キャストリアのフィギュア予約しました。来年が楽しみ・・・。
最後の更新ですが、人によってはそういう設定だったっけ?その人FGO時空だとそういう立場だったっけ?といった箇所があるかもしれません。
その辺はご了承ください。肩月世界難しいんです。許してください。何でも(以下略
全ての異聞、神の打倒を果たしたノウム・カルデア。
「ーーーさよならだね」
カルデアスの前で、人類最後のマスターとそのサーヴァントはお互いに、最後の抱擁に身を委ねていた。
トク、トクと、落ち着いた鼓動がブレることのないテンポで密着した胸を通して交換される。
カルデアは、二人が共にいることを良しとしなかった。
無論、二人の関係は十分承知していた。所長や他スタッフも、できる限りのサポートを尽くした。
だが、魔術協会からの圧力には逆らえず。
在住したサーヴァント全ての退去が命じられ、あとは少女を残すのみとなった。
「・・・」
離したくない。
この華奢な身体を、柔らかい声音を、愛を誓い合った相手を。
今まで以上に、彼は少女を抱きしめる力を強める。その行為が、無意味だとわかっていても。
背中を包み、少女の首元に顔を埋め、涙を流さずにはいられなかった。
「いいえ」
さよなら、そう言った彼の言葉を彼女は否定して、主人でもあり恋人でもある少年の身体を、彼と同じく抱き締める。
少女の目にも涙が溜められており、言葉にえづきが含まれていたが、それは悲しみからではない。
一時の、寂しさを見かねてのものだ。
「貴方が言ったのですよ、立香。私に宣言して、約束したのは他でもない貴方です」
「・・・うん」
英霊と化した自分の肉体に打ちひしがれる彼女を救った、少年の言葉。
それを、覚えている。
あの、プロポーズ同然の告白じみた約束を、覚えている。
「この別れは永遠ではありません。次に私と貴方が会うための、布石のようなものです。共に添い遂げるために、必要なことなのです」
それをわからない貴方ではないでしょう?
少年は頷く。頷くが、それでも悲壮感というのはすぐに無くなるものではない。
目の前の少女にも、言えたことであった。
強がってみても、元が寂しがりなのだ。堪えきれず、翡翠色の瞳から涙が滴る。
「約束。どんな手を使ってでも」
「犯罪に手を出すのは『めっ』ですよ」
「どれだけ時間をかけても」
「他の女の人に目移りしないでくださいね」
「必ず、キミと・・・」
「・・・はい」
最後の、否。
しばしの別れを乗り切るための、口付けを。
熱く、永く、緩く、様々な互いが向け合う感情を確かめるように。
火照っていく身体からは震えが消え、代わりに再会のための活力である熱が帯びていく。
「「ーーー」」
満たせ。満たせ。満たせ。満たせ。満たせ。
閉じるのではなく、この感情が満ちる刻を、時間を受け入れよ。
キミのためならば。
貴方のためならば。
己は何者にもなれるし、何事にも動じないし、なんだってできる。
「・・・ん」
息をするのも忘れて、永遠に続くかと思えた二人だけの時を過ごし、頃合いを感じ取ってソッと離れる。
「思えば、これ以上をしたことは無かったですね」
握手をした。
ハグもした。
キスもした。
一緒のベッドで、一緒に眠った。
けれど、少女の言う通り一線を超える日はカルデアではついぞ訪れなかった。
今すぐに溺れてしまいたい欲求は確かにあったが、少年は元々奥手で、少女はその行為に対する僅かながらの恐怖を持っていた。
無理矢理どちらかが強行すれば、関係は崩壊していたかもしれない。そう思えば、今までのやり取りは最善の一言である。
「続きは、再開の日に」
「ええ。いつまでも待っています」
彼女の身体を、退去の光が包む。
しばしの別れだ。
そう、さよならではなく。
「またね、アルトリア」
「はい、立香」
再会を誓って、二人は別々の、けれどゴールは重なり合った長い道のりを、歩き始めた。
******************
人理を救った魔術師として、藤丸立香は時計塔での在籍権を獲得。
