修行開始から二ヶ月後、一護とツナは総隊長室に呼び出されていた。
部屋の主人である京楽の顔はいつもの編み笠に隠されて読み取れないが、いつになく険しい気がしていた。
副官である伊勢七緒はいつも通りの冷静さを貼り付けた顔で立っていたが、メガネを直す指が震えている。
あまりいい呼び出しではないことはなんとなく察していた。
京楽が部屋の外を見ながら、背中越しに語りかけてくる。
「二人とも、呼び出してごめんねぇ。
どうだい修行の進捗はどうだい?」
やはり表情は見えないがどことなく声が硬い、それを察して一護は切り出す。
「京楽さん、何かあったんだろう?」
ぎくりと京楽の肩が揺れる。
無言の肯定の後、京楽は一つため息をついておどけた口調で話す。
「やっぱわかる?
いやぁ、一護君にも隠しごとはできなくなっちゃったね。」
自嘲の笑みをこぼした後に、戦闘時のような真剣な顔で話を続ける。
「良くない知らせだよ。
3日前に偵察のため、虚圏に行かせた部隊と15時間前から連絡がつかなくなった。
持たせている通信装置からの最終のログから何者かの襲撃に遭ったと断定、おそらく君たちが前回戦闘になった破面、もしくはその一派だろうね。
奴らの目的がわからない以上、最小人数の精鋭で部隊の救出と一派の殲滅を行わないといけない。
一ヶ月も前倒しで悪いけど、君たちには3時間後に虚圏に向けて出撃してもらうから、覚悟をしておいてね。」
一護とツナの顔が一気に引き締まる。
前倒しを想定していなかったわけではない、しかしこれ程まで早くこの時が来るとは思っていなかった。
残された時間は少ない、京楽に一礼した後隊舎へ向かって走る二人。
「沢田、思ったより早く来ちまったぞこの時が。
覚悟、いいな?」
一護は挑発的な笑みを浮かべツナに問いかけてくる。
しかしそこには不安などない、なぜならツナの修行の成果はその身を持って知っているからだ。
そしてツナも不安を入り混じらせながらも笑ってみせる。
「ええ、みんなのおかげでなんとか形にはなりましたし。」
ツナらしい控えめな言葉。
しかし確かな自信を感じさせる言葉に笑みを深くした一護は隊舎に向けて速度を上げた。
3時間後、虚圏
そこは明ける事のない夜が支配する砂丘。
全てが枯れ果てたこの地に破面、そして奴らがいる。
「しかし、聞いてた以上に何もないですね。」
隼人の呟きにその場にいた全員が頷く。
今回出撃したのは一護、ファミリーの守護者達、そして世界の9人だった。
暴走事件のせいもあり、今回責任者はツナになり一護は監督役になった。
その一護が手元の機械を見ながら全員に声をかける。
「偵察隊の最終確認地点へ向かうぞ。
ここから北西に30分ってとこか、編隊で戦闘は俺と沢田、右を獄寺、左を山本がカバーしてくれ。
最後尾は…雲雀一択だな、編隊とか嫌だろうから少し離れたところでもいいぞ。
いいよな、雲雀?」
「ワォ、良く僕のことをわかっているじゃないか。
言葉に甘えるよ。」
一護の気配りのおかげで問題なく目的地へと向かうことが可能になった。
そして問題なく目的地まで行くと、そこには
「なんだよ、これ…」
ツナが思わずそう呟く程度には凄惨な光景が広がっていた。
そこには死神、破面問わず体のどこかが焼けて欠けており、その死体が無造作に地面から伸びる複数の槍に串刺しにされていた。
なんらかの儀式、と言うにはあまりに杜撰な、しかしただの趣味でやったと言うには圧倒的な畏怖を抱かせる光景だった。
唯一雲雀だけが平然としていたが、それでも目には明らかな嫌悪感が浮かんでいる。
「それな、見せしめにやれって言われたんだわ。
いずれ来る怨敵のためにってよ。」
突如背後から声が聞こえて振り返る。
そこには、その声の主がいた。
しかし、それはあり得ないはずの声だ。
「お前は…‼︎」
ツナは声の主を見て戦慄する。
それは獄寺と山本も同様にだ。
「おんやぁ?
