エミヤ、ついでにオベロンまで巻き込んだアルトリアの料理修行。
行われるのは、エミヤに教えを乞いた時と同じく夜。
「速さを優先する必要はない。的確に、落ち着いて調理器具は扱いたまえ」
「はいっ」
(・・・ふむ)
開始から数日が経過。
最初の半メロン事件や、大雑把な包丁等の使い方に戦慄を覚えたエミヤだったが、ここ最近の彼女の上達ぶりを見て、それは杞憂だったと悟った。
底辺からのスタート、というのもあるだろうが、根は超がつくほどの真面目。
少し厳し過ぎたかと思われた指摘にも嫌な顔一つせず、寧ろ一層意欲を増して取り組む姿勢に脱帽する程だ。
「えっと、量り量り・・・目分量は最初のうちはやめておいたほうがいいんですよね?」
「そうだ。レシピ通りにやるのは恥ずべきことではない。君だって、きちんとした手順を踏んで作った料理をマスターに食べてもらいたいだろう?」
「はい。えへへ、喜んでくれるかな」
「初日に半メロンって言ってた奴とは到底思えないね」
「オベロンちょっと黙ってて」
こちらも教え甲斐があるというもの。
オベロンからの軽口も挟みつつ、アルトリアの調理技術は確実に上達していった。
今では、ぎこちないながらも朝のための仕込みまで手伝える程である。
「エミヤさん、食材切り終わりました!チェックお願いします!」
「ああ。ーーーよし、次は溜まっている洗い物を頼むよ。暇ができた時間を使って、なるべく済ませておけば片付けが手早く終わる」
「わかりました!」
「あ、丁度いいから俺が食べてたメロンの皿も洗っておいてアルトリア」
「いい加減はっ倒しますよオベロン」
斯くして、事は順調の一途を辿っていた。
筈だった。
******************
「ゼェ・・・ゼェ・・・」
走って、杖を振って、魔術を行使して。
休みなくこれらの動作を行なっていたせいで、英霊となった私の体力を持ってしても息が上がってしまう。
「ゼェ・・・すぅ・・・はぁ・・・」
深呼吸をして、一先ず踊っている胸を落ち着かせてから、私は周りを見渡した。
「ーーー今更だけど、どうしてこんなことに・・・」
トホホ・・・。
力なく吐いた弱音は、虚空へ消えていく。
ここは密林。
至る所から野鳥や獣の鳴き声が跋扈し、南国風の木々、植物に囲まれた蒸し暑いジャングル。
カルデアの厨房からどうしてこんなところに、それには理由があった。
『さて、ここまでとしようか』
『今日もご指導、ありがとうございました』
いつものように講義を終え、ペコリとお辞儀をして、壁にかけてある時計を確認。
午前3時。始めたのが大体0時ごろで、毎回切り上げるのが2時。こんを詰め過ぎたようだ。
『す、すみません。熱中してて気づきませんでした』
『いいや。私としても、キミの成長を見るのが楽しい節があってね。ついつい熱が入ってしまった』
基本的な技術については、ほぼマスターしたといっても過言ではない。
試しに今日、私一人に簡単なものを作らせてもらったところ、粗は目立つがちゃんとした料理が出来上がった。
少々見た目に難ありだったが、味におかしな点は無く、問題点もこれから改善していけばいいとエミヤさん。
『誇っていい。キミは堂々と胸を張って、料理ができると公言できるさ』
『・・・!はいっ』
『こんな夜遅くまで仕込みでちか?』
そこで厨房にやって来たのは、あの紅閻魔さん。
日本で有名な昔話、舌切り雀の語源ともなった人で、閻魔亭と呼ばれる旅館の亭主でもある。
自身の身長とそう変わらない得物である刀を腰に差しながらも、音を立てずに歩み寄ってくる所作を見れば、佐々木小次郎さんと並ぶ剣技の使い手と言われても頷ける。
『女将さん、珍しいな』
『女将はよすでち。エミヤ様に・・・』
紅閻魔さんは、机で突っ伏して眠ってしまっているオベロンの方を見た。
『最近カルデアに来なさったオベロン様。お隣もそうでちね?』
『は、はい!アルトリア・キャスターです!』
この霊基では、そうだ。
再臨すればアヴァロンとなる。
また増えたでちね、と苦笑いを浮かべつつ、厨房の方を見ながら彼女は言った。
『噂には聞いているでちよ。ご主人とは結婚まで約束した仲だとか』
『け・・・!?』
結婚!?
