友愛、ではなく。《了》   作:\コメット/

3 / 12
間違いなんかじゃない。

 

紅の極光が、辺り一面を赤く染める。

マスターがサーヴァントに対して行う絶対権限、令呪の輝きだ。

一時的な能力の底上げ等の効果をもたらすそれは、今回攻撃目的では使われなかった。

 

「よっと」

 

「ひゃ・・・っ」

 

令呪による空間転移。

私はいつの間にか、立香に背中と膝裏を抱えられた状態・・・即ち、お姫様抱っこの要領で抱かれていた。

 

「間に合った!」

 

快活な笑顔を向けてくる彼。

私の無事を確認すると、ホッと息をついて肩の力を抜く。

 

「よかった、本当に・・・」

 

「ガアアアアッッ!!!」

 

言葉を続けようとするが、咆哮によって遮られる。

獲物を取り上げられて、ファフニールは大層御立腹。

その巨躯に似合わぬ速さで、私達に突進してきた。

 

「・・・っ、立香!」

 

「大丈夫」

 

何が!?

と聞く暇もなく、ファフニールは先ほどと同じように大きく爪を振り上げ、立香と私の脳天目掛けて振り下ろしてくる。

人間の立香の即死は、免れない。

だがなぜか、彼の目は屈していない。むしろ、この状況を覆す策を持っているかのような面持ちだ。

そして、

 

 

 

「おまえそれ、マジでやってんの?」

 

 

 

私達と竜の間に、割って入る者がいた。

その人物は禍々しい漆黒の左腕で、正面から竜の攻撃を受け止める。

とてつもない重量を真っ向から迎え撃ったはずなのに、あり得ないくらいケロリとしていた。

 

「だとしたらホント、反吐が出る」

 

黒い鱗粉を撒き散らし、王の威厳を感じる声で悪態を吐く、彼は・・・、

 

「オベ、ロン・・・?」

 

「ん?ああ、いたのアルトリア」

 

奈落の虫、オベロン・ヴォーティガーン。

妖精王の名も冠する、プリテンダーのサーヴァント。

敵として戦った彼がなぜカルデアに、そう疑問に思ったが、簡単なことだった。

彼もまた、立香に召喚された一人なのだろう。

 

「ったく、俺と殺り合ってからまだ数日だろ?それなのに防御任せられるとか、おまえやっぱり頭おかしいよ」

 

「いや、ダヴィンチちゃんが二人寄越してくれたのは知ってたけど、まさかオベロンとはオレも思ってなくて・・・」

 

「・・・チッ」

 

苦笑いする立香に舌打ちをしながら、受け止めていた竜の腕を吹き飛ばす。

ファフニールは三、四歩後退し、再び現れた邪魔者に対して敵意を剥き出しにした。

 

「一気に勝負をつけたい。いいかな」

 

「別にどうでも?アンタは俺のマスターなんだから、自由に命令すればいい」

 

「そっか。ーーーじゃあ」

 

右手の甲に刻まれた令呪が、二度目の輝きを帯びる。

 

「やってくれ、オベロン」

 

「いいとも」

 

二画目の紋様が消失し、目に見えてオベロンの戦闘力が跳ね上がる。

 

「本物の竜はどっちかな・・・と、いきたいところだけど。これで勘弁してやるよ」

 

彼を中心に勢いよく噴き出す泥のような鱗粉が、とある武器へと形作られる。

身の丈ほどある、漆黒の大鎌。

 

「そーらッ!」

 

四つん這いによって身体を支えているファフニールの、太い前脚と後脚。

計四箇所に、目にも止まらぬ速度で大鎌が振われる。

サーヴァントとなった私からしても、捉え切れない速さ。

これが、マスターの、立香の令呪によるステータス向上効果なのか。

 

「ガウッッ・・・グルアアアアッッ!!」

 

「ほいっと」

 

黙って猛攻を喰らっている程、大人しい存在ではない。

ファフニールは長い尻尾を乱暴に振り回し、状態を翻してからブレスを発射。

対するオベロンは、丸まった巨大ダンゴムシをサッカーボールのように竜の顔面目掛けて蹴りつけた。

炎をものともせず、火炎放射を押し切る形でダンゴムシが直撃する。

 

「宝具、解放」

 

痛みで悶え苦しんでいる敵を見て、オベロンは自身の持つ最強・・・宝具発動の構えを取った。

十分な隙、大技の準備には持ってこいだ。

 

