胡蝶家の長女 作:厨二柱
柱との模擬戦が終わった後。稽古は明日からだと言われ、水柱は敷地の外に出て行った。
一緒にしていたカナエは勿論、しのぶも風呂場についてきた。
元々、
大きな脱衣室が一室設けられ、風呂へ続く扉を開けると小さな銭湯といったような、綺麗なタイル張りの床と壁が現れる。
その奥にはしっかりとした湯船が据え置いてあり、カランも二個三個と設置されている。
西洋の文化をうまく取り入れ、割と令和の時代の銭湯とあまり変わりのない姿をしていた。
「おねーちゃーん」
「はいはい。」
万歳をしながらこちらを見ているしのぶの帯を解いて、着物の型が崩れないよう
この時代にはまだハンガーが普及していない。脱いだものは折り畳んで仕舞うか、脱いだ後に着るものや、洗濯待ちをしている着物は
実に面倒だ。ハンガーか何か作ってやろうか。
「お姉ちゃん……」
「……はいはい。」
子犬みたいな目で見てきたカナエの帯も解いて、背後から着物を脱がせて綺麗に畳んでしのぶとにかける。
もうカナエは、しのぶがいない時は1人で脱いでいると言うのに。甘えたがりなのは今も昔も変わらないな。
しかし、カナエは6歳にして色気が出たものだ。
その最大の理由である、下着の下でふるふると揺れる歳不相応な未だ成長途中である双丘。
一方わたしの方はと言うと。擬音で言うとつるぺたすっとーん!だ。
「……お前は良く育ったものだ。」
「私はお姉ちゃんのお腹が羨ましいわ。」
「こんな筋肉質なものを羨ましがっても仕方ないだろう。」
「ううん。やっぱり憧れるな。」
私も服を脱いでいると、腹にじっとりとした目線を向けられる。
いや、そこまで割れてはいないぞ。うっすら浮いている程度だ。いやもしかしたら力を入れなければ浮きもしないかもしれない。いや浮いていないはずだ。
「カナエもなかなか筋肉がついているじゃないか。」
「ひゃあっ!」
お返しに、カナエの腹に指を押し込んでみる。
カナエの腹筋は柔な感触のその奥に、しっかりと硬い筋肉があるものを感じる。
女の子なのだから、ついているにしろこのくらいの量がベストだ。
「やはり、よく鍛えられている。これ以上の筋肉は必要ないよ。」
透き通る世界で筋繊維を透視して見ても、しっかりと強靭な筋肉がついている。
それは腹だけではなく、腕や足にもしなやかな女性らしい筋肉が確かにあった。
全集中の呼吸は、必ずしも筋肉が多い方が強いわけではない。
例えば、花や恋の呼吸にはしなやかな女性の体の柔らかさが重要になる。
「お姉ちゃん!早く入ろう!」
下着を脱いで、何が楽しいのかにっこにこで見てくるしのぶは、実に子供らしいイカっ腹だ。勿論まだ胸はわたしと同じ程度。
しかし私は成長したしのぶが、背が小さいなりによく育っていた事を思い出す。そういえば母もそれなりにあったが……
それと、カナエの片頬が膨らんだままなのは放置していて良いのだろうか。
蝶屋敷の風呂場には未使用の石鹸が幾らか残っていた。
今でこそ価格が落ち着いて来てはいるものの、当時は高級品だったと聞くが。
「カナエ、後ろを向いてくれ。しのぶもカナエに洗ってもらうんだぞ。」
「はーい。」
石鹸を泡立て、カナエの背中へとぬりたくる。
布などで擦っても良いが、それでは肌を傷つけてしまう。
さすがに令和の時代と比べると石鹸の質は悪いからな。
傷一つない陶磁器のような白いカナエの背中。触れるともっちりと手に吸い付く。
ぺたぺたと石鹸の泡を広げ、背中全体に両手で塗りたくる。
背筋の一本線。肩甲骨。脇腹からお尻までの綺麗なくびれ。
我が妹ながら見事な発育だ。性格良し、器量良し、外見良し。文句のつけようがないな。
鬼なんかがいなければ、幸せに家庭を作れていたと言うのに。
どこぞの馬の骨にやると考えると、それも納得はいかないが。
「カナエ。私の背中も頼めるか。」
「もちろん、任せて。」
いつもの微笑みで拳を上げるカナエ。
「しのぶ、おいで。前も洗ってあげるから。」
「はーい!」
しのぶが木椅子から立ち上がり、私は床に泡が落ちていないか確認する。滑って転んでは一大事だ。
私の前に座ったしのぶに腕を上げさせ、脇から脇腹にかけて揉み洗う。
「あははは!くすぐったい、おねーちゃん!」
「我慢しろ、もうすぐ終わるから。」
脇と首周りは汗の多い部位。この辺りは丹念に洗わなければならない。
私の手捌きに身を捩らせ、悶え笑うしのぶ。
背中にじっとりとした視線を感じる。お前は後で自分で洗いなさい。
「はぁ……」
暖かい湯が体に染み渡り、ため息が溢れた。
「気持ちが良いわね。」
カナエもこの風呂を気に入っているようだ。私でも惚れ惚れするような所作で湯船の中に入ってきた。
3人同時に入ると、ざばーん、と湯が溢れて流れる。3人で入るとさすがに広いとは言えないが、それでも狭くは感じない。
しのぶが湯船に入り、そのまま抱きついてきた。また少し湯が溢れただろう。
「あったかーい。」
「全く。湯が勿体無いからあまり暴れるなよ。」
腕の中に抱きとめる。
「もう。しのぶ、ずるいわ。」
隣に座っていたカナエが、肩にしなだれかかる。
折角広いんだから、もう少し離れて入るものじゃないか。と思いつつ。これはこれでまあありだな。
「
「でも、一度銭湯に行ったことがあったじゃない。」
「あの頃はまだしのぶが赤子だったからな。」
一度、夜に家の薪が切れた事があった。
そんな時間に薪を買いに行くのは馬鹿らしかったので、私たちは銭湯を利用することにしたのだ。
あの時は母も一緒に入ったのだが、母は父の風呂の介護をしなければならない。
まああの2人は未だに仲良しをしているようなので、母も特に負担だとは思っていないだろうが。
「これからどうなるんだろう。」
「……悪いようにはならないさ。」
不安を溢したカナエ。急に目まぐるしく環境が変わり、混乱するのもわかる。
私の肩に頭を預けているカナエの頭の上に手を乗せる。
しのぶに影響されてか、いつもに増して甘えたがりだ。
「新しいお家は大きくて、私は楽しいよ。」
幼いしのぶは、鬼のことも稀血のことも聞かされていない。
しかし、しのぶも鬼を見ている。あの日から何かが変わったことには気づいているようで。
小さいながら、家族を元気づけようと頑張っている。健気な子だ。
「大丈夫。私の家族は、私が守るから。」
私の1番大事な家族。鬼殺隊に関わらせてしまった私自身が守り抜く。
この約束を、まさか一年も経たぬ間に