だいぶ尾鰭がついている。
まだ告白し合って少ししか経ってないのに・・・でも、そう言われるのはやぶさかではないというかなんというか。
『そのマスターに、手料理をご馳走したいのだそうだ。それで、私が教えているのだが・・・』
『ふむ』
明日の朝食のために刻まれた食材の入った各種ボール、器具の片付け状況、最後に私の絆創膏だらけになった手を見て、小さく頷く紅閻魔さん。
『おまえさん、見どころがあるでちね。初めてしばらくでこの出来は中々のものでち』
『あ、ありがとうございます!その、講師の方が優しく教えてくださるので』
『謙遜はよしたまえ。キミの努力の賜物だよ』
『エミヤ様にそこまで言わせるでちか』
益々期待できるでち、と何やら考えがある様子。
そこでエミヤさんは意図を察したのか、なぜか焦り顔で紅閻魔さんに尋ねた。
『まさかと思うが女将、アレを彼女に?』
『そのまさかでち。エミヤ様が良ければ、借りていきたいのでちが・・・本人にも聞かなくてはいけないでちね』
改めて私と向き合うと、料亭女将はとある提案を申し出た。
『アルトリア、おまえさんはご主人に最高の料理を出したいでちか?』
『は、はい!』
『ご主人と共に歩み、いついかなる時も寄り添う覚悟はお有りでちか?』
『もちろんですっ』
即答だった。
関係が始まったのは最近ではある。しかし、若気の至と言われようともそれだけの想いが今の私にはあるのだ。
『でちたら、おまえさんにピッタリの修行コースを用意してやるでちっ。エミヤ様、すみまちぇんがこの娘を貰ってもよろちいでちか?』
『私は・・・まぁ、構わないさ。最後まで成長を見届けたかった思いも無くはないが、他でもないアルトリア本人の決断だ。無碍にはできまい』
言い淀んでいたけど、それも一瞬。
私の意見を尊重して、送り出してくれた。私としても、最後まで教わりたかった気持ちはある。けれど、立香のためならどんなことにも挑戦していかなければ。
『頑張ります!エミヤさんに教わった事を全部活かして、修行を乗り越えてみせます!』
『ああ、応援しているよ』
その時の彼は・・・戦場に兵士を送り出す上官のような顔つきをしていた。
『それでは、紅閻魔のヘルズキッチン臨時開業でち!』
『よろしくお願いします!・・・ん?』
ヘルズ、と聞いて違和感を覚えた。なぜに地獄、と。
閻魔様だから地獄なのかな、とその時は一人で納得していた。
『あの、紅閻魔さん』
『以降先生と呼ぶでち』
『せ、先生!これから何をするのでしょうか?基礎的な事は、エミヤさんからも太鼓判を押されています!』
『たしかに、あの方のお言葉であればそうでちね。ーーーでちが、今は関係ありまちぇん。即時戦闘服に着替えて武器を持ったのち、ここへ戻ってくるでち』
『ーーーへ?』
『返事は了解以外認めないでち』
『りょ、了解!』
突如厳しくなった紅閻魔さん。
急いで自室へ向かおうとする私の背後からは、オベロンの面白くなってきた、という欠伸混じりのヘラヘラした笑い声が聞こえてくるのだった。
「う、うおおおおっっ!!」
迫り来る魔猪の群を、魔術により生み出した光弾で迎撃。
撃ち漏らして突進をかましてくる一頭を杖の薙ぎ払いで吹き飛ばした。
「まだ、まだ来るかもうっ!!」
一息吐こうとしたが、今度は上空からワイバーンが3体飛来してくる。
「セクエンスっ!」
数ある聖剣のうちの一つである光の輪を計4つ出現させ、撃ち出す。
かわそうとしているけど、それには追尾機能が備わっていて避けるのは至難の業だ。
直撃を喰らったワイバーン達は、力なく地面へと落ちていく。
それを最後まで見ていられるほど、今の私に余裕はない。
(急いでこの場を離れないと!)
同じ場所に長居するのは危険だ。戦闘音を感知して、無限にエネミーが寄ってたかって来る。
切れていた敏捷強化の魔術を身体に施しながら、私は走り出した。
『おまえさんの心構えは充分承知しているつもりでち。エミヤ様からの指導も確かなもの。でちが!喰われる身になったことはない!よって1ヶ月の間、おまえさんにはサバイバル生活をおくってもらうでち!!』
時間については気にせず、取り組んでくるでちよ。
それが、私をこの密林へ送り出す前に発した紅閻魔さ・・・先生からの後達だった。
かれこれ二週間、休みも無しに動き続けて体力は底を尽き掛けている。
敵の目を気にして碌に休息も取れず、走り回る日々。
精神的にも限界が近づいていた。
「あはは・・・あれ、なんだろ。今まで聞いたことのない鐘の音が聞こえる・・・」
おまけに綺麗な花畑までみえてきたところで、疲労による幻覚だということに気づく。
危うく楽園に帰りかけた。
こんなことでアヴァロンに戻ったのでは、マーリンに腹を抱えながら笑われてしまう。
「はぁ・・・それにしても、ここの獣達の殺意高過ぎませんか・・・?」
それはもう、食い殺す気で襲いかかってくる。
狙ってくるのはいつも頭などの急所で、常に神経を尖らせておかなければならない。
これが、喰われる側の気持ちになるということか。
聞いた話によれば、マシュさんは初見クリアしているらしい。化け物かな?