「夜のとばり、朝のひばり、誰だって夢くらいは見る・・・それがどんなものでも、な」

 

四対の翅が広げられ、今の彼には似合わない金色に輝く鱗粉が陽射しのように竜へ向けて放射される。

 

彼方にかざす夢の噺(ライ・ライム・グッドフェロー)

 

現実から肉体と精神を切り離し、夢の世界へと誘う、妖精王の宝具。

ダメージを受けて苦しむのは一瞬、呻き声を上げたと思えば、即座に眠りについてしまった。

 

「さぁ、見せ場は譲ってやるよ」

 

オベロンの宝具の弱点は、仕留めきれなかった際に相手を無敵にしてしまうこと。

よって、眠っている相手に対してオベロンは干渉できない。

 

「ああ。遠慮なくハイエナさせてもらおうか」

 

相方として、その無敵を付与された防御を貫通する者がいれば、話は別だが。

 

「投影、開始」

 

揺れる赤銅色の髪。

ブリテンの地にて、戦闘時にいつも発していた一言一句違いない詠唱。

自慢の刀と、業の目を効かせて、彼は私の前をスッと通過していった。

 

「・・・ぁ」

 

見間違えるはずが無い。だって、あの横顔は・・・、

 

「村正・・・!」

 

聖剣の騎士を形作った、最高の鍛治師。

私の身代わりになって消えていった英霊。

千子村正に、他ならなかった。

 

「おいマスター!全力出せるな!?」

 

「うん、問題ないよ!」

 

「なら良いーーー真髄解明」

 

三度。

令呪の煌めきが、迸る。

村正を中心に、彼の心象風景が具現化されていった。

草原は炎揺らめく焼け野原へ、無数の剣が突き刺さった荒野へと変貌を遂げる。

 

「固有結界・・・」

 

大魔術、魔術師にとっては秘奥義とされる技。

 

「我が人生の全ては、この一振りに至るため」

 

墓標のように刺さる刀達が、儚い音を立てて砕け散る。

その破片が、村正の右手へと収束していき・・・ただ一本の、鍔のない赤い刀身の刀が生まれた。

 

「刮目しやがれーーーこれが(オレ)の」

 

斬ッ!!!

 

ファフニールは、斬られたことに気づかない。いや、気づけない。

それはオベロンの宝具により齎された催眠効果によるものではなく、村正の技の冴えが起こしたもの。

音速にも思えたオベロンの大鎌による猛攻を超える、神速の一振り。

振われた刀の銘、それは・・・、

 

「都牟刈、村正だああああッッ!!!」

 

爆炎、爆発、火柱、それを巻き起こすただ一つの斬撃。

都牟刈・・・又の名を神器・天叢雲剣。

村正の生涯の研鑽、下総国での宿業からの解放により到達した究極の一振り。

縁を切り、定めを切り、業を切る刀。

いかに邪竜といえど、その一撃に耐えることはできず。

竜の身体、そして誤作動を起こしていたシュミレーションの機械諸共、セイバー千子村正は両断して見せたのだった。

 

 

 

******************

 

 

 

「それじゃあ俺たちはこれで。なぁ村正、さっきの話忘れてないだろう?」

 

「わぁってるよ、仕事なら請け負ってやる。テメェに合った刀、作ってやらァ。後は若いの二人で精々楽しめよ」

 

そう言い残して、二人は去っていった。

ニヤニヤと冷やかすような鍛治師の物言いに、『そういうところだぞ村正ァ!』と声を荒げたくなったが、生憎とそんな元気は湧かなかった。

破損したシュミレーションルームの中に、私と立香の二人が残される。

 

「降ろすね」

 

「あ、うん・・・」

 

そういえば抱えられていたなと、ブリテンで別れた時くらい密着していたことに今更ながら気付き、顔が熱くなる。

 

「はぁ・・・疲れたぁ」

 

私をソッと下ろしてすぐ、立香は背中から地面に倒れ込んだ。

邪竜の圧を間近で受け続け、3連続の令呪使用、更に私を抱えていたのだから当然か。

・・・重くなかったかな。

 

「所長に怒られるね。貴重な令呪をポンポン使うでないっ!とか言いそう」

 

「あ、はは・・・」

 

