胡蝶家の長女   作:厨二柱

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第10話

 

 

 

柱との模擬戦が終わった後。稽古は明日からだと言われ、水柱は敷地の外に出て行った。

(ワタシ)たちも、いつもより少し早いがカナエとの訓練も終わらせ、風呂に入ることにした。

一緒にしていたカナエは勿論、しのぶも風呂場についてきた。

 

元々、(うち)にも造り付けの風呂はあったが。蝶屋敷のものは一味違う。

大きな脱衣室が一室設けられ、風呂へ続く扉を開けると小さな銭湯といったような、綺麗なタイル張りの床と壁が現れる。

その奥にはしっかりとした湯船が据え置いてあり、カランも二個三個と設置されている。

西洋の文化をうまく取り入れ、割と令和の時代の銭湯とあまり変わりのない姿をしていた。

 

「おねーちゃーん」

「はいはい。」

 

万歳をしながらこちらを見ているしのぶの帯を解いて、着物の型が崩れないよう衣紋掛(えもんかけ)にかける。

この時代にはまだハンガーが普及していない。脱いだものは折り畳んで仕舞うか、脱いだ後に着るものや、洗濯待ちをしている着物は衣桁(いこう)という着物をかける家具に置いておく。

実に面倒だ。ハンガーか何か作ってやろうか。

 

「お姉ちゃん……」

「……はいはい。」

 

子犬みたいな目で見てきたカナエの帯も解いて、背後から着物を脱がせて綺麗に畳んでしのぶとにかける。

もうカナエは、しのぶがいない時は1人で脱いでいると言うのに。甘えたがりなのは今も昔も変わらないな。

 

しかし、カナエは6歳にして色気が出たものだ。

その最大の理由である、下着の下でふるふると揺れる歳不相応な未だ成長途中である双丘。

一方わたしの方はと言うと。擬音で言うとつるぺたすっとーん!だ。

 

「……お前は良く育ったものだ。」

「私はお姉ちゃんのお腹が羨ましいわ。」

「こんな筋肉質なものを羨ましがっても仕方ないだろう。」

「ううん。やっぱり憧れるな。」

 

私も服を脱いでいると、腹にじっとりとした目線を向けられる。

いや、そこまで割れてはいないぞ。うっすら浮いている程度だ。いやもしかしたら力を入れなければ浮きもしないかもしれない。いや浮いていないはずだ。

 

「カナエもなかなか筋肉がついているじゃないか。」

「ひゃあっ!」

 

お返しに、カナエの腹に指を押し込んでみる。

カナエの腹筋は柔な感触のその奥に、しっかりと硬い筋肉があるものを感じる。

女の子なのだから、ついているにしろこのくらいの量がベストだ。

 

「やはり、よく鍛えられている。これ以上の筋肉は必要ないよ。」

 

透き通る世界で筋繊維を透視して見ても、しっかりと強靭な筋肉がついている。

それは腹だけではなく、腕や足にもしなやかな女性らしい筋肉が確かにあった。

全集中の呼吸は、必ずしも筋肉が多い方が強いわけではない。

例えば、花や恋の呼吸にはしなやかな女性の体の柔らかさが重要になる。

 

「お姉ちゃん!早く入ろう!」

 

下着を脱いで、何が楽しいのかにっこにこで見てくるしのぶは、実に子供らしいイカっ腹だ。勿論まだ胸はわたしと同じ程度。

しかし私は成長したしのぶが、背が小さいなりによく育っていた事を思い出す。そういえば母もそれなりにあったが……

それと、カナエの片頬が膨らんだままなのは放置していて良いのだろうか。

 

 

 

蝶屋敷の風呂場には未使用の石鹸が幾らか残っていた。

今でこそ価格が落ち着いて来てはいるものの、当時は高級品だったと聞くが。

 

「カナエ、後ろを向いてくれ。しのぶもカナエに洗ってもらうんだぞ。」

「はーい。」

 

