赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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【ハナダ編.三】

 カビゴンは快進撃を続けた。

 ゴーリキーなどの格闘ポケモンにあれだけ殴られ続けていれば、ダメージは蓄積しているはずだったが、それでも表情はずっと落ち着いていて、瀬良の元に戻ればにんまりと笑顔を浮かべる。

 

 流石に心配になってきた瀬良は、五人目を倒したところでカビゴンを戻した。え? まだ全然やれるけど、という素っ頓狂な表情で、どのバトルの時よりも驚いていた。

 

 間違ったかな、と思いつつも、無理はさせられない。レッドの怪物ポケモン達は残り五体。ある程度で引いてもらい、休憩してもらった方が良い。

 まだまだやる気十分な様子を見せていたカビゴンは、最後まで素っ頓狂な顔のままボールに戻って行く。瀬良は六人目を待った。

 

「おいあんた、当たり前だけど、前よりもずっと強くなってんな」

 

 六人目を決めかねているのか、観衆の中から人が出てこないのを見計らって、短パン少年が話しかけて来る。

 

「カントー中のトレーナーが、俺を鍛えてくれましたから」

「強くなり過ぎだ。十人じゃ少ないか?」

「ええ、まあ」

 

 嫌味まで成長しなくていいんだっつうの、と言葉を吐いて、短パン少年は審判としての定位置に戻る。

 

「おい! 次誰か入ってくる奴いないのか? 俺が出ちゃうぞ!」

 

 彼がこの中のボスなのだろうか。

 ハナダのトレーナー軍団の中でもかなり若い方だと瀬良からも見えるが、彼もまた才能ある若きトレーナーなのかもしれない。

 

 それまでの五人は、レッドのポケモンの相手になるようなトレーナーではなかった。おかげで瀬良もわずかずつではあるが、バトルに慣れて来ていた。

 

 瀬良の中にある小さな自信、余裕の材料となっているものの一つは、トキワジムでヤシロに勝っていたことだった。もちろん自分の力などまったく関係ないのは分かっていた。それでも、レッドのポケモン達はカントー最難関ジムと言われるジムトレーナー相手でも問題にしないという事実は、一つの指標となっている。

 

 ハナダの野良トレーナー程度ならばもちろん問題にならず、瀬良の練習になる。ニビでの間違いを犯さないように気をつけていれば、瀬良が少しずつ力をつけていくには丁度良い練習相手。瀬良は心にわずかばかりの余裕を感じていた。

 

「おいおい! 次まだかよ!」

 

 短パン少年が叫ぶ。五人をあっという間に抜かれたのを目の当たりにしたからか、バトルに出ようという奴がなかなか出てこない。しびれを切らした短パン少年が舌打ちを一つして前に出ようとしたところで、観衆の中からスルりと出てきた老女が、瀬良の前に現れた。

 

「私が相手でも良いですか?」

 

 力強い声だった。観衆の中でも、瀬良にはその声が聞き取れた。

 

「え? はい、もちろんです。よろしくお願いします」

 

 杖を着いた、上品なおばあさんだった。

 瀬良がこの短い期間でバトルについて学んだのは、咄嗟の判断が必要で、反射神経が必要な瞬間が多いということだ。

 人間の身体の衰えを考えれば、単純に歳を重ねている方が不利と言えよう。身体の衰えが経験を上回れば、後はどうしようもない。

 そんな世界なんだろうなと思っていた。

 だから、目の前にいる杖をついたおばあさんがバトルをするのが、瀬良にとっては意外だった。あのオーキドだって、今バトルをやっていない。

 

 謎に包まれた老女だったが、その謎は老女自身ではなく周りの人間達によって少しだけ明らかとなった。

 

「う、うわ! サナエばあちゃん!」

 

 短パンの少年が叫ぶ。その場に集まったトレーナー達のほとんどが、それで理解したらしい。「まじかよ!」「バトルすんのか!」「すっげえ!」「怖いぞこれは」「皆逃げろ!」褒めたり怖がったり、皆それぞれの反応を見せる。

 瀬良は何がなんだか分からず、短パンの少年の元へ駆け寄った。

 

「あのおばあさん、誰なんです?」

「ええ! お前、サナエばあちゃん知らないのかよ!」

 

 瀬良の質問に大げさなリアクションで驚き、短パン少年は老女を指差した。

 しまった、と瀬良は内心頭を抱えた。知っていなければおかしい有名人は、なるべくリサーチしておくべきなのに。

 だが、サナエという名のトレーナーなどゲームには存在しなかったはず。瀬良が知らないだけで、各地の大会を総なめにしているような大物トレーナーかもしれない。だとしたら、瀬良は油断してはならないと身構える。

 

「ター坊。人様を指差すなんて、随分偉くなったもんだねえ」

 

 ター坊と呼ばれた短パン少年が、慌てて指を下ろす。

 

「ごめん! ごめんってばあちゃん! だってこいつが変なこと言うもんだからさあ!」

 

 下した指が、瀬良に向かっていた。巻き込むなと思った時には遅い。老女の視線が瀬良と交わる。

 

「レッドさんでしょう?」

「は、はい」

「是非、お手合わせお願いします」

 

 貫禄ある表情と、今までは感じて来なかった不安感が瀬良を襲う。とにかく今は、バトルに集中するしかない。

 こちらこそ、よろしくお願いします。ときっちり頭を下げ、瀬良は定位置に着く。

 

「じゃ、じゃあ始めるぞ! バトル開始!」

 

 勝ち抜きバトル六戦目。サナエとのバトルが始まる。

 

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