赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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【序章.三】俺とお前の違い

 トキワシティ、トレーナーハウスの控室で、レッドは鏡台の前に立っていた。

 今外で行われているトキワシティでの地方大会決勝戦が終われば、次は彼の出番だった。優勝者と、前チャンピオンであるレッドのエキシビションが待っている。元々出るつもりはなかったのだが、グリーンからいつの間にか出場登録され、気付けば控室に連れ込まれていた。一体何のつもりなのかと半ば不満だったが、レッドからしてもグリーンに話があったので、黙って控室で大人しくしていた。

 しかし、待てども待てどもグリーンはやって来ない。トキワシティジムリーダーとしての責務があるとは言え、こんなところに閉じ込めておいて顔も見せない。

 

 もう決勝戦は始まっている。これが終わって、挑戦者のポケモンの回復と休憩のインターバルを挟んだら出番がきてしまう。

 来ないなら来ないで終わった後顔を見せると、先に言って欲しかった。バトルの前に話が出来ると思っていただけに、このままモヤモヤしたままエキシビションに移ってしまっては、集中出来ない。

 控室の上部に置かれたモニターでは、決勝戦の様子が流れている。片方の一体目が倒れ、次のモンスターボールを構えていた。これはもう、終わってから来るのだと思っておいた方が良い。

 エキシビションに集中しよう。立ち上がって一つ伸びをして、肩の力を抜いた。

 前チャンピオンである ”レッド”が地方大会のエキシビションで戦う。それは、軽く相手を捻るくらいのものだ。

 特に注意を向けなくても、いつも通りやっていれば、相手に少し華を持たせる形でこの大会を終わらせられる。

 誰もがそう考えているだろう。

 

 エキシビションならグリーンがやれば良いのに、とレッドは思う。彼なら、それこそ指導バトルのような形で力を見せつけることも、相手に華を持たせつつも絶対的な格の違いを見せつけることも出来る。トキワシティのジムリーダーであり、前々チャンピオンである彼ならば造作もない。

 何故自分が、と不満を漏らす余裕はもうない。今更レッドが出てくると分かった客を相手に、ドタキャンは許されない。”レッド”の名前を穢す訳にはいかない。自由に振舞うことこそレッドらしいのかもしれないが、グリーンの顔を潰すのはしのびない。

 

 もう一度身体を伸ばし、屈伸し、深呼吸。

 こんなエキシビションに、緊張などありえない。

 鏡に移る自分の表情を見ながら苦笑するその顔も、レッド”ならば”してはいけない顔だ。気持ちを落ち着けて、無表情を繕った。これで良い。いつも通りだ。

 後は待つのみ。

 座って集中しようと椅子を引いて座ろうとした時、扉が開いた。この部屋にノックをしながらノブを回して入って来るような奴は一人だけ。

 

「よお、調子はどうだ?」

 

 椅子に腰掛けたレッドの後ろに立ったグリーンは、鏡越しに言った。

 

「いつもと変わらないよ」

「そうか、ならいい」

 

 ただ顔を見せに来て、そんなことを確認したい訳ではないだろう。鏡越しに見るグリーンの顔は、どこか他人行儀だった。

 

「なあ、何で俺なんだ?」

「お前じゃなきゃいけない理由、分かってるだろ?」

「前チャンピオンだからか? それなら、条件はグリーンだって同じだ」

 

 はあ、と溜息をついてから、グリーンはやれやれと首を横に振った。

 

「相変わらず勝ち負けとか気にしない奴だな。俺はお前に負けたんだ。なら、お前が出た方が良いに決まってるだろ」

「グリーンだろうが俺だろうが、皆気にしないはずだよ。両方チャンピオン経験者だ。あの時の”二人”として、俺達は記憶されているんだから」

「分かってねえな」

 

 鏡越しのグリーンは、レッドから視線をはずし、部屋の角に置いてあるソファに腰掛けた。レッドは振り向かないまま、そのまま鏡の向こうに映るグリーンを見つめる。

 

「分かってないって、何が?」

「俺とお前じゃ、チャンピオンとしての格が違うんだよ」

「格ってなんだよ。あの時はたまたま俺が勝っただけで、どっちが上とかないだろ」

 

 レッドにとって、グリーンは自分より上でも下でもない。それは本音だろう。バトルをすれば常にどちらが勝つか分からない素晴らしいものになっていたのは間違いない。無邪気にぶつかっても受け止めて貰える存在として、グリーンが格下などと、他の誰が言ってもレッドは認めない。

 

「確かに、レッド、お前だったらそう考えるんだろうな」

 

 他人の評価は気にしないレッドだったが、負けた当人であるグリーンはそうもいかない。オーキドの孫という環境で小さい頃から大人の世界を見て来たせいか、他人の評価を過剰に感じ取るようになってしまっていた。

 オーキドが今までどう言われているのかも知っていたし、それをどう跳ねのけて来たかも見て来たのだ。

 だから、自分を納得させ、他人から認められる道を進んだグリーンがトキワシティジムリーダーになったのは、必然だったのかもしれない。

 

「どっちが負けるとか勝つとか気にせず、ポケモン達と一緒に楽しく燃えるようなバトルを常に望んでるんだろう」

 

 でもな、と続けて、グリーンは背中を預けていたソファから身体を起こす。

 

「俺とお前で決定的に違うのは、強さだけじゃない。お前はな、四天王とチャンピオンという聖域をぶっ壊したんだ」

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