赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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シオン編
【シオン編.一】


 シオンタウンは気味が悪い。亡くなったポケモン達の魂を鎮めるポケモンタワー、というランドマークが、どうしてもイメージをおどろおどろしいものにしがちだ。瀬良もそんなイメージを持ちつつ町を歩いたが、どうもそれは勘違いだった。道行くトレーナーも町の人達も、他の町とそう変わらない。ただ一部、ポケモンタワーを訪れる人間達の寂しそうな表情が、印象的だった。

 

 既に数日、瀬良はこの町に落ち着いている。クチバでの荒れ具合を考えれば、比較にならない程穏やかな数日だった。けれども、ただ急場をしのいでシオンへ逃れた訳ではない。一人、接触しておきたい人間がいた。シオンに居を構える、フジ老人だ。

 シオンから南西に位置するグレンタウン。その町にあるポケモン屋敷で確認出来る日記には、彼がミュウツーを生み出した科学者であることを示唆する文章が残っている。今シオンにいるフジ老人とその科学者は同一人物であるはず。瀬良の中で確定的ではないが、あちこちに散らばった譲歩を集めれば、そう読めるはずだ。

 フジ老人程の科学者であれば、元の世界に戻る方法やセラ・ヒサシについて何か助言をもらえるのではないか。そう思って尋ねたが、彼は一週間程ハナダへ出掛けているらしい。あと四日で帰って来る、とポケモンハウスの人に教えてもらえたので、瀬良は帰りを待っていた。

 

 ただ、四日間何もせず待っているという訳にもいかず、シオンタウンをあちこち歩き回っている。レッドを知る人間に一人でも多く会っておきたかった。彼を知るには彼を知る者に会うのが一番だ。

 しかしそれもうまくいかず、レッドの知り合いには巡り合えていない。

 元チャンピオンレッドがシオンタウンをふらふらしていると、どうしようもなく目立ってしまう。指を差され、ヒソヒソと何かを話す人達が多い。前よりも何か危険なものを見る目が多いのは、シオン到着初日に発売された雑誌に書かれていた、レッドに関する新情報が原因だろう。知り合いだとしても、レッドに話し掛けるのを躊躇いたくなる内容だった。

 瀬良も既に目を通している。あまりにもズレていて、呆れるばかり。カントーでの評判がどんどん落ちていることについてはレッドに申し訳なかったが、これについては申し訳なさよりも怒りが勝る。

 

 内容は、クチバでの揉め事についてだ。マチスの暴挙は致し方ないとする記事だった。驚くことに、今まで伏せられていた、レッドがロケット団に関与する疑いについても記載がある。当然その記事にひっぱられる人達が多くなり、"レッド"は疑いを向けられていた。

 証拠はなく疑いなのだと協調されていたから、マチスのように即確保に動くのはやり過ぎかもしれないが責められないなどと、最後に微妙な立ち位置を示して文章は結ばれていた。

 あまりにも幼稚だ、と瀬良は思う。まんまとクチバから逃げおおせたレッドが気に入らず、嫌がらせをしているようにしか思えない。情報を渡しているのは協会筋のはずなので、あからさまにわざとレッドを悪く書いている。

 確かにクチバからは脱出でき、今マチスは追って来ない。けれどもその代わりに身動きが取りづらくなるよう邪魔をするなんて、正気とは思えない。最早相手をするのも嫌になってくるが、相手せざるを得ないのが現実。

 げんなりするばかりだが、嫌なことばかりでもない。

 

 フジ老人のポケモンハウスを訪れた際、瀬良は大歓迎を受けた。マチスの時も同じような歓迎だったので若干身構えたものの、今回は本当にただ歓迎を受けた。

 

 何故歓迎を受けたのか。

 当時ポケモンタワーへロケット団が集まった際、その暴虐に文句をつけようと向かったフジ老人は、ロケット団に捕まった。彼の技術力に目を着けていただろうから、始めからそれが目的だったのだろう。その彼を助けたのがレッドだった。タワーにいる団員を軒並み蹴散らし、レッドはフジ老人と一緒にポケモンハウスへ帰って来た。

 

 人間に捨てられたポケモンや、野生で暮らしていけないポケモンの面倒を見ているポケモンハウスには、フジ老人の他にもその仕事を手伝うスタッフやポケモン達、町の子ども達までも出入りしている。フジ老人の帰りを喜んだポケモンハウスの皆は、レッドに対して大変好感を持って接してくれていたらしい。

 その好感から、今のレッドの評判に左右されることなく、見たままのレッドが本来の姿だと信じ接してくれる彼等に、瀬良は感謝していた。

 

