全ての厄災は倒された。
炎の厄災。
獣の厄災。
呪いの厄災。
ーーーそして、奈落の虫。
世界を滅ぼす終末装置に至るまで、カルデアは異聞ブリテン島にて繋いだ縁を用い、打倒した。
「おっと、私も余韻に浸っている暇はありませんね」
奈落の虫を倒して直ぐ、協力者であるアルトリア・アヴァロンの体を光が包んだ。
召喚してから余りにも早い退去だが、それは無理もなく。
彼女は藤丸立香の声に応じ、アヴァロンから直接やってきたのだ。
英霊として繋いだパスは、本当に一時的なものに過ぎないのである。
「ありがとう、アルトリア」
目が熱くなる程、望んだ再会。
またね、と別れロンゴミニアドの光と共に消えていった一人の少女。
語りたいことはいくつもある。しかし、サヨナラは既に、呪いを打倒する際に済ませてある。
今はただ、彼女に感謝を伝えるだけで十分だった。
「こちらこそ。貴方の声が、聞こえたので。お役に立てたなら幸いです」
立香の言葉に、アルトリアも同じく感謝で返した。
時間はあっという間。
ストームボーダーから、退去の命令が下る。
「お急ぎを。奈落の虫の崩落に巻き込まれてはいけません」
「は、はい!先輩、行きましょう!」
「そうだね」
消え行く友人を尻目に、自身のサーヴァントであるマシュについていくようにその場を後にする。
「さよなら、アルトリア」
「はい、さよなら」
二人にとって5度目の握手はーーー、
******************
彼の目を見ると、彼の声を聞くと、彼に触れると。
胸が熱くなるのは、どうしてだろうか。
それは、妖精だった頃の幼い私と変わらない感情だった。
(・・・バカだな、私)
どうして、だなんて嘘。
理由はちゃんとわかってる。
これは友情によるものではない。彼と過ごす中で築かれた、友愛ではない。
(恋愛、なのでしょうね)
『一番楽しかったのは?』
そう聞かれて、私が真っ先に思い浮かんだのは彼と大通りを歩いた時のこと。
好きなヒトと、笑いあって、冗談を言い合って、笑いあって、沢山話して、笑いあって。
(ーーーああ)
差し出した右手に、彼の右手が握られる。
温かい。
柔らかくて、けれど芯はしっかりしている、男の子の手だ。
この手で幾度となく、世界の危機を救ってきたのだ。
私との出会いは、その数あるうちの一つに過ぎない。
「アルトリア?」
貴方は優しいから。貴方はいつも、私達の背中を押してくれるから。
そんな彼を知って、好意を持った者はきっといたはずだ。
ノクナレアも、その内の一人だったのだろう。
そして、私も例に漏れず・・・。
「ーーー」
抜け駆け、かな。
でもいいよね。
ここまで頑張ったのだし、少しぐらいご褒美があってもいいと思う。
それが、彼にとって呪いではなく、刹那に思い出す温かさであればいい。
「立香」
名前を呼んだ彼を、ちょっと強引に引き寄せる。
握られていた手と手の指を絡めて、数十センチあった彼との距離が0になる。
自分より背の高い男の子と、密着した状態になる。
目は瞑らないよ。
逃げない。ここまで来たら、最後まで。
私は覚悟を決めた。
「ーーーんっ」
「・・・っ!」
意を決して頬ではなく、立香の唇に、自分の唇を重ねた。
驚いたように目をギョッとさせている。
前触れもないいきなりのものではあったが、彼は私の、その・・・キスを受け入れてくれた。
空いていた左腕が、ぎこちなく私の背中に回される。
私も彼に倣って、片腕で抱擁をする。
永遠にも、瞬きにも思える時間。
できればずっとこうしていたいけど、私は楽園に帰り、彼はまた世界を救う戦いを続けなければならない。
「ーーーは」
名残惜しくも、互いに唇を離す。
腕を下ろし、絡めていた指も解き、間隔を置く。
また、先ほどと同じ距離だ。
だが、見えない距離は確かに縮まった。今この時だけ、ではあるが。
「・・・」
改めて見る立香の顔はとても穏やかで、少し照れくさいのか頬を赤く染めている。
それを痛快に、してやったりと、溢れ出る喜びを抑えながら、
「貴方を愛しています」
私は、言った。
「好きです。大好きですっ」
風が髪留めを攫い、長い金の髪が揺れる。
想いを告げると、なぜか涙が込み上げてきた。
堪えるために目を瞑って、必死に笑っていたから最後の立香の表情はわからない。
ーーーけれど、もし彼もまた笑ってくれていたなら。
(私は、いいな)
それが、なんでもなかった私の終わり。アルトリア・キャスターの、本当の終焉。
「恐れなく進まれますよう。貴方達の道行には、星見の灯火があるのですから」
二人にとっての五度目の握手は、少女の恋の終わりであった。
はずなのだが。
「えっ」
「え“っ」
再会は突然に。
少女はカルデアのサーヴァントとして招かれた。
『好きなヒトと大通りを歩いたこと』
彼女のこの一言から、本短編を描こうと思いました。
もうおまえら結婚しろよ・・・。
いや、でもオタク特有の掛かりダメ絶対。
2部6章、楽しかったですね皆さん。
自分はアルトリアのロンゴミニアドのシーンから、涙がずっと止まらなかったです。
まさかのラスボスの登場で有頂天になった後、徒歩で来た彼女に更にテンションが上がりました。
FGOは、良いですね、うん。