遥煌燦歌 / Aphelion of Planeptune 作:宇宮 祐樹
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▼ _ 遥煌燦歌 / Aphelion of Planeptune
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「うずめっ!」
ネプテューヌの叫び声に、ようやくうずめが意識を取り戻す。
ぼやけた視界に見えたのは、一面に広がる屍肉と血だまりだった。鼻孔に突き刺さるように漂ってくる血の匂いに、喉の奥から温かい何かが込み上げてくる。思わず口元を押さえようとしたうずめは、その自分の両手がいっぱいの血で濡れていることに、ようやく気が付いた。
吐き気すらもどこかへ消えて、ただ渦巻くような困惑が彼女の脳を支配する。恐る恐るネプテューヌの方へと視線を向けると、彼女は優しい目のままうずめの肩へ手を添えるだけであった。そこに言葉は存在しなかったが、うずめはこの惨状が自分の巻き起こしたものであることを、確かに理解していた。
漂う異臭が視界をぐらつかせる。心臓の鼓動が早くなって、呼吸が荒々しいものへと変わっていく。
縋るように自らのことを見上げるうずめに、ネプテューヌは安心させるように笑いながら、
「無事で、よかっ――」
口の端から血を流して、とさり、と倒れ込んだ。
「……どういうこと、だよ?」
呼びかけに答える者は、ついに居なくなった。肉と血に塗れたその場所で、うずめはただ天井を見上げることしかできなかった。どこかの洞窟らしいその天井には、叩きつけられた肉と内臓が氷柱のように床へ延びて、落ちていく。一定の感覚でなるその水音が、早くなるうずめの鼓動を鎮めていった。
やがて輝きを失ったうずめの瞳の前に、ひとひらの光が現れる。
「ずいぶんと暴れまわったな、お前」
そうやって声をかけたのは、本の上に胡坐をかいて座っている、妖精のような存在だった。
「……もしかして、クロっちか?」
「おう。そういえば、こっちの恰好を見せるのは初めてだったか」
面倒くさそうに後ろ手で頭をかきながら、クロワールがそう呟く。
「……何が、あったんだ?」
「仕方ねえから説明してやる。ネプテューヌもブッ倒れちまったしな」
「無事なのか?」
「口の中を切っただけだ、心配いらねーよ。ったく、いちいち大げさに倒れやがって」
肩をすくめる彼女に、ほっと胸を撫で下ろす。手を当てた胸元が、赤く染まった。
「ま、話すにしても場所を移さねーとな」
「移すって……どこに?」
「特別に俺が繋いでやるよ。だから、その前に」
「……前に?」
問いかけるとクロワールは、その小さな指を向けて、
『背中のソレ、早くしまってくれよ』
そう言われてうずめが振り返った、そこには。
眩い光を放つ透明の翼が四枚、自らの背中に浮かんでいた。
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「……何が、あった?」
地面に横たわるネプテューヌの顔を見つめながら、うずめが問いかける。
「逆に、どこまで覚えてる?」
「聞いてんのはこっちだよ」
「どこから話していいか分かんねーだろ」
その言葉に一度だけクロワールを睨みつけたが、やがて観念したようにうずめは話し始めた。
「この次元に来たところまでは覚えてる。それで、なんか人体実験みたいなことをしてるヤツがいたから、倒そうって話になっただろ? ねぷっちはあんまり乗り気じゃなかったみたいだけどさ」
「そこからは?」
「……分かんねえ。ねぷっちと一緒に戦おうってなったところまでは、記憶にあるけど……ダメだ。そこから思い出せねえ。俺が気づいたときには、ああなってた」
「なるほどな。まあ、記憶領域を媒介にしてたみたいだから、そんなもんか。いや、俺たちのことを覚えてるだけでも僥倖だった……それとも単純に、コイツがバカだから何も覚えてねーのか……?」
「おい」
ぶつぶつと何かを呟く彼女に、うずめが苛立ちながら声をかける。
「結局、何があったんだよ」
