赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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【クチバ編.十一】嘘

 ジムを出たカンナ、瀬良、チクサ、それから信者の面々は、クチバジムから少し離れた町の中央広場に集まっていた。

 周りを信者が囲っているおかげで、余計な野次馬に晒されずに落ち着いていられる。力というのは、周りに集まって来る人間やポケモン達の数なのかもしれない。

 

「これ、私の連絡先。困ったら連絡しなさい。気が向けば、助けてあげるから」

「ありがとうございます」

 

 瀬良は四天王のポケギアの番号を手に入れた。とても心強い味方だ。協会のことを考えずに助け求められるなら、こんなにありがたい話はなかった。

 

「四天王の助けがあれば、怖いものなしですね」

「バックアップがあるなんて思わないでね。出来れば自分でなんとかしなさい。あなたはチャンピオン。私を倒した男なんだから」

 

 カンナの言葉に、信者達が揃えて頷く。

 強い、という一点で認められているんだというチクサの話が、思い出された。

 

 

「周りの方々は、普段から連れているんですか?」

「ええ。普段はもっと少ないけどね。色々手伝ってくれるのよ」

「クチバに来る時は、いつもこんなに派手なお出迎えなんですか?」

「いつも?」

 

 ふと、何かに気づいたのか、カンナとチクサが視線を交わす。何も言わずに、ただ、何かを交わしている。

 

「ひどい。私、皆に使われちゃったみたい」

 

 信者達は、今度は揃えてぺこりと頭を下げる。

 

「本当に賭けだったんですよ。予想で動いていただけです」

「これが結果。あなたの勝ちよ」

「そうですね」

「チクサさん。あなた、その気があるならレッドを助けてあげなさい。ここまで関わっておいて、はいさようならもないでしょ」

「ええ、そのつもりです」

 

 言いたいことを言い切ったのか、「それじゃあね」とカンナは去って行く。信者達は散り散りになり、数人がカンナの後ろをついていく。カントー四天王の一人カンナは、聖域の住人と言われていたその力を、まだ失ってはいなかった。

 広場に残されたのは、瀬良とチクサのみ。

 

「チクサさん、どういうことですか?」

「マチスがカンナの邪魔をするのは想定出来たからね。シーギャロップ号から降りて来ないのは、想定の範囲内だったんだよ」

「範囲内だから、何をしたんですか?」

「カンナが来ないと分かれば、御付きの人達は解散するだろう? そこまで確認出来れば、マチスのカンナ遮断の目的は達成される。だから、事前にチクったのさ。集まっていた数人にね。これはマチスの妨害工作だよって。起こりうる可能性を説明して、助けを貰えるよう依頼したんだ。よく短時間であんなに人を集めてくれたものだよ。さすが四天王のサポーターは数が多い」

「カンナさんのサポーターなんて、見て分かるもんなんですか?」

「有名人だよ。カンナの周りに常にいる数人は、特にね」

「そんな、最初から言って下さいよ」

「君に期待させすぎるのも、不安にさせるのも良くないと思ってね。御付きの皆には、用心深いマチスを欺くために、ギリギリまで待機してもらっていたんだ。それに、マチスの妨害にあったからといって、ポケモンに乗って四の島からクチバまで海を渡って来るなんて普通しないよ? おかしいって。腹立ったから無理矢理行くわって、普通しないから。だから、来るか来ないかは賭けだよ。噂に聞く、あのカンナの読めなさ具合を信じてみたんだ」

「どこまで勝算があると思っていたんですか?」

「御付きの人達も、カンナさんなら来そうですって言っていたから、そこそこ高かったと思うけどなあ」

「だったら、最初からカンナさんに助けを求めるよう連絡を入れてもらえば良かったじゃないですか」

「カンナには監視が付いているはずでしょ? 彼女に連絡が入ったのを確認されたら、マチスに伝わっちゃうじゃないか。四天王が前がかりで乗り込んでくるとしたら、どんな無理をされたか分かったもんじゃない。ぎりぎりで想定外のことを起こして、身を引かせるしかないと思ったんだよ」

「監視が付いているなら、四の島を出た時点でマチスさんに情報が伝わっていてもおかしくない。でも、マチスさんはカンナさんが向かって来るのを分かっていなかった」

「カンナは言ってなかったけど、多分、マチスの部下は捕まえたんだろうね」

「そうなりますか」

 

 危ない橋を渡ったことには変わりない。つくづくカンナには感謝してもし切れないし、不思議な魅力を持った彼女についていく人間が多いのも、瀬良は理解出来た。

 

「本当はすぐ助けにジムへ行った方が良かったのかもしれないけどさ、カンナの御付きの方々に説明してたら、遅れちゃった」

「ギリギリなのはそういう訳なんですね。死ぬかと思いましたよ。でも、本当ありがとうございました」

「礼には及ばないよ。今回は、ランスっていうロケット団幹部に感謝するしかないね。どういう奴かはともかく、君を救ったことには変わりない。彼が僕にたまたま声を掛けなかったら、こうはなってない」

 

 それは、間違いなく本当だ。ランスのおかげで、捕まらなくて済んだのだ。彼がどうやってマチスの計画を知ったのかは分からないが、ロケット団なりの情報網があるのは確実だ。カンナが言っていたいてだきの洞窟、というのは、恐らく洞窟のポケモンの密漁組織絡みの件だ。そこにロケット団が絡んでいてマチスが一部協力していたとすれば、ロケット団側からでもマチスの情報を知るルートはあるということ。

 

「レッド君、これからどうするの?」

「決めてないんですけど、シオンに向かってみようと思います。レッドの足跡を辿って、元に戻る道を探さなくちゃいけないんで」

「そっか。色々やってたらそのこと忘れてたよ。君はレッド君だけど、レッド君じゃないんだった。じゃあ、また何かあったら、すぐに連絡しなよ。しばらくヤマブキにいるから、シオンならすぐに飛んで行ける。武者修行の身ではあるけど、多少は力になれるから」

 

 ありがとうございます。深々と頭を下げて、瀬良はチクサと別れた。

 レッドが一体何を考えているのか、それを知る手がかりはまだないが、瀬良は大切な仲間を得た。瀬良として頼って良い。そう言ってもらえるだけで、どれだけ助かるか。

 レッドのポケモン達も、今回は本当によく動いてくれた。これを機会に、もしかしたら距離を詰められるかもしれない。彼等のレッドに対する思いを、その気高さを、瀬良は見誤っていた。

 

「よし、行くか」

 

 モンスターボールからリザードンを出し、シオンの方角へ飛ぶようお願いする。任せとけと首を差し出し、瀬良はその首にまたがる。まだ怖かった。レッドのポケモン、という圧倒的強者に、瀬良という小さい人間など踏み潰されてしまう気がした。

 自分には自信がない。けれどもレッドは信用出来た。だから、これだけ優秀で、優しく、愛らしいポケモン達も信用出来る。

 

「ありがとう。よろしく頼むよ」

 

 リザードンは飛び立つ。クチバの空を見上げる民衆が、レッドというトップトレーナーが飛び立つ姿を、眺め続けていた。

 

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