酒井悠人さん、宵闇堂さん。誤字報告ありがとうございます。
今回の次話まで主人公は後日談的な場面で登場します。
トンッ、トンッ、トンッ、トンッ――――。
「足音が大きくなってるわよメリュちゃん」
「ん?」
今日は雨模様を映すカフェスペースで読書に集中していると後ろからの声でそれが途切れた。
「天葉じゃない。どうしたの?」
「それはこっちの台詞だよ。さっきから足音が響いてたよ。それとちゃんと本は読んでる? ページを逆に開いてたよ」
「え?」
本に目を向けると開いているページの内容が頭の中と違っていた。と言うより日本の歴史小説を読んでた筈なのに開いたページは英語で綴られていた。表紙を確認してみて、裏表紙だったからひっくり返してイギリス発行の冒険小説だった。そして読んでいた筈なのに内容が全く思い出せない。
「一柳隊の外征が心配なのかな?」
「……そうみたいね」
天葉の言う通り、今回の外征に不安を感じているみたい。
「今回の一柳隊は救援任務に行ったの。エレンスゲ女学園のリリィを助けにね」
「……親G.E.H.E.N.A.のガーデンだね」
「外征に出られないのは今回だけじゃないわよ、とは言い切れないわね。百合ヶ丘が合同を組むことになったガーデンのレギオンだとしても警戒せざるを得ないみたいよ。ただねぇ」
「ただ、なに?」
言葉をあえて切り、天葉が復唱した所で続きの言葉を告げる。
「予感、になるのかな? 異常事態に遭遇しそうな気がするんだよね」
―――そして夜、一柳隊が帰還中と一緒に変わった特型HUGEとの遭遇を百由から聞かされた。
「ただいまお姉ちゃん!」
「おかえり結梨」
一柳隊を出迎える為に校舎の外で待っていたらいの一番で結梨が走って私に抱き着いてきた。
「危険はなかった? 怪我はしてない?」
「大丈夫。ヘルヴォルと一緒に戦ったから」
「ヘルヴォル……。エレンスゲのトップレギオンね」
「二人とも。話なら腰を下ろせる場所にしなさい。流石にここだと邪魔になるわよ」
「はーい」
「そうだね」
このまま抱き合って話し込みそうだった所に夢結から注意を受けて結梨と一緒に返事をする。結梨の腕を解いて代わりに手を繋ぐ。そうして一柳隊の皆が集まり、そこへ楓が中へ入るように誘導したから私も一緒に中へ戻る。
「……手は離さないのね」
「うん。今回は予感がしてね。それに百由から聞いたわ。変わったHUGEが出たんでしょ?」
「おお、話が早いな。ヘルヴォルと一緒に追い詰めたんだが、ケイブを使って逃げられたんだゾ」
「まぁそこまでならそう珍しくもないんじゃが、戦闘中に進化したように姿を変えたんじゃ」
「進化?」
それは百由からも聞いて、いや私が具体的に状況を尋ねなかったからね。一柳隊が無事って事を確認できた所で後回しにしたからね。
「あ、でも確か今回は救援任務だったわよね。追走をしたの?」
「ええ、梨璃さんがヘルヴォルに協力したいとおっしゃったので」
「梨璃が言うんだったら仕方がないね。そこに私がいないのが残念ね」
「仕方がありません。今回は救援任務。メリュ子さんが最初から同行できるほどではありませんし、それに……。いえ、なんでもありません」
話の途中で神琳が取り繕ったように途絶えさせた。これは、気を使わせたかしらね。
「結梨、今回無茶はしてない?」
「うん、してないよ」
「いや結梨ちゃん無茶したよ! レアスキル使ってすぐ倒れたでしょ!」
「コホン。梨璃、談笑するのはいいけど帰還の報告がまだでしょう、一緒に行ってあげるから早くしましょう。結梨も百由に今回の戦いの事を話してきなさい」
「あっ、はい!」
「はーい。お姉ちゃん、後でね」
「ええ」
「待て結梨。儂も今回のHUGEについて百由様に報告するから一緒に行くぞい」
