赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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ハナダ編
【ハナダ編.一】


 レッドとしてこの世界で生きていくのは難しい。彼が成し遂げた偉業がカントー地方に与えている影響はとても大きく、瀬良が想像出来るレベルの話ではない。これまでの旅だけでもそれがよく分かった。

 このままレッドとしてカントー地方をうろうろしていても、ただただ目立って身動きが取り辛くなり、元の世界に戻るどころではない。

 

 ただ、元の世界に戻るためには、どうしても誰かの助けがいる。レッドじゃないんです! などと訳の分からないことを言い出す奴に、誰が手を貸してくれるのか。

 やはりレッドとしてカントーを回り、ジムリーダーや四天王など、有名人のつてを頼るのが一番だと瀬良は思う。その中でも一番期待しているのがマサキだった。だがタケシの話からすると、レッドは今警戒されている。ロケット団と秘密裏に密会の場を設けたとして、危険人物扱いされているらしい。

 

 タケシはレッドを信用してくれたかもしれないが、他の人間達もそうだとは限らない。ジムリーダーも所詮は協会の下にぶら下がっている組織の人間、と考えるくらいが丁度良いだろう。四天王もまた同じ。

 

 そうなると、頼りに出来る人間は更に少なくなってくる。頼れる中の大本命。ポケモン預かりシステムを構築し、カントー中にネットワークを張り巡らせ、ポケモンのデータ化と転送を可能にした、天才マサキならば、助けてくれるかもしれない。

 

 この際マサキにだけはぶちまけてしまっても良いと瀬良は考えていた。レッドを保ちつつ人を頼るよりも、一か八か賭けに出た方が良い。このキナ臭いカントーの情勢からしても、手に負える状況ではないのは瀬良にもよく分かっていた。

 

 ポケモン達ともっと仲良くなって、レッドらしくバトルをするには道のりが険しすぎる。キナ臭い動きをするロケット団を振り払い、レッドとしてカントーに君臨し続ける自信など、瀬良にはなかった。

 瀬良でなくとも、そう考えるのが普通だろう。

 

 とはいえ、ポケモンと一緒にバトルをすることや、ポケモンと一緒にカントーを旅すること自体は楽しんでいた。憧れた場所に、今立っているのは間違いないのだ。

 

「えっと、そこ、通していただけますか?」

 

 ニビより東側に位置する水の町、ハナダシティに到着した瀬良は、早速マサキの元を尋ねるために二十四、二十五番道路に向かった。辿り着く過程で避けられない、ゴールデンボールブリッジを渡ろうとしたところ、橋の入口の真ん中で、仁王立ちする短パン少年に道を塞がれた。

 

 ここまで、道行くレッドを止める者など一人もなかった。あったのはレッドをチャンピオンとしてではなく、町の子どもレッド君として扱うマサラだけ。

 こんなにも直接的に敵対されると、瀬良はヤシロのような人間を思い浮かべてしまう。

 

「そうはいかない。あんたには借りがある」

「借り?」

「忘れたとは言わせないぞ。あんたは、このゴールデンボールブリッジで俺達を勝ち抜いたんだ。あんなにあっさりやってくれちゃって、いつかリベンジしなきゃいけないと思っていたんだ」

 

 なるほど、と瀬良は納得した。確かにゲームでもレッドの通行を邪魔するようにトレーナーが並んでいた。当然全て倒して先へ進んだ訳だが、彼らには彼らなりのプライドがあるらしい。

 

「そもそもあなた達って、どういう集まりなんですか?」

「この辺のバトル好きがなんとなく集まっているだけだ。強そうなトレーナーが通ったり、生意気な奴が通るとバトルをふっかけて分からせてやるんだよ」

「ははあ、ギャングみたいなもんですかね」

「そんな粗暴な連中と一緒にするな!」

 

 バトルを中心としたコミュニティがハナダの北部で広がっている。楽しそうだな、と瀬良は思う。

 

「それで、俺はあなた達とバトルをすれば良いんですか?」

「お、おお? やる気か?」

「そういう話じゃなかったんですか?」

 

 レッドがまともにバトルを受けるとは思ってもみなかった、という反応だった。チャンピオンとなり、カントー一の有名人となったレッドがそう簡単に野良バトルをする訳がない。しかし残念今の中身は瀬良だった。

 

 自分からふっかけるバトルは控えるようにしたが、こうやって誘ってもらえるのならば願ったり叶ったり。お月見山で野生のポケモン相手に手加減の練習を積んだばかりだった。ポケモン達の様子も僅かながら見て取れるようになったので、その成果をここで試すには絶好の機会だ。バトル好き集団なら、多少のことはきっと許される。

 

 瀬良はニビでの愚行が案の定雑誌に載って、言われたい放題だったのを気にしていた。元に戻れたとして、気づけばレッドも知らないうちに更にひどい状況になっていたのでは目も当てられない。

 

「よおし、待ってろ。人を集めてくる。あんた相手に、多勢に無勢もないだろう」

 

 多勢に無勢を分かってるんだったら普段からそれはやめとけ、という言葉を飲み込んで、瀬良は了承した。

 

「この橋で戦うんですかね」

「どこでもいいぞ」

「それなら、この先の二十五番道路にしません?」

 

 今度は短パンの少年が了承し、レッドに背を向けて走り出した。

 ゴールデンボールブリッジは、瀬良が思っているよりも金ぴかで、お金がかかっていそうな装飾だ。未熟な瀬良とパワー抜群なレッドのポケモンが暴れれば、壊しかねない。

 

「戻ったら金がなくなってましたじゃ、レッドがかわいそうだしな」

 

 走っていく短パン少年を見つめながら、瀬良はふと一つの疑問が頭に浮かぶ。そもそも、何故あの少年は瀬良が来ることを知っていたのだろうか。橋を渡ろうとしたところで、待ち構えるように仁王立ちしていた少年は、ここに瀬良が現れるのを分かっているかのような様子だった。

 

「まあ、有名人だもんな。この体」

 

 上手に雲隠れして身を潜めていたレッドとは違い、堂々とカントー地方をふらついている今の瀬良なら、その動向を追われていても不思議ではない。

 浮かんだ疑問に回答を出して納得した瀬良は、連鎖して出てきた一つの疑問を無理矢理払拭した。

 あまり、考えたくはなかった。

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