なんだ、客ってのは黒崎一護か。
それに、俺の腕を吹き飛ばしてくれた奴らじゃねぇか。」
「おいおい、お前は確かに俺が斬ったはずだぜ。
どう言うカラクリだ?」
一護もわからないなりに平静を装いながら、しかしその手を斬魄刀に伸ばしながら問う。
「答えてもらおうか、
ジョニー・ハードロック‼︎」
そこに立っていたのは、並森町でツナたちと戦った破面、ジョニー・ハードロックがあの日と変わらない姿でいた。
ジョニーは小首を傾げ、直後に合点が言ったように笑顔に変わる。
「AHA-
なるほどね、あの時卍解までして斬ったはずの俺がなんでここにいるか、不思議なわけね。
そいつは俺の帰刃の能力の一つさ。」
確かこいつの解放は…「爆炎蜥蜴」
「俺の爆炎蜥蜴はな、再生能力がバカみたいに高いのさ。
そんでもう一つ仕掛けがあってよ、俺が死んだ時、切り離された部分から時間はかかるが俺が再生されるわけよ。
そこの奴らの大技で、俺の腕が吹き飛ばされた腕から復活したってわけよ。
ま、たまたまその後来た強欲の旦那に拾って帰ってもらって罰としてここの門番やってるってわけよ。」
快活に笑って話していたジョニーが、突如殺気を込めて声を低くする。
「ところでよ、腕の礼もしてえんだが、それ以上に斬られた借も返したいんだよ。
まとめて殺してやるよ。」
そういうと刀を抜きざまに力ある言葉を放つ。
「沸き上がれ、『爆炎蜥蜴』」
解放状態の姿になるジョニー、しかしこれは卍解習得前に見ている。
今の卍解ができるツナ達なら問題ない、あくまでジョニーの奥の手が開放だけであればの話だが。
「擬似第二階層(セウド・セグンダ・エターバ)、『噴炎恐竜』」
白い装いであった当初とは違う、溶岩を纏ったかのような赤黒い姿。
爆炎を噴き出していた腕は人工的な龍の顎がついており、尻尾にあたる部分から溶岩でできた小型恐竜が複数増殖していた。
それを見ていた一護は目を見開く。
「テメェ…
なんでテメェがそれを使えるんだ‼︎」
その様子を見て笑みを浮かべるジョニー。
「そうか、お前はウルキオラ・シファーとやり合った時に見てるんだよな。
こいつは擬似的な第二段階の解放だ、って俺にこの力を埋め込んだ奴が言ってたわ。
まぁ、命が縮むリスクは当然あるけどな。」
こいつは死ぬ気の到達点でやるしか…
そうツナが考えて斬魄刀に手をかけようとした時、
「こいつは俺が倒そう。」
そう言って了平が目の前に立った。
了平は後ろのツナに目をやる。
「まだ他に強敵がいる中で、高火力の出せるお前が出るべきではない。
それは副隊長も同様だ。
俺は似たような敵と戦ったこともあるのでな、この場に最も適しているのは俺だ。
何よりも強敵とはいえ、一人に多勢でかかるとなると男が廃る。」
了平の言うことは最もだ。
そしてその美学も命のやり取りを行う場では尊重すべきか。
一護も納得し、他の守護者も了平の戦いであると認め黙って見届けることを決めた。
しかし
「ダメです、お兄さん。
ここは俺も…」
そう言いかけたツナ、しかし言葉は了平の拳を顔面を受けたことにより遮られた。
「沢田、いや綱吉。
死んで死神になっても俺はボクサーでありお前の守護者なのだ。
俺を信じて送り出してくれ、そしてお前を守らせてくれ義弟よ。」
京子の兄である了平を何度も戦いに巻き込んだツナ。
だが、その全てを勝利と生還で飾ってきた男だ。
ならば信じて送り出してやることがツナの務めではないか。
ツナは黙って了平の背中に拳を当てる。
了平はニッと笑いジョニーの前に立つ。
「ほぉ、白髪の兄ちゃんが俺とやるのかい?
