赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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【ハナダ編.七】

 四番道路はお月見山の麓からハナダに繋がる道路で、小さなポケモン達が隠れ潜む静かな場所だった。瀬良も通って来た道だ。

 異常事態だからと、野次馬の通行を堰き止めていた警察(瀬良の知るジュンサーさんではなかった)は、人混みの間を縫って出てきた人物がレッドと分かると、そのまま通した。

 今、四番道路はその静かな様子とは打って変わった状況だ。一言で言えば荒れている。

 

「あんた一体何やってくれてんのよ!」

 

 オレンジ髪でショートパンツにTシャツ、という軽装の女性が、通行規制を敷いた四番道路で大立ち回りをやっている。複数対複数で、暴れているポケモン達を抑え込もうとしていた。

 見たことがあった。瀬良は知っている。ハナダのジムリーダー、カスミだった。

 

「見てないで手伝いなさい! あんたはそっち三体!」

「は、はい!」

 

 展開された六体をカスミは前方に集める。瀬良は背中合わせになり、自分の前に三体を展開した。リザードン、カメックス、エーフィの三体は、飛び出した瞬間に自分の敵を理解する。

 瀬良には複数対複数を指示出来る程の能力はない。ここは、ポケモン達の力に任せるしかない。後ろではポケモンに指示を出すカスミの声が聞こえた。彼女にはもちろん、その能力がある。

 

 瀬良達の前に立つガラガラ、サイドン、ドードリオの三体は、確かにこの辺では見かけないポケモンだった。その眼光の鋭さ、威圧感は普通ではない。けれども、瀬良にとってはこのレベルの野生ポケモンは、初めてではなかった。最近、お月見山でも経験していた。

 

 バトルの練習をしたくて、レッドのポケモンを展開して襲い掛かってくる野生のポケモンを相手にしていた。ほとんどはあまりの恐ろしさに怯えて近寄ってこないポケモンばかりだったが、レッドのポケモンが近寄ると、その恐怖からか逆にやらないとやられるとばかりに、突っ込んで来るポケモン達がいた。

 練習としてそれら全てに付き合って、少しやり過ぎた時は買い込んでいた傷薬で彼らを回復した。瀬良にも、あまり山を荒らすのはまずいだろうという感覚はあった。

 そのお月見山で出会ったゴルバットやパラセクトが、とんでもない強さだった。今目の前にいる三匹と同等の威圧感と、威風堂々とした貫禄を持っていた。レッドのポケモン達を前にしても少しも怖気づかない。この山のボス達だろうと思って相手にしていた瀬良は、良い練習相手だと喜んだ。

 

 その相手と同じレベルのポケモンが今目の前に三体。あの時と同じように、まったく怖気づく様子はない。

 一つ違うのは、一対一ではないという事。

 

「すまん、後は頼んだ」

 

 はあ?! という声が、後ろで飛んでいた。

 しょうがないじゃん、とは瀬良は言えなかった。

 

 

 

 六体のポケモン達は無事大人しくなった。三体はカスミのポケモンが叩き伏せ、残り三体はリザードン、カメックス、エーフィの三体がそれぞれ倒した。文字通り、力で押し切った。リザードンの火炎は素早いドードリオをピンポイントで捉え、カメックスはサイドンが倒れて戦意喪失するまで水流を押しつけ、エーフィはサイコキネシスをガラガラにかけ、後は独壇場だった。

 

 無事落ち着いた三体をカスミがモンスターボールで捕獲して回収していく。平和な四番道路が戻って来たかと思いきや、通行規制は解除されず、しばらくの間は、通行の時協会に所属するエリートトレーナーの護衛が必要らしい。

 仰仰しい対応、とも言えないのだろう。事が事なだけに、万全の対応をしかなければならないという事だ。

 

 世事に疎い瀬良だが、この世界を俯瞰して旅をした一人として、一般人より知っていることがある。ハナダの北西には、一般に知られるポケモンの生態系とは、また別の生態系が出来上がっている。

 恐ろしく強いポケモン達が生息し、入るものを制限する程の場所だった。特に、ハナダ北西部、ハナダの洞窟は特別強いポケモンがうろついており、その最奥には恐ろしい人造ポケモンがいるはずだ。

 

 ある程度の事情を知っているはずの”レッド”が何故迂闊なことをするのかと、瀬良は女性警官とカスミからこっぴどく叱られ続けていた。それはそれはキツいお叱りで、元チャンピオンの威厳など微塵もない。力を持ち過ぎた迷惑な子どもくらいの扱いだった。レッドが暴れだしたところで、警察権力を総動員されれば流石にどうしようもない。

 大きな権力には、レッドとて全て無視して勝手が出来る訳ではない。

 

 この世界の大きな権力に正面から盾突こうなどとは、瀬良も考えてはいない。素直に反省していた。

 まさか、レッドのポケモン達の強さがハナダの洞窟やその周辺のポケモン達に影響するとは考えなかった。このハナダという土地がそんな危うい均衡の元成り立っている町などと、誰が思うか。だったらもっとしっかり封鎖しておけ、と口を突きそうになるがそうは言えない。

 

 お月見山で戦ったゴルバットやパラセクトは、ハナダの洞窟やその周辺の山々から出てきたポケモン達だった。たまに一部のポケモン達が下りて来るらしく、そこにたまたま瀬良が居合わせたらしい。喜んでバトルをして倒してしまったものだから、後から後からそれにつられて強いポケモン達が下りて来てしまった。一通りバトルを終えて満足した瀬良は、気を良くして山を下り、そのままハナダへと向かった。だが、山を下りたポケモン達の一部は元気が有り余って、そのまま四番道路まで来てしまった、というのが警察の見立てだった。

 

 そもそも、あの場所はあまり人が近寄ってはいけないのだ、とお怒りの女性警官は語った。ハナダでは昔からあの周辺に近寄ったら取って食われる、という話が子どもにされるくらいだという。特に最近は異様にポケモン達の力が強くなり、警察側もどう対応して良いか分からず手に余り、協会に直接手を入れてもらっているとのことだ。

 その原因が何なのかは、決して語らなかった。もしかしたら知らないのかもしれない。

 

 レッドがレッドのままなら、お月見山にポケモン達を展開して練り歩くはずもないから、瀬良がこの世界に来たからこそ起こった出来事であることは間違いない。そういう意味で、瀬良は反省した。

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