彼女(メリュ子)は百合ヶ丘のリリィ。   作:Celtmyth

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やっと……、書き上げられました。


Ep 46 10 T 104 e 1s 84 86 ol.

 

 

『キミの名前、そんな意味があったのか! まさに()()()()()じゃないか!』

 

 

 親しくなったイギリス人に自分の名前の意味を教えるとそう返された。それはドーバー海峡沿岸にある白い壁で、イギリス人の異名にもなった根強い名前だそうだ。時間が出来ればその場所を見に行くのも悪くないのかもしれない。

 世界中を飛び回り始めてから十数年。40歳を超えた体になっても未だにNGOで活動していた。とは言え郷愁の念はあったようで日本へは『帰国』の言葉がしっくり来ていた。そんな日々の中、こうした偶然というものは嬉しいものだ。

 

 

 しかし、それでも私は私を好きになれなかった。

 

 

 生まれが不幸だった、訳でもない。容姿が醜い訳でもなく、気に入らない訳でもない。これまで人生が退屈だった訳でもない。ただただ自分を好きにはなれなかった。嫌いと言う意味ではなく、無関心と言う意味で。

 しかしその無関心さがNGOと言う他者への奉仕の人生へ進んだ。自分の人生を誰かのために使おう。決して善意や高尚な精神ではなく、ただ自分の為にするものが見つけられなかったからだ。国内のバックオフィス業務から始めたが『お前は海外の方が向いている』と言われ、語学を含む様々な事を学んだ後に飛び立った。

 そして現場に立ち、向いているという言葉を実感した。礼儀正しい態度と、踏み込み過ぎない距離感からお互いの信用と信頼を築いていった。大きな事が出来たわけではなかったが、私を通じて組織へ好意的に見てくれるようになった。どうやら私は緩衝材として見出されたようだ。こんな私が、とも考えたが案外そんな私だから良かったのかもしれない。さすがにその本心を誰かに告げるような真似はせず、と言うよりいう事でもないと胸の奥にしまい続けた。

 

 

 そして私はガンを患い、自分の死期を悟った。

 

 

 不運が重なった結果だった。健康診断のタイミングを逃し、そのまま流れてしまい症状は進行してしまった。すでに手術で切除する段階を超えており、薬による進行の抑制も微々たるものだった。余命はすでに一年も持つかどうか。

 この宣告を受けて私に動揺がなかった。寧ろこの事実を知ってすぐに行動を始めた。組織に伝え、余生を好きに過ごす事を願いNGOを去った。そして暫くぶりだった自宅に戻ると海外で親しくなった人々に手紙で書いて送った。手紙の方は親しかった相手には一通ずつ、大人数の場合は代表者本人に伝える一通目と代弁してもらうための二通目を送った。特にアルビオンの事を教えてくれた知人には見に行けないことを謝罪した。そして全てに返信用の封筒セットも同封して。

 そして一週間が過ぎると速い所で返信の手紙が届き、一通一通の文章に目を通し始める。意外にも誰もがこの事実を信じ、一目会いたいという言葉が綴られていた。中には涙らしき跡がついていた物や、送信した時に同封していた用紙とは違うものやそれ以上の枚数が入っていた物もあった。

 長く、そして強い思いが込められた文章だった。余命を考えて文通する程の時間がない事も手紙に書いていたからかその分、それこそ最期と言わんばかりに。膨大な量だがそれでも私は一枚一枚、そして一字一句を静かに読み続けた。さすがに心に来るものがあり、こんな自分にも多くの人が悲しんでくれるんだと。

 しかしそんな数々の手紙の中で一通、短く綴られていた一枚があった。

 

『死ぬ前にアルビオンを見に来てくれないか?』

 

 彼だけはこの一文だけを送ってきていた。他が数枚と長文で想いが綴られていた分、白紙の真ん中にあったこの言葉は逆に印象的だった。それも友人を気軽に誘うように。

 

 

 

 

 

 そして半年後。私はアルビオン、ドーバー海峡の白い崖を船上から見上げていた。

 結局、友人の手紙をきっかけにここへ訪れたのだ。もちろん宣告を受けた身だ。医者と相談を緊急時の対応を話し、加えて手紙を送った相手に今度は電子メールでイギリスのケント州に行くことを伝えた。