「お前は女神になったんだよ。ほんの一瞬だけどな」
「はぁ?」
驚いたうずめが言葉を続けるよりも先に、クロワールが続けた。
「お前が殺したヤツらが研究してたのは、記憶領域を媒介として人間を人為的に女神に昇華させる方法だ。向こうからしたら
「……話が見えねーよ。もっと分かりやすく伝えてくれ」
「つまり、だ。お前はヤツらの実験台にされたんだよ。人を女神にするためのな」
「人を、女神に……」
「ま、実験そのものは失敗してたけどな」
両手をひらひらと振るクロワールに、うずめは鈍い納得を得ていた。
人が女神へ昇華する方法は、ネプテューヌと旅をする中でいくつか知った。分かりやすいもので言えば、少し前の次元でネプテューヌがプルルートという少女に渡した女神メモリーがそれにあたる。しかしながら、それらの方法は全て、世界が選んだと言えるような、超自然的なものでしかない。それを人為的に引き起こすなど不可能に近いことであるということも、うずめはこの旅の中で理解していた。
だが、その理解がある上で、うずめに一つの疑問が浮かび上がる。
「アイツらの実験は、失敗したって言ってたよな?」
「そうだな」
「じゃあ、どうして俺は女神になれたんだ?」
震えた声で問いかけるうずめに、クロワールは、きょとん、と呆けた表情を浮かべながら、
「そんなもん、お前がもともと女神だったからに決まってるだろ」
告げられたうずめは、自らの心臓の鼓動が早くなる感覚を覚えていた。
「……俺が、女神?」
「ああ。なんだ、とっくに気づいてると思ってたけど、そうじゃなかったのか」
「分かるわけないだろ。想像もできねーよ。俺みたいなヤツが、女神だなんて……そんなこと」
「そうか? コイツは気づいてたと思うぜ?」
言いながら、クロワールがネプテューヌのことを顎で指した。
「まずお前は人間じゃねえ。空から降ってきてピンピンしてる時点で、自分でもなんとなく分かってただろ。それに他の人間に比べて丈夫だし、ケガしたって一日二日寝たら完全に回復してる。それに、何より……」
「……なんだよ」
「お前、出会った人間を全員助けようとしただろ。誰かにそうしろ、って言われてねー上に、そんな記憶すらもないにも関わらず。ネプテューヌに言われたって止めなかったな? それが俺なんだ、とか言って」
「それは……」
「そういう無条件の救済愛こそが、女神の本質なんだよ」
一度そこで、二人の会話は途切れた。自らが女神であるという事実を受け止める彼女のことを、クロワールはつまらなさそうに眺めていた。彼女にとって自分が女神であることは意外なことらしかったが、クロワールからすれば、これで女神でなければ彼女はただのおかしな人間だったから、至極当然のことであった。そんな狂った人間は、目の前で眠りこけている彼女だけで十分だった。
やがてクロワールの視線に気づいたのか、うずめが静かに口を開く。
「ねぷっちも、俺がやったのか?」
「ちげーよ。コイツはお前と同じヤツを打ち込まれただけだ。お前を庇ってな」
「それって……! おい、無事なのか!?」
「ああ」
声を荒げるうずめなど気にかけず、クロワールは一度、ネプテューヌへ冷たい視線を向けてから、
「コイツは、どうしたって女神にはなれねーんだから」
吐き捨てるように、そう呟いた。
「前に崩壊した次元に行ったとき、コイツが話したこと覚えてるか?」
「……俺が、羨ましいって」
「ああ。きっとコイツ、その時には既にお前が女神だって気づいてたんだと思うぜ?」
「そんな、こと」
「誰にでも救いの手を差し伸べて、何かを得られるわけでもないのに誰かのために戦えるお前に、きっとコイツは憧れてたんだよ。それと同時に、そんな在り方を羨ましがってたんだ。コイツ、人間のくせに女神と同じ無条件の救済愛があったんだよ。でも、コイツはどうしたって人間だからさ。目を背けることしかできなかった。出会ったときから、コイツは気づいてたよ。だからコイツ、俺と旅をしようなんて言い出してさ……」
人間が女神に昇華することは、決して不可能なことではない。
