胡蝶家の長女   作:厨二柱

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第5話

 

 

 

赤飯を口に入れ、噛み締める。なんだか妙な気分だ。

それは家族が団欒の時を過ごしていた時だった。

 

ドンドンドン!

 

玄関から、扉を乱暴に叩く音が鳴る。(ワタシ)にはどうにも不穏に聞こえた。

 

「父さま。私が出ます。」

「カナエは食べていなさい。」

「いいえ、大丈夫です。」

「良いから。」

 

父も何やら胸騒ぎがするらしく、私を強引に止めて腰を上げた。

玄関まで歩いていく父を横目に、私はその間に台所に包丁を取りに行く。

何事もないならそれで良し。だが鬼だったら……

 

「どちら様でしょうか。」

 

父が履物を履いて声をかけた瞬間、扉が爆ぜ吹き飛んだ。

鬼だ。遂に鬼が来た。

 

「父さま!」

 

日の呼吸を使う。風鳴りのような音を響かせながら。

一瞬にして踏み込み、父を奥の部屋に投げ入れる。

 

「母さま!父様とカナエとしのぶをお願いします!」

 

家族を守るように、部屋を背にして相対する。

鬼は攻撃するでもなく、その姿をじっと見ていた。

 

「お前は鬼だな。悪いが、私の家族は誰も殺させない。」

「稀血、希血。稀血の匂いだ。くひひひ……」

 

その鬼はじっと私を見ている。嫌な視線だ。

私は鬼を透過して臓器の動きを把握する。完全に舐めきってるな。

 

「匂った。匂ったぞ。こんなに遠い場所からでもな。ひひ。強い匂いだ。お前は何人分だ?10人20人じゃ効かないな。100人か?200人か?それとも500人はあるかな?くひひひ。」

 

この鬼は私を狙っている。私が出ていれば、家族に手を出すことはなさそうだ。

それに、遠くに匂ったという稀血の匂い。

……まさか、()()()で呼び寄せてしまったとでもいうのか。全く、面倒な。

私は包丁を正眼に構える。型すら必要ない。その程度の雑魚鬼だ。

 

まず両腕を落とし、その後首を飛ばす。

足を粉微塵に刻み込んでから、頭を残して他の部位も切り刻む。

ばちゃっ…と、血肉が落ちる。しかし血は殆ど出なかったな。

鬼というのは血が通っていないのか?いや、血鬼術(けっきじゅつ)を使う時には出るよな。

 

「な、何が……起きて……」

 

鬼が反応できたのは、自らの体が頭だけになってからだった。

油断はしていないが、色々と考える余裕がある。血鬼術も持っていない。

私は鬼の髪を掴んで、頭を持ち上げる。

 

「この辺りにいる鬼はお前だけか。」

「稀血がぁああ!」

「会話ができないのか。」

 

鬼になった時、著しく知能が下がる。特に飢餓状態の鬼は。

人を喰う度に知能が増え、理性的な会話が出来るようになる。

初めに喋っていたから意思疎通ができるかと思えば。

この鬼は数人しか喰っていないのだろう。その程度の強さだった。

 

首の断面から腕を一本生やし、私の首を掴もうと手を伸ばす。

しかし、私を捕らえるには遅すぎた。

鬼の髪から手を離し、腕とついでに頭も同様にバラバラにした。

 

全身微塵切りにされてなお鬼は体を再生できる。

が、この鬼の強さではここから再生するには時間がかかるらしい。

それぞれの肉片がもぞもぞと動き始めているが、なかなか戻らない。

 

「……カナエ。これが私が戦わなければならない化け物だ。」

 

気絶した母と、唖然とする父、しのぶ、カナエ。

私はこの優しい家族を切り捨てて、鬼殺の道を進む。

それと同時に、やはりカナエはこの幸せを手放してもらいたくはないと思った。

 

「カナエ。お前は幸せに生きてくれ。心配する必要はないよ。私は強い。」

 

包丁を空に振るい、付着していた血を払う。

カナエは心の底から震え、まだ会話ができないようだった。

 

「マ、れ、血……ま、れ……血……」

「もう喋るようになったか。」

 

下半分が顔が再生しかけていた。声を出さなければもう少し再生できただろうに。

私は鬼が再生する先から消しとばしていった。

太陽が登り始める前に、鬼殺隊員が現れた。未来の岩柱。悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)だ。

 

 

 

「──その鬼を殺すために、我々鬼殺隊が存在しています。」

 

日輪刀で再生した鬼の頸を切り落としてから、悲鳴嶼行冥は母と私に鬼と鬼狩りの存在を話してくれた。

カナエとしのぶは奥の部屋に行かせて、鬼の壊した玄関の残骸で足を負傷していた父は悲鳴嶼さんが応急処置をして寝かせている。

 