 ただ準備の前にその友人とは電話で連絡を取った。私の余命を知っている筈なのに変わらない態度だった。思わず本心を聞こうとしたがこの友人は掴み所がない部分があることを思い出し、手紙の件から紹介した場所へ行くことを伝えた。この時、私がドーバー海峡に行くことを手紙に出した相手にも伝えるように念押しされた。その結果、イギリス、どころかヨーロッパに住むほとんどが再会することになり、金銭や都合で会えない人たちはライブ映像で送ることになった。

 ただ道中はなかなか辛いものだった。ガンは進行し、杖なしでは歩くこともままならず、薬も微々たるものだとして目的がある以上は簡単に死ねなくなった。行先はイギリス、ではなくフランス。その北部パ=ド=カレー県、その都市カレーになった。ここはドーバーへのフェリーが出ており、まさにかつての人々がドーバーの白い壁をアルビオンと呼ぶようになったように見るためだそうだ。加えてイギリスから見に行くよりは見応えがいいらしい。

 フランスに到着した後は知人と同じく会いたいといった人々と合流し、私の体調に考慮しながら港がある都市カレーに到着した。そこでも多くの人々に出迎えられ、特別に貸切ったという船に乗り込んだ。

 

 

『どうだい俺の国の入口でその顔のアルビオンはっ!』

 

 

 そうして見えたのはドーバー海峡の先にそびえる白亜の壁、ドーバーの白い崖だった。

 知人の言は正しく、大きな光景だった。かつて海路でしか行けなかったイギリスはこのドーバーの白い崖から入国し、そして出国する。この光景からalbus(アルバス)、ラテン語で『白い』この言葉が語源となってアルビオンと呼ぶようになったそうだ。

 そんな雄大で、歴史もあるこの場所を眺めながら私は友人に尋ねた。

 

 

『私の名前はあの場所に見合うものかい?』

 

 

 

 

 

『もちろんさMr.()()()! (サカイ)はBorderでまさにイギリスとフランスを分ける国境。そして白英(ハクエイ)(ホワイト)(イギリス)で書くんだろ? それにお前は多くの国々を回って多くの人々と出会った。出会い、そして別れを繰り返したお前は間違いなくこのアルビオンと同じ男さ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ふぅん、ちょっと私とは違うね。

 

 ふと後ろから少女の声が聞こえ、同時に周囲の海と空は真っ黒な物に変わり、眺めていたドーバーの白い壁も見えなくなっていた。そばにいた友人も消えており、残ったのは自分が乗っていた船だけだ。

 

 ―――ところでこの後はどうなったの?

『イギリスに到着し、そこでも多くの人たちがいたよ。そしてドーバーで今生の別れを済ませて、また船に乗ってフランスへ戻って帰国したよ。そしてその三か月後に私は亡くなった』

 ―――あっさりしてるわね。

『死後とは言え、過ぎた事だからかもしれないね』

 

 振り返らなくても誰がいるかわかる。そして今の自分の状態も。

 

『きみ、いや貴女こそ次代が私のようなつまらない人間でガッカリしたんじゃないか?』

 ―――それはそうね。でも貴方の人生と私の()生を比べるなら貴方の方が何倍も幸せよ?

『そうか。その事については聞かないでおくよ』

 ―――そうして頂戴。

 

 ここで船が揺れ、後ろには大きな気配があった。その気配に対して揺れが小さい理由は、過ぎに察した。そしてそれをさらに確信に至らせるように小さな足音が聞こえ、私のすぐ横で鳴りやんだ。

 

『落ちたらどうするつもりだったんだい?』

 ―――その時は拾ってあげるわ。それに()()()()()()()()()()()()()()()()

『貴方のようにかい?』

 ―――貴方は後継機だから正確には違うわ。私と言う霊基(前作モデル)に貴方と言う(改良案)を組み込む。それは似て非なる形になる。私でもなく、前世の貴方でもない新しいあなたになるの。

『正しく生まれ変わる、という事か』

 

 横を見上げればそこにいたのは蒼い鎧を纏う小さな少女。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()

 

 

 

 ―――私を認識したから姿もそっちになっちゃったね。

『今の私もこの姿だからね。それに前世を思い出しても違和感がないんだよ』

 ―――それはきっと境 白英の前世に区別がついているのでしょうね。それかメリュジーヌ・ヴィヴィとして大事な物があるからかも?