先にうずめが思い出したような女神メモリーのように、その方法は存在する。しかしながら、その在り方というのは女神に昇華し、人間とは違う視野を持ってからこそ――もしくは、もとより女神として誕生したからこそ、身に着くものである。それにも関わらず、彼女は一介の人間であるのに、女神と同じ思考を持ち合わせていたのだ。
それは異常であることには変わりない。
だが。
「時代が違えば、コイツは本当に女神になれたのかもしれないのにな」
ぽつりと呟いたクロワールの言葉に、うずめが俯きながら問いかける。
「……後悔、してるのか?」
「後悔? 何にだ?」
「ねぷっちを旅に連れ出したこと」
「……まさか」
そこで一つ、深く息を吐いてから、
「そんなことで後悔できるほど、俺はいい性格してねーよ」
再びの沈黙が流れる。ネプテューヌの瞳は閉じられたまま、ランタンに照らされるその顔を二人は黙って見守っていた。やがてしばらくの時が流れて、ランタンの灯が弱くなっていく。夜闇に包まれる中、うずめは静かにクロワールへと問いかけた。
「俺はもともと、女神だって言ってたよな」
「ああ」
「じゃあ、俺が守護していた次元も存在していた、ってことか?」
「そうなるな」
「じゃあ」
淡々と答えるクロワールに、うずめは迫りながら、言った。
「そこへ、連れて行ってくれ」
「……なんでだよ」
「行かなきゃならないだろ。だって、そこは俺が守護していた次元なんだから」
「もう、崩壊してるかもしれない。それに時代が流れて、もうお前を覚えているヤツはいなくなってるかもしれない。行ったって無駄だ。だからお前は、コイツと旅をしている方が……」
「行かせてあげなよ、クロちゃん」
呼びかけられたクロワールが、目を見開きながらその方へ視線を向ける。
「お前、いつから……!」
「少し前から。起きようとはしたんだけどね」
頭を押さえながら、ネプテューヌがゆっくりと体を起こす。まだ本調子ではないみたいが、それでもだいぶ回復はしているようだった。そうして彼女は、うずめとクロワールを交互に見やってから、また口を開いた。
「私のことはいいからさ、クロちゃん。うずめがいた次元に」
「……いいのかよ、お前は。コイツに憧れてたんじゃねーのか?」
「それでも、うずめが行きたいっていうなら、私は行かせてあげたいな」
力のない笑みを浮かべるネプテューヌに、クロワールが舌打ちを吐いた。こんな寂れた表情をするネプテューヌは、初めてだった。いつも通り突拍子のない我儘を言えばいいものを、どうして今はそうしないのかという苛立ちを、クロワールは覚えていた。だが同時に、彼女がそう言うのなら、そうするべきなのだろうという使命も感じていた。
やがてクロワールの体が光に包まれたかと思うと、それが蝶の形へと変わっていく。
「明日までに、別れの言葉は用意しておけよ」
ランタンの灯が、音もなく消えた。
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「おはよう」
目を醒まして、テントから出たうずめに声をかけたのは、先に起きていたネプテューヌだった。
「……ああ、おはよ」
「体、どう? 昨日はなんかその……すごかったけど」
「別に、なんともないぜ。健康そのものだ」
「……そっか」
どこか距離のあるネプテューヌの言葉に、うずめは何か声をかけようとしたが、思いついた言葉は全て喉の手前で止まってしまった。差し出そうとした手も胸の前で止まってしまって、どうしようもなさに打ちひしがれているところに、ネプテューヌがまた言葉を紡いだ。
「私ね、うずめに憧れてたんだ」
「……ああ、聞いたよ」
「誰かを救おうとする愛も、何かを守るために戦える強さも。そして何よりも、私の両手なんかよりとっても大きくて、どこまでも届く翼が……羨ましかった。私の目に映るうずめはね、いつでも煌めいて見えたんだ」
「煌めいて、って……やめろよ、恥ずかしい」
「きっとうずめは、そうやってみんなを照らしていたんだね」
そうしてネプテューヌは、自らの天上に浮かぶ太陽を仰ぎながら、
「どれだけ遠く離れていようとも、太陽の煌めきが失われることはない」