「それで、その鬼を切り刻んだのは……」

「私です。」

「その歳で、その実力……唯の才能で片付けられる程度ではない。指南役は有名な剣士だろうか。」

「はい。おそらくはさぞ名のある剣士だと思います。ですが、それは夢の中の話です。私は、彼の半生を夢に見るのです。私の剣は、その猿真似に過ぎません。」

「……聞いたことがある。記憶が子孫に遺伝し、後世に語り継がれることがあると。」

 

でなければ、呼吸法の知りようがないため、この話はする事に決めていたが……驚いた。一蹴されると思っていたが、まさか納得されるとは。

 

「1つお願いがあります。悲鳴嶼さん。私を鬼狩りにしてください。」

「何を言っているの、壱縁(いちえ)!」

 

私がいつ言おうかとうずうずしていた提案をすると、母に即座に反対された。

 

「あぁ……可哀想に。鬼と出会(でくわ)す事が無ければそのような道を見出すことはなかったと言うのに。」

 

ジャラジャラと数珠(じゅず)を鳴らしながら合掌し、白眼の両目から涙を流す。

正直ちょっと……いやかなり不気味だ。

 

「いいえ、それは違います。私は夢の中で、鬼や呼吸、鬼を殺す剣士の存在を知っていました。その時から、私はいつか、鬼殺の剣士になると決めていました。」

「壱縁……」

「自分で言うのもおかしいとは思いますが、私は剣の才があると自負してます。この才能を、鬼を狩る事に使いたい。鬼の首を()ね、鬼がこの先殺したはずの人々を救いたい。私の一生は、鬼を殺す為に使います。」

「そんなことは許しません、壱縁。」

 

母がここまで怒った所は初めて見た。

私の痣を貶めた父を叱った時とは比べ物にならない。

 

「どうしてもできないというのなら、私はこの家を出て1人で藤の山に入り、最終戦別を受けます。」

「愚かな……鬼は特殊な刀でなければ殺すことはできない。いくら切り刻もうと死なないのだ。」

「いいえ殺せます。日の出まで何度も回復を阻害し、最後は陽の光で焼き殺します。」

「そのような戦い方は……」

「できます。私には。そのための力は既に持っています。」

「……」

 

悲鳴嶼行冥は数珠(じゅず)を打ち鳴らしながら考え込む。

これは脅しではなく、本心だ。ここで断られたのなら、私は言った通りにするだろう。

 

「その覚悟は相分かった。しかし、君には家族がいる。家族とは悲しませるものではない。」

「それは承知しております。父さま。母さま。ここまで育てて頂き有難う御座います。そして、申し訳ありません。」

「私は許しません。あなたはそんなことをしなくて良いの、壱縁。」

「いいえ、母さま。どちらにせよ、私は家を出なければなりません。私の血は、稀血というもので鬼にとってご馳走です。私が血を流す度に、鬼はこの家へとやって来るでしょう。私が家を出て行く事は絶対です。」

「……それは本当か。」

「はい。それも、稀血の匂いが強いと。鬼は私の血を辿ってと奥から来たと言っていました。」

「なんと残酷な……」

 

またも数珠を鳴らし、滝のように涙を流し始める。

どう転んでも、私は鬼狩りになる運命なのだ。

 

「お父様、お母様。彼女はとても危うい存在です。もう一度血を流したときには、また更に強い鬼に狙われるやも知れません。」

「だからって、我が子をそのような危険な場所に送り込む気には……」

「それでしたら、どうか私どもの庇護下に入って頂きたい。」

「いいえその必要はありません。私は家を出るのですから。」

「いい加減にしなさい、壱縁。それは許さないと言いました。」

「母さまは、私の姿を見ていなかったのでそのような事が言えるのです。」

「そんなことないわ。あるはずない。私の娘だもの……」

「……どうしても話がまとまらないようなので、私は家を出て1人で鬼狩りになろうと思います。」

「待ちなさい。……無謀だ。どうしてもなりたいというのなら、我々が援助しよう。」

「ありがとうございます。良い返事が聞けて嬉しいです。」

 

私が本気だと言うことを理解したのか、悲鳴嶼さんは了承してくれた。

それに焦ったのは母だ。味方だと思っていた者が渋々ながら受け入れたのだ。

 

「駄目よ!お願い!壱縁!行かないで…!お願い!」

「母さま。ごめんなさい……これは、ずっと昔に決めていた事なのです。」

「駄目!駄目よ!鬼狩りになんてなっては駄目!お願い、お願い……」

「私は親の言うことを聞けない悪い子です。この上ない親不孝をお許しください。」

「お願い……壱縁……」

 

私が母が泣き縋ってきた。

10年近く母親として愛された記憶はどうも心が痛い。

 

 

 

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