『大事な物、か』

 

 再び真っ黒な海を眺めながら、彼女に言われた事は前世なら持つことのない物だったと言えた。でもこの世界に生まれて一つ、誓いと共にそれが生まれた。いや、もしかしたらこれが私の本質だったのかもしれない。世界中を回り、それでいて一つも背負おうとしなかった。()()()()()()()()()()()()()

 

『ははっ。どうやらは私、とても面倒な性格だったみたいだね』

 ―――何か思う事があったの?

『妹を守ることがこれ以上なく充実してるんだ』

 ―――そう、ならそんな所も私に似たのね。違うのは愛した相手のタイプが違う事かしら。

『何かあったの? 私はキミの過去は覗いてないから知らないからね』

 ―――教えてあげない。私の、愛の果てだから。

『不公平、と思ったけど女の子相手に詮索するのは失礼だったね』

 ―――貴方も女の子でしょう?

『でも前世は男性だよ』

 ―――そうだったね。それと、もうそろそろお別れだね。

 

 前振りもなくそんな事を告げられ、また顔をあげると彼女の姿は薄くなり消えようとしていた。

 

 ―――この私はこの世界に墜ちた残骸に残っていた、魂すら呼べない残りカスでね。こうして話が出来ただけで奇跡だったのよ。

『父さんはHUGEの細胞から出て来たって言ってたけど?』

 ―――正確には私の残骸をHUGEが取り込んだの。でも私とは合わなかったみたいで自壊していってね。濃い順からいなくなったから貴方が生まれたのも奇跡なのよ。

『……もしかしてあのHUGEが私に強い敵意と殺意を向けたのはそれが原因?』

 ―――天敵、と言うよりも嫌われてるわ。でも大丈夫、ドラゴン(最強)だから。

『それは私のキャラじゃないよ。ちなみに言い残してることはない?』

 

 消えそうなのに彼女も、そして私も世間話のように話を続けていたけど余裕があるわけじゃない。()()()()()()()()

 

 ―――ないわ。貴方こそ瞼が重そうよ。

『眠いからね。夢の中で眠たくなるって言うのも変だけどね』

 ―――それはこの世界から離れようとしているからよ。ここは貴方の夢でもあり、私の夢であるけど本来なら別々の夢。精神が違うんだから当たり前だけど、同じ『メリュジーヌの夢』でもある。私がいるまで同じ夢を見るの。つまり、

『キミが消えようとしているから私はこの『共有の夢の中』から『私の夢の中』へ目覚めようとしている訳か』

 ―――そう言う事。ま、お互い言い残す事がないならのんびりしましょう。

『そう、……いや』

 

 彼女には関係ないけど、私自身に関わる事ならあった。今の今まで自覚してなかったから思いつきもしなかった事。

 

『一つだけ。せっかくだから励みになる言葉を()()()()()()

 ―――何、お守りが欲しいの?

『これからの私は大事な物を守り抜くからね。大事な彼女と、私たちの家をね』

 ―――家、ね。貴方にはそれもあるのね。

 

 私にとっての家は百合ヶ丘だ。この先の未来があるならいつまでと言うわけにはいかないだろうが、今はあそこが私の場所だ。なら守り抜きたい。結梨も、一柳隊も、百合ヶ丘のみんなも。

 

 ―――欲張りね。と言うより気移りが多くないかしら?

『声に出てた?』

 ―――なんとなく。視線が泳いでる気がしたからね。でも、うん。これで貴方は私と同じ間違いはしないと確信したわ。

 

 うん。聞かなかったけど所々で気になることを呟いているだけでキミの過去はかなり重い内容な気がするよ。

 

『時間がないんでしょう? キミの言葉を使うならキミの後継機に渡すのはその体だけなのは気が利かなんじゃないかしら』

 ―――それもそうね。それじゃあ次の私、この手を取って。

 

 もう向こう側が見え始めている手を差し出され、私は迷うことなく掴む。まだ感触はあると思っているとそのまま腕を引かれて、腰に手を添えられて体が抱きかかえられる。

 

『……もしかして女性をよく口説いていた?』

 ―――私の愛は一人だけに捧げているよ?