まぁ、それならノクナレアとの料理対決で見せた芸術のようなケーキの細工にも納得がいく。
「私も、あんな料理を作って・・・立香に食べてもらうんだからっ」
そのためにも、ここから生きて帰らないと。
気合を一新して、いざ前へ。
周りからは常に監視されているような、視線を感じる。
先生が上から見てるのかもしれないし、まだまだ獣につかれているのかもしれない。
認識阻害の魔術は、今かけたところで効果は期待できない。
ならば、背中を見せて逃げるのはやめよう。
残り少ない体力で、この辺一帯から切り抜けてみせる。
「さぁ、来るならこい!かかって、こーい!」
私は獣を煽るように、ブンブンと杖を振り回した。
それに呼応したのか、空から近づく影が有る。
「ふんだ、返り討ちに・・・え“っ」
汚い声が出てしまったのは許して欲しい。
なぜなら、敵の正体が・・・ワイバーンよりも遥かに大きい竜だったのだから。
しかも、数は一つではない。二つ、三つ・・・どんどん増えて、気づけば竜の群れに包囲されてしまっていた。
「「「キシャアアアアッッッ!!!」」」
「ホント最近、竜には縁があるのなんでですか・・・!」
奈落の虫竜しかり、召喚直後のファフニールしかり、現在の竜種しかり。
逃げ場は見当たらず。一斉に繰り出されるブレス攻撃に、私は意を決して杖を振るうのだった。
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「二週間でちか。まぁ、初めて且つ単独なら健闘した方でちね」
熱線の集中砲火を浴びるアルトリアを、思念越しで紅閻魔は見つめていた。
「ハードだなこれ。よくもまぁ頑張るよ彼女」
「ああ」
オベロンを通じて、エミヤもまた奮戦するアルトリアの勇姿を見届ける。
向こうでは二週間が経過しているが、現実では30分ほどしか経っていない。
コマ送りで今まで観戦を続けていたが、一日一日の内容が濃い。
オベロンの言う通り、あの環境下でよく動き回れるものだとエミヤは感心した。
そして、これが愛の成せる業か、とも。
「料理を教わるために、ここまでやるのかよ・・・」
「そういった甘ったるい考えを正すのが目的でち。エミヤ様のお陰である程度の心構えはアルトリアに備え付けられていたでち。これで食材と真摯に向き合うための自信を持って欲しかったのでちが・・・一発クリアは流石に無理そうでちね」
「ーーーいや、そうでもないさ」
残念、と肩を落とす紅閻魔の言葉を、エミヤは否定した。
たしかに、竜種に囲まれ状況は絶望的。ここから巻き返すことなど、大抵は不可能だ。
「あそこから挽回することができるのでちか?」
「そうとも女将。彼女はいわば、本気を出していないのだから」
「ーーーさて、噂をすればだ」
ブリテンにて、自らを穿った力。
その解放を忌々しげに、同時に見惚れるように、オベロンは目を細めるのだった。
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輝きが、解き放たれる。
全方位から照射されていたブレスが、黄金に煌めく何かによって容易に吹き飛ばされた。
その正体は、マルミアドワーズ。
過去、ギリシャ神話の大英雄ヘラクレスが使用したとされる聖剣。
「討て」
号令がかかり、マルミアドワーズは音速をもって空を羽ばたく竜達の肉を抉る。
翼を貫通し、咽喉を切り裂き、腹を突き破る。
大剣は命令を遂行し終わり、主人の手元へと戻った。
「ーーー妖精炉、接続」
持ち主はアルトリア・・・なのだが、その容姿は先刻と比べてかけ離れていた。
可憐な純白の衣装から一転、銀の胸当てに腰元の甲冑、揺れる振袖、スカートから伸びるスラリとした脚、頭上には黄昏色の王冠が備わっている。
「待っていてください、立香。この試練を超えて、必ず貴方へ手料理を振る舞ってみせます」
キリッとした青い双眸が見据えるのは、大切な人と過ごす幸せな未来。
「第二、第三宝具展開」
大人びた口調に様変わりした少女の命令により、マルミアドワーズが熱を帯び、カルンウェナンが唸りを上げる。
「アルトリア・アヴァロンーーー出るぞ!」
未だ数の減らぬ敵を前にして一歩も退かず、数多の聖剣による殲滅態勢へと移行した。
噂が立ってからというもの、一部の女性鯖は通夜です。是非もないですね。
急いで書いたので、雑になった感が否めない・・・読み難かったら本当にすみません。
紅ちゃんも未所持なので違和感あっても許して欲しいのでち。
手料理を食べさせたいだけなのに、どんどん違う道を進んでいくキャストリアの運命は果たしてーーー!?