持ち前のコミュ力やゴルドルフとのツテ、擬似サーヴァントとして召喚されていたとある魔術師達の力も借りながら、日夜アヴァロンへ至るため、もう一度アルトリアと出会うために奔走している。
根源を目指さない異端児、そうして蔑んだ目を向けられることはしばしばあった。
たが、周囲の目よりも彼は自分の目標を優先する。
そうして1年が経ったある日のこと。
「はっ・・・はっ・・・!」
彼は、命の危機にさらされていた。
左腕には短刀のようなもので斬り付けられた傷があり、ドクドクと血が流れ落ちている。
その痛みに耐えながら、立香は一心不乱にロンドンの街を走り続けている。
姿形の見えない追っ手から、逃れるために。
「はっ・・・くそっ!」
自分を快く思っていない勢力がいることは重々承知していた。
けれど、些細な嫌がらせや陰口を叩くのみで明確な介入をしてくる者は一人としていなかった。
その油断を見計らってなのか、現在彼は正体不明の何者かに追われている。
時間帯は深夜。立香以外の人影は見当たらず、助けを求めることはできない。
力を貸してもらっている現代魔術科の講師や家の立て直しに成功した当主に連絡を入れようにも、唯一の望みである携帯は左腕を怪我した時と同時に破壊された。
次第に、彼はもっと人気の無い路地裏へと誘導されるかのように、徐々に追い詰められていく。
そして、辿り着いたのは超えることのできない壁に囲まれた行き止まりであった。
「ここまでだな、藤丸立香」
逃げる手段のない現状に絶望していると、通ってきた道から二つの影が現れる。
暗くて顔は確認できないが、一人は普段から立香に対して毎日のように毒を吐き続ける時計塔の魔術師であった。
そして、片方は・・・。
「ーーーなんで」
彼は魔術的な素養などを一切持たない。
魔術回路も、行使するための魔力も無く、知識だけは人理修復の旅から今日に至るまで身につけてきたがそれだけだ。
魔術師の隣にいる人影は、本来一般人には見えない者だ。
しかし、カルデアで過ごし、いつも肌で感じていた英傑達の存在感を、彼は忘れるはずがなかった。
今相対しているのは、己の左腕を斬り裂いたのは、サーヴァントであると。
「呆けた面だ。とても人理を救った魔術師とは思えない」
放心するのも仕方がなかった。
英霊がこの場にいるということは、この地で聖杯戦争が催されているのを意味する。
冬木と呼ばれる日本の地で行われたシステムを模倣し、似たような儀式を、あろうことか魔術の総本山であるロンドンで行うとは。
「・・・根源に至るには、悪手なんじゃないかな。この聖杯戦争は」
上着を脱ぎ、止血のために左腕に巻きながら彼は魔術師に尋ねる。
「正規の儀式にあたらないなら、願望を叶えるための聖杯の効力は確実に落ちる。根源を知るには、魔力が足りないんじゃないの?」
「知ったような口を聞くじゃないか。まぁそれは概ね正しい。私としても、正当な聖杯戦争に参加するにあたっては貴様の言う通り根源を目指して戦う」
「なら何のために戦うのかな?人為的に無理矢理引き起こしたこの戦いだ。参加者でなにか企んでるんじゃないのか?」
魔力リソースの回収のために魔術師同士で合作し、呼び出した英霊を即自害させるといった事例が過去の資料に載っていた。
今回はそれではないだろう。なぜならこの場で、召喚されたサーヴァントと立香は向き合っているのだから。
「凡人のくせに頭はキレるようだ。流石に数多の事象を攻略していない・・・いいだろう、教えてやる。此度の聖杯戦争は、藤丸立香。貴様を殺すために催された代物だ」
「・・・っ」
自分を殺すために、態々サーヴァントを呼び出した。
目の前の魔術師は、確かにそう言った。
「エルメロイとユグドミレニアの後ろ盾は些か面倒でね。正面から貴様を消そうにも邪魔で仕方がない。であれば、セオリーから外れた手段に手を出すというものだよ。それに、貴様は目障りだ。根源ではなく、楽園に至るために日々を消化する様がとても虫唾が走る」