夢結の言葉で梨璃は急ぎ足で彼女と報告へ向かい、結梨も私に声をかけてから手を放してミリアムと百由の所へ向かった。
「では私たちも解散しましょう。メリュ子さん、出迎えて頂いたのに申し訳ございません」
「別に気にしてないわ。じゃあ私も――」
「でしたら少々お話ししたいことがあるのでお付き合い願いませんか?」
その声が鮮明に、静かに聞こえた。振り返ってみた楓の顔は真剣で覚悟があるようなものだった。
「いいよ」
私に断る理由もなく、そして大した話とは思わなかったから返事は軽くすぐに応えた。
「それで、鶴紗はなんでついて来たの?」
「気になったから。と言うか楓に返事、私も一緒か聞いたでしょ?」
「あの時はまぁいいかって思ってたけど、改めてなんでって思ったから」
「相変わらず無警戒過ぎる……」
「だって私、最強だから」
場所は校舎の中から出て屋上に。長く歩いたけど雨上がりの屋上に他の生徒の姿はなく、今は私たち三人だけ。
「さて、メリュさん。私は貴方にお尋ねようとして言い出せなかった問いがあります」
「そうなの? 遠慮なく聞いてくれてよかったのに」
「貴女は常に結梨さんと一緒でしたでしょう? 彼女には言えない事でしたので」
「ふーん」
「相変わらず興味がない反応ですわね……!」
「ま、大概の事は実力で突破できるからなメリュは」
フォローありがと鶴紗。
さて、楓は結梨がいる状況じゃ憚れる話題ね。まぁさっきまでの話を顧みるならここでの話題はアレでしょうね。
「察しはついてるわ。でも貴女の口から始めてちょうだい、楓」
「まったく。メリュさん相手だと身構える度に呆れてしましますわね」
言葉通り呆れた顔でため息をついた楓は、それでも今から口にする言葉の為に気を引き締め直した。
「メリュさん。貴方はG.E.H.E.N.A.をどう思っているのか教えてください」
私にとってはそう
うーん、これ以上考える事はないわね。なら答えてあげないと。
「G.E.H.E.N.A.と言われて思いつく事は私と結梨が生まれた場所で、そして父さんがいた場所だね」
「……えっ、それだけですか?」
「それだけ」
答えたら今度はあんまり見ない顔になった。日頃が梨璃に関わることでテンション高い感じの逆、いやマイナスに振り切った感じはなくて中間のゼロの感じだ。
「……これは来てよかったわね。楓、メリュは言われたことにはそのままの事しか返さないよ」
「えっ、なんですその園児しそうな」
「確かに私の年齢はそれより下だろうね」
「ほらこんな感じだ。それと強者の余裕ってヤツ? かなり核心を突いたことでも答えてくれるよ。地雷はあるけど」
「そうですか。ちなみに地雷とは?」
「結梨に危害を加えたら政府機関だろうが燃やすよ☆」
「だ、そうだ。ちなみにミリアムから聞いたけど未遂が一件あるらしい」
「気を付けましょう」
ああ、百由から別枠の研究機関が結梨を狙ってと聞いて飛び出そうとした時ね。室内でマギを解放しかけて半壊したのは流石に良心が痛んだね。
「ではメリュさん、改めて一から十まで説明します。その全てを踏まえて答えてくださいませ」
「うん」
「まず私はグランギニョル社の令嬢として、G.E.H.E.N.A.と共同でメリュさんと結梨さんを作り出した研究した事については少なからず贖罪の念があります」
「私も結梨も気にしないわよ?」
「これは私のケジメです。あと説明は最後まで聞いてくださいませ」
ん、と返事して口を閉じる。
