胡蝶家の長女   作:厨二柱

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第2話

 

 

 

あれから数年。オレが(ワタシ)の体になれるまで、幾何(いくばく)もかからなかった。

身体を思った通りに動かせる。どのような動きもできるという全能感。

()()()では感じることのなかった、身体中の細胞ひとつひとつを制御しているかのような、不思議な感覚。

これが所謂、天賦の才なのだろうと実感した。

 

今は日々、親の手伝いと身体を作る毎日だった。

産まれてきたカナエの世話をして、時間が開けば町中を駆けずり回る。

筋肉をつけようと運動しているのだが、何刻走っても一切疲れることはなかった。

恐らく、無意識に何かしらの呼吸法を使っているのだと思う。

これでは鍛錬になっているのかどうかわからないではないか。

 

(かあ)さま、ただいま。」

 

そして今日、全く超回復が起きない筋肉を育てることが遂に阿保らしくなっていつもより早く帰ってきた。

お針子をしていた母が玄関を開けたわたしを見て優しげな微笑みを浮かべた。

 

壱縁(いちえ)。ご飯はまだよ。何か見つけたの?」

「いいや、母さま。外には楽しいことは何もなかったよ。」

「全く。どこでそんな言葉遣いを覚えたんだか。」

 

胡蝶家はそこそこ由緒正しい身分の家柄だった。

故に母の言葉遣いは丁寧なもので、母という手本を見ることで幼少から英才教育を受けていたが。

(ワタシ)にはどうにも女言葉を喋る気にはなれなかった。

 

「帰ってきたなら、壱縁(いちえ)。カナエの面倒を見てあげて。」

「任せて。」

 

履物を整え、手を洗い。それからカナエに触れることを許される。

何やらきゃっきゃと楽しそうにしているカナエをおくるみごと抱き上げる。

 

「おお、よちよち。ただいま、カナエ。ねーねだよ、ねーね。」

「あー。ねー。ねーねー。」

 

カナエが喋った。(ワタシ)のことをねーねと呼んだ。

ズドーン!と雷を受けたかのような衝撃が身体中に走った。

(ワタシ)が4歳、カナエが1歳の頃だった。

 

「母さま。カナエが、私のことをねーねと……」

「あらあら。よかったわね、壱縁。」

 

母に頭をぽんぽんと叩かれる。

これほどに幸せな事があるだろうか。

わたしの手の中で、小さな命がまた成長を遂げた。

 

「カナエ。私はお前をきっと守るよ。幸せになってくれ。」

 

笑顔を向けるカナエを見て、私は再び誓った。

必ず、この幸せな家庭を悪鬼より守り抜くと。

この心で燃ゆる熱い焔を絶やすまいと決意した。

 

 

 

その日、私は夢を見た。

古い記憶だ。肌がヒリつくような空気の中、とある鬼達と対峙する光景。

1人はこの世の者とは思えない絶世の女鬼。そしてもう1人。病的に青白い、今にも倒れてしまいそうな肌をした男。

その瞬間、私はこの男を倒すために生まれてきたのだとわかった。

鬼舞辻無惨。鬼の首魁。全ての元凶。禍の元。私はその男に刃を振るった。

 

私は今、間違いなく人類で1番重要な記憶を見ていると理解した。

呼吸。体の動かし方。足捌き。刀の振り方。ひとつひとつを見逃さないよう脳裏に焼き付ける。

 

無惨の体の内部が見えた。心臓が7つ。脳が5つ。言い訳の仕様の無い怪物だ。

無惨の攻撃は、今の(ワタシ)では目に捉えることができなかった。かすり傷1つ受けたら死ぬ。直感的にそう感じた。

怒涛の攻撃を避けた(よりいち)は、無惨の体を粉微塵に斬り刻む……つもりが、数度身体を裂くだけに留まる。

しかし私は首を切り落としていた。殺すまでには至らなかったものの、無惨を追い詰めた私。

とどめを刺そうと刀を握り締める。瞬間、無惨は肉片となり弾け飛んだ。

私はその肉片を片っ端から切り捨てる。速さよりも、数に力を入れたのだろう。今度は私の目でも、肉片を捕らえる事ができた。

無惨は1800もの肉片にそれぞれ自分の細胞を分離させ逃げ出した。

私はそのうち1500と少しを斬り伏せる事に成功した。……いや、300近くを逃してしまう失態をした。

 

「死ねばよかったのに!生き汚い男!」

 

それから慟哭する女鬼……珠世と話をして、彼女を逃したところで私は目醒めた。

私は初めて、既に起きていた母と父の身体が透き通って見えた。やはり、未完成ながら無意識に全集中常中をしていたらしい。

私がここで出来るようになったのは、夢で記憶を見たことで正しい呼吸を目に焼きつけたからだろうか。

縁壱は産まれながらに使えたはずだが……私は彼の赤子の頃より劣っているらしい。さすが縁壱クオリティ。

 

というかそもそも、1番初めに見る記憶がこんな重要なもので良いのだろうか。

こういうのって、どうでもいい記憶から少しずつ大切な記憶を見るものじゃないのか。

もしかすると、私が全てを知っているからかもしれない。

 

 

 

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