「腹、減ったな…」
一護腹の音が虚空に響く。
一護の虚化暴走事件から半月、再度の暴走を懸念した中央四十六室の命令により一護はかつて藍染が収監されていた「無間」に閉じ込められていた。
一護自身も再度暴走する可能性を否定しきれなかったこともあり、自ら望んでの投獄でもあった。
光も入らない永遠に続く闇、誰一人入ることの叶わない闇の監獄には当然食事の提供などない。
霊視で構成される肉体、そして霊力を操れる死神の力により、餓死という概念がないことが唯一の救いと言えた。
しかし、永劫にも感じるその時間にも終わりの時が訪れた。
久しく聞かない扉の開く音にゆっくり目を開けると漏れ出る外の微弱な光に網膜を焼かれ一瞬目がくらむ。
「いやぁ、お勤めご苦労様デスゥ。
お久しぶりですねぇ黒崎サン、あなたの副隊長就任祝いでこちらに来て以来っすねぇ。」
軽妙ながらもどこか読めない口調、こんな胡散臭い喋り方をする人物に心当たりは一人しかいない。
ようやく慣れた視界に、懐かしい緑色の帽子と下駄が映る。
「…らあらさん?」
久方ぶりの発声にうまく声が出ずしたっ足らずな声が出て羞恥に顔が染まる。
目の前にいる男の名は、浦原喜助。
元12番隊隊長にして、現在は浦原商店の店主であり、かつて一護に戦い方を教えた師匠とも言えるべき男だ。
「あららら、随分消耗されてますねぇ。
積もる話もありますが、先に腹ごしらえからいきましょうか。
沢田サン、食事を渡してあげてください。」
その声にようやく裏腹の後ろに控えていたツナの存在に気づく。
「副隊長、姫姉さんの作ったお粥です。
ゆっくり食べてください。」
ツナに手渡されたお粥を食べると胃に染み渡る。
さすが織姫の料理だ。
長年連れ添った妻の食事の味は何よりの回復薬だ。
ようやく回復した様子を見せた一護に浦原は鉱石の塊のようなものを差し出した。
黒鉄色に鈍く光るその塊からは、ところどころ見覚えのある曲がった金属や黒い鎖が飛び出していた。
「黒崎さん、中央四十六室はあなたの処刑を決定しました。
しかし、アタシや沢田サンの提案で唯一の打開策が承認されました、そいつがこの塊です。」
まさか、これにそんな力が?
見れば見るほど、言葉の意味が理解できない一護に浦原が続ける。
「黒崎サン、あなたはかつて、死神・虚・滅却師、そして人間の4つの力をその身に宿してそれぞれの力を打ち消しあっていました。
しかし、今のアナタは死神の力しかない状態で以前より強化された状態の虚と滅却師の力が流れ込んだ、いや戻ったと言うべきっスかね?
その結果制御しきれない虚の力が顔を出してしまった、と言うのが今回の件を調査した結果判明しました。
だからこそあなたの力を再び打ち消しあい、その力を制御するためにこれが必須になるんです。
黒崎サン、この塊からはみ出ている部分に見覚えないですか?」
一護は言われて凝視する。
こいつは…
「これは、まさか天鎖斬月なのか?」
それは卍解した自身の斬魄刀の一部だった。
その答えに笑みを浮かべ浦原は続ける。
「正確にはそのカケラです。
沢田サン達のもつボンゴレハートの破片、そして二枚屋サンから預かった滅却師との戦いで一度折れた時の斬月の破片。
さらには一勇サンに頼んで提供してもらったあなたの肋骨の遺骨、そして生前のあなたの血を混ぜて作った、黒崎サンの新しい力となる原石です。」
その言葉に驚愕した一護、戸惑う一護を無視して続ける。
「ただあくまで、こいつは力の原石です。
こいつを目覚めさせられるかはアナタにかかっている。」
その言葉に一護は眉を顰める。
「浦原さん、そいつはどう言う意味だ?
まるで、斬月を始解した時みたいな言い方だけど、なんか抽象的じゃねえか?」
その言葉にツナが変わって答えた。
「副隊長の疑問は当然ですよね。
これはまだ、人で言うところの体、ガワができただけの状態なんです。」
「ガワってことは形だろ?
ならもう使えるんじゃねえのか?」
一護の疑問にツナは微笑みながら答えた。
「いえ、コイツはまだ眠っている状態なんです。
俺もかつて、同じように力を目覚めさせたことがあります。
その時に使った力があの時副隊長を止めた、死ぬ気の炎です。
ボンゴレハートが含まれているので、副隊長も炎をその原石に灯すことができます。」
沢田のあの炎を、俺も?