告げたその言葉に、うずめがきょとんと呆けながら首を傾げた。
「……誰の言葉だ?」
「私の。ほら、昨日クロちゃんが言ってたじゃん。別れの言葉を用意しておけ、って」
「そういうのって普通、さよならとかじゃねーのか?」
「でもそれじゃあ、面白くないじゃん」
「……そうかよ」
疲れたようにうずめが息を吐くのと、クロワールが姿を現すのは、同時だった。
「準備、できたぞ」
「……前々から思ってたけどよ、クロっちって俺の故郷のこと、知ってたのか?」
「出会った瞬間にこうして飛べるくらいにはな。お前、メチャクチャだったからよ」
「なんだよ、それ。腑に落ちねえぜ」
「行けば分かる」
それだけ言ったクロワールに、うずめは口を尖らせながら振り返る。
向けた視線の先には、いつも通り暗闇へと続く穴が開かれていた。まるで深淵のような昏さを持つそれは、普段からそうではあったが、今この時はより一層、得体の知れないものに見えた。
震えていた拳を、握り締める。伏せた目を開くと、うずめはその一歩を踏み出した。
そして。
「……なんだよ、ここ」
暗闇を抜けた先に見えたのは、地平線まで続く荒れ果てた大地だった。
おそらく、いつか見たビル群のようなものが、この次元には存在していただろう。しかしそれらは今、瓦礫と化してこの荒廃した大地を埋め尽くしている。空には雲も存在せず、あの時と同じような夕陽が、遥か遠くにぼんやりと佇んでいた。
そうして茜色の光を浴びていたうずめは、やがて力を失ったように膝をついて、その場に崩れ落ちる。ネプテューヌもクロワールも言葉をかけることはなく、その耳にはどこか遠くから鳴り響く波の音しか聞こえていなかった。
「これが……俺の、故郷なのか?」
震えた声で、うずめが二人の方へと振り向きながら問いかける。
「ああ。ここが正真正銘、お前の守護していた次元だよ」
淡々と答えたのは、沈んでいく夕陽を眺めるクロワールだった。
「……崩壊、しちまったのか?」
「いや、まだ繋ぎ止められてるな。もっとも、いつ崩壊してもおかしくないが」
「どうして……」
「この次元から
「俺が……?」
「守護女神をなくした次元なんて、祈りの拠り所が無くなって滅びるだけだからな」
旅をする中で知り得たその事実を、うずめは今、身を引き裂かれるような思いで理解していた。手をついた地面には、細かくなった瓦礫が散乱している。その中の一つを掴み上げると、それは時間が経つにつれて、だんだんと砂のように細かく崩れ落ち、地面へと落ちていく。次元の崩壊が進んでいる証拠だった。
波の音は止まず、うすめの耳元で小さく鳴り続ける。
「……俺の、せいなのか」
「そうでもないみたいだぜ」
告げると、クロワールがどこからか取り出した端末を、うずめへと投げ渡す。クロワールがこの次元の記録を抽出するためのものだった。そしてそれは、この崩壊した次元に、誰かが何かを残したという証拠でもあった。
小さな液晶には、ノイズに交じりながらいくつかのメッセージが残されている。ぐずぐずに崩れた文字は、それだけの時間が経過しているということだった。そうしてうずめが、おぼろげな瞳で残された記録へと目を通す。
「もしかして、これ」
「ああ。ここの人間が、お前に向けて残した記録だ」
ぽたり、と。
零れ落ちる涙が、液晶に映る文字を歪ませた。
「コイツらはもともと、この次元の寿命を知ってたんだよ。だから、この次元がこうなったのはお前がいなくなったからじゃない。むしろ、この崩壊へと向かい続けるこの次元から、お前を救おうとしたのさ」
「……俺に、記憶が無かったのも」
「きっと、お前に女神としてじゃない、新しい生き方をしてほしかったんだろうな」
「そんな……」
握り締めた拳は、やがて力なく解かれる。開かれた手のひらから、赤い雫が地面へ落ちていった。
「救ってほしくなんて、なかった」
「うずめ……」
「女神なら、寄り添うべきじゃなかったのか? アイツらを守護する者として、最後までこの次元にいるべきじゃなかったのか!? なのに、どうして俺はアイツらにそれを否定されなきゃいけないんだよ! 俺は天王星うずめ――プラネテューヌの守護女神、オレンジハートなんだぞ!? それなのに、どうして……どうして!」