『そう……』

 

 これは自覚してないね。

 最後に指摘するかしないかと悩むと片腕で抱きしめられて、彼女と私の頭が横でくっつく。

 

 

 

 

―――メリュジーヌ・ヴィヴィ。アルビオンの欠片、違う私で新しい私。どうかその翼と炎が守りたいものを守る力にならんことを。

 

 

 

 

 その言葉を聞き届けて、同時に抱きしめられた温かみがなくなり深い底へ沈むように眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

「――――みんな、寂しい匂いがする」

「そうでしょうね。それとそろそろ前を向いて歩きなさい」

 

 もう百合ヶ丘も遠くに見える所まで歩いてきた。楓に手を引かれながらずっと百合ヶ丘が小さくなっていくのを眺めながら。

 楓に起こされた時は確かに怖い匂いがして、それから少しだけ慌ただしくなって百合ヶ丘を出ていく。私以外、鞄に入れたCHARMを背負って。持っていく物があまりない私は楓の準備が終わるまでじっと待っていただけだった。

 

「しかし、なかなか一柳隊の皆さんと遭遇しませんね」

「梨璃たちを探してるの?」

「それはもちろんですわ。本当なら今すぐにでも梨璃さんを見つけたいのですが、全生徒に退避命令が出ている以上、避難区域に向かうのが早い合流になります。それに、結梨さんを放っておく訳にはいきませんしね」

「? わかった」

「ええ。ですからちゃんと前を向いて歩きなさい」

「ん~~~……。わかった」

「前を見て、歩きなさい」

「はーい」

 

 二回言われたから『絶対にやめなさい』って事だね。気になるけど、無視すると楓は強引に言い聞かせたりするから我慢する。

 そこから百合ヶ丘の方を振り返るのを我慢しながら楓に腕を引かれ、しばらくして横で歩き始めた。町の中から山の方に行って、その森の中を進んで。

 

「楓さーん、結梨ちゃーん」

「あっ、二水―」

 

 リリィがいっぱい集まってきた所の中に二水がいた。私が手を振って応えると二水は走ってこっちに来てくれた。

 

「ちょうどいいですわ二水さん。梨璃さんは?」

「いえ、まだお会いしていません。私の方も梅様と合流しまして他のメンバーを探していたところです」

「なら結梨さんを連れて行って下さい。私が、梨璃さんを探してきますので」

「え、構いませんけど……」

「はい、構って下さい。では結梨さん、二水さんについて行って一柳隊の皆さんの所で待っていてください」

「一緒じゃダメ?」

「ダメです。一番の理由は貴方がCHARMを持っていません。つまり戦えないという事です。なら多くのリリィに囲まれている場所にいたほうがいいのですわ」

「そうですね。結梨ちゃん、私たちで守ってあげますからここは楓さんの言う通りにしましょうね」

 

 二人はそう言ってくるけど私も探しに行きたい、と思うとメリュの事を思い出した。メリュはいつもいっぱい話してた。それはお互いが納得するためだって。

 

「……私も探しに行ったら梨璃は心配する?」

「しますわ」

「しますね」

 

 二人がそう言ったから、私もどうするか決めた。

 

「わかった。二水と一緒に行く」

「聞き分けがよろしくて助かりますわ。では二水さん、よろしくお願いします」

「はい、お任せください!」

 

 二水の返事を聞いて楓は来た方向に向かって走り、私は今度は二水に腕を引かれてその逆を走っていく。

 

 

 

 それからしばらくしてから、空から三つの光が落ちた。

 

 

 

 




69 112 46 49 48 84 104 101 49 83 84 86 79 76 46



Ep.10 The 1st Vol.


 実質、メリュの前世の話ですが結梨たちがいる世界の部分もあるので間章ではなくしっかりと本編扱いです。
 1st Vol.はfirst volumeの略語。英語で前編として使われるそうです。
 次話も同じ時間に明日投稿します。

BOUQUET編終わり後について(今後は溜めて投稿するので間隔は長くなります。

  • ラスバレ編に突入
  • FGOクロス多めのストーリー
  • こっちは休んで停滞している他の作品をする
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