赤い足跡、その先に   作:@早蕨@

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【シオン編.二】

「付き添い、お願い出来ますか?」

 

 子ども達と遊んだ後、ルミコから頼まれた。

 亡くなったポケモンへ墓参りをするため、ポケモンタワーに行く子どもの付き添いをして欲しいとのことだった。

 

「でも、俺で良いんですか?」

 

 瀬良の周りにいる方が、今は安全ではないかもしれない。

 

「レッド君達より頼りになるボディーガードなんて、いないじゃないですか」

 

 クチバでの戦いを見られていたら、がっかりされそうだった。マチスはもう追って来ないだろうし、一旦は落ち着いたのであれば一先ずは安全と見て良いだろう。僅かな逡巡の後、瀬良は引き受けることにした。

 

「分かりました」

 

 

 

 ポケモンタワーは、亡くなったポケモンを弔う墓標が数多く並んでいる。墓標を立てようとする人は後を立たず、いっぱいになるのも時間の問題。近々墓を別の場所に移し、ポケモンタワーはラジオ塔になる、という計画が立っている。もちろん、このタワーがなくなり、ラジオ塔が建設される未来を知っている瀬良からすれば、今まだ存在するこのポケモンタワーを町中から見上げると、物悲しくもあり、仕方ないとはいえ、複雑な気持ちだった。

 

「レッド、ありがと」

「礼には及ばないよ」

 

 付き添いの相手は、瀬良を遊びに誘った少年だった。

 ポケモンハウスから、二人で歩を共にする。

 

「半年前なんだ。突然、ガーディが亡くなったのは」

 

 しばらく黙って歩いていた二人だったが、少年はポツリと喋り始めた。

 

「そっか、突然か」

「そうなの。いつものように楽しく遊んでいたのに、急に体調を崩して、そのまま」

「残念、だったね」

「残念だけど、楽しかったよ。ガーディと遊べて、ずっとずっと楽しかった」

 

 少年が言うのだから、きっとガーディも最後まで楽しかったのだろう。良い友達に看取られて、ガーディは亡くなったのだ。

 

「僕ね、遠くへ引っ越しちゃうんだ」

 

 レッドの方に顔を向けず、虚空に向かって、まるでそこに誰かがいるかのように少年は呟いた。

 

「どこに行くの?」

「ホウエンっていう、暖かいところだって。ガーディと離れるの嫌だったのに、仕事の関係だからしょうがないんだって。ひどいよね」

「それはひどい。でも、ずっと来られない訳じゃないさ。君がもっと大きくなって、立派になった姿を見せに来ようよ」

「うん。僕、レッドみたいな強いトレーナーになりたい。ジムリーダーを倒して、バッジを集めるんだ」

 

 レッドとグリーンが年若くチャンピオンになってからというもの、少年のような夢を抱く子ども達が後を立たないという。目覚めの世代と言われ、この中から次世代のスターが生まれるのだという話になっている。レッドとグリーンは、世の中を動かす程の偉業を果たしたのだ。字面で見るよりも、ゲームをするよりも、こうやってカントーを歩いている瀬良が、一番その影響を感じ取っていた。

 

「俺みたいになって、どうするの?」

「ガーディに紹介するの。たくさん友達を作ったよって。周りからもいっぱい褒められるよって。ガーディにも、天国でたくさん友達作ってよねって言いたいから」

「優しいね」

「普通だよ」

 

 少し恥ずかしそうにして、少年は少し前を歩いた。

 瀬良はすぐ、横並びに追いつく。

 

「普通でもなんでも、優しい方が良いよ」

「それは、そうかも」

「あのさ」

「なに?」

「そんな大切な挨拶に、どうして俺を一緒に?」

 

 ルミコから聞いた話では、”レッド”を指名したという。一緒に行くはずだったルミコに断りを入れ、わざわざ指名をするくらい、彼にとってはどうしても譲れないものだったらしい。

 