号令のように魔術師の片腕が挙げられ、サーヴァントがそれに応じて短刀を投擲する。
立香は反応が遅れ、回避の動作を取ったが躱しきれずに太腿に深々と短刀が突き刺さった。
「ぐぅ・・・っ!」
「これらの総意を持った人間のみが集められ、開催されたのが此度の聖杯戦争だ。一斉にかかれば済む話だが貴様程度、私とアサシンで十分方がつく。むしろ私直々に出向いたことに感謝して欲しいくらいだ」
痛みに呻きながら、立香は魔術師を睨みつける。
「下手なことは考えない方がいい。この場を逃げ切る、もしくは億に一つの可能性で我々二人を打倒しようにも、まだ五人もの英霊が控えているのだからな」
貴様に勝ち目はない。
堂々と宣告された彼の脳裏に浮かぶのは打開策では無く、少女と二度と出会えなくなることへの後悔だった。
(ここで、終わるのか。オレは・・・)
まだ目的を、約束を果たしていない。
それなのに、自分は死ぬのか。
「終わらせてやれ、アサシン」
「御意」
瞬時に目前に出現した英霊の蹴りが、立香の腹を捉える。
そのままの勢いで後方の壁に激突し、口からは肺に溜められていた空気と、衝撃で口内を切ったのか血が漏れ出る。
「ガハッ・・・」
痛みに悶えている暇はない。ないのに、想像を超える激痛が思考を鈍らせる。
腕と足から流れる血が、頭の回転を遅くする。
(まだ何もできていない。掴めていない。それなのに、オレは死ぬのか・・・?)
この一年、知識はカルデアにいた頃とは見違えるほどに身についた。
だがそれだけで、少女が待つアヴァロンに行く手立ては一向に見つからない。
寧ろ、己の無力を噛み締める日々だった。
現エルメロイの当主である師匠にも、普段の愉悦混じりの笑みは捨て去って至極まともな表情と声で、もういいんじゃないかと、そう言われた。
元々が一般人だったのだ。やれることは限られる。どう努力しようにも届かない程に遠いところにあるのが自分が掲げる理想だと、理解している。
しかし、できるできないかではない。
『いつまでも待っています』
約束したのだ。
一年前のあの日、愛と共に誓い合ったのだ。
諦める訳にはいかない。夢を、そしてこの絶体絶命の状況をどう切り抜けるのかを。
「ーーーあ」
命の危機が迫る中で、立香はある推測を導き出す。
もしも、こちらからの道が本当に頓挫されているのなら。
逆に、何かのきっかけで向こう側からこちら側へ至るための道を作れるとしたなら。
魔術師との会話の中に含まれていたワードを思い出す。
『我々二人を打倒しようにも、まだ五人もの英霊が控えているのだからな』
条件が、揃っていく。
あとは、自分の縁を信じるのみ。
年月が経過しても尚残る胸の温かみに、全てを託すのみ。
「ははは」
乾いた彼の笑いが、路地裏に響く。
「生命の危機に瀕して、気でもおかしくなったか」
「・・・いや、なんだろう。やってみる価値はあるかなって」
「・・・?」
見上げれば、ロンドンの街の灯りで薄まった黒い夜空の中に、どんな光にも負けずに輝く一等星があった。
過去の場面と重なる。奈落の虫と相対し、勝機を悟ったあの場面を。
それをなぞるように、
「ーーーッ!」
彼は、命を奪わんとするアサシンのサーヴァントへ殴りかかった。
だが、身体能力や反射速度は並の人間の比ではない。容易に、拳の握られた立香の右腕はアサシンに掴まれてしまった。
「往生際が悪いな。貴様に勝ち目はないことなど、見てわからないか?」
「ーーー勝ち目なら、ある」
なぞるように。
去勢でもなく、ハッタリでもなく、彼は事実だけを口にする。
「どこにあるというんだ」
「もうすぐ、来る」
儀式の中心にいるのは、対象とされた藤丸立香。
別れの際に刻まれた、彼女との縁。
現在に至るまで召喚されたサーヴァントの数は、6騎。
彼女がここに来るための土台は、完成した。
「助けは来ないーーー」
魔術師の言葉を遮るかのように、立香は自身の右手をアサシンの力に抗って見せつける。