その言葉を聞き、原石を受け取った一護は霊圧をその石に流す。
すると、灯るようにオレンジ色の炎が原石に灯った。
しかしそれを見たツナは焦ったように声を上げる。
「ダメです副隊長‼︎
そんな程度の炎だと、石が目覚めず死にます‼︎
もっと思いっきり炎を灯してください、覚悟を炎に変えるイメージです。」
テメッ、聞いてねえぞ‼︎
そう言いかけた一護だが、説明を最後まで聞かずに始めてしまった自分にも非はあると思い言葉を飲み込む。
今ある霊圧を全て注ぎ込む、が
「なんでだ、なんで炎が大きくならねえんだ。」
普通なら卍解してマックスの出力で月牙が打てるレベルの霊圧を込めているはずなのに、炎の大きさも色も変わらない。
このままじゃダメなのは、なんとなく分かる。
だがどうやって…?
そう考える一護に焦っていることが伝わったのかツナが語りかける。
「炎の大きさは関係ありません。
大事なのは炎の純度、強い覚悟が炎をより鮮やかな色に染め上げます。
俺、初めて自分のリングに炎を灯した時、一緒にいた大事な女の子を守りたかったんです。
俺は、副隊長みたいに英雄って言われる人間にはなれませんけど、それでも大事な物を守るために覚悟を決めると炎も強く燃えて戦うことができました。
これがアドバイスになるかわかりませんけど、副隊長には今守りたい人はいませんか?」
ツナの言葉にハッとする一護。
あまり時間はかけられないが、深呼吸して目を瞑る。
『俺の守りたいもの、か。』
俺は昔、母親を守れなかった。
でも、ルキアがあの日死神の力をくれて守れるものが増えた。
親父や妹達、それから戦ううちに織姫を嫁にもらって、息子も生まれた。
戦う中で死神の奴らとも分かり合えて、背中を預けれる仲間が増えた。
一緒にルキア救いに殴り込んだダチがいた。
そんでほんとの死神になって、副隊長になって、それから、守らないといけない部下も、制御の効かない俺を止めてくれるほど強い部下も出来たな。
「一護」「黒崎」「黒崎一護」「一護君」「父ちゃん」「兄貴」「副隊長」
守りたいものが、増えた。
「なんだよ、俺。
守りたいモノ、いっぱいあるじゃねえか。」
そうだ、守りたいモノが俺に力をくれる。
そう思った瞬間、鮮やかなオレンジ色の炎が吹き上がり、原石が割れ
「…コイツが、俺の新しい力、か。」
その右手には代行証の形をした指輪から黒い鎖が右手に絡みつき、一種のガントレットのような形になった。
どうやら思うだけで鎖は指輪に収納されるらしい。
「月牙の指輪、ってとこっすかね。
最後の月牙に似てますね、何はともあれお疲れ様でした黒崎サン。」
浦原さんの声が遠くで聞こえる気がする、なんか疲れたな…
気づいたら俺は4番隊の病室で寝ていた。
どうやら翌日に目を覚ましたらしく、京楽さんに呼び出された。
「お疲れちゃん、一護君。
気分はどうだい。」
「まぁ、久々に布団で寝れただけで極楽ですね。」
それを聞くと京楽が噴き出す。
「そいつは良かったじゃないの。
とりあえず処刑は回避できたところで、真面目な話をするんだけど三ヶ月後に虚圏に殴り込みをかけるよ。
メンバーは綱吉君達旧ボンゴレ十代目ファミリー達7人と世界くん、そして監督役として君に行ってもらうよ。」
京楽からツナ達の出自を聞いていたために誰が行くかは頭の中でわかっている一護。
「それまで各自修行を浦原喜助とリボーン君と相談して割り振ったよ。
そんで君も、その指輪の力を使いこなしてもらわにゃならんのでね。
とりあえず、平子隊長と久々に虚化して稽古してごらん。
あと綱吉君ともね。」
とりあえず力に慣れろ、と言うことらしい。
隊舎に戻り、綱吉に各自の修行メニューを確認した。
沢田・笹川 2番隊隊長並びに四楓院夜一と修行
獄寺 浦原喜助並びに涅マユリと研究
凪(クローム) 雲雀の元で修行を自ら志願
ランボ 総隊長と修行
山本 朽木白哉・ルキア両隊長と修行
雲雀 僕の修行?僕はいつでも戦いたい相手と戦うけど、とりあえず隊長全員と戦うよ
と言うことらしい。
なんでも三ヶ月で強くなるための特別メニューらしい。
「…なんというか雲雀らしいな。」
「えぇ、さすが戦闘狂のうちの浮雲ですね…」
雲雀の自由さに苦笑いを浮かべていると、戸が開く。
そこに立っていたのは
「武じゃん、どうしたの?」
「悪いツナ、頼みがあんだけどよ…
俺の修行、見てくんね?
小僧の許可はもらってんだ。」
ご無沙汰しております。
諸事情あり、ようやくこの続きを書き始めれるようになりました。