披露した体に鞭打って、未だに沈んだ気持ちの私を励まそうとしてくれている。

それが嬉しい筈なのに、素直に喜ぶことができない。

だって、今彼の話を聞いているこの身体は、彼が知っているアルトリアとは別の物で、今こうして話を聞いていることすら烏滸がましい行為なのだ。

 

「私、行くね」

 

いなくならないと、彼の前から。

 

「待ってよ」

 

部屋から出ようとする私の手が、掴まれる。

 

「まだ話したいこと、沢山あるんだ」

 

私には無い。話したくない。

 

「だから避けないでくれ」

 

うるさい。これが立香のためなんだ。放っといて。

 

「もしかして、オレのこと嫌い?」

 

そんなことない。好きだよ、大好きだよ。

だけど、今の私に恋する資格なんてない。

だからその手を離して。今の私に温もりを伝えないで。

 

「何か言ってくれよ、アルトリア」

 

「・・・私は、立香の知ってる『私』じゃない」

 

「え、あぁ・・・もしかして、ブリテンでオレ達といた記憶がないとか?」

 

「そうじゃない」

 

覚えている。

彼と過ごした50日。それは私が経験した冬の16年を埋め合わせてくれる程に大切な想い出だ。

その想い出を持っている今の私は、当時彼と共に戦ったアルトリアじゃない。

英霊、サーヴァント、コピー、複製、偽物、紛い者。

本物のアルトリアとは遠い存在、それが今の私だ。

 

「気持ち悪いよね。立香もそう思うでしょ?」

 

「思わないよ」

 

言うと思った。

本心からの言葉なんだろう。

現に、嘘を見破る妖精眼が検知しない。

ーーーこうなることを期待していた。なんて卑怯な女だろう。

慰めなんて、今の私に必要ないことなのに。

 

「思う訳がない」

 

「それは、今まで色々な英霊と接してきたから?」

 

「そうじゃない。・・・いや、少しはあるのかな」

 

断言できないのは、実に素直な彼らしい。

 

「立香が思ってなくても、私自身が嫌なの。だから離して」

 

「嫌だ、離さない」

 

「〜〜〜ッ!私の気も、知らないで・・・!」

 

「それはアルトリアの方だろう!?」

 

突然声を荒げた彼に、肩がビクリと震える。

 

「え・・・?」

 

「ブリテンで別れてから、頭の中はずっとキミのことでいっぱいだった!ブリーフィングも他のサーヴァントとの会話も上の空になるくらい、キミを想っていたんだ!」

 

指と指を絡め、互いに口づけをした情景が脳裏を過ぎった。

あの時出した勇気は無駄じゃなかった。

妖精眼がそれを証明している。

だけど、彼にとっての温かさであれと願ったものは、私にとっての呪いとなった。

 

「そ、そうだとしても私が嫌なのは変わらない!こんな、ゾンビみたいな身体になって・・・貴方を好きでいることなんて、できないっ」

 

ーーー嘘だった。

好きでいてはいけないとは思っている。

この身は英霊、妖精だった頃の私とは違う。

けれど、彼への好意を、好きだという感情を抑えることは、できる筈がない。

 

「だから離して。私を放っておいて・・・これ以上、立香を好きでいさせないで・・・」

 

視界が滲む。頬を大粒の涙が伝う。

嗚咽が息を吸うのを邪魔して、胸が苦しくなる。

 

「・・・アルトリア、聞いて欲しいことがある」

 

「やだ・・・ききたくない」

 

「一度しか言わないから。頼むよ」

 

「・・・やだぁ」

 

いつの間にか立香は立ち上がっていて、私の正面に立っている。

子供のように泣きじゃくり、涙を拭うことで濡れてしまった両手が、彼の両手に包まれる。

 

「こんなところでムードもへったくれもないけどさ、直ぐに言わないとキミは逃げるだろう?だから、今、言うよ」

 

「・・・」

 

 

 

 

 

「キミが好きだ」

 

 

 

 

 

「・・・ぇ?」

 

その場凌ぎの、慰めじゃない。

純粋で、まっすぐで、混じり気のない・・・清々しいくらいの好意が、妖精眼を通して私に伝わる。

 

「笑顔が素敵で、照れると人一倍赤くなって、誰よりも努力家で、褒められるのに慣れてなくて・・・全部ひっくるめて、キミが好きだよ」

 

「あ、う・・・あぅ」

 

「キミがどんなに今の自分を嫌ったって、オレの気持ちは変わらない。全部を許容する、全部を愛してみせる。それじゃダメ?」

 

