ブリテンで彼と行動を共にしていた時、私の両手には選定の杖が握られていた。
「どうしたの?アルトリア」
カルデアに召喚されて、立香と想いを伝え合ったその日から。
私は必ずどちらか片方、右手が多いかな。
左手に杖を預け、右手をフリーにさせておく。
「ふふっ、なんでもないですっ」
明らかになにかあるだろう、と思えるくらい弾んだ声音の私を見ながらも、立香はそっか、と柔らかく微笑んでから自身の左手に握られている・・・私の右手を握る力を、少し強めた。
温もりの籠った感触が、なんとも心地良い。
「板についたよね、こうするのも」
「うん。これ好きです」
「オレも」
一緒にいる時、自然と私たちは手を繋ぐようになった。
それも、恋人繋ぎだ。
人の目も気にせず、スタッフやサーヴァントも通る廊下を、そうして歩いている。
今でこそ平然としていられるけど、最初は互いに緊張のし過ぎで、握ったはいいもののその場から動けなくなったりしていた。
そのことを村正に話したら、『接吻もした間柄でなにをそんなに気にする必要がある?』と言ってきたので、杖でポカポカ殴っておいた。
(デリカシーに欠けるんだもん)
物事には優先事項というものがある。
恋愛で言えば、告白から始まり、関係を深めるべく手を繋いで・・・諸々のことを済ませていくのが一般だ。
けれど、私と立香は告白後の過程をすっ飛ばしてキスから入ったものだから、恋人になってからは寧ろ、手を繋いで歩くことのハードルが高くなってしまったのである。
あれだけすんなりできた握手も、意識したら頭の中が真っ白になって、一度緊張がピークに達して倒れたこともある。
そんな感じの理由を村正に話したら鼻で笑われたので、また杖でポカポカやっといた。
「今日の夕飯は何にする?」
「和食が良いな。立香は?」
「オレも一緒の頼もうかな。あ、でも違うのを選んでシェアするのもいいね」
種火回収が終わったので、現在私たちは食堂へ向かっていた。
赤い外套のアーチャーさんやブーティカさんが作るご飯は、どれも美味しい。
中でも味噌汁や煮付けなどの和風料理が、個人的にとても気に入っていた。
立香の故郷が確か日本だったから、思わず意識してるのかな。
「アルトリアがさっぱりした和食なら、オレは結構ガッツリしたやつ食べよ」
「立香って好き嫌いあるの?」
「これといって思いつくのはないかな。この状況ってのもあるだろうけど、小さい頃からなんでも食べてた」
立香は、現代社会では模範的な学生として皆から見られていただろう。
真面目にトレーニングに取り組んでいるし、食べ方も行儀が良くて、何より私を含めたサーヴァント達と対等に接していることから、相当なコミュニケーション能力を有している。
きっと学校に通っていた彼の周りには、沢山の友人が彼を取り囲んでいたはず。
「好物って、あるのかな」
「オレも男子だから、カロリーの高い物とかは好きだよ。それがどうかした?」
「ううん、今度自分が食べる時の参考にしようかなって思っただけ」
『因みに私はチョコレートだよ』『じゃあバレンタインが楽しみだね』
初々しいカップルのような会話。
ような、ではなくもうカップルだけど、私はこんな風に彼と話すことを望んでいたのだ。
ーーーそして、
「そっか、カロリーの高いものね(ボソッ」
「何か言った?」
「なぁんでもない!早く行こ?」
私は密かに、とある計画を目論んでいたのである。
******************
「私に料理を教えて欲しい?」
皆が各々の部屋にて寝静まった、その日の夜。
私は食堂にて、明日の朝ごはんのための下拵えをしている赤い外套のアーチャーさん・・・エミヤさんに料理の教えを乞いていた。
「はいっ、今すぐにという訳ではありません。・・・あ、でもできれば早い方がいいか。エミヤさんの空いてる時間を、少しで良いので私に譲ってはもらえませんか?」
「別に構わんが・・・ふむ」
何やら懸念する点があるのか、私をジッと見ながら顎に手を当て、考え込む仕草を取るエミヤさん。
「あの?」
「ーーーいや、こちらの話でね。いいだろう。君の頼み、了承しよう」
「ホントですか?やったぁ!」
私が企む計画、それは立香に手料理を振る舞うことだ。
ブリテンにて、ノクナレアとの勝負の一環で、マシュさんと協力してチョコレートを作ったことがあった。
結果は勝つには勝ったけど、私のミスで生まれてくるべきでは無かった物体がこの世に誕生してしまい、現場を一時騒然、大惨事へと発展させてしまったのだ。
しかも、あれはチョコの出来を審査するのであって、肝心の味に関してはついでだった。
