胡蝶家の長女 作:厨二柱
蝶屋敷に引っ越して、今日で一週間が経った。
父に足の助けが必要になった事と、庭が広いのでカナエとの鍛錬が捗っているくらいか。
ちなみに、屋敷には正式に蝶屋敷と名づけた。
「胡蝶家と呼んでしまっては昔の家との判別ができない」と言う建前で、主に私の混乱を招かないようにする目的だ。
いつかは医療施設にもしたいのだが。本来ならばどういう
今日もいつも通りに剣の稽古をしていると、柱合会議以来一言も交わした事がなかった水柱が庭に姿を表した。
「お館様からの命令で、お前の力を見定めろという任を受けた。それと同時に、俺がお前を認めたなら最終選別までお前を鍛えろとな。」
開口一番、水柱はぶっきらぼうにそう伝えてきた。
お館様が育手を
現水柱を育手や護衛に回しても大丈夫なのだろうか。それ程に大事に思われていると言うことでもあるが。
不穏な空気が流れる。おそらく、水柱は未だ私の発言に反感を持っている。
これは完全にあんなことを口走ってしまった私が悪いのだが。そんなことを言うのなら証明してみろ、といった感じか。
「俺はまだ、お前の実力を認めていない。お前は鬼と戦うべきではないと思っている。どれだけの才能があれど、死ぬ時は死ぬ。それは柱でも同じ事。」
「心得ています。」
胡散臭そうな顔をされた。何でやねん。
「最終選別は数ヶ月先だ。それまでに実力を証明できなければ、入隊を許すことはできない。」
「はい。」
「鬼と戦いたいと言うのなら、まずはその実力を見せてみろ。」
水柱が求めたのは、実践訓練だった。
互いに木刀を向け合い、ヒリついた空気が流れる。
一本勝負、基本寸止め。開始の合図は空気になっていたカナエが務めることになった。
私は寸止め出来なくても仕方がないということだが。出来るわ。
「……はじめ!」
カナエが手を打ち鳴らすと同時。水柱が動く。
──水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き
水柱が初手に繰り出したのは、水の呼吸最速の刺突技。これは一撃目で決めるつもりだ。
しかし無惨の攻撃を何度も夢に見る私にとって、その攻撃速度は余裕を持って目で捉えることができる。
勿論見えた所で捌けるかは別の話だが、私は透き通る世界を見ている。
筋肉の収縮によってどのように体を動かすか
日の呼吸 伍ノ型 陽華突
私の型が後に繰り出したかのように見えて、
弐ノ型 碧羅の天
息もつかせず次の型に入る。
日輪の輪をなぞるように円を描き、その波状の炎が水柱の木刀を捉える。
刀の横から打ち付けることで、そのまま木刀を叩き折った。
「なっ……」
空中で唖然とする水柱。しかし勝負は寸止めまで。まだ終わっていない。
足場のない空中に飛ばされたが最後。私は一太刀振り下ろす。
しかし水柱は咄嗟に鍔の部分だけで刀身を受け止めた。いや、受け止めさせられた。
水柱はまだ動くと見えていた私は次の手を用意してある。逆側の足で水柱の腹を蹴り飛ばし、今度こそ一本を狙う。
「舐めるな!」
蹴りはまともに入ったが、その程度で怯む柱ではない。水柱は蹴りを加えた私を見据えて……
「終わりです。」
「何!?」
水柱は対面にいたはずの私が背後で木刀を突きつけていることに驚愕していた。
一本を決めるのなら、間合いを広げるような蹴り技は愚行。
確実に狙った、その蹴りですら囮に過ぎなかった。
拾壱ノ型 幻日虹
残像を残して攻撃を回避する、珍しく攻撃ではない型。
私はこれを使用した後、水柱の背後に走り木刀を向けた。
「そこまで!」
カナエが飛び上がり、嬉しそうに宣言した。私は突きつけていた木刀を下ろす。
「狙ったのか?」
「木刀も蹴りも受け止められるとわかっていたので。」
「木刀を打ち砕いたのもか?」
「折れた刀では、一本を取るのは難しいでしょう。」
「……見事だ。鍛えられた体。多様な型。一手先を読む力。確かに、俺はお前を偏見で見ていた。」
「それも当然の事です。10にも満たない女が自分より強いと言われたら誰もが戯言だと思うでしょう。」
「お前は10にも満たないのか。」
水柱は木刀を向けられた時よりもそっちに驚いていた。幾つだと思われていたのか気になるが。
しかし私は、油断の上の不意打ちで勝ったところを見て、水柱の実力を測りきったは思っていない。
とは言え、もう一度やって負けるとも思わないが。