全員でかかってきてもいいんだぜ。」
挑戦的なジョニーの言葉に、刀を抜いて了平は答える。
「ほぉ、随分と余裕ではないか。
だがボンゴレ晴れの守護者笹川了平、切込隊長として男同士の真剣勝負を望む。」
その言葉に毒気を抜かれ、すぐ笑顔に戻るジョニー。
「いいね、嫌いじゃないぜそういうの。
だが気をつけろよ、俺を倒したいなら最低限卍解はしないとな。」
その言葉に了平も笑みを浮かべる。
「すまないが俺の卍解は戦闘向きではない。
だが、卍解抜きでも貴様を満足させることを約束しよう。
行くぞ、照らせ、『我流丸』‼︎」
ガントレット上のセレーノグローブから晴れの炎が吹き上がる。
ボンゴレギアと同様の形に仕上がったボンゴレハートは始解の出力を卍解に近い出力に引き上げる。
それを見たジョニーは口角を上げる。
「なるほど、まずは増え続けるこの恐竜どもでお手並み拝見だ。」
20匹以上の恐竜が了平に襲いかかる。
これは未来の戦いで修羅開匣した桔梗との戦いを思い出すな。
了平は自身のステップと瞬歩を組み合わせた新しい戦闘スタイルで迎え撃つ。
極限イングラム
分身したかのように残像を生み出し複数の恐竜を殴り倒す了平。
「おいおいマグマの恐竜を殴り倒すとはやるじゃねえか、ただお前さんの拳も無事じゃねえはずだが。」
「ふっ、心配無用だ。
俺の始解は高速治癒能力を備えている。
それは人体だけではなく、このグローブ自体もな。」
そう言っている間に全ての恐竜を倒してしまった了平。
ジョニーとの殴り合いは高速戦闘となり、ジョニーが打ち出すマグマをかわしつつ拳を当てい行こうとするが、新たに生み出された恐竜がそれを阻む。
『ムゥ、埒が開かぬ。』
そう考えていた矢先に、溶岩を纏わせ乱回転するセロが了平の腹部に突き刺さる。
あまりの衝撃に了平は串刺しの死体に向けて吹き飛ばされる。
だが、ジョニーも命を削っている反動がきているのか吐血と息切れを起こしている。
「はっ、やるじゃねえか。
改めて名を聞かせてくれ白髪の兄ちゃん。
俺は強い相手は名前を聞いてから殺すと決めてるんだ。」
息も絶え絶えの状態で立ち上がる了平。
「我が、名は、笹川了平…」
言いながらふらつく了平。
それを見て満足そうにジョニーは言う。
「そうか、では笹川お前を弔うために我が奥義で骨も残さず散れ‼︎
噴炎放流虚閃(セロ・エルクシオン)」
ジョニーは全ての霊圧を両手にこめて地面に突っ込む。
爆発的な霊圧が地面から湧きあがろうとしてくる。
了平もそれを感じ取り、ここが正念場となることを理解した。
「ならば、俺の全霊を持って打ち砕く‼︎
滾れ、我が炎‼︎」
その言葉を合図に、了平の死覇装の袖が吹き飛ぶ。
ガントレットや背後から太陽のような明るい黄金の炎が吹き上がり、絡み、背中に大輪の太陽が輝く。
「行くぞ極限‼︎
瞬鬨・日輪炎豪‼︎」
発現した太陽を纏い、天高く飛び上がる了平。
それを見て笑うジョニー。
「はっはっは、すげえじゃねえか笹川‼︎
だが、俺の奥義はお前を焼き尽くすまでどこまでも吹き上がるぞ。」
その言葉は現実になるかのように地面から激流のような霊圧とマグマが吹き上がる。
それを見て天空の了平は、一つ深呼吸を行い、
「誰が逃げるものか、この一撃でケリをつけるぞジョニー・ハードロック‼︎」
天空から降下しながら、全ての霊圧を右の拳にこめる了平。
瞬歩、瞬鬨、斬魄刀、ボンゴレハート、そして笹川了平という最高のボクサーという要素全てが揃ったからこそ放てる大技、その名は
「行くぞ、極限‼︎
極限太陽・流星閃光(マキシマムキャノン・メテオライト)‼︎」
その光景を見ていた全員がその時の様子をこう語った。
太陽が大地に落ちた、と。
了平の放った拳はセロとジョニーを飲み込み、後には体が塵として消えゆくジョニーが残っていた。
大地に降り立って、ジョニーの傍に立つ了平。
「へっ、いい拳だ笹川了平。」
笑うジョニーに、拳を突きつけ
「あぁ、俺の勝ちだ。」
了平がそう告げると、満足そうに北の方を指さし
「お前達の目指す敵はあの城にいる、俺が死ぬことで結界が解けて見えるようになるはずだ。
奴らはこんな命を削る禁術は使わねえが、それでも俺より強い。
せいぜい気をつけるこったな。」
無理に命を削った反動による絶命に伴う塵化は今度こそ復活がないということなのだろう。
「さらばだ、ジョニー・ハードロック。
いい戦いだったぞ。」
そう言いながら始解を解いた了平は塵の消える先をいつまでも見上げていた。