赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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【トキワ編.三】

 軽薄そうで、調子に乗っている。そう思っていた。

 この世界に来るまで、瀬良のグリーンについてのイメージはあまり良いものではなかったが、今はもう違う印象を抱いている。彼について少し調べただけで、その人となりがよく分かった。彼はとても真面目で、実直な人間だ。あの年齢ながら、出すコメントも振る舞いも立派だった。実績を見ても、レッドとなんら遜色ない。

 同じタイミングで旅立ち、先んじて結果を残したとんでもない人物であることは間違いなく、レッド達に対抗出来るポケモンを育てた数少ないトレーナーだ。

 

 この世界でのレッドとグリーンの戦績は、どうやらレッドが勝ち越しているらしい。情報がどこまで正しいのか分からないが、トキワの本屋で見つけた雑誌にはそんな情報も載っていた。

 

 グリーンがレッドに先んじてチャンピオンになった時、彼はやっとレッドを超えられたと思ったに違いない。幾度もレッドとぶつかり合い苦渋を舐めた彼にとって、ポケモンリーグチャンピオンという肩書がどれほど自信に繋がったか、想像は易い。「このおれさまが せかいで いちばん! つよいって ことなんだよ!」 という彼のセリフは、その自信の現れ。穿った見方をするならば、ここまで来ればレッドに勝てるんだ! という自分を奮い立たせるための虚勢だ。 どっちにしても、彼もまたとても人間らしい。

 

 瀬良からすると、レッドよりグリーンの方が境遇としては近い。 オーキド博士という偉大な祖父を持ち、恵まれた環境で育って来たグリーンが結果を出すのは当たり前だと思われていたのではないか。そのプレッシャーたるや、こちらは想像すら追いつかない。だから、チャンピオン戴冠という結果が自信と安堵に繋がったのは間違いない。それがない、とは思えない。

 

 レッドという強者を倒せれば、グリーンが思い描いたオーキドの孫としての実績は申し分ないものだったのだろう。最後の最後に、てっぺんでそれを成し遂げられなかった事実が、グリーンにどう影響しているのか。

 その後のレッドとの関係性は、どうなっているのか。

 

「いいのかなあ」

 

 突然ジムを訪問して良いものか。彼等の関係性が分からないだけに、不安だった。確認したところ、ポケギアにグリーンの名前は登録されていない。それが何を意味するのか。気まずい関係を想像した瀬良は、自分自身は会いたくともレッドを考えると迷うところだった。

 

「あの、ジムの前で何やってるんですか?」

 

 ジムの前に突っ立って悩んでいたところに、ジムから出て来た男に声を掛けられる。

 またやってしまった。考えごとをして周りを見ていなかった。トキワでのレッドは、周りから見たらやはり不自然に思えるのではないか。もうちょっとレッドらしく堂々としていないと、変だと思われる。評判は悪くなる一方だ。

 

「あ、すいません。特別用があるって訳じゃないんですけど」

「それなら、そんなところで突っ立っていられると迷惑なんですが」

 

 やけに刺々している。身体の大きないかついその目の前の男は、瀬良を威嚇するように睨みつけた。何故ジムの前に立っていただけで、こんなに凄まれないといけないのか。

 

「グリーンって、いますか?」

「は?」

 

 露骨に嫌な顔を浮かべた。瀬良は確信を持った。こいつはレッドだと分かっていて悪態をついている。何か思うところがあってのことだろう。

 

「グリーンですよ。今、中にいます?」

「あのねえ、いる訳ないでしょ。あの人が今ジムリーダー試験の真っ最中だって話、ニュースとかで見てないんですか?」

 

 そんな話があったとは、瀬良は知らなかった。ニュースになっているくらいなら、きっとよく知られた話なのだ。すぐに試験を受けたということは、それだけの知識や実力が既にあるということ。流石はグリーン、と思いつつも、瀬良は彼がジムリーダーになれるのを知っている。合格し、研修やら何やらも無事に終えて、順調にジム運営を始めていくはずだ。

 

「知りませんでした。それじゃあ、会えませんね」

「もういいですか?」

 

 そこまで嫌いか、というくらいに態度が悪い男に瀬良はだんだん興味が湧いてきた。この男が何故これだけ刺々しいのか、それを探るチャンスだ。

 

「いや、俺はあなたにも用がある」

 

 既にレッドに背を向けていた男は、瀬良の言葉でピタリと止まった。

 

「だから、入れてもらえます?」

 

 男は振り向いて、意外そうな顔をした。あれだけ突き放したのに、一体どういうつもりなのだという顔だ。

 

「話しぐらいしましょうよ。なんなら、バトルでも」

 

 そこらにいる一般トレーナーだったらこうはいかない。レッドがずかずかと絡んで行っては、周りの目もあるし心証も悪い。けれども、ジムトレーナーなら絡んで行ける。バトルを挑んでも問題ないだろうし、それを受ける立場の者達だ。

 何故そこまで嫌うのかと、突き詰めるならこういう組織に所属しているトレーナーの方がやりやすい。ましてグリーンが持つ予定のジムだ。幼馴染が訪れてもおかしくはない。

 彼等の関係性が今悪いのであれば話は変わって来るかもしれないが、ゲームでのグリーンは、レッドとそこまで関係は悪くなかったはず。

 

「どうするんです? 入れていただけますか?」

 

 意外そうな顔をしていた男だったが、瀬良の挑戦的な視線を受け止めつつ、やがて落ち着きを取り戻していった。ここにいるくらいだから、恐らく組織所属のトレーナーであるはずの彼は、レッドと対戦すること自体には興味があるはずだ。元チャンピオンとの対戦機会など、そうあるものではないに違いない。

 

「入るのは自由ですから」

 

 背を向けジムの中に入っていった男に、瀬良はついて行った。

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