胡蝶家の長女 作:厨二柱
カナエには、鬼殺隊の第一歩として、まず全集中の呼吸を教えた。
カナエに合った呼吸は、花の呼吸か、その派生元である水だったか風だったか忘れたがその辺りだろう。
しかし私は育手に呼吸を学んだわけでもなし。記憶の遺伝で見た日の呼吸しか知らない。
全ての呼吸の元祖であるからして、日の呼吸でも何とかなるんじゃないかと楽観的に考えた。
最初は無理に呼吸して血管や心臓が破裂しかけるというアクシデントもあったが。
カナエは一ヶ月と経たないうちに日の呼吸を覚えた。
そこから半年かけて全集中常中を会得させ、そこで初めて木刀を持たせた。
その頃になると、私の剣術には更に磨きがかかり。
それを見ていた両親に頼み込んで、稽古用の木刀を2本手に入れていた。
教師を呼んで指南してもらおうとも言われたが、おそらく私の方が強いのでそれは断った。
「息が乱れているぞ!呼吸を止めるな!」
「木刀から手を離すな!離した瞬間に死ぬと思え!」
「今度は腕に力が入りすぎだ!体の柔らかさを使え!」
「足の力が抜けている!しっかり地面を踏みしめろ!」
常中を使いこなしたカナエは今。
体に負荷をかける逆呼吸をしながら、同じく負荷をかけた私と木刀での打ち込み稽古をしている。
体を作ると共に、どこから打ち込まれても防御できる反射神経と体捌きを鍛える鍛錬だ。
水圧がかかった深い水底のような動きにくい状況の中、カナエは
「よし、ここまで!良く耐えた、カナエ。」
一度木刀をぶつけ、鍔迫り合いをしてから稽古終了の宣言をする。
終わらせた瞬間、カナエの全身が脱力し崩れ落ちる……寸前で抱きとめた。
透き通る世界のおかげで、カナエのギリギリ耐えうる限界は手に取るようにわかっていた。
もしあと10秒でも長引いていたら、腕の筋肉が痙攣して木刀がすっぽ抜けていただろう。
逆に言うと、腕が動かせなくなるその寸前まで徐々に弱る握力で木刀を握っていたと言う事だ。
私ですら、筋肉を透過で見ていなければここまで粘る事はできないだろう。
これは才能だけでは賄いきれない底意地の力だ。
「今日の鍛錬はこれで終わりだ。後はゆっくりと休め、カナエ。」
「ゴォォオオ…フゥ…ゴォォオオオ…フゥ…」
「しっかりと日の呼吸への切り替えもできているな。私が運んであげるから、カナエは身体の回復に専念しなさい。」
「ありがとう……」
「疲れているなら、
今カナエの筋繊維は、限界寸前まで酷使されズタボロに破壊されている。
正しい呼吸を使えば、
こうして鍛え抜いた筋力で日の呼吸を使用すれば、6歳のカナエは例の大岩だって楽々と持ち上げられるだろう。
「
「お母さん。お姉ちゃんには私が頼んだの。」
「全く、こんなになるまで疲れて。カナエも無理な時は無理って言いなさい。」
「はぁい。」
カナエを抱きながら家に入ると、母からの苦言が飛んできた。
私も、カナエがここまで食いついてくるとは思わなかったためについ力が入ってしまった。そこは素直に反省だな。
母も、まさか最後の10分の打ち込み稽古で十時間以上もの疲労を一度に味わっているとは夢にも思わないだろう。
昼寝をしていたしのぶの隣にもう一枚布団を敷いて、カナエが寝る場所を作る。
カナエの掌は、豆が潰れ、皮が捲れていた。呼吸を使えば一日で治るが、カナエの手をこんな手にしてしまった事への申し訳なさは消えない。
「壱縁。あなたの才能は剣術を習ったことのない私にもわかるほど優れているわ。でも、カナエは違う。カナエは何事も上手にできてしまう子。カナエが剣術を修めても良い事はないわ。」
「わかってるよ、母さま。でも、カナエは一生懸命なんだ。とても辛く厳しいはずの稽古も毎日欠かさない。」
こんなに頑張っているカナエを否定してしまうなんて、そんなものは嘘だ。
それに、カナエともう約束をしてしまっているのだ。私達はもう引き返せない。
「それはきっと、私に追いつくため。ごめんなさい、母さま。私がいたばかりに、カナエの将来を狭めてしまっている。」
「壱縁……自分を責めるのはやめなさい。私は2人が幸せならそれでいいと思っているわ。カナエがその道をどうしても選ぶと言うのなら、私は応援するわ。壱縁。あなたも好きな道を選びなさい。」
「……はい、母さま。」
母は、鬼殺の道を選ぶ私を見て、おそらくこの言葉を後悔するだろう。
自ら戦場に飛び込む上に、妹も巻き込んで。こんなに親不孝なことはない。
私は庭に出て、木刀を持ち型の反復練習を行う。
正しく日の呼吸を使い、正しく剣の型を振るう。
日の呼吸。
壱ノ型、円舞。弐ノ型、碧羅の天。参ノ型……
日の呼吸を使いこなせる者であれば、どれだけ使い続けても理論上疲れることはない。
私も何時間と使っていて疲れた記憶はない。というより、
それより、縁壱と何ら変わらない動きをしているのに炎は出ないものなのか。
使いたいと思っていないから?それとも、日輪刀を持った時のみ発生する技なのだろうか。
ヒノカミ神楽を舞っても、炎は出ないようだし。
……試してみるか。
「日の呼吸。拾弐ノ型、炎舞。」
口に出し、技の発動をイメージする。
二度の斬撃の衝撃と共に、灼熱の業火が現れた。
これは凄い。肌がヒリつくような熱と、空気を切り裂く確かな手応えを感じた。
これが呼吸法、これが型。私が無邪気に喜んでいると。
瞬間。
どろり、と。
身体の中から、何かが流れ落ちていく感覚を覚えた。
背筋に怖気が走る。感じたことのない不快感。
まさか日の呼吸を使用した所を鬼か何かに勘付かれたか!
すぐさま周囲を警戒するが、敵意のようなものは感じられない。
恐る恐る地面を見ると、そこには小さな血溜まりができていた。
私は弾かれたように家の中へと飛び込み、母を呼んだ。
「か、母さま!ち、血が!股から血が!鬼の攻撃やもしれません、奥に隠れてください!」
「壱縁。落ち着きなさい、壱縁。」
「いいえ、母さま!信じなくとも良いので隠れていてください!私が守ります!」
「壱縁。それは……初潮というものです。」
「……へ?」
壱縁、9歳にして生理を知る。