ノクナレアはその辺も気にして作ってそうだったけど。
話が逸れた。
とにかく、私がしたいのはそれのリベンジ。
折角恋人関係になったのだ。
ちゃんとした料理を一人で作って、彼に食べてもらいたい。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ。では、早速始めようか」
「いいんですか?」
「教えながら明日の仕込みをするなど、今の私には雑作もないさ。作るのに適した格好に着替えてくると良い。君のそれでは、もし調味料が飛び散ってシミでもできたら大変だろう」
私の今の服装は、村正が作ってくれた特注の白い礼服。
たしかにこの服が台無しになっては、さしもの村正にも申し訳がない。
個人的にすごく気に入っているし、エミヤさんのお言葉に甘えて着替えに行くことにした。
「わかりました。すぐに着替えてきます」
「ああ。ーーーそれとだね」
「はい?」
「厄災を生み出すのは勘弁して欲しい」
「さては異聞帯記録見ましたね!?」
羞恥で顔が赤くなって、無駄なことだと分かっていても照れ隠しで声を荒げずにはいられなかった。
******************
「さぁ、始めましょうっ」
カルデアから支給された青いArtTシャツ、上に黒いエプロンを装備、頭には三角筋を装着して準備は完了。
まずは形から入ってみたけど、案外似合っているんじゃなかろうか。
「では、最初に君の現状を見せてくれ。その結果を基準に、プランを練っていこう」
「わかりましたっ」
「へェ、アルトリアが料理ねぇ」
不意に、食堂から見知った声が聞こえてきた。
煽るような言い方にムッとしながら、厨房のコーナーから覗いてみる。
「お、オベロン・・・」
そこにいたのは、まさかのオベロン。
妖精王、プリテンダー、今の私を見られたくない筆頭サーヴァントだ。
「なんでいるの」
「いやね?俺も部屋で寝ようと思ってたんだけどあら不思議、上機嫌にエプロン持ってスキップしている誰かさんを廊下で見かけてね」
「はっ倒すぞぉ!」
夜だと思っていたのが災いした。
誰も見ていないと思っていたのに・・・。
「まぁまぁ、落ち着きたまえアルトリア。妖精王もあまり彼女を刺激してやるな」
「わかったよ」
「どうだか・・・」
平気で嘘をつくのがオベロンだ。
妖精眼がエマージェンシーを発しているので、今の了解は間違いなく嘘。
遠巻きでちょっかいをかけてくるに違いない。
「そう警戒しなくてもいいだろー?あぁ、丁度いいから何か作って貰おうかな」
「ふんだ、誰が作ってやるもんか」
「藤丸に食べさせたいんだろ?ならアイツが食べる前に君の料理が安全かどうかの試食係が必要だと思ってね」
これ親切心ね、と言った後にニヤニヤ笑うオベロンに、私はプッツン寸前だ。
「エミヤさん、私このまま黙っていられません!」
「ほう、どうするというのだね?」
面白そうにしているのは気のせいだろうか。
「今の実力、あのオベロンにぶつけさせてください!」
彼はさっき、自分から試食係を名乗り出た。
どんなものを出されても文句は言えまい。
とはいえ、わざと不味いものを作って提供するような子供じみた真似は決してしない。
真っ向から味で勝負してやろうじゃないか。
「いいだろう。お題は彼の好物、メロンだ」
「期待しないで待っとくよ〜」
絶対に鼻っ面折ってやる・・・できなかったら物理で。
「さぁ、調理開始だ」
私の前に、一個丸々のメロンが置かれる。
調理器具一式も、いつのまにか用意されていた。
「各種調味料は後ろの棚、ほかに使いたい食材があれば冷蔵庫からとってくるといい」
「はいっ」
まな板と包丁を用意。
上にメロンを乗せる。
「ふんっ」
半分に切る。
「よっ」
片方をスプーンと一緒に皿に乗せる。
「よし」
「「は?」」
完成した『料理』を持って、私はオベロンのいる机へ行き・・・ソッと彼の前に置いた。
「どうぞ」
「・・・一応聞くけど、なにこれ」
「半メロンです」
「半ライスみたいに言うなよ。俺はメロンを作った料理が食べたいんだけど」
「・・・?何を訳のわからないことを。目の前にあるじゃないですか」
「これを料理と呼ぶなら、それは料理に対しての冒涜だよ」
「素材の味をそのまま活かしたんです」
「本当にまんまで提供してどうするんだよ」
(前途多難だな・・・)
私に隠れて、エミヤさんは眉間にシワを寄せてため息を吐くのだった。
こんな感じの、ホワホワした短編をネタ思いついた時にあげていこうかなと思います。
日間総合38位、短編日間3位、お気に入り100超え、ありがとうございます!!