血の色で刻まれた、それは正しく。
令呪の輝きに、他ならない。
初めて、魔術師に焦りの表情が浮かんだ。
頭上の星が、一層の輝きを迸らせる。
「・・・っ!殺せ、アサシン!」
「こい、キャスター!!!!」
夜のロンドンの闇を、切り裂く光。
それが彼とアサシンの間に、割って入る。
「く・・・っ!」
突如舞い降りた極光を前に、魔術師の指示とアサシンの思考が遅れ、わずかな隙が生じる。
振り抜かれた黄金に輝く巨大な聖剣・・・マルミアドワーズが、立香を掴むアサシンの腕を両断した。
「がぁ・・・!?」
「ーーー」
光は攻撃の手を緩めず、背後に漂う聖剣カルンウェナンを腕と足の関節目掛けて放ち、壁に縫い付ける。
「なん、だ・・・?」
一瞬のうちに行動不能に追い込まれた自身のサーヴァントを見て、魔術師は空いた口が塞がらないようだった。
「マーリンは、笑い転げていましたよ」
光が落ち着き、顕現した人物の姿が露わになる。
腰元にまで伸びる長い金髪を二つ縛りにした、少女。
姫騎士を思わせる甲冑、可憐さを兼ね備えた振袖と太ももがチラリと覗くスカートに、黒いヒールブーツ。
右手にはアサシンの腕を斬り落とした得物である身の丈程の巨剣。
頭の王冠の輝きは黄昏色に、暗がりを明るく照らしている。
「どんな、風に?」
1年ぶりに聞く少女の声に感極まって言葉を詰まらせながらも、彼は聞いた。
「女の子の方を来させるなんて、ですって」
「それについては本当に弁明のしようがない」
「あと、これは私からなのですが、待たせ過ぎです」
「ごめんて」
金髪を揺らして、尻餅をついている彼の方へと振り返る少女。
声音には拗ねたような刺々しさが垣間見えたが、彼女は穏やかな慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
それに応えるように、立香もまた笑った。
「あの時と同じで、また徒歩で来たの?」
「ちーがーいーまーすー。時間と空間を超越してズバッと来たんですー」
ムッと頬を膨らませ、容姿に似合わず子供のように反論するギャップに、思わず綻んでしまう。
変わっていない。何一つ。
少女・・・アルトリア・アヴァロンの在り方は、どこまでも藤丸立香にとって希望に満ち溢れていた。
「立てますか?」
「ああ。ありがとう」
差し出された手を、迷わず掴んで立ち上がる。
「さて、私がここに来た以上、目指すべきは勝利ですね」
「うん。本来の聖杯に劣ってはいても、多分受肉するだけなら叶えられるはずだよ」
「そうですか。では・・・」
切先を、未だに呆気に取られている魔術師と動きを封じられているアサシンへ向け、
「全力で、殲滅といきましょう。立香」
「ほどほどにね、アルトリア」
その日、当事者達以外には知られずにひっそりと行われた聖杯戦争は、藤丸立香の召喚したキャスターによって終戦を迎えた。
以降、彼の隣にはそのキャスターだった少女が1人の人間として、共に生を謳歌しているのだとか。
早駆けになりましたが、これにて完結です。
ぐだ✖︎キャス書きたい!という衝動に駆られて連載を放り出して書き上げた本作ですが、楽しんでいただけたのなら何よりです。
他の作品とクロスオーバーしても、結構な旨味になりそうなのでいつかやりたいですね。幸せな躍動トリオが見たいんじゃ・・・。
亜種聖杯戦争後、二人はロンドンを拠点にさまざまな国を旅してまわっています。途中、立香の両親に挨拶しに行ったりもしてます。アルトリアは会う度に、我が子の様に溺愛されているとか。
ブリテンに行って、オベロンに会ってたら面白いですね。一線を越えたので、そのことを揶揄われてぷんすかのキャストリアとか可愛くないですか?
最後に、この作品を見てくれた全ての人へ。
皆さんの存在が、私のモチベの支えになっていました。
近いうちにイナイレか、若しくは他の新作でお会いしましょう。
本当に、ありがとうございました!!!!