「レッドは、大切なポケモンを亡くしたこと、あるでしょ?」

 

 あるよ、と返答する訳にはいかなかった。思い当たらない。この少年は、レッドの何かを知っている。

 

「君には、話したっけ」

「前回シオンに来た時、言ってたよ。ずっとずっと小さい頃から友達だったラッタが、亡くなったって。あの時、レッドすっごく怒ってたじゃない」

「あ、そ、そうだったよね。あの時はあまりにも怒っていて、細かいこと忘れちゃってるんだ」

 

 ラッタ。その名前でいくつか瀬良の頭には思い浮かぶ。その進化前であるコラッタは、グリーンが一緒に旅をしていたポケモンであり、その道中ラッタに進化した。レッドとも何度かバトルをしているはずだ。グリーンは、そのラッタをポケモンタワーでのバトル(なんてところでバトルをしているんだ)では、連れていなかった。

 それが何を意味するのか。色々な想像が出来る。

 今少年は、レッド”が”大切なポケモンを亡くした、と言っている。コラッタはグリーンのポケモンではなかったのか。

 何か、瀬良の知らない事情がある。

 

「あのさ、俺、君にどこまで話したかな」

「どこまでって?」

「その、ラッタのこと」

 

 何を言ってるの? と不思議な様子で瀬良を見上げた少年だったが、本当に聞きたそうにしている瀬良を見て、少年は喋り始めた。

 

「ラッタは、グリーンとレッドが小さい頃から一緒に遊んでいた友達だって、そう言ってた」

「それ以外には?」

「うーん、ラッタは悪い奴に殺されたんだって、そいつらを、何があっても絶対に許さないって」

 

 グリーンのコラッタは、レッドからしたらライバルの連れ、ではない。もっともっと小さい頃から、グリーンと一緒に可愛がっていた、大切なポケモンであった、ということだ。

 

「ごめん、俺、そんな話まで君にしちゃったんだ」

「フジのおじいちゃんを連れて帰って来てくれた後、ポケモンハウスで話してたじゃない。全部忘れちゃったの?」

「忘れてないよ。ちゃんと、覚えてる」

 

 タマムシのロケット団アジトに乗り込んだのも、シルフを乗っ取ったロケット団へ殴りこみに行ったのも、もしかしたらこの辺に理由があるのかもしれない。

 殺されたラッタの復讐として、レッドは怒りに身を任せ、ロケット団を潰した。そう考えると、筋は一応通る。やり方が無茶苦茶なのは変わらないが。

 

「あの時、話を聞いてくれてありがとう」

「何を今更。そんなの、お礼なんかいらないよ」

 

 レッドは今何も言えない。瀬良が今、言いたいだけだった。言わなければならない、と思った。

 

 

 ポケモンタワーでガーディの墓標に二人で手を合わせ、少年は爽やかに挨拶をした。また来るからね、と一言残し、二人はポケモンタワーを後にする。随分と小ざっぱりしたものだったが、わずかに涙ぐむ少年の姿とその言葉から、瀬良を連れて来た理由が少し分かる気がした。

 少年は、泣く姿をルミコに見せたくなかったのだ。遠くへ行ってしまうのが決まっているのに、いつまでもメソメソしていては心配されてしまう。ガーディのことは大切に大切に胸にしまって、前を向いているところを見せなくてはいけない。そんな風に考えている。

 なんてしっかりした子なんだと、瀬良は素直に感心した。周りを考えられる、優しい子だ。

 大切なポケモンを亡くしたという点で、同じ境遇であるレッドなら、分かってもらえると思って同行を頼んだのだ。だったら、今思う存分泣けば良い。歩きながら気丈に振る舞う少年の頭に手を乗せ、瀬良はぐしゃぐしゃと撫でる。

 やめろよ、と最初は手を払いのけていたが、やがて、顔も向けず、声も上げず、少年は目を抑えて静かに泣き出した。二人は並んで歩き続ける。瀬良もまた、何も言わなかった。

 

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