 そんな居心地の良い場所には、どうしても行きたくなってしまう。瀬良はここ二日間あまりにも居場所が無かったため、たびたび厄介になっていた。

 シオンを訪れてすぐにポケモンハウスを目の前にした時は、敷地の広さやお屋敷と呼べるような建物に驚いたものの、三日目ともなればそれももう慣れたものだ。迎えてくれるスタッフも、子ども達も、皆心から優しくしてくれる。マサラで受けた愛情とはまた違う。

 

 屋敷の中に入れば、毎日たくさんのポケモンが子ども達と遊んでいる。ガーディにポッポ、ワンリキーにアーボ、その他様々なポケモンがその辺をうろついて、子ども達と戯れていた。

 スタッフの許可をもらい、ここなら良いだろうと瀬良は判断し、レッドのポケモン達を屋敷内で外に出した。

 カントーを代表するスターポケモン達の登場に、子ども達は大興奮。もう何度も見ているのに、その反応は変わらない。レッドのポケモン達もまんざらではなさそうで、愛らしく、子ども達と触れ合っている。

 

「ありがとうございます。子ども達も喜んでますし、面倒見ていただけて助かりますけど、いいんですか?」

 

 大広間の壁に寄りかかりながら、ポケモンと子ども達が戯れる様子を微笑ましく眺めていた瀬良に、ポケモンハウスのスタッフである女性が話しかけた。

 

「いえいえ、ポケモン達も子ども達と遊んでいて楽しそうですので。それに、俺もここに居させていただいて、助かっていますから」

 

 スタッフとしてポケモンタワーの手伝いをしているルミコは、そのまま瀬良の横に立つ。彼女はレッドよりもずっと年長で、地元の人間だった。

 何やら話し辛そうにしているのを見て、思わず小さな笑いが零れる。

 

「いいですよ。何でも聞いていただいて」

「あ、あの、言わないと、逆に気になるかなと思いまして。触れないのも、それはそれで、何か気を遣っているみたいになるんじゃないかと」

「雑誌の件、ですかね」

「はい」

 

 と、ルミコは話し辛そうに答える。

 

「特に、気にしていませんよ。ここの皆さんが快く受け入れて下さっているのは、よく分かりますから」

「良かった。私達からすれば、あなたはフジさんを助け出してくれた恩人です。ロケット団に与するなんて、ありえないと思っています」

「ありがとうございます」

 

 こうやって信じてくれる人もいる。シオンタウンに居場所のなかった瀬良は、この場所がとてもありがたかった。

 

「あまりお聞きするのも不躾かと思いますが、フジ老人がハナダへ出かけている理由をお聞きしても?」

「私達も、よく知らないんです。フジさんは、あまり多くを語りたがらないので。定期的にハナダには出かけるんですよ。サナエさんっていう育て屋さんのところに行くって」

 

 やはり、ミュウツーを作ってしまった科学者は、フジ老人だ。ハナダの洞窟という特殊な環境に馴染んでいるのか、手が付けられなくなってしまったその怪物は今大人しい。様子を気にして、聞きに言っているのだろう。ということは、サナエもまた事情を知っている。瀬良と話した際はそんな素振りを一切見せなかったが、トップシークレットであるのは分かる。話せないのも無理はない。

 

「こういう活動をしているから、情報交換なんですかね」

「そうかもしれませんね」

 

 知らない方が良いことも多い。このポケモンハウスは、カントーや協会の事情なんかに関わらず、その活動を続けて行って欲しいと瀬良は思った。

 

「レッド、遊ぼ!」

 

 遊んでいた子ども達の中から、一人男の子が駆け寄って来る。空気の入った柔らかいボールを、瀬良に手渡した。

 

「俺も?」

「うん!」

「ふふ、遊んでやって下さい」

 

 ルミコに言われてしまっては、参加するしかない。

 ポケモン達とキャッチボールをしているのは見ていた。瀬良が投げたボールは、放物線を描いて飛んでいく。少しでも距離を詰められれば良いな、と思って投げたボールは、高い位置でフシギバナの蔓がキャッチ。そのまましなった蔓から放られたボールは、一直線に瀬良の顔面に直撃。

 

「いってえ」

 

 ひりひりする顔を抑え、チラりと見れば、いつも仲裁役の大人しいフシギバナが、重い鳴き声を上げてニンマリ瀬良に微笑んだ。

 

「やりやがったな」

 

 今度は容赦しない。勢いよく助走をつけて放ったボールは一直線に飛んでいく。フシギバナに当たろうかというところで、ピカチュウが割り込み、尻尾でそれを打ち返す。強烈な勢いで戻って来たボールは、再び瀬良の顔面を直撃。

 どーだとばかりに腰に手を当ててふんぞり返るピカチュウ。

 

「お前ら! 俺にだけ手加減しないとはどういうことだ!」

 

 再び放られるボール。子ども達が騒ぎ、ポケモン達が入り乱れる。

 クチバの殺気だったバトルとは違う、和やかな空間がそこにはあった。

 

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