「あなた、自分がどういう立場か分かってるの?」
警察署に連れて行かれ、どう見ても取り調べ室としか思えない部屋に放り込まれた。中々入る機会のない部屋にどぎまぎする暇もなく、さんざん絞られた後、女性警官は言った。
「持ってる力を存分に奮って良い訳じゃないの。ワタルさんだって、ドラゴンポケモン達をそこかしこで自由にさせないでしょう? 人間と共存するためのルールを守って、しっかり社会の中でやっているの。あなたもそれを守って。強すぎるポケモンを持つことは悪いことでもなんでもないし、それは取り締まれないから、各人のモラルに任せるしかないのよ。あなたは、その辺をしっかり勉強しなさい。まったく、協会もあなたの様な人をただ放り出しておくなんて何考えているのかしら」
誰が聞いても分かる、苦情だった。
レッドも本当に苦労するな、と同情心が沸いて来ると同時に、自分もその苦労を負わされていると思うと気が重かった。
加えて、レッドという存在がいかにイレギュラーで特殊な存在かよく分かる。ジムリーダー試験を受けているグリーンなど、きちんと檻に入れて飼っておけるお利口な存在なのだろう。人間が出来すぎているグリーンが比較対象なのは、レッドも辛いところだ。
正面に座る女性警官の横では、カスミがずっと黙って腕組みをしながら立っている。レッドが暴れた時に抑え込む役割を担っているのだろうか。レッドからは決して視線をはずさない。
一通り話が終わったところで、瀬良は気になっていることを聞いてみた。
「さっき捕まえたポケモン、どうするんですか?」
「人に危害を加えたポケモンは、危険生物認定を受けるわ。しかるべき処置をした後、元の場所へ返されるの」
「しかるべき処置、ですか」
「非人道的なことをやったりはしない。人に危害を加えないように教えて、町に入って来ないようにするだけ。幸い死人は出てないから、今回はまだ良かった」
死人が出ていたらどうなるのか。瀬良はあえて聞かなかった。
「危険生物認定を受けたポケモンを、教育する機関があるんですか?」
「あるけど、ハナダではある委託先が決まっていてね。その辺の専門知識に詳しい人へ受け渡す事になっているの」
勘は良い方ではないが、瀬良は一人その人物が頭に思い浮かんだ。
「サナエさん、ですか?」
「まあ、分かっちゃうか」
「でしたら、俺がポケモン達を彼女のところまで連れて行っていいですか?」
すぐに元の世界へは帰れそうにない。であれば、彼女のところへは一度行こうと考えていた。ただ行くよりも、話を色々なところへ広げられるようにしていきたい。ハナダの洞窟に生息するポケモン達を連れて来る役目を任されたとあれば、話もしやすい。
自分が撒いた種は、自分で処理したい、という思いもあるし、彼女について詳しく聞けるチャンスでもある。今後レッドとして旅をしていく上で、何か良い助言をもらえる可能性もある。
「駄目に決まっているでしょ。あのポケモン達は、今私達の管理下にあるの。それを一般トレーナーであるあなたに預けて、何かあったら誰が責任を取るの? それに」
女性警官が瀬良に有無を言わさず拒否の言葉を並べ立るのを、「待って」というカスミの言葉が遮った。
「彼に任せてみない?」
「カスミさん!」
なんてことを言うんですか、とひどい剣幕で詰め寄る女性警官だったが、カスミは眉一つ動かさず動じない。
「あなたが言う程、この子はめちゃくちゃじゃないわ。やって良いことと悪いことくらいは理解してる。さっきは何か変だったけど、いつものバトルを見ていればそれは分かるわ。責任を気にしているのだったら、何かあったら私が責任を取る。どう? これなら良いでしょ?」
ジムリーダーのお墨付きは大きな力を持つのだろう。カスミの言葉で女性警官は引いた。気に食わないという態度を隠しもしない。
「では、手続きと準備だけしますので、しばらく待っていて下さい」
