圧から次期隊長格候補として学校時代から名前が響いていた。
そしてその始解の形からポスト黒崎一護と持て囃されていた。
本人も当然、英雄黒崎一護を尊敬していたし、ゆくゆくは一護と同じ隊で活動し一護の右腕を目指すべく努力していた。
しかし実際の配属は9番隊であり、成績トップの自分の要望が叶えられなかったことが納得いかなかった。
そして自らの実力を示そうと努力し、席官にもなり卍解も習得した。
並大抵の努力ではないし、その努力に見合う結果を得ていた。
そして数名の部下からやはり黒崎一護の右腕に相応しいのは春日しかいないというもてはやしが春日を増長させていた。
そんな時だった。
沢田綱吉という落ちこぼれと獄寺隼人というチンピラが黒崎一護の直属の部下として配置されたと聞いた。
たまたま春日の部下に綱吉たちの同級生という死神がおり(そいつは三十代死んだので死神歴は長いが能力が低く努力もしないので万年ヒラ)その者から聞くとダメツナと呼ばれる程全てがダメで、獄寺は教師すら手がつけられないほどの不良だった。
どう考えても黒崎一護の部下としてふさわしくない。
なぜ、なぜだ?
私こそが、黒崎副隊長の部下にふさわしいのに!
その嫉妬が、春日のまなこを曇らせた。
アランカルをツナたちが退けたという話が聞こえてきても、
きっと黒崎副隊長が倒した時にすぐそばにいただけなのだろう
と聞く耳を持たず、その他の任務の成功も山本の手柄だと思っていた。
であるから自身が手塩にかけた部下の一人である霧幻が山本に倒されても
あいつは見所があるな、それでこそ黒崎副隊長の部下にふさわしい
としか思わなかった。
そしてその疲弊した山本と斬り合っても
筋はいい、だがまだまだだ。
自分の部下として育てたい、やはり13番隊には私が必要ではないか。
としか思わなかった。
このトーナメントですら、敬愛してやまない黒崎副隊長に自身の実力を見ていただきたいとしか考えていなかった。
故に、負けることはおろか自身が追い詰められることすら想像していなかった。
山本武すら倒せば、沢田と獄寺に負けることはあり得ない。
だから山本が棄権した瞬間から春日は気を抜いていたのだった。
死神になって半年しかたたぬ相手、しかも落ちこぼれたチンピラ風情の相手に卍解など使う必要はない。
しかし、圧倒的な力を見せつけたい。
もちろん誰が相手だろうと手を抜くことすらしたくないという考えもある。
だがそれ以上に、自身が誰より有能であると示したいと思っていた。
傲慢、その一言に尽きる。
だから夢にも思わなかった。
現実だと受け入れたくなかった。
目の前のチンピラ、獄寺隼人が放つ霊圧を。
そして放った言葉を。
「卍解」
吹き荒れる霊圧はさながら赤い、いや、さらに濃く鮮やかな真紅の嵐。
思考停止する春日をよそに獄寺を包む嵐がとけた。
まず目を引くのは左手に装着された髑髏を模した小手。
そして腰を覆う小さな匣が装着されたベルト。
死覇装はよりスタイリッシュになり、和装とスーツの中間のような少し大きめのジャケットのような服に。
死覇装の裾から見え隠れする大量のボムと左目についたモノクル。
その傍に控えるのは真紅の炎が体から噴き出した巨大な豹。
「卍解、爆嵐紅蓮豹。
こいつを出す気はなかったがしょうがねえ。
てめえにはケジメをつけてもらうぜ、春日飛鳥!」
「ありえぬ、ありえぬありえぬありえぬ!
なぜ貴様のようなカスの分際で卍解が使える⁈
私があれほど努力して、手に入れた力をやすやすと!