「では続けます。実を言えばお二人の今後、例えば百合ヶ丘を卒業や何かで離れる事になった際にはグランギニョル社が後見となり保護する準備が出来ています。まぁフランスが保護することでメリュさんと言う最強を納める思惑も混ざっていますが、これはまだ後回しにして構いません。いえ、少し遠回り過ぎましたのでハッキリ言います。私は貴方がG.E.H.E.N.A.に対して何か思う所があれば緩衝材なり中間管理なりするつもりでした。これからの一柳隊が他のガーデンのレギオンとの合同任務につくのでしたら特に」
ここで楓も説明が終わった。私も鶴紗も黙って最後まで聞いて、その内容を咀嚼する。
今日この質問が来たのは一柳隊が今回協力したレギオン「ヘルヴォル」が親G.E.H.E.N.A.ガーデンの所属だからか。梨璃が仲良くできた相手だからメンバーは悪評側じゃなさそうだけど間接的には繋がってしまう事になる。そうなる場合、G.E.H.E.N.A.の魔の手が私と結梨に近づく可能性が生まれる。
「楓、あの子たちを通じてG.E.H.E.N.A.がメリュと結梨に近づくと思ってる?」
「そうですわね。鶴紗さんはどう思います?」
「大いにあり得るね。あいつら、百合ヶ丘に所属している私にも色々言ってるからね」
「鶴紗、その色々って」
「ああ、安心して。二人については学院側が止めてくるから
『もう』って事は最初辺りは突いてたわけね。迷惑かけちゃったわね。
「うーん。とりあえず私、こう、なんだろう。例えるなら相手が殴る動作をしたら私は先手でカウンターする感じかな。具体的に『何かしようとしてる』のが見えない限りは何もしないかな」
「貴女ならそれで充分勝てますからね。であれば、その拳を振り上げるのを見た時が
つまりそこか。彼女も自分自身が私を制御できるとは考えていない。なら事前に対策するしか手がない。私の知らない、G.E.H.E.N.A.ではないG.E.H.E.N.A.傘下にいる『ヘルヴォル』のリリィ達を守るために、私がどうするのか確認したいのね。
「苦労人ね、楓」
「これは私の為、梨璃さんが笑っていられる為ですわ。そこには皆さんが笑っていないといけませんから。それにメリュさんに何かあれば結梨さんだって笑ってくれませんわ」
(普段、そんな感じなら私たちは止めないんだけど)
なんて、鶴紗は思ってそうな顔をしてるわ。
さて、私は楓になんて答えようかしら? 私が暴走する可能性を懸念しているとも取れるし、梨璃を始めとして一柳隊の気にしてるとも取れる。それに鶴紗もいるからどうせなら一回でまとめたいわね。
G.E.H.E.N.A.、私の力、結梨、一柳隊のみんな、まだ見ないヘルヴォル―――いや違う、そうじゃない。考えるのは数多の要素からの最適解じゃない。私の心の奥底、本音よりも本能を見つめる。
「――私はこの百合ヶ丘が好き」
すると自然に言葉が出てきた。まるで塞いでいた栓が抜けたかのように。
「私は貴方たち一柳隊が好き」
上澄みだった普段からの想いが出てきて、
「私は本当の姉妹でシルトでもある結梨が大好き」
その中から私でも気づいていなかった想いも湧き出て、ああ、そう言う事か。
「そして私は、瞬きのような時間しか顔を合わせなかった父さんの事も大好きよ」
この言葉に二人は驚愕、いや戸惑いを見せた。私自身、今の今まで気づいていなかった本音だし、そして私がG.E.H.E.N.A.に対する感情を確認する話し合いだから仕方がないか。
「メリュの言う父さんは、ミリアムが百由様から聞いた元G.E.H.E.N.A.の研究者の事?」
「ええ、そう。あの日以来、行方不明の」
「行方不明ですか。メリュさん、それは―――」
「大丈夫。よく、わかってるよ」
状況が落ち着てから代行からそう聞いた。その上でどうなったのか理解している。ただ代行が「行方不明」と伝えられたからそう言う事だと受け入れた。これ以上は追及しない。ただあの日、父と呼べただけで私はよかった。