戸惑う私へ畳み掛けるように、甘い言葉が心の苦しみを心地良いものに変えていく。

氷のように冷え切っていた体が、溶解していく。

 

「・・・ダメ」

 

「どうして?」

 

「だって、私は偽物なんだよ?アルトリア・キャスターでも、アヴァロンでもないんだよ?」

 

「オレはそうは思わない。アルトリアはアルトリアだ。コピーだなんだって言うけど、キミの代わりはこの世のどこにも存在しない。正真正銘、一人の女の子だよ」

 

サーヴァントになっても、それはブリテンの頃から変わらない。

そう続ける彼には、先ほどから嘘の兆しは全く見えなくて。

本当に私達は両想いなのだと、自覚した。

 

「・・・いいの、かな」

 

「言ったろう?全て受け止めるって」

 

「私、すっごい面倒くさいよ?さっきも立香に、迷惑かけて・・・」

 

「知ってる」

 

「・・・むぅ」

 

「それも含めて、オレはキミが好きなんだ。アルトリア」

 

不機嫌で膨らました頬だったけど、立香の告白が緩ませる。

滴る涙を、優しいタッチで拭いてくれる。

 

「世界を救ったら、ずっと一緒に居よう。もしカルデアがそうさせてくれなくて、離れ離れになるとしても、必ず迎えに行く。アヴァロンにだって、どんな手を使ってでも行ってみせる」

 

「・・・立香ぁ」

 

「約束する。必ずキミを幸せにする。今の自分が嫌いなら、それを上回る好きをキミに伝え続ける」

 

「・・・ダメっ」

 

「えぇ・・・?」

 

これ以上オレ何も言えないよ?と困った顔をする立香。

 

「誠意を見せて、ください」

 

「なぜ今になって敬語に・・・ん?」

 

手を離して、私は両手をバッと広げた。

 

「・・・どうぞ」

 

「ーーーああ」

 

意味がわかったのか、頷くと彼は近づいてくる。

そして、ゆっくりと私の背中に腕が回された。

ハグ、された。抱き締められた。

ポンポンと、未だに落ち着かない私の呼吸を整えるために、努めてくれる。

それがたまらなく嬉しくて、服にシワができるのも構わず、私は彼の背中を服越しにギュと握った。

彼は私に応えるように、ハグする力を強めてくれる。

鼓動の交換、全身に、彼の温もりを焼き付ける。

 

「誠意、どう?感じた?」

 

「・・・まだまだ、足りないです」

 

また嘘をついた。

もう、許容量を軽く超えて、私は幸せな気持ちでいっぱいだ。

でも、足りないと言ってしまうのは・・・やっぱり、あの感触がまだ忘れられないからだと思う。

 

「じゃあ、もうこれしか無いよね」

 

少し距離を置いて、顔と顔を向かい合わせる。

 

「「ーーー」」

 

視線が交わるのがトリガーになって、徐々に、再び距離が縮まる。

前回は私からしたけど、今回は・・・それを、私が受け入れる形だ。

 

「ーーーん」

 

柔らかい彼の唇が、私の唇に触れる。

背中に回していた腕の力が、同時に強まる。

 

(・・・また、キス、しちゃった)

 

彼は想いを精一杯伝えるために、私はその注がれる愛情に溺れるために、長く、永く口づけを続ける。

ソッと、立香が離れる。

それを惜しむように、私の顔が不機嫌になったのを察した彼は、言った。

 

「これから、何度だってしよう。握手も、ハグも、キスも。数えられないくらい」

 

「・・・うん」

 

今の私は、複製だ。

それは、彼の言葉でも覆らない事実。

ーーーけれど、間違いではない。この想いは、決して、私が偽物であっても、間違いなんかじゃないんだ。

 

「好きです」

 

「うん、オレも」

 

「大好きです」

 

「同じだよ」

 

「ーーー貴方を、愛しています」

 

暗い部屋の中で二人。

時間が経つのも忘れるくらい、私たちはキスを繰り返した。

 

 

 




ナリタタイシン「ふわぁ・・・(FGOシナリオ良かったな・・・お陰で寝不足だけど)」
ビワハヤヒデ「おはよう、タイシン。眠そうだな」
タイシン「ああ、うん。おはようケルヌンノス」
ハヤヒデ「なんて?」

これにて完結です。
また何かしら思いついたら、短編の短編をあげていければ良いなと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。