石鹸を泡立て、カナエの背中へとぬりたくる。

布などで擦っても良いが、それでは肌を傷つけてしまう。

さすがに令和の時代と比べると石鹸の質は悪いからな。

傷一つない陶磁器のような白いカナエの背中。触れるともっちりと手に吸い付く。

ぺたぺたと石鹸の泡を広げ、背中全体に両手で塗りたくる。

 

背筋の一本線。肩甲骨。脇腹からお尻までの綺麗なくびれ。

我が妹ながら見事な発育だ。性格良し、器量良し、外見良し。文句のつけようがないな。

鬼なんかがいなければ、幸せに家庭を作れていたと言うのに。

どこぞの馬の骨にやると考えると、それも納得はいかないが。

 

「カナエ。私の背中も頼めるか。」

「もちろん、任せて。」

 

いつもの微笑みで拳を上げるカナエ。

 

「しのぶ、おいで。前も洗ってあげるから。」

「はーい!」

 

しのぶが木椅子から立ち上がり、私は床に泡が落ちていないか確認する。滑って転んでは一大事だ。

私の前に座ったしのぶに腕を上げさせ、脇から脇腹にかけて揉み洗う。

 

「あははは!くすぐったい、おねーちゃん!」

「我慢しろ、もうすぐ終わるから。」

 

脇と首周りは汗の多い部位。この辺りは丹念に洗わなければならない。

私の手捌きに身を捩らせ、悶え笑うしのぶ。

背中にじっとりとした視線を感じる。お前は後で自分で洗いなさい。

 

 

 

「はぁ……」

 

暖かい湯が体に染み渡り、ため息が溢れた。

 

「気持ちが良いわね。」

 

カナエもこの風呂を気に入っているようだ。私でも惚れ惚れするような所作で湯船の中に入ってきた。

3人同時に入ると、ざばーん、と湯が溢れて流れる。3人で入るとさすがに広いとは言えないが、それでも狭くは感じない。

しのぶが湯船に入り、そのまま抱きついてきた。また少し湯が溢れただろう。

 

「あったかーい。」

「全く。湯が勿体無いからあまり暴れるなよ。」

 

腕の中に抱きとめる。

 

「もう。しのぶ、ずるいわ。」

 

隣に座っていたカナエが、肩にしなだれかかる。

折角広いんだから、もう少し離れて入るものじゃないか。と思いつつ。これはこれでまあありだな。

 

(うち)じゃ同時に3人なんて入れなかったから、こうして一緒に入るのは新鮮だな。」

「でも、一度銭湯に行ったことがあったじゃない。」

「あの頃はまだしのぶが赤子だったからな。」

 

一度、夜に家の薪が切れた事があった。

そんな時間に薪を買いに行くのは馬鹿らしかったので、私たちは銭湯を利用することにしたのだ。

あの時は母も一緒に入ったのだが、母は父の風呂の介護をしなければならない。

まああの2人は未だに仲良しをしているようなので、母も特に負担だとは思っていないだろうが。

 

「これからどうなるんだろう。」

「……悪いようにはならないさ。」

 

不安を溢したカナエ。急に目まぐるしく環境が変わり、混乱するのもわかる。

私の肩に頭を預けているカナエの頭の上に手を乗せる。

しのぶに影響されてか、いつもに増して甘えたがりだ。

 

「新しいお家は大きくて、私は楽しいよ。」

 

幼いしのぶは、鬼のことも稀血のことも聞かされていない。

しかし、しのぶも鬼を見ている。あの日から何かが変わったことには気づいているようで。

小さいながら、家族を元気づけようと頑張っている。健気な子だ。

 

「大丈夫。私の家族は、私が守るから。」

 

私の1番大事な家族。鬼殺隊に関わらせてしまった私自身が守り抜く。

この約束を、まさか一年も経たぬ間に(たが)えてしまうとは想像すらしていなかった。

 

 

 

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