私が望んでも手に入れられなかった居場所を得ている貴様がぁ!」
春日はコメットドライブの虹の羽を広げ高速移動を始める。
そして隼人に刀を振るうが
「おせぇ、てめえの攻撃なんぞ見切ってんだ。
山本の刀に比べたら雲泥の差だな。」
左手の小手から噴き出す真紅の炎が斬撃を受け止める。
春日は攻撃を繰り返すが全ていなされる。
「けっ、盾を使うほどでもねえ。
次はこっちから行くぜ。」
隼人は右手を2回振るう。
その手に刀はない。
春日は距離を取ろうとした瞬間、背後からの爆発に吹き飛ばされた。
体制を立て直そうとした春日の眼前には隼人が立っていてアッパーを食らわす。
のけぞった春日に隼人は左手を構え
「真紅炎の矢(クリムゾン・フレイムアロー)」
超高密度の炎の矢を放つ。
場外ギリギリまで吹き飛ぶ春日、その黄金の鎧はすでにボロボロで形は失われかけていた。
「おいおい、瓜の出番がねえじゃねえか。
こんなもんであいつを貶したのかよ、拍子抜けだぜ。」
「なん、なのだ、貴様の卍解は…
なぜ私の動きを止めることができた!」
ふらつきながらも立ち上がる春日。
そして隼人が語り出す。
「おれの卍解の能力だよ。
俺の特性は嵐、性質は分解。
嵐の守護者たる俺の使命は常に攻撃の核となり、休むことのない怒涛の嵐だ。
そして俺の卍解は、俺の使命を体現するための力になっている。
攻撃方法も生前の力を強化したもんで、一番の特徴は風を読めることだ。
このモノクルが空間を満たす風のわずかな揺らぎすら感じ取る。
だからどんだけてめーが早く動こうが、風を切る時点で動きは筒抜けなんだよ。」
隼人の説明に戦慄する春日。
そんなもの無敵ではないか。
奥の手を出すしか…
「貴様相手に奥の手を出すことになるとは思わなかったがやむをえん!
風をよめたところで、圧倒的な暴風の前には意味をなさんだろう!
喰らえ我が奥義!
鳳滅翼翔!」
春日の大剣が巨大な羽になり、まとう風の斬撃が放たれる。
空間を風が削り取っていく。
しかし隼人は
「いいぜ、覚悟の差を見せてやらぁ!
嵐の厄災(テンペスタ・カタストロフィ)!」
真紅の巨大な嵐を一つの矢に束ね放つ。
分解の性質と嵐の勢いであらゆる物を削り、滅ぼしていくその様はまさに厄災。
春日の奥義を飲み込むまで止まることはなかった。
「私の奥義が…
しかし、今ので貴様も霊圧を絞り出したはず!
ならば後は我が剣技で!」
「気にならなかったか?
なんで最初に背中が爆発したのか?
答え合わせの時間と行くか。」
隼人の言葉に戸惑う春日。
言われてみればそうだ、隼人はあの時矢を放っていなかったはず。
「簡単な話だ。
てめーは瓜と俺の炎の矢を攻撃手段とおもっていたみてーだがそれだけじゃねえ。
俺は元々爆弾が獲物でな、斬魄刀になってもそれは変わんねーよ。
炎と霊圧で、投げた爆弾の軌道を曲げて背中にぶつけたのさ。
嵐の炎と卍解の霊圧で跳ね上がった威力は最大出力なら一撃必殺ってな。
種明かしは終わりだ、これで果てろ!
ビックバンロケットボム!」
隼人の両腕が振るわれ、合計八本のボムが高速で春日に迫り、会場を揺るがすほどの爆発を引き起こした。
会場を守っていた結界もヒビが入り、やがて砕け散る。
爆炎が晴れたのちに立っていたのはボロボロの春日と卍解が解けた隼人だった。
「確かに俺は元々ただのチンピラだ。
てめえみたいになにかに打ち込んだこともほとんどねえ。
そんな俺でも、ダチや仲間を守るためなら死ぬ気になんだよ。
ボンゴレ、いや…
13番隊舐めんじゃねえ!」