赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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【ハナダ編.二】

 二十五番道路には大勢のトレーナーが大挙して押し寄せた。

 ハナダは北東部に岬があり、北西部に山々が聳え立つ自然豊かな土地。かと思えば、南に下ると大都市ヤマブキへ繋がっている。郊外特有の仲間意識に支えられたハナダ人は、個性抜群なトレーナー達でいっぱいだ。

 

「よし! 今回は特別十連続勝ち抜きバトルだ!」

「え、十連続?」

 

 疑問の声を上げた瀬良の様子に、どうだびびったかとばかりにふんぞり返る短パン少年だったが、瀬良からするとそれしか出来ないのかと、半ば残念に感じた。せっかくお月見山でたくさん練習して、これだけ人が集まったのに十連とはケチな話だった。

 

「全員じゃないんですか?」

「アホ! そんなに連続でバトルをするポケモンの身にもなってみろ!」

 

 ごもっともな意見だなと瀬良は思う。けれども、ポケモン達にただ無理強いするニビの時とは訳が違う。瀬良はお月見山での練習で、レッドのポケモン達のタフさを目の当たりにした。生物としての強さが、当たり前だが人間のそれとは違う。競技に対応する頭と、野生的な勘を持った、それはそれは素晴らしいポケモン達であるのがよく分かった。奴らは、バトルを望んでいる。 

 この旅で嫌な思いをすることはあれど、命の危険に晒される心配はそうないだろう。

 

「でかいこと言っていてもなあ、十連続で勝つなんてそうそう無理な話だ! チャンピオンだなんだって持ち上げられたところで、所詮はただのトレーナーだ。皆! やっちまおう!」

 

 二十五番道路は大盛り上がり。お祭り騒ぎだ。口ではレッドを敵として叩き潰そうと言っているものの、ただレッドとバトルが出来、それを見られるのが楽しみだというのがよく分かる。盛り上げるための口上で威勢の良いことを言うが、誰もレッドを罵ったりしない。ただトレーナーとして敵と定めて盛り上がっているだけ。気持ちの良いハナダの皆に瀬良は感動しつつ、モンスターボールを構えた。

 

「おれからやらせてもらうよ」

 

 集団の中から一人、背の高い青年が現れる。ハナダのトレーナー達は更に盛り上がりを見せる。きっと中でも強いトレーナーなのだろう。

 瀬良がモンスターボールからカビゴンを出すと、後出しでゴーリキーを繰り出した。

 そうそうこれこれ、と瀬良は満足気に首を縦に振る。格上が先にポケモンを出し、有利なポケモンを相手に選択させる。これぞチャンピオンレッドがあるべき姿だ。

 

「ちなみに、一回のバトルにつき何匹ですか?」

 

 瀬良の質問に、ゴーリキーを出した好青年は、はあ、と溜息をつく。

 

「各人が持ってるポケモン全員です。皆があなたみたいに、六匹のポケモンをしっかり育て上げてチームを作れると思わないで下さい。それって、めちゃくちゃ難しいんですからね」

「は、はあ。分かりました」

 

 内心、ただただ瀬良は、レッドが褒められていて嬉しかった。これは、盛り上がりのあるバトルを見せなければならない。

 

 短パンの少年が審判役を買って出て、手を上げる。

 

「バトル開始!」

 

 

 

 ゴーリキーの手数は多い。その一発一発は、ノーマルタイプで機動力のないカビゴンにとっては痛手になる。厚い脂肪に覆われたカビゴンは火や水などの打撃以外の攻撃には強いが、中に響いてくる攻撃を繰り出すゴーリキーなどは苦手だった。

 そういう知識は瀬良も持っていた。

 だが、目の前に立っているのはただのカビゴンではない。レッドというバトル狂に付き合っている、変わり者のカビゴンだ。

 

 確かに機動力こそないものの、ゴーリキーの繰り出す攻撃に対して最小限の動きでそれをいなす。身体の大きさやその脂肪を最大限に利用していた。

 ノロノロと動いている様に見えるのに、拳が当たった瞬間に身体をゆらし、回し、蹴りを入れられそうになればその巨体を前に出して出先を止める。カビゴンは決して反射神経が悪い訳ではない、というのが瀬良にとっては面白い事実だった。

 

 格闘術に長けているカビゴンのバトルは、大いにその場を盛り上げた。

 自分の攻撃がいまいち通用していないことにゴーリキーが戸惑い、そのトレーナーはどうやって肉壁を突破して良いか分からないでいる。

 

 瀬良は、ただ後ろで見ているだけで何もすることがなかった。相手の攻撃を読んでカビゴンに指示を与える、というポケモンバトルの当たり前の動きがまだ難しい。変に指示を与えて、カビゴンを混乱させてもいけない。

 幸い、カビゴンは指示がなくとも隙を見て攻撃を入れている。その一発一発は重く、ゴーリキーの体力と気力、意識を削ぎ取っていく。

 

 瀬良はとにかく見ることに努めようと思った。どう指示を出せばいいのか、頭の中でシミュレーションし続ける。ゴーリキーが何をしようとしていて、カビゴンはどうしたいのか、見極める必要がある。

 

 やがてしびれを切らしたゴーリキーは、バックステップで距離を取り、重く低い声を上げながら力を込める。

 瀬良はその瞬間を見逃さなかった。

 

「のしかかり!」

 

 その声とカビゴンの動きはほぼ一致していた。ゴーリキーが”気合いを溜め”、力を込めた後、カビゴンに攻撃しようと脱力に転じたその動き出しをとらえた。ここに来て初めて先の先を取ったカビゴンは、その巨体で一足飛びに迫り、ゴーリキーを押しつぶす。

 

「あ! やべ!」

 

 焦る好青年だが、バトルはそれで終了だった。

 大きく盛り上がる観衆に、瀬良は満足した。レッドっぽくバトルをやれたと、胸を撫でおろす。

 のそりと起き上がり、瀬良の元まで戻って来たカビゴンは、にんまりと笑顔を浮かべる。その愛嬌たっぷりの表情に、思わず瀬良はその身体を撫でた。あんなに好戦的でキビキビとした動きが出来るカビゴンだが、レッドにベタベタの甘えただというのが今までで分かったことだった。レッドのどのポケモンよりも、愛嬌がある。

 

「く、くそ! 反則だろそんなカビゴン!」

 

 誉め言葉でしかない。自分のポケモンではないけれども、カビゴンの活躍が瀬良は嬉しかった。正直、レッドの体面を保てたことがどうでもなくなる程に。

 

「次、やります?」

「当たり前だ!」

 

 好青年は、次のモンスターボールに手を掛けた。

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