女性警官が部屋を出て行き、取り調べ室にはカスミと瀬良の二人きりとなった。
手続きまで済ませるとなれば、ある程度は時間がかかる。
「何か内緒のお話しでもあるんですか?」
意図的にこの状況を作り出した、と見て間違いない。
質問に返答する気など微塵もないカスミは、女性警官が座っていた席に座り、瀬良を睨みつける。
「あんた、何考えてるの?」
「随分なご挨拶ですね」
どすの効いた声だった。おてんば人魚カスミなどというかわいいものではない。外敵を見る目だ。
「分かってる? あんたの立場」
「元チャンピオンなんだから、モラルある振舞いをしろということでしょう?」
「違う」
分かってんだろ、とぼけんじゃないよ、と言いたげなのが瀬良にも分かった。
「チャンピオンを降りた後、姿を見せないかと思ったら、突然ロケット団との会合。その後カントーを再び順番に歩き始めて、ニビで暴力的なバトル。次はお月見山で暴走。かと思えばマサキのところにいる。これは一体何なの?」
行動をよく把握している。監視されているらしい。
瀬良は沸々とした怒りを覚えた。どうしてレッドがここまで危険視されなければならないのか。バトルは確かにうまいのだろう。ポケモンももの凄く強く育っている。でも、それでもやっぱり、レッドはまだ子どもだ。
こんなところに押し込めて、警官とジムリーダー二人がかりで詰めるなんて、倫理にもとる。ありえない。一体どんな世界だと、瀬良は心底レッドに同情すると共に、彼のために怒った。
けれども、瀬良は自分の世界の常識をこの世界にそのまま当てはめても意味がないのも分かっていた。がむしゃらに怒ったって、話は良い方向には進んでいかない。
「それ、話して良いんですか?」
「良いのよ。何故だか分からないけど、あんたに関する話について、あんたに直接話す許可が下りたの」
タケシはどこまで協会に喋ったのだろうか。まさか、秘密にしておいて欲しいというところまで喋ったとは思いたくないが、タケシだって組織の人間である事は間違いない。
「それで、何の話ですか?」
「だから、どういうつもりだって聞いてんのよ。一体何をするつもりなの? ロケット団と密会の場を設けるというのがどういうことか分かってる? あれは史上最悪の犯罪組織よ。奴等が何をやっていたか知らない訳じゃないでしょ?」
幻のポケモン、ミュウの遺伝子組み換えの結果生まれたポケモンは、手に負えなくなった末にハナダの洞窟に住み着いた。その人造ポケモン誕生には、ロケット団が絡んでいるはず。公には許されないその研究を、資金面から支えていたのがロケット団だろうというのは、ゲームをやっていても想像がつく。
窃盗、障害、密輸、その他もろもろ、ロケット団が行っている犯罪など指がいくつあっても足りないだろうが、一番禍根を残したのはそれだろう。
「奴等が協力したおかげで、化物を生み出してしまったということでしょう?」
「そうよ。あの怪物が住み着いてから、ハナダの洞窟やあの地域のポケモン達は力をつけた。狂暴性も増して、好戦的になったわ。今あそこは本当に危険なの。二十五番道路やお月見山に通行規制をかけないといけないくらいにはね」
カスミは知っている。ロケット団が絡んでいたというのも、協会側もつかんでいる話なのだ。
「だったら、ちゃんと封鎖して下さいよ。お月見山まで、下りて来ちゃってるじゃないですか」
「ポケモン全てをブロックすることなんて不可能。人間が決めた境界線はポケモン達には関係ないの。全ては人間の責任。受け入れられるだけのやりにくさは、こちらで引き受けるしかない。皆うまくバランスとってやってるのよ。分かってる? あんたは、面白半分にハナダの洞窟やその周辺のポケモン達を焚きつけたの。あんた程のトレーナーとポケモン達が暴れれば、その力は共鳴する。分かるでしょ? もし、あのポケモンまで暴れだしたらどうする気? 事の重大さ、分かってるの?」
「わかりません」