崩れ行く次元の中、既にうずめは自らの記憶を取り戻していた。
だからこそ、憤った。自らの望まぬ彼らからの救済に、女神としてはじめて彼女は彼らへの怒りを露わにしていた。しかし、その彼女の叫びを受け止められるものは、この次元には存在しない。慟哭にも似たその言葉を見届けるのは、クロワールとネプテューヌしかいなかった。
沈黙が世界を支配する。静けさの中で、潮騒の音だけが彼女の耳に届いていた。
「これから、どうするの?」
やがてしばらくの時を置いてから、ネプテューヌが問いかける。
「残るよ、ここに」
「……そっか」
返ってきた言葉に、ネプテューヌは寂しそうに笑いながら、答えた。
「やっぱり俺は、寄り添わないといけないんだ。アイツらを残したまま、ねぷっちと旅は続けられない。俺は、この次元の守護女神なんだ。だからこそ、俺は女神としてこの次元の終焉を見届けなくちゃならない」
「そう、だね。それが、うずめのしたいことなら」
「……泣くなよ、ねぷっち。俺まで泣きたくなっちゃうだろ?」
立ち上がり、ネプテューヌの頭を優しく撫でる。うずめの口元には、いつもの活き活きとした力強い笑みではなく、女神としての柔らかな、どこか儚げな微笑みを携えていた。
「クロっち、頼んだ。もう、ここも長くないんだろ?」
「ああ」
頷いたクロワールの背後に、次元へと続く孔が開かれる。それを確認したうずめは、ネプテューヌの頬を両手で包み込むと、彼女の瞳を見つめながら、いつもの力強い満面の浮かべて、
「嬉しかったぜ、ねぷっち!」
「うずめ……」
「ねぷっちと出会えたこと、一緒に旅ができたこと、ここまで付き合ってくれたこと!」
「……私も! 私も、楽しかった! うずめと一緒にいられたこと、絶対に忘れないから!」
闇に呑まれていくネプテューヌが、力の限りで叫ぶ。
「さよならだ、ねぷっち!」
「うん! さよなら、うずめ!」
そして彼女の姿が消えると同時に、終わることのない静寂が訪れる。とさり、と腰を下ろすと、もう立ち上がるほどの力すらもないことに気が付いた。この次元の守護女神として、次元の寿命と連動しているのだろうか。そんなことを考えながら、うずめは傍に転がっていた端末をもう一度手に取った。
汚れた液晶をぬぐうと、ぐちゃぐちゃに歪んだ文字が浮かび上がる。
『あなたがこの地を去ろうとも、我々はあなたを信じています。
滅びの来るその時まで、我々は生きる意志を持ち続けます。
あなたの意志は最後のその刻まで、我々の心に在り続けるのです。
太陽は遙か遠く、たとえ次元を超えてしまったとしても。
あなたが残してくれた光は、いつまでも我々を照らしています。』
残された最後の言葉に、うずめがくしゃりと崩れたように笑う。
「最後まで、俺が照らしてやらないとな」
黄昏の光が、彼女の横顔を照らしていた。
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夜が終わりを告げ、東の空が青に染まり始める。
「そろそろ行こうか、クロちゃん」
「……もう、いいのか?」
「いつまでも泣いてたら、それこそうずめに怒られそうだしね」
「ああ……そうだな」
「立ち止まってなんか、いられない。私は、旅を続けなきゃ」
体を伸ばす。頬に伝った涙の痕を、ネプテューヌは手の甲で拭った。
「どれだけ遠く離れていようとも、太陽の煌めきが失われることはない」
「……なんだそりゃ。誰かの歌か?」
「ううん。私とうずめの、別れの言葉だよ」
「そりゃあ……いや、ちょっと変だろ」
「そう? でも、こっちの方が面白いじゃん」
「いやまあ、そうかもしれないけどよ」
「それに、いつまでもうずめが見守ってくれてるって、そんな気がするんだ」
やがて太陽が昇り、世界が太陽の煌めきに包まれる。
「これからも、私を照らしてくれるよね、うずめ」
朝焼けの光が、彼女の横顔を照らしていた。
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