「その父さんが好きならG.E.H.E.N.A.をどう思うか? それは単純、興味がないの」
「……興味が、ない?」
「私は竜、その力は炎、そしてそれは大地を焼き尽くす。私の手にかかれば日本のヒュージネストを滅せられる。でもそれはしてない」
「ええ、それはメリュさんが
「別に結梨だけじゃなくてここに居るみんなの事は好きよ。見捨てるなんてしないわ」
「……ようするにメリュは向こうから手を出してこない限りは何もしないし何も思わない?」
「うん、そう」
鶴紗に答えを言われて肯定する。
「私の本質は『愛する者のそばにいる事』。現状なら結梨を始めとするここ百合ヶ丘女学院のリリィ達は私にとっては守るべき存在で、そこに火の粉が降りかからないなら手は出さないし、その火の粉も火元の場所しか手を出さない。それが私自身が決めた妥協。それに―――」
言葉を止めて鶴紗に目を向けた。ここからの言葉はきっと彼女の気分を害するものだ。ただ同時に、せっかくだから伝えておこうと思う気持ちもあった。
「私たちに自由をくれた父さんはG.E.H.E.N.A.の人間だった。そして私たちはG.E.H.E.N.A.がなければ生まれていなかった。悪評は聞いてるし、非道的な事も事実だってわかってる。でも敵意を向けるにはG.E.H.E.N.A.は父さんがいたこと以外は興味がないの。だから親G.E.H.E.N.A.ガーデンのリリィの事も現時点じゃ興味はない。好意も敵意も、会ってから決めるわ」
「そうですか。そう言う事なら安心しましたわ」
ようやく聞きたいことが聞こえた楓がそう返した。うーん、話を始めてから結構脱線はしたわね。でもあと一言。
「ごめんね鶴紗。私にとってはそう言う事なの」
「……別に気にしない。私はG.E.H.E.N.A.が嫌いだけど、仲間にまでそれを押し付けたくないから」
「ありがとう」
G.E.H.E.N.A.の非道を受けた鶴紗にとってどう思ってない事は不快かもしれない。ここでは気にしないって言ってくれたけどあまり堂々としないほうがいいわね。
「メリュさん。今回一柳隊と協力したヘルヴォルのリーダー、相沢一葉さんはG.E.H.E.N.A.の非道を憂い、所属ガーデンのエレンスゲ女学園のあり方を変えようとする方です。簡単に言えば正義の徒と言うべき方です」
「それは、微妙に私とは合わなさそうな子だね」
「まぁ、気まぐれなメリュと真面目そうなあの子は相性が微妙そうね……」
鶴紗がそこまで言うならドがつくほどの真面目な子なのね。まぁそれはそれとして。
「でも、会えるのは楽しみだわ」
少なくとも梨璃が仲良くできるリリィ達なら興味が湧く理由はなった。
※ただし結梨に限らず百合ヶ丘のリリィに手を出すなら動きます。
とりあえずG.E.H.E.N.A.によって生まれたメリュ自身がそのG.E.H.E.N.A.をどう思っているのかと言う話。ですが結構遠回しになってるのでまとめるなら、
「殴られたら殴り返す
「組織に拘らず個人、一集団として評価する。なので個人が手を出したら個人に、集団なら集団で報復する」
と言う感じです。
あと話始めでメリュの落ち着きのなさは『何かあればすぐ動く』意識の表れ。
BOUQUET編終わり後について(今後は溜めて投稿するので間隔は長くなります。
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ラスバレ編に突入
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FGOクロス多めのストーリー
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こっちは休んで停滞している他の作品をする