「獄寺、ちょっと来い。」
隼人が執務中に呼ばれたのは、京洛から修行を言い渡された2日後だった。
修行の前に残った事務を片付けるべくツナと武、隼人はそれぞれ事務机に向かっていた。
残るメンバー、新規に追加された人物たちは一旦置いておくとして、この時一護に声をかけられた理由になんとなく見当がついていた隼人は黙って立ち上がった。
そして一護の執務室へ入り5分の沈黙が続く。
お互いに互いが何を聞きたいのか理解している二人だが、内容が内容だけに踏み込むタイミングを窺っていた。
しかしいつまでも黙っているわけにはいかない、一護が切り出す。
「忙しいのに呼んじまって悪いな。
お前に聞きたいのは」
「わかってます。
十代目、沢田十席の事ですよね。
俺たちもどこから説明していいのか、困ってまして…」
一護はこんなにも言い淀む隼人を見たのが初めてだった。
故に事はデリケートであることを窺わせた。
だが、事態は急を要する。
「長くなっても構わねえ、始めから聞かせてくれ。
一体どうしちまったんだ沢田のやつは?
後四六時中ついて回ってるあの藍色の髪のお嬢ちゃんは誰なんだ?」
そう、あの翌日からツナの背後には見慣れない死神の女性が付き従っていた。
一見して地味、しかし可憐さと儚さを持つ、そんな美しさを持った女性であった。
女性の表情は気恥ずかしさを纏っているが、その頬の紅潮が好ましい感情であることを周囲に示していた。
一方ツナといえば、とにかく顔色が悪いの一言に尽きた。
嬉しさ反面、苦悩するような表情を浮かべたかと思えば絶望したかのような表情を浮かべ周囲の隊士からは死相が浮かんでいるとまで言われているほどだ。
一護も一日寝れば元に戻るだろうと思っていたが蓋を開ければ2日以上続いていた。
残務が片付き次第、ある場所へツナたちを連れて行くつもりだった一護は問題解決を優先することにしたのだった。
「沢田ぁ!
今晩空いてるか?空いてるな?
サシで呑むぞ、安心しろ俺の奢りだ。
悪いなお嬢ちゃん、こいつ借りるぞ。」
ツナの執務室に入るとツナだけではなく付き従うように件のクロームドクロがいたためそのように声をかけた。
そして時は過ぎ夕方、個室のある店にツナを引き摺り込んだ一護は酒をちびちびと飲みながら語りかける。
「無理矢理に誘って悪かったな沢田。
お前と腹割って話したくてな。」
「いえ…
あの、副隊長…今日呼ばれたのって、クロームの事、ですよね?」
流石に察しはつくか。
前置きをやめて面と向き合う事にした一護。
「なかなか察しがいいな。
先に謝っとくが、大体は獄寺に聞いた。
今は大事な時期でお前は戦力だ、だから俺が無理矢理に聞いたんだから獄寺はむしろ被害者だから責めてやるなよ。」
「はい、あいつは俺の右腕ですから。
きっと気を使って話したんでしょう。
そうですね、副隊長にはお話ししとかないとですね。」
そしてツナの口から過去が語られ始めた。
まだ二十代の頃、それこそ京子と結婚の話が出ていた頃のことだ、
とある友好ファミリーとの食事中、ボンゴレボスの妻の座を手に入れるため、友好ファミリーのボスの娘が料理に強力な媚薬を入れた。
うっかり超直感が発動せずその料理を食べてしまったツナは発情してしまったらしい。
その時護衛として付き従っていたクロームが異変に気づき真実が発覚、そのボス令嬢をからツナを引き剥がしたが時すでに遅し、発散しなければ過剰なホルモン分泌で死に至る可能性すらあった。
ツナの鋼の理性が崩れかかっていた時に、ツナに好意を持っていたクロームが相手になりツナを救ったと言うことだった。
当然、ツナとしてはクロームも妻に迎えて責任を取るつもりだったが京子との結婚話を公表しており、伝統あるマフィアのボスが側室を持つなどマフィア界ではありえないことだった。
そして、クロームがツナの子を授かってしまった。
クロームは出産、子育てで子供が5歳になるまでは表から姿を消した。
その間は骸が一人で霧の守護者を務め、ツナの追及にも関わらず頑としてクロームの居場所を答えなかった。
『綱吉くん、全てを明かすには時期尚早です。
しかし、クロームは君のために姿を消したとだけ言っておきましょう。
その意味を、考えなさい。
僕は君の守護者で友ですが、それ以前にあの子の家族です。
あの子が僕の最優先であることを、お忘れなきよう。』
そういった骸だが、6年後に答えを知った時にはツナは京子と結婚し子供をもうけていた。
全てを知った後も常識破りと言われようともクロームを妻に迎えようとしたが、クロームは首を縦には降らなかった。
そして、ツナは代わりに可能な限り父親としてクロームの子と接する時間を作り、愛することにしたのだった。
「これが彼女との全てです。
俺は死に際に、彼女の幸せを祈り、長生きして世界を見守ることを願いました。
だけど、こんなにも早く彼女はこちらへ来てしまった。
俺の家庭教師が言うには、守護者として引き合ったが故だそうです。
俺は、彼女の幸せを全て奪ってしまったんです。」
涙を流しながら話し終えたツナ。
事前に聞いていたにしろ、やはり凄まじい内容であることに変わりはない。
「沢田、お前の過去はわかった。
それであの様子も納得だ。
で、お前はどうしたい?」
弾かれたように首を上げるツナ。
「お、俺は…
許されるなら、彼女のそばにいたい!
今度こそ幸せにしたい!」
「そうか、一応席官はこっちでは準貴族の扱いだ。
正妻と第二婦人って形で暮らしてる人たちもいるにはいる。
その上で聞くが、お前はどうしたい?」
ツナは呆けた顔をした後に真っ直ぐ一護を見据えて言った。
「もし許されるなら、死後の世界でもあの子を幸せにします!」
「だとよ。
聞いたな織姫、お嬢ちゃん。」
一護がそう言うと個室の扉が開き織姫と泣きじゃくるクロームが入ってきた。
「わりいな、おっさんが余計な世話焼いたぜ。
会計は俺につけといてくれって店主に言ってある。
あとは二人でゆっくり話な。」
そう言って一護は織姫を伴って店を出て行った。
ツナはクロームに声をかけようとする。
「あの、クローム、」
「ごめん、なさい。
私があなたの、ボスの心に、思い十字架を背負わせてしまった…」
泣きながら語るクローム、この時ツナは苦しんでいるのが自分だけではないことにようやく気がついた。
そしてゆっくりと抱きしめる。
「そんなことない!
むしろ俺の方こそ!
もう俺たち死んじゃってるけど、それでも俺は君を今度こそ幸せにしたい。
俺と、生きてくれ。」
ハッとしたクロームが泣き止む。
そしてそれはそれは綺麗な笑顔で
「se!
喜んで、ボス。」
2人は儚く明けていく夜を語り明かして過ごしたのだった。
そして翌朝。
隊の朝礼が始まった。
司会は一護だった。
「お前ら新しい隊士を紹介するぞ。
お前ら出てこい。」
そしてまず出てきたのはクロームだった。
「コイツはクローム髑髏、」
紹介しようとした一護を手で制したクローム。
「否、我が名は凪。
沢田、凪。
そこにいる沢田綱吉の霧の守護者にして、妻。」
一般隊士は当然のこと、隼人と武だけではなくツナも度肝を抜かれたのは言うまでもなかった。
なかなか好みの分かれる展開なのは承知の上ですが、本作のメインヒロインということでご納得ください